―国連専門機関―
第10節 国連専門機関
国連専門機関は,経済・社会・文化・教育・保健その他の分野で国際協力を推進するために設立された国際機関で,国連憲章第57条,第63条に基づき国連との間に連携協定を有し,国連と緊密な連携を保つている国際機関をいう。現在,13の専門機関が存在している。わが国はすべての国連専門機関に加盟しており,世界保健機関(WHO)を除く全ての専門機関の理事国あるいは執行委員国として,その活動に積極的に協力している。
国連専門機関の活動の最近の傾向としては,それぞれの専門分野における情報の交換,国際世論の形成等の通常の活動のほか,開発途上国の経済社会開発に力を注いでいること,各種の多数国間条約の作成に主導的な役割を演じていること,ならびに環境公害問題,ハイジャック防止問題等の新しい分野の問題に積極的に取り組んでいることがあげられる。
各専門機関における最近の注目すべき問題のひとつとしては,東ドイツ,北朝鮮等分裂東側国家の加盟があげられる。東ドイツは,72年11月UNESCO(国連教育科学文化機関)への加盟が認められ,初めて国連専門機関の加盟国となつたが,73年中に,ITU(国際電気通信連合),WHO(世界保健機 関),WMO(世界気象機関),UPU(万国郵便連合),IMCO(政府間海事協 議機関)等5つの専門機関への加盟が認められた。
また,これまでいずれの専門機関にも加盟していなかつた北朝鮮は73年5月WHOへの加盟が認められた。また,同年9月ギニア・ビサオがFAO(国連食糧農業機関)への加盟が認められた。その他専門機関に関する注目すべき問題としては,ドル相場の低下およびインフレによる財政の逼迫化がある。
この問題の収拾のため事業費の節約,職員採用の一時的停止等の措置が一部専門機関で採られたが,UNESCO,IMCO,WMO,UPU,ITU等は追加予算を組んだ。
次に,現在存在する専門機関の中で,IMF,世銀等金融関係専門機関を除く9つの専門機関の最近の活動について述べることとする。
国際労働機関(現加盟国数124,事務局本部所在地ジュネーヴ)は,世界各国における労働者の生活・労働条件の改善向上を通じて社会正義と世界の恒久平和を確立することを目的として1919年に設立された。ILOのユニークな点は,総会,理事会等のILO諸会議には各国政府からの代表だけでなく,労働組合および使用者団体の代表も参加するという,いわゆる三者構成主義 をとっていることである。
わが国はILO創設来の加盟国であったが,38年に脱退し,51年に再加盟した。54年にはILOの10大産業国の一つに選出され,それ以来理事会の常任理事国として重要な役割を果たしている。
73年中に開催された主な会議としては,第189回(2月),第19O回(5月),第191回(11月)の諸理事会および第58回総会(6月)があげられる。
第58回総会はジュネーヴで開催され,前回総会で第1次討議が行われた「就業の最低年令」および「港湾における新しい荷役方法の社会的影響」の2議題について第2次討議を行つた結果,各議題について条約(第137号,第138号)および勧告(第145号,第146号)をそれぞれ採択した。このほか「有給教育休暇」および「職業ガン」については第1次討議が行なわれ,74年総会でこれら2議題についても条約ないし勧告が採択される予定である。
ILOとわが国との関係で特筆すべき点としては,全逓,自治労,日教組など総評傘下のわが国公共部門労働組合のILO提訴問題について,ILO結社の自由委員会の最終報告が理事会で採択されたことがあげられる。まず全逓事件(第125号)については第190回理事会で中間報告が出され,第191回理事会で最終報告が採択された。また,自治労,日教組など8件についても第191回理事会で一括審議が行われ,最終報告が採択された。さらに,都市交通,全水道および日高教の残り3件については74年2月第192回理事会で最終報告が採択され,これによりわが国関係のIL0提訴案件の審議はすべて終了した。今後は公務員制度審議会の答申を受けての国内での問題の解決が図られることになつた。
ユネスコ(現加盟国131,本部所在地ペリ)は,教育,科学,文化の国際交流を通じて,世界平和の達成に貢献することを目的として,46年に設立されたもので,専門機関の中では,規模は最大であり,教育,科学,文化の面できわめて多岐にわたる活動を行なつている。
わが国は51年にユネスコに加盟し,52年以来,引続き執行委員会委員に選出されており,教育・科学・文化・コミュニケーションの各分野で積極的にユネスコの活動に協力している。73年中にわが国が参加した主なものはつぎの通りである。
(1) 教 育
第34回国際教育会議が73年9月,ジュネーヴで開かれ,教育開発国際委員会(委員長エドガー・フォール)の報告書に関する各加盟国の見解の検討が行なわれた。
わが国は,アジア地域教育刷新計画に対し73年度中に5万ドル拠出し,74年度には12万ドルの拠出を行う予定である。
(2) 科 学
73年中には,下記のような会議が開催され,わが国もこれに積極的に参加した。
MAB(人と生物圏)事業計画第2回国際調整理事会(4月,パリ),IGCP(国際地質対比計画)委員会第1回会議(5月,パリ),IHD(国際水文学10年計画)調整理事会第8回会議(5月,パリ),UNISIST(世界科学情報システム)運営委員会第1回会議(11月,パリ),IOC(政府間海洋学委員会)第8回総会(11月,パリ)。
(3) 文 化
73年12月アジア地域文化政策政府問会議が,アジア地域21カ国(ニュージーランド,豪州,ソ連を含み中国,ラオスは不参加)の参加の下にジョク・ジャカルタで開かれ,アジアの加盟国の文化政策,文化面の国際協力の問題を討議した。
文化遺産保存活動への協力として,わが国は73年までにヌビア遺跡(アブ・シンベルおよびフィレー両神殿)のため合計10万ドルを拠出した。また,インドネシアのボロブドル遺跡保存のために政府から年間10万ドル(合計60万ドル)の拠出を,民間から120万ドルの拠出をするよう努力しており,わが方から須山大使がボロブドル救済国際キャンペーン執行委員会委員長に選出された。
(4) コミュニケーション
わが国は,多年にわたりアジア地域の図書開発事業に対し積極的に貢献しているが,このほか73年には,1月バリで開かれた薬物濫用防止のためのマス・メディア計画評価方法論専門家会議へも参加した。
(5) そ の 他
その他の事項としては第3回臨時総会の開催がある。同総会では,米ドル切下げ,インフレに起因する財政危機への対処方法が議題となり1,270 万ドルの追加予算が承認された。
国連食糧農業機関(現加盟国数131,本部所在地ローマ)は,世界各国民の栄養水準,生活水準の向上,世界食糧の増産を図ることを目的として45年に設立された。
現在,農村開発のための人的資源の動員,高収量品種の普及,蛋白質ギャップの解消,浪費の縮小,外貨獲得と節約および農業開発計画の6分野を重点項目としている。
わが国は,51年に加盟して以来,主要内部機関である理事会,商品問題委員会,水産委員会,農業委員会,林業委員会等のメンバーとして,FAOの諸活動に積極的に協力してきている(わが国のFAO拠出金分担率は72-73 年6.76%(第5位),74-75年に9.11%(第2位)になる)。
さらにFAO,国連の共同計画として,開発途上国への多数国間食糧援助機構として63年に発足した世界食糧計画(WFP)に対して,72年末までに総額465万ドル(水産缶詰が主体)を拠出し,73-74年の2年間に300万ドルの拠出誓約を行つている。
73年に開催された会議の主なものは,(イ)第17回総会,(ロ)第60回,第61回および第62回理事会,(ハ)業管理開発技術会議,(ニ)第9回アジア太平洋林業委員会,(ホ)第48回商品問題委員会等があり,わが国は,これらの会議を通じFAOの活動に積極的に参加してきた。
なお,第17回総会(11月10日~29日)では(イ)国連世界食糧会議,(ロ)国際農業調整,(ハ)世界食糧保障-が主要議題となり,74年11月ローマで国連主催の下に,世界食糧会議を開催することが決定している。さらにわが国とFAOとの協力としては,73年12月,東京でのFAO水産加工技術会議が開催されたこと,FAO事務局長によるサハラ南方地域干ばつ救援アッピールに対し,わが国から2億6千万円の拠出を行つたこと等があげられる。
また,73年3月パーマ事務局長は,中国訪問の帰途,日本に立寄り,外務大臣,農林大臣とFAOに対する日本の協力,FAO職員への日本人採用問題等につき意見交換した。さらに,12月にはジャクソン事務局次長が,前述の水産加工技術会議参加のため来日し外務省,農林省幹部と意見を交換した。
世界保健機関(現加盟国数138,本部所在地ジュネーヴ)は,48年に設立された保健衛生の分野における国際機関で,全世界の人々の健康増進をはかることを目的としている。WHOは,現在天然痘・マラリアの撲滅に多大の努力を払っているほか,保健従事者の訓練,環境衛生の改善等各分野にわたる事業を推進している。
51年にWHOに加盟したわが国は,各種の専門家諮問部会・セミナー等への積極的参加をはじめ,WHOの派遣する研修生の受入れ(73年49名),開発途上国への医療技術顧間の派遣(同16名)を行ない,またWHOが特に力を入れているエチオピア天然痘撲滅計画にも72年から専門家1名,青年協力派遣隊員14名を派遣するなど,保健分野における国際協力に貢献している。このほか,73年10月には東京で「家族計画の医学的および外科的見地に関するWHO地域セミナー」が開催され,多くの成果をおさめた。
44年に設立され,47年に発足した国際反問航空機関(現在の加盟国数128,本部所在地モントリオール)は国際民間航空の安全確保のために法律的,技術的に大きな役割を果してきているが,わが国は53年にICAOに加盟し,また56年以降引続き理事国として積極的にICAOの諸活動に参加,貢献している。
現在ICAOが最も力を注いでいるのは多発しているハイジャック等の民間航空に対する不法妨害行為の防止である。すでにこれら不法妨害行為防止のためにICAOが中心となり作成した条約には,(i)「航空機内で行われた犯罪その他ある種の行為に関する条約」(69年発効),(ii)「航空機の不法な奪取の防止に関する条約」(71年発効)(iii)「民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約(73年発効)がある。わが国は(i)(ii)はすでに受諾しているが(iii)については目下受諾のための作業を進めている。これらの3条約はいずれも締約国に対して一定の義務を課しているが,この義務の完全履行がハイジャック等の不法妨害行為抑圧のために必要であるという見地からICAOは第4番目の条約として義務の履行を不当に怠つた国に対して他の国々が共同でなんらかの制裁を加えることを内容とする条約(いわゆる制裁条約)を作成するため73年11月にモントリオールでICAO法律委員会,73年8月~9月にローマで外交会議およびICAO総会を開催した。しかし,各国間の意見が対立し,条約は採択されなかつた。
他方,近年の民間航空の急激な発展が航空機騒音問題を引き起こしているため,ICAOは航空機の騒音証明制度を設け,これをICAO条約第16付属書として採択した(72年1月発効)。わが国は航空公害の分野での対策の研究については国際的に高い水準にあるので,ICAOの航空機騒音委員会等におけるこの問題の検討には積極的に参加し寄与している。
政府間海事協議機関(現加盟国数85,本部所在地ロンドン)は58年に設立された。海上の安全と航行の能率を確保するために有効な処置を勧告したり,世界の自由な通商を確保するために各国政府の差別措置や制限を除去するよう奨励することを主要な目的としている。最近では環境公害問題との関係から海洋汚染防止にも最大の努力を傾注している。
わが国は58年IMCOに加盟して以来理事会および海上安全委員会の有力なメンバーとなつている。世界の海運および造船界でわが国が占める地位からIMCOの活動はわが国にとりきわめて重要であるといえる。
73年度のIMCO活動の中で特筆されるのは,ひとつは,第8回総会によりIMCO内に海洋環境保護委員会が新設されたことであり,他のひとつは,「1973年の船舶からの汚染防止のための国際条約」が73年11月ロンドンで採択されたことである。この条約は,近年海洋汚染については,油濁に限らず,その他の有害物質による汚濁も緊要な問題となつているところから,船舶からの袖およびその他汚染物質の排出を包括的に規制するものである。 他方,IMCOを中心として作成された汚染補償関係の重要な条約として,船舶が油濁損害を与えた場合,船主が一定の金額まで賠償を行う趣旨の「油濁損害についての民事責任に関する条約」および船主の賠償負担の一部を肩代りするとともに被害者に対する補足的な補償を行う趣旨の「油濁損害の補償のための国際基金の設立に関する条約」があるが,現在のところいずれも未発効である。わが国は,両条約ともできるだけ早期に受諾するよう目下国内法の改正を急いでいる。
わが国は気象面での国際協力を目的とする世界気象機関(現構成員139,本部所在地ジュネーヴ)に53年に加盟,55年第2回世界気象会議以来毎回同会議に代表団を派遣し,気象問題に関する国際協力に努めている。
なお,WMOは全世界的協力により数個の静止気象衛星を打ち上げて,地球上の気象観測を行う地球大気開発計画(GARP)に参画しており,わが国も静止気象衛星1個を打ち上げ,この計画に協力することを検討している。
わが国は1877年国際的郵便連絡の増進を目的とする万国郵便連合(現構成員150,本部所在地ベルヌ)に加盟,郵便物の相互交換の円滑化,郵便業務の組織化等のための国際協力の増進に積極的に寄与している。また73年5月にベルヌで開催された執行理事会でわが国は議長国として円滑な議事運営に貢献した。
わが国は1879年ITUの前身である万国電信連合に加盟し,1934年に国際電気通信連合(ITU)が創立された後も国際電気通信の改善および合理的利用のため同連合の活動に参加し,特に59年以降現在に至るまで継続して管理理事国に選出されている。なお,ITUの現構成員数は146であり本部所在地 はジュネーヴである。
73年度は,電信電話世界主管庁会議(4月)および第28回管理理事会(4月~5月)がジュネーヴで開催されたほか65年以来の全権委員会議が9月から10月にかけてスペインのマラガ・トレモリノスで開催され,新ITU条約を採択した。わが国はそのいづれにも代表団を派遣し,その審議に積極的に参加した。