―第28回総会における政治問題―

 

第3章 国連における活動とその他の国際協力

 

第1節 第28回総会における政治問題

 

1.朝鮮問題

 

 72年の第27回総会では,南北間の自主的対話促進の雰囲気を醸成するのが望ましいとの韓国側主張が受入られ,朝鮮問題審議は一年延期された。(第26回総会以前の経緯は注1参照)。73年に入って,5月に北朝鮮のWHO(世界保健機構)加盟が認められ,6月23日には韓国の朴大統領が,北朝鮮の国連審議への招請および南北両朝鮮の国連加盟に反対しないなどを含む従来からの韓国の対国連外交上の基本的主張を大きく転換する新外交政策を発表し,これに対し同日,北朝鮮の金日成主席が,国連には一つの国家として加盟すべきであり,南北同時加盟には反対である旨を演説するなどの動きが見られた。

 他方1950年の総会決議で設立されたUNCURK(国連朝鮮統一復興委員会)は,8月30日付国連事務総長宛書簡をもつて,UNCURK自体の解体を勧告する旨を含む報告書を提出した。

 第28回総会では,まず総会冒頭で韓国支持派と北朝鮮支持派が夫々出していた議題を朝鮮問題という統一議題の下に審議を行なうことにつき合意がなされた。次いで,アルジェリア,中国,ソ連などの北朝鮮支持派諸国は,UNCURKを解体する,国連旗使用権を無効化し国連軍司令部を解体する。全ての外国軍隊は南朝鮮から撤退すべきである旨を骨子とした決議案を提出した。他方英国,米国,豪州,日本などの韓国支持派諸国は,南北朝鮮間の対話を歓迎する,UNCURK報告中のUNCURK解体勧告を承認する,南北両朝鮮が国連の普遍性の精神にのつとり,また朝鮮半島の平和と安全の維持およびそれを通しての平和的統一の手段として平連加盟を考慮するよう希望する,安保理が朝鮮問題中その責任に属する面(国連軍の処理など)について休戦協定の堅持および朝鮮半島における平和と安全の維持を確保するとの見地に立つて検討するよう希望する旨を骨子とする決議案を提出した。(注2)

  朝鮮問題の実質的審議は第一委員会で11月14日から同21日まで行なわれ,投票権なしで審議に招請された韓国,北朝鮮の代表を初めとして,各国代表は上記2つの決議案をめぐる討論を行なつた。わが国は南北共同声明にそつた南北両朝鮮の努力が結実し,朝鮮民族の統一への願望が実現されることを希望する,国連加盟問題は第一義的には直接当事者たる両朝鮮によつて決定されるべきであるが,双方が平和的統一促進の手段として国連加盟を希望するのであればこれを歓迎する,国連軍司令部は,朝鮮半島の平和と安全の維持に不可欠の役割を果してきた休戦協定体制の一部を成しているのであり,現休戦体制を有効に維持するための休戦協定に代わる枠組ができるまでは国連軍司令部の一方的解体には賛成できない,外国軍隊駐留は本来各国が自国民の意志を尊重して決定すべき問題であるなどの諸点につき発言した。

 一方,中間的立場をとる国々からは双方決議案支持派間の妥協を希望する声が聞かれるなど,南北朝鮮の国連における対決は南北対話の促進を阻害する恐れがあるとの観点から朝鮮問題に関して国連の場で対決することは避けたいという空気があり,これは第一委員会討論を通じて明白になつていつた。このような空気を尊重して,双方決議案共同提案国の間で話し合いが行なわれ,結局双方の決議案は表決に付さないこととなり,さらに,1972年の南北共同声明を満足をもつて注目する,南北朝鮮間の対話の継続と多面的交流の拡大を希望する,UNCURKを解体するの合意が成立し,この合意は総会で異議なく採択された。

 


 

(注1) 国連は,47年以来朝鮮問題を取上げ,朝鮮の平和的統一と同地域における国際の平和と安全の完全回復とを目的とし,国連朝鮮統一復興委員会,在韓国連軍の活動を支持してきた。しかし北朝鮮は,国連が朝鮮問題に干渉する権限はないとの立場から朝鮮における国連のプレゼンスに反対しており,毎総会の如くUNCURK(国連朝鮮統一復興委員会),在韓国連軍の活動を支持する韓国側と,UNCURKの解体,国連軍の撤退を要求する北朝鮮支持国側との間で争いが繰り返されてきた。1971年の第26回総会においては,韓国支持国側は南北赤十字会談を契機に南北対話を暖かく見守ることが望ましいとの立場から韓鮮問題の審議延期を提案し,この提案が認められて朝鮮問題の実質審議は行なわれなかった。 戻る

 

(注2) アルジェリア等決議案については35ケ国が,英国等決議案については27ケ国 が最終的に共同提案国となつた。戻る

 


 

2.カンボディア代表権問題

 

 70年3月のカンボディア政変後,ガンボディア政府は共和制に移行しクメール共和国(現在ロン・ノル大統領)と称するようになつた。一方,同政変により元首の地位を追われたシハヌーク殿下は同年5月,北京にカンボディア民族連合王国政府を樹立すると共に,カンボディア国内の反政府勢力と連携し,ロン・ノル政府打倒を目指して活発な外交活動を行なうこととなつ た。

 国連総会では,第25回総会(70年)および第26回総会(71年)における委任状委員会,あるいは同委報告を審議する本会議でクメール共和国政府代表の委任状に対し若干の国が留保を表明し,第27回総会では委任状委員会で,クメール共和国代表の委任状を承認しないとのセネガル提案が表決に付され,賛成3,反対5(わが国を含む),棄権1(ソ連)で否決された。第28回総会では,シハヌーク政権を支持する非同盟諸国が,総会直前に行なわれたアルジェ非同盟会議において採択した国際機関におけるシハヌーク政権支持決議を背景として,カンボディア代表権問題を独立の議題として取上げるよう要請した。同議題はまず一般委員会でその採択勧告が決定され,次いで本会議にて賛成68,反対24(わが国を含む),棄権29で議題として採択された。本問題の実質審議は12月4日から本会議で始められたが,5日夕刻,リベリアが本議題の審議を第29回総会まで延期するとの提案を行ない,賛成53(わが国を含む),反対50,棄権21(欠席11),により採択された。また,委任状委員会でもクメール共和国代表の委任状に異議が出されたが,賛成3,反対5(わが国を含む),欠席1で否決,同委報告を審議する本会議でもクメール共和国代表の委任状を否認する趣旨の修正案が出されたが,賛成50,反対55(わが国を含む),棄権17で否決された。

 わが国は,豪州,ニュー・ジーランド,フィージー等と共に,カンボディア問題の解決はカンボディアの当事者自身が外部からの干渉なしに平和的に話し合うことによつて実現されるべきであり,国連がガンボディア当事者による決定を予断(prejudge)するような行動はとるべきでないというカンボディア近隣のいわゆるASEAN諸国の立場を支持し,これに基づいて上記のよう卒投票を行なつた。また,わが国は10月24日に,アジア太平洋諸国のこのような立場を内容とする事務総長宛書簡を,ASEAN 5カ国およびニュー・ジーランドとの共同署名により発出した。さらに実質審議においてわが国は上記アジア太平洋諸国の立場を踏まえつつ,アジアの問題についてはアジア諸国の声に耳を傾けるべきであり,カンボディア情勢が流動的である現時点においては国連はクメール人民の自決を尊重して本問題の決定を差し控え,カンボディアの惨禍を終熄せしめるためにあらゆる努力を弘うべきである旨発言した。 委任状問題については,わが国は従来から委任状委員会は委任状が正当な 手続と形式により発出されたものであるかどうかを審査する権限を有するのみであり,委任状発給者の正統性までは審査し得ないとの見解を有しており,今次総会においてもこの立場から発言し,上記のような投票を行なつた。

 

3.アフリカ問題

 

(1) ギニア・ビサオ問題

ポルトガル領ギニア(ギニア・ビサオ)は,60年の第15回総会で,アンゴラ,モザンビク,カボ・ヴェルデ諸島などの他のポルトガルの海外領土とともに憲章上の非自治地域とされ,国連はポルトガルに対し毎総会ギニア・ビサオを含めこれら地域住民の自決と独立の権利を認めるよう要請する決議を採択してきた。

ギニア・ビサオにおいては同地域の解放を目的とするギニア・カボヴェルデアフリカ独立党(PAIGC)が武力闘争を強め,独立宣言も間近いとされていたが,73年1月指導者カブラル事務局長が暗殺され,その成りゆきが注目されていたところ,9月カブラルの後継者ペレイラ氏の下で国民議会が開催され,同議会はギニア・ビサオ国家宣言を行なうとともに憲法を制定した。第28回総会では,このような動きを受けて,アフリカ諸国その他が「ポルトガル軍隊によるギニア・ビサオ共和国の一部不法占拠および共和国人民に対する侵略行為」という追加議題採択要請を行ない,これが採択された。同議題のもとに11月2日本会議は,ギニア・ビサオの独立を歓迎し,ポルトガル政府によるギニア・ビサオ共和国の不法占拠を非難する趣旨の決議を採択した。わが国はギニア・ビサオは未だ国家としての要件を備えているとは思われないとの立場から議題採択および決議には棄権した。

(2) ポルトガル施政地域問題

今次総会では新たにポルトガル代表の委任状問題がとりあげられ,同代表の委任状については,本会議でポルトガル代表はヨーロッパにおける本国を代表するものであり,アンゴラ,モザンビク,および独立国家であるギニア・ビサオを代表しないとの了解のもとにこれを承認する,との修正決議案が採択された。わが国は委任状委員会の権限は,各国の代表が提出した委任状が総会手続規則に従つているものか否かを形式的に審査することにあり,実質を審査するものではないとの立場から上記修正決議案には棄権した。

また,第四委員会では,モザンビクにおけるポルトガル軍による住民虐殺事件調査委員会設置決議およびポルトガル施政地域住民の自決と独立の権利を再確認し,各国に非軍事的輸送手段のポルトガルヘの売却禁止を要請する決議が採択されれわが国は,植民地住民の自決・独立はできる限り速やかに達成されるべきであるが,他方問題の解決は平和的かつ実効的な方法によりなされるべきであるとの立場から前者には賛成した。しかし,後者には解放運動団体の武力行使の正統性をも認める表現があるなど問題があるため棄権した。

(3) 南ローデシア間題(注1)

今次第28回総会の審議では,南ア,ポルトガルヘの制裁拡大の必要性を主張する制裁決議と,武力による解放闘争の正統性を再確認し,英国に対し憲法会議を直ちに開催することを求めるなどを含む政治決議が採択された。わが国は武力行使は支持し得ないこと,また南ア,ポルトガルヘの制裁拡大は実効性の上から疑問があるとの立場から両決議案に棄権した。

(4) ナミビア問題(注2)

今次総会では,72年の安保理で認められた国連事務総長による関係当事者との接触継続可否を中心として審議が行なわれた。結局,南アはナミビア人民の自決の原則につき誠意ある回答を行なつていないとして,事務総長による接触中止を安保理に勧告する旨を含む決議が採択された。

わが国はナミビア問題の困難性および複雑性からみて,事務総長による接触の効果を早急に期待することは無理であるとしながらも,世界の大勢が接触打切りに傾いている中でこれを続けても効果があがらないとの認識からこの決議に賛成した。

(5) 南アのアパルトヘイト問題

52年以来国連は,南アのアパルトヘイト政策は人種差別政策であるとして非難してきた。最近の国連総会では,対南ア経済制裁の主張のみならず政治犯の釈放要請,反アパルトヘイト広報活動強化,反アパルトヘイトキャンペーンについての労働組合との提携,南ア信託基金への拠出票誇など多角的反アパルトヘイト運動推進のため多数の決議が採択されている。今次総会でも合計8つの決議が採択された。わが国は従来から南アの人種差別政策に反対しており,これら決議のほとんどに賛成した。

 


 

(注1) 国連は,65年英国より一方的に独立を宣言した南ローデシア白人少数政権を終熄させるため,経済制裁を行なう一方英国に対し一人一票にもとづく政治的解決を求めるなどの決議を採択してきた。しかし南ア,ポルトガルの制裁非協力,71 年末英国政府とスミス政権の間で合意に達した解決提案が南ローデシア住民の受入れるところとならなかつたことなどから未だ解決をみていない。このためアフリカ諸国は経済制裁強化および南ア,ポルトガルヘの経済制裁拡大を強く主張している。 戻る

(注2) 国際連盟時代南アの委任統治領であつたナミビア(旧南西アフリカ)に対する南アの統治継承問題は46年以来国連でとりあげられ,66年の第21回総会は,南アは委任統治条項にもとづく責任を果していないとして同地域に対する統治権は終了したとし,同地域を国連の直接の責任下におくとの決議を採択した。しかし,南アは同決議を無視し,依然として同地域に居座つている。

72年アディス・アベバで開かれたいわゆるアフリカ安保理はこのような状態を打開するため国連事務総長にナミビア人の自治達成につき関係者と接触することを要請する決議を採択した。事務総長および事務総長代表のエッシャーは,南ア,ナミビアに出向き,関係各層と協議するほかニュー・ヨークなどで,南ア政府代表と接触を続け,3回にわたつて報告書を安保理に提出した。第2次報告が審議された72 年末の安保理で,人民の自決の原則につき南アは誠意ある回答を行なつていないとして事務総長による接触を打切るべしとの意見が出された。73年4月第3次報告が発表されるとこの意見は一層強まり,ナミビア理事会,植民地24カ国委員会,アフリカ統一機構閣僚会議,非同盟会議において相次いで事務総長による接触停止を求 める決議が採択された。 戻る

 


 

4.パレスチナ問題

 

 議題「UNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)」の下にいくつかの決議案が提出されたが,このうち最も論議をよんだのは例年のとおりパレスチナ人の自決権に関する決議案(パキスタン等13カ国の提案)であつた。この決議案は,(イ)パレスチナ人民の平等権と自決権の再確認,(ロ)パレスチナ人民がイスラエルによつて固有権の享受と自決権の行使を奪われていることに重大な憂慮を表明,(ハ)パレスチナ人民の固有権,とくに自決権に対する尊重とその実現が中東和平達成に不可欠であること,難民の帰還と補償の権利の享受が難民問題解決とパレスチナ人民の自決権行使のため不可欠である旨を宣言するものであつた。

 イスラエルは,この決議案はイスラエル国家の消滅を意図したものであるとして非難し,アラブ諸国との間に激論が展開されたが,結局12月7日同決議案は賛成87(日本を含む),反対6(米,イスラエル等),棄権33(英仏等西欧諸国を含む)をもつて採択された(決議3089D)。第4次中東戦争後の和平への動き,とくにパレスチナ人の自決権行使要求に対する国際世論の支持の漸増を反映して,第27回総会と比べ賛成票が増加し反対票が激減したことが注目される。(注1)

  わが国はこれに先立つ一般討論で,(イ)中東地域の全ての人民の平等権と民族自決権を支持し,パレスチナ人を含む全ての同地域人民の合法的願望と利益を充足するため必要な措置がとられることを希望する。(ロ)わが国は71年以 来パレスチナ人の民族自決権を認める決議を支持してきた。これは友好関係法原則宣言の枠内において達成さるべきであると発言して,本問題についてのわが国の立場を明らかにした。

 また,わが国はUNRWA活動が中東平和維持に果している役割を評価し,年々UNRWAに対する拠出を増大しているが(注2),11月30日の拠出誓約会議でわが国は74年に500万ドルを拠出することを誓約した。これにより74 年にはわが国の拠出は拠出順位2位(注3)になるものとみられる。

 なお,本総会でも「中東情勢」が議題に含まれていたが,第4次中東戦争後の和平への動きを考慮して,同議題は審議されなかつた。ただし次回総会までの間に同議題審議を適当とする情勢になつた場合には審議すること,このため73年12月18日に第28回総会は閉会せずに休会とし,上記の情勢になつた場合には再開会期を開くことが決められた。

 

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(注1) 第27回総会決議2963Eの表決は賛成67-反対21-棄権37であつた。 戻る

(注2) 70年30万ドル,71年55万ドル,72年75万ドル,1973年110万ドル。 戻る

(注3) 米国は毎年2,300万ドル程度を拠出して常に1位を占めている。   戻る