―国際機関を通ずる協力―

 

第4節 国際機関を通ずる協力

 

1.世界銀行を中心とする国際協力

 

 世銀(国際復興開発銀行 : IBRD)グループの73世銀会計年度(73年6月まで)の開発融資は,35億ドルを超えた。その内訳は,世銀が20億5,100万ドル(前年19億6,600万ドル),国際開発協会(IDA)が13億5,700万ドル(同10億ドル),国際金融公社(IFC)が1億4,700万ドル(同1億1,600万ドル)である。この結果マクナマラ世銀総裁が68年総会で打出した融資倍増五カ年計画は,その目標が達成され,新たに第2次五カ年計画が打出された。

 一方,資金調達面でも73年中に22件の世銀債を発行し,17億2,300万ドル(前年17億4,400万ドル)を借入れた。また,世銀は70年11月自己資金拡充のため22億2,200万ドルの特別増資(授権資本は270億ドルとなつた)を決議し,目下その応募がなされている。わが国はこれに対し最高額の2億5,040万ドルの応募を行ない,その結果71年より五大出資国となり任命理事を出すこととなつた。

 IDA第4次資金補充(総額45億現行ドル)案は,昨年の第28回世銀・IMF総会において合意され,わが国のシェアは,第3次資金補充の際の6%から11%(495百万ドル)へ大幅に引上げられ,資金補充発効後の順位は,フランス,カナダを追越して第4位となる見込みである。

 わが国と世銀グルーブの関係は年々緊密化し,特に資金協力の面で著しい。70年に日銀より720億円(2億ドル)の貸付を行なつたのを皮切りに72 年には世銀史上最大規模の1,000億円貸付を行ない,貸付累積額は2,570億円となり,73年2月にはさらに1,350億円の貸付契約を締結した。71年中に,230億円,72年中に550億円,73年(7月までに)300億円の世銀債(円建て)発行にも協力した。この結果,出資分の増加を合わせて世銀の資金のうち約8%はわが国からのものとなつている。マクナマラ総裁は71年の来日に続き,73年4月にも来日し,各界代表と懇談した。また,ナップ副総裁も73年11月来日し,日本輸出入銀行および海外経済協力基金と業務活動の現状および今後の展望等について意見を交換した。

 

2.アフリカ開発基金の設立

 

 64年に設立されたアフリカ開発銀行は,加盟資格をアフリカの独立国に限つていたことから(当初25カ国)資金量が乏しく(資本金2億5,400万ドル),また通常条件での貸付を行なうため,緩和された条件の融資を必要とするいわゆる後発開発途上国の多いアフリカ諸国の期待には必ずしも沿いうるものではなかつた。このためアフリカ開発銀行はOECDのDAC(開発援 助委員会)加盟国と検討した結果,緩和された条件による融資を行なう機関として新たにアフリカ開発基金を設立することが合意され,72年11月象牙海岸共和国の首都アビジャンにおいてアフリカ開銀およびわが国をはじめとする13カ国が本基金設立協定に署名した(74年3月末現在署名国は15カ国)。

 わが国は経済的に立遅れた国の多いアフリカの開発に役立つ本基金設立構想を積極的に支持し,カナダと並び最高額の1,500万計算単位(1計算単位は1スミソニアン・ドルに相当する価値)を出資した。本基金への参加により,わが国はアフリカにおける国際金融機関にはじめて参加することとなつた。

 本基金協定の批准ないし受諾国は,73年12月末現在西ドイツ,カナダ,日本,英国等の13カ国であり,米国についても74年中に署名,批准を了して参加することが期待されている。同協定は,73年6月末発効し,創立総会が7月2,3の両日ザンビアの首都ルサカにおいて開催され,8月1日をもつて活動を開始した。

 同基金の当初資金規模は,約7,800万計算単位となつている。

 

 

3.米州開発銀行加盟問題

 

(1) 経 緯

ラ米地域の経済,社会開発の促進を目的として60年に設立された米州開 発銀行(Inter-American Deve1opment Bank : IDB)は,地域開発銀行 としては最大の規模(72年末現在の応募資本は約44億ドルでアジア開銀のほぼ2倍)を誇るものであるが,その加盟資格を米州機構(OAS)のメンバー国に限定していたことから,先進国では米国が唯一の加盟国となつていた。このために,IDBの米国に対する資金依存度はきわめて高く,かねてより資金ソースの多角化に努力してきた。

その一方策として,加盟資格をOASメンバー国以外の域外国にも開放することとなり,先ず72年3月設立協定の改正を行ない,同年5月にカナダの加盟実現をみた。さらに,IDBは,わが国をはじめとするIMF加盟の域外先進国(およびスイス)とのIDB加盟交渉を積極的に推進しており,これまでかなりの進展をみているが,各国が出資,拠出すべき額およびIDB設立協定をさらに改正すべき問題がなお今後に残されている。

 

4.OECD開発援助委員会(DAC)

 

 OECDの三大委員会の一つであるDAC(開発援助委員会)の加盟国は,従来わが国を含め,米英等16カ国およびEEC委員会であつたが,73年11月,ニュー・ジーランドが新たに加盟した結果,17カ国(およびEEC委員会)となつた。

 毎年の年次審査の結果をもとにしたDAC議長報告「開発協力―DAC加盟国の努力と政策」は,援助に関する国際的に最も権威ある資料とされており,マーチン議長による73年版は特に「開発の危機」の問題をとりあげ,援助に対する批判,反批判を通じて,開発協力の重要性を論じている。

 73年のDACの活動のうち,わが国との関係で特に注目すべきものは次のとおりであつた。

(1) 対日年次審査

DAC加盟国の72年における開発援助実績についての年次審査は73年6月から11月にかけ実施され,わが国に対する審査は,7月17日スイスおよび英国を審査国として行われた。

同審査では,わが国の政府開発援助支出納額が6億1,100万ドルに達したことが注目されたが,一方,GNPに対する比率が71年の0.23%から0.21%へ減少したことに懸念が表明され,0.7%目標の速やかな達成のため最善の努力を払うよう強く要請された。

援助条件に関しては,わが国が72年11月輸銀法および基金法を改正し,これにより2国間政府借款についてのアンタイイングに対するすべての法的障害を除去したことが評価されたものの,わが国が72年においても未だ援助条件に関するDAC勧告の条項を達成しえなかつたことが指摘され,72年DAC条件勧告達成のための具体的措置を講ずることが可能となるよう希望が表明された。

(2) 第12回上級会議

第12回DAC上級会議は,10月18,19の両日パリのOECD本部において加盟16カ国(およびEEC委員会)の開発援助担当閣僚ないし政府高官出席の下に開催された。

本会議においては,特に主要テーマの一つとしてマーチン議長(DAC議長は1974年1月ウィリアムス氏に代わつている)より提起された「開発の危機」の問題がとり上げられ,援助のあり方,その改善の方途などにつき真剣な討議が行われるとともに,援助のアンタイィングに関し,(イ)DAC加盟国は,国際機関に対する政府資金開発援助拠出を,当該国際機関加盟国または準加盟国,または当該機関により重要拠出国と認められている国における調達のためにアンタイすることに合意する。(ロ)大多数のDAC加 盟国は二国間借款を開発途上国における調達のためにアンタイする取極に参加する用意がある旨表明するとともに,他のDAC加盟国も速やかに本 取極に参加するよう希望する,(ハ)DACの本会議および資金面作業部会がアンタイィング問題なかんずく相互アンタイイングの取極テキスト案作成に積極的に取り組むべきであることに合意する。また,本問題の達成状況を検討するため遅くとも74年3月までに会合を開くことに合意する,との結論が採択された。この合意にもとづき,わが国は73年12月,これまで国際機関拠出中唯一の例外であつたアジア開発銀行技術援助特別基金をアンタイしたため,わが国の国際機関拠出のアンタイイング率は100パーセントとなつた。また,現在資金援助面作業部会において開発途上国に調達の道を開く開発途上国アンタイイング間題が精力的に討議されており,わが国もこれに積極的に参加している。

その他,本会議では世界人口年,開発途上国の雇用問題,開発協力問題に対する総合的アプローチに関するDACの役割,74年のDAC作業計画について討議が行われた。

(3) ミッションの来日

(イ) 対日年次審査ミッションの来日

73年度対日年次審査の事前調査のため,73年5月DAC事務局よりヘレンシュミット援助審査部長を長とする対日年次審査ミッションが来日し,わが国の援助政策,実績,行政機構等に関し政府関係省庁との質疑応答を行うとともに,海外経済協力基金および日本輸出入銀行をはじめ海外技術協力事業団等関係機関を訪問した。

(ロ) 統計部長の来日

73年8月DAC事務局よりスティーン統計部長が来日し,わが国の援助関係統計資料の作成手続,報告方法等につき政府関係省庁との質疑応答を行い,また海外経済協力基金および日本輸出入銀行を訪問した。

 

 

5.OECD開発センター

 

 本センターはOECDの関係委員会,特にDACと密接に協力しつつ開発問題に関する先進国の知識,経験を集積して開発途上国に利用させるとともに開発途上国における主要開発問題に関する調査・研究を行い,OECD加盟先進国がより効率的な援助政策を採用するための一助となるという形で開発に協力することを目的としており,同目的達成のため,(i)技術知識の普及を目的としたフィールド・セミナーの開催,(ii)経済開発問題,経済援助問題の調査・研究,(iii)各国の経済開発研究機関との連絡および(iv)開発途上国への知識,情報の通報,普及に努めている。

 本センターは,従来の経済開発および統計,科学技術および工業化の分野に加え,近年社会開発および人口の分野にも重点を置いてきており,わが国は本センターの人口問題活動計画に対し73年に924万円拠出した。

 

6.コロンボ・プラン協議委員会会議

 

 第23回コロンボ・プラン協議委員会会議は全加盟国の代表および西独,ADB,UNDP,FAO等よりのオブザーバーが参加し11月27日より12月6日までウェリントンで開催された。 同会議で討議された主な事項は次のとおりである。

(1) パプア・ニューギニアの加盟承認

12月1日に自治領となったPNGの加盟は,全会一致で承認され,その結果コロンボ・プラン加盟国は,27カ国(域内21カ国,域外6カ国)となった。

(2) 年次報告書

年次報告書の内容は前文,第1章≪1972年中の国別経済の動き≫,第2章≪今後の課題≫および第3章≪1972年中の域内の技術協力実績≫よりなる。

(3) スタッフ・カレッジ問題

シンガポールにスタッフ・カレッジを設立することで了解覚書が採択された。

(4) その他

(イ) インドシナの戦後復興および開発における技術協力の役割,(ロ)社会正義を伴う成長を促進するに当つての援助国および被援助国の役割,(ハ)開発援助の条件,(ニ)企業に関する域内各国間および域外加盟国よりの資本および技術の移転の促進(なかんずく合弁企業に関し)につき討議が行なわれた。

 

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