―海運問題―

 

第7節 海 運 問 題

 

1.国際海運秩序の改編

 

 日本をはじめとする先進海運諸国は,国際海運活動を海運事業者の自由な活動に委ね,政府介入を排除することが海運の能率性,経済性を確保する上で有効であり,船主・荷主の双方ひいては世界貿易に対し利益をもたらすとの考えに基づくいわゆる「海運自由の原則」を海運政策の基本としてきた。

 これに対し近年発展途上諸国は,従来の「海運自由の原則」を基礎とする国際海運秩序は先進海運国の利益のための秩序であり,発展途上国が自らの利益を守るためには政府が海運活動に介入し,新たな国際海運秩序を形成する必要があるとの考えから,国内的には自国船優先政策の採用,国際的には定期船同盟コードの条約化の動きを強めてきた。

  73年11-12月,74年3-4月の2回にわたりジュネーヴで開催された全権会議の結果,定期船同盟コード条約が採択された。

(1) 定期船同盟コード問題

国際海運における定期船航路においては,ほぼ例外なく運賃,航海数等に関する船杜間の協定を主内容とする定期船同盟が形成されている。

定期船同盟は国際カルテルであるが,定期運航の維持,運賃の安定等の利点を有するものであるため各国とも一定の制限を加えながらも独占禁止法の適用除外にする等定期船同盟の存在を肯定する態度をとつている。

発展途上国は近年,同盟の利点は認めながらも,従来の同盟慣行は発展途上国船杜の同盟加入,発展途上国産品の輸出促進等について十分な考慮を払つていないとして同盟慣行の改善を強く要求するに至つた。

こうした状況をふまえて,先進海運諸国は71年東京で開催された海運閣僚会議でCENSA(Cmmittee of European National Shipowners'Associations ; 日本及び欧州の船主協会により構成)に対し船杜の自主規制,行動規範としての定期船同盟コードの作成を要請し,CENSAは71年末CENSAコードを作成した。

しかし,発展途上国はこれらの動きに満足せず自らの参加するUNCTADの場において条約としての同盟コードを作成することを強く要求し, 72年4月の第3回UNCTAD総会に発展途上国条約案を提出するとともに,同年秋の国連総会で73年の早期にUNCTAD主催のもとに定期船同盟コード条約採択のための全権会議を開催することおよびこのために準備委員会を設置することを強行採決により決議した。

上記決議に基づく第1回準備委員会で先進諸国側は画一的貨物輸送シェアーの設定,同盟と荷主の協議への政府参加,紛争処理のための国際強制仲裁を主内容とする発展途上国案は商慣行の硬直化,効率的な輸送サービスの阻害をもたらす旨を指摘する一方,OECD海運委員会において西側先進国の対案をとりまとめ第2回準備委員会に提出した。

73年11月ジュネーヴで開催された全権会議では多くの条項につき妥協が成立し,会期末に提示された議長調停案に対して発展途上国,共産圏諸国のみならず西側先進国の一部もこれを受諾したが条約採択までには至らなかつた。

このため本年3月再開された再開会期では運賃据置期間,盟外船問題,強制調停に関する規定等残された主要問題についてさらに調整が行なわれ,4月7日定期船同盟コード条約が参加84カ国中72カ国の賛成をもつて採択された。

実質世界第一位の海運国であり,世界有数の荷主国でもあるわが国は,発展途上国の意向を考慮しつつ,同盟コードを,柔軟性をもち,かつわが国および世界の海運,貿易の発展の支障とならないものとするよう,西側先進諸国との協調を保ちながら努力した。この結果,主要問題の多くについてわが国の主張がとり入れられたため,わが国も本条約の採択に賛成した。採択された条約の主な内容は以下のとおりである。

(イ) 同盟船社間の関係

a 貿易当事国のnationa1 1ineの同盟加入は一定の要件を満たすことを条件に原則として認められる。

b 定期船貨物の積取り比率については両貿易当事国で平等に2分し,第三国が存在する場合,当事国各40%,第三国20%を基準とする。(条約発効後2年間の経過期間を置く。)

(ロ) 荷主との協議

a 運賃値上げ等に関し,同盟は荷主と協議しなければならない。

b 政府は同盟と荷主の協議に参加することができるが,決定権はもたない。

(ハ) 運  賃

a 一般的運賃値上げは5カ月または地域慣行に基づく期間前の事前通告を要する。

b 10カ月間の運賃据置期間を設定する。

c 荷主の要求により,輸出促進運賃を設定する。

(ニ) 盟 外 船

同盟の競争抑圧船使用は禁止するが,盟外船についての規定は置かない。(なお条約採択に際し「航路の健全の発展に必要な商業べースの公正な盟外船活動は禁止してはならない」旨の決議が採択されている。)

(ホ) 紛 争 解 決

紛争は,原則として一方の当事者の要求により国際強制調停に附される。

(2) 自国船優先政策の増加と先進海運諸国の対抗措置

自国船優先政策とは自国関係貨物の全部または一部を自国船舶に留保することを目的に,国際海上輸送における荷主の船舶選択権を事実上制限する効果を持つ政府による措置の総称であり,現在自国船優先政策をとつている国は,中南米,アジア諸国を中心に10数カ国に達している。(73年にはヴェネズエラが貨物留保を内容とする商船保護開発法を制定した)

このような自国船優先政策の増加は世界およびわが国の海上貿易,海上輸送に対し多大の悪影響を与えるものであり,わが国をはじめとするCSG諸国(Consultative Shipping Group,英,北欧諸国,日本等13カ国で構成)は従来から共同歩調を保ちつつ抗議申し入れ等の措置を講じてきたが,必ずしも十分な効果をあげるに至らなかつた。

このため73年9月27-28日ロンドンで開催されたCSG海運閣僚会議(わが国からは佐藤文生運輸政務次官が出席)では,発展途上国の自国船優先政策に対する対処方策を中心に討議が行なわれ,(イ)海運自由の原則の維持,(ロ)外交交渉による積極的問題解決-国旗差別政策を抛棄することを条件に当該発展途上国に妥当なシェアーを保障する,(ハ)外交交渉によって問題が解決しない場合の最終的手段としての対抗措置権限保有の必要性につ いて合意した。

現在主要先進諸国の多くが国旗差別に対する対抗措置権限を有しており,わが国としても最後の手段としての対抗措置権限の保有について真剣に検討すべき時期にきたものと思われる。

 

2.協同一貫輸送の進展に伴なう諸問題

 

 68年,邦船コンテナ船の太平洋航路初就航以来わが国商船隊のコンテナ化は急速に進展し,現在米,加,豪州,欧州との航路はコンテナ化されるに至つている。コンテナリゼーション,協同一貫輸送(intermoda1 trasportation)の進展に伴ない複合運送人の運送責任,輸送書類の簡易化・ADP化(Automatic Data Processing),ランド・ブリッジ等の問題が新たに生じてきている。

(1) 複合運送条約(TCM条約-Convention sur 1e Transport Internationa1 Combine de Marchandises)

コンテナ輸送の発展,複合運送の利用促進のためには複合運送証券の発行者である複合運送人(CT0-Combined Transport Operator)の責任内容を規定し,複合運送証券に十分な信用を与えることが必要になる。

このため69年万国海法会(CMI)が作成した東京ルールを基礎とするTCM条約が72年の国連・IMCO合同コンテナ輸送会議で採択されることが予定されていた。しかし発展途上国は先進国を中心に進められてきたTCM条約制定の動きに強く反発し,コンテナ化が発展途上国に及ぼす影響が明らかにされるまで同条約を採択すべきではないと主張し,結局TCM条約採択会議は75年に延期され,政府間準備グループ会議を設置し草案作成を進めることになった。

73年10-11月に開催された第1回政府間準備グルーブ会議でも発展途上国はコンテナ化の経済的影響の審議を条約審議に優先させることを主張する一方,米,加等一部先進諸国が従来のTCM条約案の network system の考え方に反対し,uniform liabilityを主張する等事態は一層複雑化してきている。

一方民間レベルでは国際商工会議所が73年11月 network system に基づく複合運送証券統一規則を制定し,複合運送を推進しようとする動きを示している。

(2) 輸送書類の簡易化・ADP化

コンテナ船の就航,航空貨物輸送の発達等輸送革新により輸送時間は大幅に短縮されてきている。

他方船荷証券等の輸送関係文書の流れは旧態依然たるものがあるため,貨物が輸送書類の到着の遅れにより埠頭に滞留する現象も生じている。

このため輸送関係書類の簡易化・ADP化を進めることにより流通革新をさらに促進させようとする運動が近年わが国においても官民協調下に進められている。73年2月に米国代表団,10月に英国代表団を迎え,わが国官民関係者との間で意見,情報交換を行ない,日米間ではオンライン・リアルタイムによる貨物データ伝送テストを早期に実施することとなった。

 

3.「石油危機」に伴なう国際海運・漁業の混乱

 

 アラブ諸国の石油供給削減に伴う石油供給の混乱により,73年11-12月に は国際的に船舶用燃料油の確保に支障が生じ,外航船舶の長期滞船,減便,欠航等国際海運および漁業に大きな混乱が生じた。

 海外貿易,海洋資源に大きく依存するわが国にとって,船舶用燃料油の確保 ― 海上輸送及び遠洋漁業の安定 ― が資源エネルギーの確保及び国民生活の安定に不可欠であるため,在外公館を通じ諸外国における船舶用燃料油の需給状況の把握に努めるとともに,国際海運及び漁業に対する給油に優先順位を与えることを勧告したOECD理事会勧告の採択等国際的合意の確立に努力し,国内では邦船,外国船の区別なく外航船舶に対する給油に優先順位を与える措置をとった。

 

 

4.日米海運問題

 

 米国は従来から自国海運業の保護のため政府関係貨物等につきシップ・アメリカン政策を推進し,反独占の観点からの船杜間協定の認可制等海運活動に対し強い政府規制を行なっているが,近年対日借款綿花輸送ウェーバーの不許与,邦船柱間のスペース・チャーター協定の暫定認可等海運に対する保護主義的傾向をさらに強めつつある。

 73年の2,4,10月の3回にわたり日米海運会議が開催され,スペース・チャーター協定の認可,太平洋航路における船腹過剰,不正慣行の防止等日米間の海運諸問題についての討議が行なわれた。

 

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