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I 総 論
現在すでに学生運動等の形でカレントな政治問題に敏感な反応を示し,また今後数年を経ずして実社会に進出し,次第に米国各界の指導層を占めることになる米国各地の大学生に対して,現在彼らが日本をどのように認識しているかを調査することは,米国の今後の各種情勢をわが国の立場より考察する上において充分有意義であると認められたので,初めての試みとしてギャラップ社による米国大学生の対日意識調査を昨47年11月から12月にかけて行なつた。米国における全大学生数(短期大学,4年制大学および大学院学生の総数)は,47年11月現在で約7百万人と推計されるが,本調査はその中から全国的に990名の学生を調査対象者に抽出して直接インタヴューを行ない,その結果を集計・整理したものである。
調査結果の詳細はIIのとおりであるが,その概要は次のとおりである。
1. 調査事項
(1) 日本への信頼度
(2) 日本をアジアの安定勢力と見るか否か
(3) 日中両国の関係正常化と貿易拡大
(4) 今後10年間アジアの開発と平和に対する日中の貢献度
(5) 10年後における米国の貿易相手国としての日中の比重
(6) 日米安全保障条約観
(7) 日本の自衛力増強の必要性
(8) 極東の平和維持のための日本の軍事的貢献
(9) 米国の対日貿易赤字縮小の方途
(10)貿易大国日本に対する意識
(11)日米間の軋轢に対する見方
(12)アジアの発展途上国援助における日本の役割
(13)アジアの安定・発展のための米国の協力相手国
(14)日本軍国主義復活観
(15)日本訪問の希望
2. 調査結果の概要
(1) 日本に対する信頼度については,4人の米国学生のほとんど3人まで(73%)が肯定的回答を行ない,ほぼ同時期に実施した米国一般市民を対象とした一般世論調査での同種質問結果(48%)を大きく上回つている。
(2) 学生の半数余(52%)が,わが国をアジアの安定勢力とみなしており,これは一般世論調査とほぼ同結果である。その理由としては,「日本は経済的に強力である」が第1位に挙げられ,これは一般調査の結果をかなり上回つている。
(3) 日中両国の関係正常化および両国の貿易拡大については,84%という大多数が賛成している一方,アジアにおける今後10年間の米国の最大貿易相手国としては,ほとんど2対1の割合い(61%対33%)で中国よりも日本が挙げられた。今後10年間におけるアジアの開発と平和に対する日中の貢献度については,日本を選んだ学生が47%に対し中国は42%と差が小さくなつている。
(4) 日米安保条約については,学生の過半数の53%が極東の平和と安定に寄与していると見ている一方,約3分の1に当る34%が否定的であつた。日本の自衛力増強問題については,肯定と否定がほぼ相半ばしているが,日本が極東の日本以外の地域での平和維持のため充分に強力な軍事力を持つことについては過半数(54%)の学生が否定的で,これを肯定した者は38%であつた。
(5) 学生の半数余の52%が,米国の対日貿易を拡大させることが,対日貿易赤字を縮小させる最善策であると考えており,わが国の対米輸出制限を示唆した者は32%であつた。また,わが国が世界で最重要貿易国の1つとなつたことについて,過半数の57%が米国に対する脅威というより利益であると見ている(脅威と見るのは29%)。さらに貿易不均衡等時折り見られる日米間の軋轢については,学生の過半数(59%)が重大な問題または処理し得るが重要な問題であると見ていることが判明した。
(6) 日本がアジアの経済開発援助に充分な責任を果していないとの見方は,38%と比較的多く,責任を果していると見る者は30%であつた。また,長期的に見て,アジアの安定と平和的開発のために米国が最も効果的に協力し得る国として,まず中国を指し,次いでわが国とソ連とを挙げている。
(7) 日本軍国主義の復活については,学生の過半数の60%が,そのようにはほとんどまたは全く見受けられないとしており,反対にそれがかなりまたは非常にあり得ると見ている学生は35%であつた。
II 調査結果の内容
1. わが国に対する信頼度
設問(1): 日本は米国の信頼し得る友邦であると考えるか否か。
回答: 考える 73%
考えない 15%
分らない 12%
設問(2): なぜそう思うか。(複数回答も可)
回答:(イ) 日本を信頼し得る友邦と考える者の挙げる主な理由。
1) 日米間の良好な貿易関係。 30%
2) 日本は米国の援助を必要としまた感謝している。 13%
3) 現在,日本人は米国に友好的である。 11%
4) 日本は友好的である。 9%
(ロ) 日本は信頼し得る友邦と考えない者の挙げる主な理由。
1) 日本人は信用できない。 4%
2) 真珠湾等の過去の出来事。 3%
3) 日本は経済的に米国と競争している。 2%
(1) 回答者の73%,つまり4人の学生のうちのほとんど3人までがわが国を米国の信頼できる友邦と見ており,これはほぼ同時期に実施した米国一般市民を対象とした一般世論調査での同種の質問結果の48%を遥かにしのぐものである。他方,わが国を友邦と考えない学生は15%にすぎず,残り12%が意見なしである。
この回答結果を性別および年令別に分類した場合でも,男子学生の77%,女子学生の67%が日本を友邦と見ており,また肯定的回答比率の高い21才以上の学生は76%,同比率の比較的低い18才以下の者でも68%がわが国を米国の友邦と考えていることが明らかになつた。但し,女子学生および18才以下の学生の否定的回答比率は他のグループとほぼ同じ約15%であり,肯定的回答比率が比較的低いのは,「分らない」との回答が他のグループより多いことに影響されており,このような傾向は以下の設問に対する回答においてもかなり認められた。
(2) 日本を信頼し得る友邦と考える学生のうち「日米間の良好な貿易関係」をその理由として挙げる者は全体の30%で最大であり,これは一般調査における12%をも大きく上回るものである。2位は,「日本は米国の援助を必要としまた感謝している」で,「日本人は米国に友好的である」,「日本は友邦である」がこれに続いている。他方,日本は信頼し得る友邦と考えない学生の挙げる主な理由は,「日本人は信用できない」,「真珠湾等の過去の出来事」,および「日米間の経済的競争」等である。
2. アジアにおける安定勢力
設間(1) : アジア情勢の新しい進展に照らして,日本はアジアにおける安定勢力であると考えるか否か。
回答 : 考える 52%
考えない 20%
分らない 28%
設問(2) : なぜそう思うか。(複数回答も可)
回答 :(イ) 日本はアジアにおける安定勢力と考える者の挙げる主な理由。
1) 日本は経済的に強力でアジアにおける経済大国である。 28%
2) 日本は政治的に強力である。 11%
3) 日本は発展した。 6%
(ロ) 日本はアジアにおける安定勢力と考えない者の挙げる主な理由。
1)日本は強力な国でない。 9%
2)日本は他のアジア諸国に関心を抱いていない。 5%
(1) 学生の52%という半数余がわが国をアジアの安定勢力とみなしているが,これは一般世論調査の結果が同種の質問事項で示した55%とほぼ同じものである。他方,否定的な見方をした者は20%で,意見なしは28%と比較的多い。
これを性別に見ると,男子学生中62%が日本を安定勢力と見ているが,女子学生になるとこの比率が39%と低くなる。ただここで特に留意すべきことは男子学生の意見なしが17%であるのに対し,女子学生に一あつては43%がこの質問に意見なしと答えていることである。また,年齢別に見た場合でも,学生の年齢が高まるにつれて,わが国を安定勢力と見る者が増え,意見なしとの回答は年齢が若い者ほど多くなつている。特にこれを18才以下の学生と24才以上の学生の回答を比較すると次のとおりである。
18才以下 24才以上
日本はアジアの安定勢力である 45% 67%
日本はアジアの安定勢力ではない 18% 19%
分らない 37% 14%
(2) 日本はアジアにおける安定勢力であると考える学生のうち「日本は経済的に強力で,アジアにおける経済大国である」を理由とする者が全体の28%で最も多く,これは一般調査における19%をかなり上回つている。2位は「日本は政治的に強力である」とするもので全体の11%であるが,これも一般調査における5%をかなり上回つている。他方,日本はアジアにおける安定勢力と考えない者の挙げる主な理由は,「日本は強力な国でない」,および「日本は他のアジア諸国に関心を抱いていない」であつたが,このような見方も一般調査における結果より多くなつている。
3. 日中関係正常化および両国の比較
設問(1): 日中両国の関係正常化および貿易の拡大に賛成するか否か。
回答: 賛成する 84%
賛成しない 8%
分らない 8%
設問(2) : 1O年後のアジアにおいて,日本または中国のいずれの国が米国の最大の貿易相手国になると考えるか。
回答: 日 本 61%
中 国 33%
分らない 6%
設問(3) : 今後10年間におけるアジアの開発と平和のために日本または中国のいずれの国がより大きな貢献をすると考えるか。
回答: 日 本 47%
中 国 42%
分らない 11%
(1) 日中両国の関係正常化および両国の貿易拡大については,84%という圧倒的多数が好ましいと見ており,これに不賛成との回答は僅かに8%にすぎなかつた。
(2) アジアにおける今後10年間の米国の最大の貿易相手国としては,ほとんど2対1の割合い(61%対33%)で中国よりも日本が挙げられたが,日本を挙げる比率は一般世論調査の結果(日本55%対中国28%)より高い。この質問に対する反応は,性別および年齢別に見ても特に変化はなかつたが,公立大学の学生の方が私立大学の学生に比して幾分多く中国を選ぶ傾向が見られた。(35%対26%)
(3) 今後10年間におけるアジアの開発と平和に対する日中両国の貢献度については,学生間の意見は上記の貿易相手国観の場合以上に格差が著しく縮まつて,47%の学生が日本を選び42%の者が中国を挙げた。これを性別で見ると,女子学生の方が男子学生よりも(52%対44%)多く日本を挙げ,また年齢別では18才以下の若い学生が最も多く日本を選んだ。
4. 日米安保条約および日本の防衛力についての見解
設問(1) : 日本および極東の防衛のため米国に日本国内の基地を提出している日米安全保障条約は極東地域の安定と平和に寄与していると考えるか否か。
回答 : 考える 53%
考えない 34%
分らない 13%
設問(2) : 日本は自国の防衛のために軍事力をさらに増強すべきだと思うか否か。
回答 : 思 う 43%
思わない 41%
分らない 16%
設問(3) : 日本は極東地域の日本以外の場所での平和維持を支援できるほど充分強力な軍事力を持つべきだと思うか否か。
回答 : 思 う 38%
思わない 54%
分らない 8%
(1) 日米安保条約については,学生の過半数の53%が極東の平和と安定に寄与していると考えていることが明らかとなつた。他方,3分の1に当る34%が否定的な見解を示し,残り13%が分らないという結果を示した。この質問については,性別および年齢別に見ても,ほとんど重要な差異はなかつた。
(2) 日本の自衛力増強問題については,これを肯定する学生が僅かに多いが否定する学生とほぼ相半ばする(43%対41%)結果が出た。
これを性別で見ると,男子学生間では僅かに否定の方が多い(41%対43%)のに対して,女子学生間では肯定論の方が多かつた(45%対38%)。また,年齢別で見ると,18才以下の若い学生に比較的肯定論が多かつたが,21才以上の学生間では否定論が肯定論を若干上回つた。
(3) このように,わが国の自衛力増強についての見解は肯定・否定がほぼ相半ばしているのに対して,わが国が極東地域における日本以外の場所での平和維持を支援できるほど充分に強力な軍事力を持つことについては,過半数の学生が否定的であつた(肯定38%対否定54%)。これを年齢別で見ると,年齢が高くなるほど否定的回答が多くなる傾向を示している。
5. 日米関係についての見解
設間(1) : 現在の米国の対日貿易赤字を縮小させるには何が最善の方途であると考るか。
主な回答 : 対日輸出拡大 52%
対日輸入制限 32%
その他 7%
分らない 9%
設問(2) : 世界で最重要の貿易国の1つとしての日本の出現は,米国に対する利益または脅威のいずれを意味すると考えるか。
回答 : 利益 57%
脅威 29%
分らない 14%
設問(3) : 貿易の不均衡のような日米間の時折りの軋轢をどれほど重大視しているか。
回答 : 重大である 9%
重要であるが処理し得る 50%
普通である 29%
重要でない 9%
分らない 4%
(1) 米国の対日貿易赤字について学生の半数余りの52%が,米国の対日輸出を拡大させることが目下の対日貿易赤字を縮小させる最善の方法であると考えており,わが国の対米輸出制限を示唆したものは32%であつた。
(2) わが国が世界で最重要の貿易国の1つとなつたことについて,学生の過半数の57%が米国に対する脅威というより利益であると見ていることも明らかとなつた。他方,このような日本の貿易拡大を脅威と見ている学生は29%である。わが国の貿易拡大を米国の利益と考える学生の主な理由は,「そのような貿易は日米両国に利益をもたらし,両国間の協力を促進するから」というのに対し,それを脅威と見る者の主な理由は「そのような貿易は米国に競争的な脅威を与えるから」というものであつた。
(3) 貿易不均衡等の時折り見られる日米間の軋轢をどれほど重大視するかについては「重大である」との回答が9%,「重要であるが処理し得る」との回答が29%,と米国の学生もその過半数が日米間の軋轢は重大な問題ないし重要な問題であると見ていることが判明した。両国間の時折りの軋轢は普通のことであると見る学生は29%,またこれは重要なことではないと見る学生は9%と少なかつた。
6. アジアの安定・発展と日本
設間(1) : アジアの開発途上地域における経済開発援助のために日本は相応な責任を果していると考えるか。
回答 : 果している 30%
果していない 38%
分らない 32%
設問(2) : 長期的に見て,アジアの安定と平和的開発のために米国はいずれの国と最も効果的な協力ができると考えるか。
回答 : 中 国 28%
ソ 連 24%
日 本 24%
カ ナ ダ 7%
オーストラリア 6%
フィリピン 2%
そ の 他 1%
分らない 7%
(1) アジアの経済開発援助について,日本はかなり責任を果していると見る学生は30%あつたが,これに対し日本は充分な責任を果していないという見方は38%と比較的多かつた。ただ,本問については意見なしが32%と高かつた。
(2) 長期的に見て,アジアの安定と平和的開発のために米国が最も効果的に協力し得る国として,米国の学生は先ず中国を指し(28%),次いでわが国とソ連とを挙げた(各々24%)。この中国指向は年齢別に見た場合に21~23才の年輩学生において36%と更に強まる傾向を見せている(日本は23%)。他方18才以下の学生の間では,逆にわが国が第1位で31%,ソ連が23%でこれに次ぎ,中国は19%と第3位であつた。
7. 日本軍国主義復活観
設問 : 日本の軍国主義復活の可能性をどう見るか。
回答 : 可能性は全くない 12%
可能性は余りない 48%
可能性はかなりある 26%
可能性は非常にある 8%
分らない 6%
日本軍国主義の復活については,学生の60%の過半数が,そのようにほとんどまたは全く見受けられないと見ていることが判明した。これに対し,わが国の軍国主義復活をかなりまたは非常にあり得ると見ている学生は35%であつた。
本設問に対する回答については,性別および年齢別でかなりの差異が現われ,女子学生が男子学生よりも,また若手学生の方が年輩学生よりも,日本の軍国主義復活を予見する傾向が多く見られた。
8. 日本訪問の希望
息抜きのための意味もあつて設けた。将来日本訪問を希望するかとの質問には圧倒的に大多数の学生(88%)が希望するとの返答を行なつている。