-その他-

 

(3) 諸外国における対日世論調査

 

(イ) 米国における対日世論

 

 I 総 論

米国における対日世論の動向を把握するため,昭和35年以降毎年度ギャラップ社による世論調査を実施しているが,本調査は昨47年11月10~13日に米国の21才以上の成年市民1,462名を対象として行なつたものである。

調査結果は米国の成年市民125百万人の意見を代表するものであり,その技術的誤差は最大限2ないし3パーセントとされている。

調査結果の詳細はIIのとおりであるが,その概要は次のとおり。

(1) 今回は基本的傾向調査として従来と同様(イ)日本への信頼度,(ロ)日本をアジアの安定勢力と見るか否か,(ハ)アジア問題についての対日期待事項の3設問につき調査したほか,新たに(ニ)日米友好維持のための対日期待事項についての設問を加え,また(ホ)アジアにおける米国のパートナーとしての日中に対する信頼度,及び(ヘ)10年後における米国の貿易相手国としての日中の比重を前回に引き続き調査した。

(2) 調査結果

(イ) 日本に対する信頼度については,48%が肯定的回答を行ない,過去15回の調査の中で最高の比率を示した。今回の調査では,従来否定的な反応を見せていた婦人層,普通教育しか受けていない層,労働者層の対日信頼度がかなり上昇しているのが目立つた。

(ロ)アジアの安定勢力としての対日観でも,肯定的回答が55%とこれまで最高の比率を示したが,日本を安定勢力と考える理由としては日本が経済的に強力であること,日本が発展したことを挙げる者が増大している。

(ハ) アジア問題についての対日期待事項では,従来と同様「アジアの平和維持のためより重要な役割を果すこと」が35%で引き続き第1位を占め,「アジアの地域協力の促進」が19%で第2位,「アジア開発援助の増大」が15%で第3位であつた。また「日本の防衛力の改善」は14%から11%に減少した。

(ニ) 日米友好維持のための対目期待事項では,「安定的経済関係の維持」が36%で最も多く,「安全保障面でより大きな責任を果すこと」および「文化交流の促進」が各々4分の1程度であつた。

(ホ) アジアの平和維持の上で日中いずれが米国のより良いパートナーとなるかについては,日本と答えたものの数がさらに増加し,日本62%に対し中国16%であつた。

(ヘ) 10年後の貿易相手国としての日中の比重については,前回調査とほぼ同じく日本55%に対し中国28%の結果であつた。

 II 調査結果の内容 (以下カッコ内数字は前回47年3月の結果を示す)

1. わが国に対する信頼度

設問(1): 日本は米国の信頼し得る友邦であると考えるか否か。

回答: 考える                        48%(45%)

   考えない                       33%(33%)

   分らない                       19%(22%)

設問(2): なぜそう思うか。(複数回答も可)

回答: (イ)日本を信頼し得る友邦と考える者の挙げる主な理由。

     1 戦後日本は友情を証明した。           13%(7%)

     2)日米間の良好な貿易関係。            12%(10%)

     3)日本は米国の援助を必要とし,また感謝している。 7%(10%)

     4)日本は友好的である。               6%(5%)

(ロ)日本は信頼し得る友邦と考えない者の挙げる主な理由。

1)日本人は信用できない。                  13%(12%)

2)真珠湾等の過去の出来事。                  8%(10%)

(1) 今回の調査結果を前回47年3月のそれと比較すれば,この8ヵ月の間にも対日信頼度が若干上昇していることが認められる。わが国は,「信頼できる友邦」と肯定的に答えた者は全体の45%から48%へと3%の上昇を示し,「信頼できる友邦と考えない」と否定的に答えた者が前回同様33%のままで,意見なしと答えた者が22%から19%に減少している。

(2) 本設問は昭和35年より継続して実施しているもので,その結果は,下表のとおりである。

 



米国成年市民の対日信頼度は,今回調査において過去15回の調査のうち最高の48%となつたが,これまでの最低は35年7,8月の31%であつた。過去15回の調査の平均値は42%である。

ここ数年来の趨勢を見ると,肯定的回答については43年に40%と低下したものが44年および45年3月と回復し45年9月に若干後退したものの昨年2回の調査では再び上昇に転じている。他方,否定的回答は43年の34%から44年の37%に上昇したが,その後引き続いて減少の傾向にあり,昨年2回の調査における33%に低下して来ている。

(3) 本設問に対する回答者の性別,学歴別,職業別,年齢別,地域別内訳は次のとおりである。

          信頼できる  信頼できない   分らない

             (%)      (%)      (%)

全国平均       48 (45)    33 (33)    19 (22)

性  別

 男  性      55 (54)    33 (30)    12 (16)

 女  性       41 (38)    33 (35)    26 (27)

学 歴 別

 大 学 卒      62 (62)    28 (26)    10 (12)

 高 校 卒      48 (46)    34 (34)    18 (20)

 小,中学卒     32 (24)    35 (38)    33 (38)

職 業 別(主婦の場合は主人の職業別)

 専門職及び実業家  55 (61)    35 (24)    10 (15)

 ホワイト・カラー  63 (55)    20 (31)    17 (14)

 農業従事者     39 (35)    41 (32)    20 (33)

 労 働 者      49 (43)    32 (35)    19 (22)

年 齢 別

 21 ~ 29才     52 (50)    32 (31)    16 (19)

 30 ~ 49才     57 (52)    26 (28)    17 (20)

 50才以上      36 (35)    41 (39)    23 (26)

地 域 別

 東 部        52 (45)    31 (33)    17 (22)

 中 西 部      47 (43)    37( 34)    16( 23)

 南 部        42 (40)    31 (36)    27 (24)

 西 部       50 (57)    31 (25)    19 (18)

以上の属性別内訳を見ると従来否定的な反応を見せていた婦人層,普通教育しか受けていない者,および労働者等の間での対日信頼度が,かなり上昇しているのが特に注目される。ただ,今回の調査においても,性別では男性が学歴別では学歴の高い者が,それぞれ肯定的回答の比率が高いことは従来のパターンと同じである。

職業別では, 従来対日信頼度の最も高かつた専門職および実業家の肯定的回答比率が減少し,逆にホワイト・カラーが前回より8%の上昇を示してこの層における対日信頼度が最も高くなつた。農業従事者の対日信頼度は従来労働者より高かつたが, 昨年2回の調査ではいずれもこれを下回り,最下位となつている。

年齢別では,45年3月の調査までは,青年層(21~29才)の肯定的回答比率が最も高かつたが,45年9月の調査以来中年層(30~49才)が最も高い対日信頼度を示して来ている。高年層(50才以上)の対日信頼度が最も低いのは従来どおりである。

また,地域別では,従来肯定的回答比率の最も高かつた西部が前回より7%の減少を示したが,かえつてその他の地域,特に東部(7%上昇)において高まつた。今回の調査における肯定的回答比率の地域別順位は,東部(52%),西部(50劣),中西部(47%),南部(42%)の順となつている。

(4) 日本を信頼し得る友邦と回答した者のうち「戦後日本は友情を証明した」を理由として挙げる者が,今回の調査では前回よりほぼ倍増し1位を占めた。第2位の「日米間の良好な貿易関係」を理由とする者も前回より増えているが,逆に前回第1位であつた「日本は米国の援助を必要とし,また感謝している」を理由とする者は減少して第3位となつた。

(5) 日本を信頼し得る友邦と考えないと答えた者の中,「日本人は信用できない」を理由とする者と「真珠湾等の過去の出来事」を理由とする者が従来同様多いが,前回に比較して前者はやや増加,後者はやや減少した。

2. アジアにおける安定勢力

設問 (1): アジア情勢の新しい進展に照らして日本はアジアにおける安定勢力であると考えるか否か。

回答: 考える                            55% (44%)

     考えない                          14% (18%)

     分らない                           31% (38%)

設問 (2): なぜそう思うか。(複数回答も可)

回答:(イ) 日本はアジアにおける安定勢力と考える者の挙げる主な理由。

      1)日本は経済的に強力でアジアにおける経済大国である。   19% (16%)

      2)近年日本は発展した。                  11% (5%)

      3)日米両国はほとんどの問題について意見が一致している。  6% (5%)

      4)日本は政治的に強力で,民主国家である。         5% (7%)

      5)日本は社会的,文化的および教育的に進歩している。     3% (3%)

     (ロ) 日本はアジアにおける安定勢力と考えない者の挙げる主な理由。

      1)日本は強力な国でない。                 3% (6%)

      2)日本人は信用できない。                 3% (3%)

      3)日本は他のアジア諸国に関心を抱いていない。        2% (2%)

(1) 本設問は昭和42年以来行なつておりその結果は下表のとおりである。


今回の調査結果を前回と比較すると「日本はアジアにおける安定勢力である」とする肯定的回答の率が大きく(11%)伸び,対日信頼度についてと同様過去の調査における最高の比率を示したことが注目される。他方,否定的回答および分らないとの回答は減り,特に後者はかなり(7%)の減少を示した。

(2) 本設問に対する回答者の性別,学歴別,職業別,年齢別,地域別内訳は次のとおりである。

              考える    考えない    分らない

                (%)      (%)      (%)

  全国平均        55 (44)    14 (18)    31 (38)

  性 別

   男 性        66 (55)    13 (19)    21 (26)

   女 性         46 (35)    15 (16)    39 (49)

  学 歴 別

   大 学 卒       72 (57)    13 (20)    15 (23)

   高 校 卒       55 (44)    15 (18)    30 (38)

   小,中学卒      39 (31)    11 (12)    50 (57)

  職 業 別

   専門職及び実業家   71 (59)    13 (15)    16 (26)

   ホワイト・カラー   69 (51)    10 (18)    21 (31)

   農業従事者      49 (36)    19 (12)    32 (52)

   労 働 者       52 (39)    13 (21)    35 (40)

  年 齢 別

   21~29才       53 (43)    19 (24)    28 (33)

   30~49才       61 (46)    13 (17)    26 (37)

   50才以上       51 (44)    12 (14)    37 (42)

  地 域 別

   東 部        55 (44)    13 (19)    32 (37)

   中 西 部       60 (44)    13 (19)    27 (37)

   南 部 45 (40)    16 (15)    39 (45)

   西 部 64 (50) 12 (17) 24 (33)

以上のように回答者を属性別に見ても,ほとんど全ての層において,否定的回答および「分らない」との回答が減つて,肯定的回答が大きく増えている。肯定的回答は従来どおり,男性,大学卒,知的職業に従事している者,中年層,西部地域の者に多いが,特に,ホワイト・カラー,中年層,中西部地域の肯定的回答の比率が大きく上昇している。

(3) 以上見たように,米国市民の間に日本はアジアにおける安定勢力であると考える者が増大しているが,これは日本の大きな経済成長について米国市民の認識が高まつてきている故であると見られる。この傾向は肯定的回答者の挙げる理由の中にも認められ,「日本は経済的に強力である」(19%)およ「近年,日本は発展した」(11%)とするものが増え,特に後者は,倍以上の伸びを示している。否定的な回答をした者の中でも「日本は強力な国でない」という理由を挙げた者はかなり減少している。

3. アジアの平和と安定のため日本に期待する事項

設問: アジアの平和と安定のため,米国は日本に何を期待すべきと考えるか。〔本設問については次の5項目の回答を予め用意し,その中から任意に選択(複数回答も可)せしめた。〕

回答: 1) 日本はアジアの平和維持のためより強力な役割を果すべきである。

                                   35% (39%)

     2) 日本はアジアの地域協力を促進するため一層指導力を発揮すべきである。

                                   19% (20%)

     3) 日本はアジアの経済開発のための援助を増加すべきである。  15% (14%)

     4) 日本は自国の防衛力を改善すべきである。           11% (14%)

     5) 日本は開発途上のアジア地域に対する民間投資を一層増大すべきである。

                                   10%

     6) 意見なし。                        19%

本設問は従来行なつて来たものとほぼ同じものであるが,今回の調査では設問冒頭を従来の「アジア問題につき」を「アジアの平和と安定のため」と改め,従来の回答項目の1つ(日米間の貿易,投資の促進)を「日本の対アジア民間投資の増大」に替えた。

今回の調査結果では,従来同様「アジアの平和維持に一層強力な役割を果すこと」との回答が35%で引き続き第1位を占めた一方,「日本の防衛力を改善すること」との回答は11%に止まつた。前回同様「アジアの地域協力を促進するため指導力を発揮すること」が第2位で,「アジアの経済開発のため援助を増加すること」が第3位を占めた。

4. 日米友好関係維持のために日本に期待する事項

設問 : 日米友好関係を長期的に維持するために,日本に何を期待するか。〔本設問については次の3項目の回答を予め用意し,その中から任意に選択(複数回答も可)せしめた。〕

回答 :1) 日米間の安定的経済関係を維持するために積極的な措置をとるべきである。

                                      36%

     2) 日本の安全もしくは極東の平和と安全を維持するためより大きな責任を果すべきである。

                                      26%

     3) 日米間の文化交流および人的交流を一層促進すべきである。      25%

     4)意見なし。                            19%

本設問は今回の調査で初めて加えられたものであるが,米国市民の3分の1以上が長期的な日米友好関係維持のために日本が両国間の安定的経済関係を維持するための積極的施策をとることを期待し,約4分の1ずつが日本の安全もしくは極東の平和と安全維持のため日本がより大きな責任を果すこと,および両国間の文化交流および人的交流を一層促進することを望んでいることが判明した。「日米間の安定的経済関係維持のための積極的措置」を挙げた者を属性別に見ると,男性,大学卒,専門職および実業家,青年層(21~29才),西部地域の者に特に多い。

5. アジアの平和維持の上で日中いずれが米国のより良いパートナーとなるか。

設問 : アジアの安定と平和を維持する上で日本または中国のいずれの国が将来米国のより良いパートナーになると考えるか。

回答 : 日  本   62% (51%)

     中  国   16% (23%)

     分らない   22% (17%)

(1) 前回調査における本設問の回答には日中両国とも「同じ」とするものがあつたので,今回の調査結果を直接前回のものと比較することはできないが,今回の調査結果を見ると米国市民は前回調査時以上に,アジアの安定と平和を維持する上で中国より日本の方が米国にとり,より良いパートナーになるとの考えを強めて来ているものと判断できる。

(2) 回答者の内訳を見ると,日本の方が米国のより良いパートナーになるとの回答は特に大学卒,ホワイト・カラー,青年層および中西部地域の者の間で伸びている。

専門職,実業家の間でも日本と答えた者の方が多いが,中国と答えた者も比較的多く見られた。

6. 米国の将来の貿易相手国としての日中の比重

設問 : 1O年後のアジアにおいて,日本または中国のいずれの国が米国のより大きな貿易相手国になると考えるか。

回答 : 日  本    55% (52%)

     中  国    28% (30%)

     分らない    17% (13%)

本設問においても,前回調査にあつた日中両国とも「同じ」とする回答を省いたので,今回の調査結果を直接前回のものと比較することはできないが,今回の調査でも米国市民の半数以上が,10年後にも中国より日本の方が米国のより大きな貿易相手国にると答えており,この傾向は前回と同じないしはやや強まつて来ていると見られる。これは,昨年における米国の中国に対する政治的,経済的関係再開のための各種の努力にも拘らず,米国市民の中国に対する期待感が高まらなかつたということであろうと,ギャラップ社は見ている。

 

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