-日本政府が関与した重要共同コミュニケおよび政府声明-

 

 (5) 第6回日米文化教育会議の最終コミュニケ

 

(1972年6月24日 ニュー・ヨークにおいて)

 

I 第6回目米文化教育会議は,1972年6月21日から24日までワシントン,さらに引き続いてニュー・ヨークで開催された。両国の政府,学界,マス・メディア,財界および政界を代表する代表団が一堂に会して,過去2年余にわたる文化教育交流の現状を検討し,かつ,将来における交流拡大の方策を討議した。

その全体会議においては,日米両国間の相互理解には,より一層堅実にして広汎な基盤を繰り広げることが絶対に必要であることに論議が集中した。日米両国間のコミュニケーションの諸問題は,両国の根本的に異った歴史的,文化的伝統に由来するものである。これらの相異点は,それぞれの文化が固有の価値を持つものであるから,認識され,かつ尊重される必要がある。しかしながら,密接な日米関係の圧倒的な重要性は,文化およびコミュニケーションのギャップを埋めるために一層大きな努力を必要とする。広く各般にわたる交流の現状は有意義なものであるが,相互の思想および行動のパターンをより深く評価することのきわめて大きい要請に応えるのには十分とはいえない。結果として,本会議は,両国代表団から報告されたいくつかの新規事業に対して特別な熱意をもって歓迎の意を示した。

1 日本側は,諸外国との文化交流の資金を潤沢に使用する日本側の新規計画として国際交流基金の設立を発表した。日本側は,フルブライト・ヘイズ法の規定に基づく,及びその他の計画による米側のこの分野における長期にわたる事業成果に注目し,日本側の新設機関,国際交流基金によって,日本側も両国間の平等に協力の精神で交流の拡大をはかりうることを喜びとする旨を述べた。国際交流基金は1972年1O月1日発足予定であり,当初の資金は百億円(約3千2百万ドル)であるが,政府および民間の出資により1千億円(約3億2千万ドル)に拡大することが期待される。日本側はまた米国において研究する日本人学者のためのフェローシップとして5千3百万円(約17万5千ドル)の新規供与計画が日本学術振興会によって設定される旨を報告した。この計画も拡大が期待されている。さらに日本側は,文部大臣の最高諮問機関である中央教育審議会は,より効果的な国際交流を目標として日本における教育,科学および文化を一層発展せしめるための基本方針および具体的方策につき今後2年以内に勧告を提出することが諮問されたことを報告した。

米国側は,これらの長期的見通しに立つた新規諸事業に歓迎の意を表し,これらの事業が相互理解に大きな貢献をなすべきことを信ずる旨を述べた。

2 米国側は,日本との文化交流のための合衆国政府資金が過去2年間に増大して来ていることを報告した。米国側の政府代表はまた日米間の文化交流のためのガリオア資金の使用率を増大する新規事業を行なう意図を報告した。これは,日本側により熱烈に歓迎された。

II 本会議は,招へいされた日本および米国の各専門家と7分科会を開催し,これら専門家の勧告を承認した。

A 日英両語間の翻訳,通訳のレベル改善

通訳者および翻訳者が困難とし,かつ共通の誤解に導きやすい日英両語における特定の単語,慣用句および表現形式を見きわめ,かつ明らかにする努力を継続することが勧告された。このため,次のとおり合意された。

1 日英翻訳のための通訳者用ハンドブックとして日本側小委員会が準備したものと,米側が準備した語彙集は規模を拡大し,改訂し,合同委員会により公刊されるべきである。

2 特別の合同小委員会が本会議の共同議長により,この刊行物の編集,適切な例をさらに収集を加え,通訳者,翻訳者への配布手段を工夫するため任命されるべきである。

B 報道

両国報道関係代表者は,それぞれ自国の活字によるメディアにおいてはニュース報道が国内大衆に相手国で切実な関心ある問題を正しく知らせていないことについて意見が一致した。両国には自由にして高度に職能化した新聞があることを認識した上,取材範囲改善を希望して次の構想が提案された。

1 相手国の言語,文化,経済および生活様式についての専門家を外国特派貫として派遣する。

2 新たに任ぜられ,または近く任ぜられる外国特派員に対して受入国における適宜の機関により,文化および社会のオリエンテーション計画が立てられる。

3 その国を知悉するために編集者が相手国を訪問することが奨励される。

4 日本の文化,科学および経済のトピックスについて,米国の新聞によるより多くのニュースが報道される。日本においてこの取材を行なう上で援助するために専門の通訳のサーヴィスを確保する可能性を検討する。

5 日本の記者クラブが外国特派員の加入に一層開放されるよう奨励される。

C アメリカ研究

本会議は,日本におけるアメリカ文明研究の基盤の一層の強化および拡大をはかるため,次のとおりの勧告を行なった。

1 日本人学者がもつと多くアメリカ研究の訓練を受けることが奨励される。

2 日本の諸大学においてアメリカ文明の総合的,かつ,多角的な講座の導入に一層の配慮をする。

3 日米両国間の学者相互のアメリカ研究の合同教授および共同研究が奨励される。

4 日本におけるアメリカ専門家および米国における日本専門家は,相互の接触を拡大し,両国文化比較の地域研究の教授および調査研究を発展させる。

5 アメリカ文明に関する日本の大学図書館の強化拡充,図書館相互間の貸与の奨励および映画フイルムおよびヴィデオ・テープ,音声テープの教育における使用開発を行なう。

6 本会議は日本の諸大学においてアメリカ文明講座の一環として,あるいはそれとは別個に英語の教授に対し,絶えず関心を払うことを奨励する。

7 日米両国文化を含む諸外国の異った文化研究の拡大を目標として,両国における大学学部レベルのカリキュラムの改訂の必要性に本会議は注目した。

8 両国のアメリカ研究学会は,上記各項の勧告実施に当ること,およびその進捗状況を随時合同委員会に通報することが勧奨される。

D 放送メデイア

本会議は文化的な放送番組の交換拡大の重要性を確認し,次の諸事業を実施する責任と実施手続につき合意した。

1 米国放送界の首脳数名の1972年11月訪日および日本放送関係者の1973年4月答礼訪米

2 番組,人物および意見交換のための日米姉妹局関係の拡大

3 米国および日本において両国テレビ,フェスティヴァルの年1回交互開催

4 両国間の定期的交換として「マガジン・オヴ・ゼ・エア」形式の番組(選択したテーマのダイジェスト版をいくつかつないだ30分番組)についての今後の検討

5 日本における放送番組センターおよびニュー・ヨークのジャパン・ソサエティ内に連絡を保ち,両国間放送メディア交換の援助をするための事務局の設置

E 博物館交流

美術品の貸出の増加は,両国民のそれぞれの相手国の文化に対する尊敬の念の内容を豊かにすること大なるものがある。このため,本会議は専門家の次の諸勧告を承認した。

1 西洋および東洋美術品貸与期間中の保存のために可能な限りのあらゆる努力をすべきであり,保存の基準は技術的研究の交換を通じて明確にするなどその他の方法の開発が行なわれる。

2 研修および人物交流の拡大には,東洋美術品の適切な保護の広範囲な利用を確保しうる技術者の開発に焦点を合わせるべきである。

3 米国側は,相互間の問題の討議に関し,日本の文化庁に対応する役目を果す助言および調整に当る政府機関でない団体の設立推進をはかるべきである。

F 日本研究

日本側は,資本金百億円(約3千2百万ドル)の国際交流基金を1972年10月1日に設立する構想の詳細について報告したが,1973年においても出資があり,将来さらに増額される見込である。この報告は,米国側から熱烈な歓迎を受け,日米文化関係の改善に向って過去百年間に日本が執った最も意義深い措置であり,文化教育会議の将来に対するひとつの刺激となると考えられた。米国側はまた基金の運営を出来る限り融通性のあるものにし,基金の責任ある地位の人々に協力するために各界の米国人からの助言を求めるという計画に対し,謝意を表した。日本政府のこの措置により新設の基金が日本の民間の財源からと同様に合衆国からも利用できるようになる刺激となることが希望される。

日本研究における優先順位に関して,専門家養成とは別個に学部における日本に関する講座の拡大,日本語図書館,日本に関する図書の出版,語学教育の推進,社会科学分野における日本専門家の一層の養成に対する援助の必要に重点が置かれた。二国間のアド・ホック委員会が,専門家でない学部学生の講座用に合衆国の諸大学における図書館が保有する基本的な作品および書名のリストを作成すべきであるとの合意に達した。内容,概要,図書文献目録,日本に関する大学学部の現行講座の教授方法の効果をあげるための検討もされるべきである。在東京11大学連合日本語研究センターの事業の意義が,その継続の必要性とあわせて認められた。最後に,将来における日本研究は比較研究の主流と一体化したものというような広い意味の表現として考えられるべきである。

G 留学生カウンセリング

文化的認識と理解の改善には学生交流計画の一層効果的な拡大が著しく貢献するものであることを分科会は確信した。この目的に役立つため,次の特定の勧告が承認された。

1 日本に現存するカウンセリングの資料の最も正確かつ信頼の置ける源泉として認められているフルブライト委員会は次のとおり強化されるものとする。

a 日本側は日本の各大学について,規模,受講可能な講座,入学資格,学費および大学の沿革を盛り込んだ,現状に即し,かつ,正確な「大学要覧」を作成するための措置をできる限り早期に執る。

b 米国側も同様に米国における各大学の同種資料の作成の措置を執る。

2 フルブライト委員会およびその他の信用ある留学生カウンセリング機関が行なっているカウンセリング業務について,日本側は,適宜の支持後援者に周知させるため一層の努力をする。

3 両国において取得した大学履修証明が共通効力を有することについての理解を改善する計画を適宜の機関または大学において実施することに着手する。

4 日本において研究に従事するために選抜される米国の学生について,日本語の熟達の水準を決定するために標準テスト実施計画が創設される。

5 両国の学部学生のための,相互交換べースによる「低学年学生海外研修」の考え方を拡張し,選抜,カウンセリング,住宅および事後処理について特に考慮した積極的な計画が推進される。

6 上記諸勧告は,両国側が協力し,努力して可能な限りにおいて実施される。

III 結論として,本会議は次の点を留意した。

A 第6回日米文化教育会議は,会議の作業開始以来,10周年を迎え,日米両パネルの内部活動の報告その他の会議資料を編集,合体したものから,業績のレベルについての刊行物を広く部外に配布するために作成することに意見の一致を見た。

B 諸外国の異った文化の研究に関する小・中学校教育の改善問題に,本会議はかなりの関心を払った。小・中学校教育における授業課題が1974年に日本で開催される第7回日米文化教育会議の重要な主題に考慮されるべきことが勧告された。

C 最後に,本会議は,ワシントンにおいて国務省の,ニュー・ヨークにおいてジャパン・ソサエティの歓待と諸手配に対し謝意を表し,かつ,1973年にハワイにおいて合同委員会をまた開催すること。およびその時点までに,上記諸勧告に一関し進捗状況報告を提出するため関係責任者があらゆる努力をすべきことが合意された。

 

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