-国連における文化・社会・人権問題-

 

第5節 国連における文化・社会・人権問題

 

1.国連大学

 

ウ・タン前国連事務総長の提唱になる国連大学の設立構想は,70年の国連総会決議に基づき,国連とユネスコの諸会議において検討がかさねられてきたが,1972年12月11日,国連第27回総会において,わが国が中心となつて推進した国連大学の設立を決定する決議が圧倒的多数の賛成により採択された。

同決議によると,国連大学は,世界各国に分散して設置される研究教育機関とこれを統合管理する企画調整センターからなり,人類の生存,発展,福祉に関係し,早急にとり組む必要のある問題のための行動に結びついた研究を行ない,また若い研究者のための大学院程度の訓練を行なうことになっている。

今後,国連大学は,国連事務総長により20名の専門家からなる国連大学設立委員会が組織され,この委員会が大学設立のための憲章を作成することになっている。73年秋の第28回国連総会においては,こうして作成された憲章案を審議,採択するほか,国連事務総長の勧告に基づき企画調整センターをはじめとする国連大学の設置場所を決定することとなっている。

 

2. 国連における社会・人権問題

 

国連における人権問題の審議においては,個人の基本的人権を重視する西欧の伝統的人権思想に流れを汲む考え方と人種差別撤廃闘争や植民地解放運動と結びついたいわゆる集団の人権に重点をおくアジア・アフリカ諸国および社会主義諸国の考え方とが極立った対立をみせている。そして,1970年の第25回国連総会において国連人権高等弁務官設置問題が事実上棚上げされて以来,人権問題の審議の焦点は人種差別撤廃問題に移ったといえよう。国連は1973年12月10日に世界人権宣言採択25周年記念事業を行ない,これを機会に「人種差別撤廃闘争の10年」を開始する予定である。たとえば,記念事業の一環として,人権諸条約の批准促進,アパルトハイト罪の防止および処罰に関する条約の採択,特別会議の開催などが考慮されている。アパルトハイト罪の防止および処罰に関する条約については,ソ連,ギニア,ナイジェリア3カ国共同条約案およびパキスタン,ナイジェリア,タンザニア3カ国共同議定書案が人権委員会において検討されている。これら2つの案文は,いずれも,アパルトハイトは国連憲章の目的と原則を否定し,人道に対する罪を構成し,そして国際の平和と安全に対する重大な脅威であるとの認識に立つものであるが,条約案は,独立別個の条約を作成しようとするのに対し,議定書案はアパルトハイトは人種差別の極端な形態にすぎないとみる立場から「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約」(1969年1月発効)と結びつけてその既存の実施機構を利用しようとするものである。なお,「あらゆる形態の人種差別撤廃に関する国際条約」には1973年1月現在72カ国(わが国は未批准)が批准または加入している。

次に,ジャーナリストの保護に関する問題,とりわけこれに関する条約案を作成する問題は,1970年以来引き続き人権委,経社理,総会において検討されてきたが,1972年の第27回国連総会においては,第52回経社理送付条約案(第28回人権委において仏条約案と豪条約案との調整が行なわれ一本化されたもの),最終条項案および各種修正案について非公式作業グループで調整に努めた結果,各国の意見を大幅に取り入れた仏,豪等10カ国条約案をとりまとめることに成功した。しかし,この条約案の取り扱いをめぐつて仏,豪等の推進諸国と第28回国連総会への審議延期を主張するガーナ,コロンビア等のアジア,アフリカ,ラ米諸国および社会主義諸国とが鋭く対立した。結局,この条約案の審議は打切られ,来総会において優先的に審議されることとなった。この条約案は,武力紛争地域において取材活動に従事するジャーナリストに対し,記者証を発給し,またジャーナリストのための特殊標章(腕章)を制定するための手続を定めるとともに,記者証を所持し,特殊標章を着用するジャーナリストに対し若干の保護(危険地域からの退去警告,抑留された場合における1949年の文民条約に定める被抑留者の待遇に関する規則の準用,ならびに死亡,負傷,重病,行方不明,逮捕または抑留された場合における通告等)を規定し,全文21カ条から成る。

そのほか,第27回国連総会は,国連難民高等弁務官の任期を1974年1月1日から5カ年間再延長すること,1975年を国際婦人年に指定すること,「戦争犯罪および人道に対する罪を犯した者の捜索,逮捕,引渡しおよび処罰のための国際協力原則案」を来総会で検討することなどを決定した。

犯罪防止の分野においては,1970年の京都会議の勧告に応える具体的措置の一つとして第1回国連犯罪防止委員会が1972年5月初会合を開き,犯罪と社会変化,犯罪防止戦略,刑事司法の運営における人権,薬物乱用と犯罪等の問題を討議した。わが国からは長島敦アジア防犯研修所長が出席した。

 

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