-経済協力のための国際協調- |
開発途上国に対する経済協力としてわが国は,二国間べースの協力を推進する一方,世銀等の国際機関を通ずる協力に対しても積極的に貢献しており,また,DAC等の場を通じて,経済協力面における国際協調を図りつつ援助の効率化に努めている。
アジア地域を中心とする国際協調については第1節1.においてふれた。
世銀(IBRD)は,1945年,加盟国の戦後の復興と経済開発を目的として設立されたが,現在はもっぱら開発途上国に対する援助機関としての色彩を強めている。この世銀の活動は,その姉妹機関であり緩和された条件により経済および社会開発事業に融資する国際開発協会(IDA)および開発途上国に対する民間投資を促進する国際金融公社(IFC)の活動と相まって,開発途上国の経済開発に重要な役割を演じている。
72会計年度(72年6月まで)の世銀グループの開発融資は,30億ドルを超えたその内訳は,世銀が19億6,600万ドル(前年18億9,600万ドル),IDAが10億ドル余(同5億8,400万ドル),IFCが1億1,600万ドル(同1億100万ドル)である。この結果マクナマラ世銀総裁が68年総会で打ち出した融資倍増5カ年計画は順調に推移しており,目標は達成される見通しとなった。
一方,資金調達面でも72年中に30件の世銀債を発行し,17億4,400万ドル(前年13億6,800万ドル)を借り入れ新記録となった。また,世銀は70年11月自己資金拡充のため22億2,200万ドルの特別増資(授権資本は270億ドルとなった)を決議し,目下その応募がなされている。わが国はこれに対し最高額の2億5,040万ドルの応募を行ない,その結果71年より五大出資国となり任命理事を出すこととなった。
IDA第3次資金補充案(総額24億ドル)は,米国の応募を得てようやく72年9月に発効したが,この間,IDAに対する資金需要は旺盛で71年6月末をもってIDA資金はすべてコミット済みとなったため,補充案発効までのつなぎとしてIDAは世銀の純益から1億ドルの移転をうけ,かつ,第3次資金補充案の前払拠出を関係国に要請した。(わが国をはじめカナダ,デンマーク,英国等が前払拠出を行なった。)
わが国と世銀グループの関係は年々緊密化し,特に資金協力の面で著しい。70年に日銀より720億円(2億ドル)の貸付を行なつたのを皮切りに72年には世銀史上最大規模の1,OOO億円貸付を行ない貸付累積額は2,570億円となっており,73年2月にはさらに1,350億円の貸付契約を締結した。また,71年中に,230億円,72年中に550億円,73年(7月までに)300億円の世銀債(円建て)発行にも協力した。この結果,出資分の増加を合わせて世銀の資金のうち約1割はわが国からのものとなっている。他方,世銀東京事務所(70年11月開設)の活動を通じて世銀に対する日本人職員(71年12月現在65名)の採用面でも充実がはかられており,このような人的交流の密接化の中で71年11月にはマクナマラ総裁が来日し,各界代表と懇談した。同総裁は,さらに73年4月にも来日した。
アフリカ諸国は,1964年にアフリカ地域の経済的,社会的開発および国際貿易の増大を目的とするアフリカ開発銀行を設立したが,加盟資格をアフリカの独立国に限っていたことから(当初25カ国)資金量が乏しく(資本金2億5,400万ドル),また通常条件での貸付を行なうため,緩和された条件の融資を必要とするいわゆる後発開発途上国の多いアフリカ諸国の期待には必ずしも沿いうるものではなかったので,先進国に対しその活動を援助することを要請するに至った。
このため1966年以来0ECDの開発援助委員会(DAC)に参加する先進国とアフリカ開発銀行との間で検討が重ねられた結果,同銀行の活動を援助するとともに緩和された条件による融資を行なう機関として新たにアフリカ開発基金を設立することが合意され,1972年11月29日に象牙海岸共和国の首都アビジャンにおいてアフリカ開銀およびわが国を始めとする13カ国が本件基金設立協定に署名を行なった。
わが国は経済的に立遅れた国の多いアフリカの開発に役立つ本件基金設立構想を積極的に支持し,カナダと並び最高額の1,500万ドルを出資することとしている。本件基金への参加により,わが国はアフリカにおける国際金融機関に初めて参加することとなる。
本件基金協定の署名国は,73年6月末現在西ドイツ,カナダ,日本,英国等の15カ国であり,米国についても74年中には署名,批准を下して参加することが期待されている。同協定は,73年6月末発効し,創立総会が7月2,3の両日ザンビアの首都ルサカにおいて開催された。
同基金の当初資金規模は,約9,100万ドルとなっている。
DAC(Deve1opment Assistance Committee)は,開発途上国に対する開発援助問題を取り扱っているOECDの主要委員会の一つである。その目的は,(i)開発途上国に対する援助の量的拡大とその効率化をはかること,(ii)援助の量と質について定期に相互審査を行なうこと,および(iii)援助の公正な分担を決定するための諸原則について研究することにある。現在DAC加盟国は,オーストラリア,オーストリア,ベルギー,カナダ,デンマーク,フランス,ドイツ,イタリア,日本,オランダ,ノールウェー,ポルトガル,スウェーデン,スイス,英国,米国の16カ国およびEEC委員会である。
DACは,その活動を効率的に遂行するために本会議に加え,下部組織として援助需要作業部会および援助資金面作業部会のほか,統計問題グループ,投資保証グループ,公的融資機関アドホック・グループ等を有している。本会議は,これら作業部会,グループから付託される問題等を検討するほか,あらゆる関心事項について審議することが出来るが,特に重要な活動として,加盟各国の行なっている援助に関する国別年次審査がある。年次審査の目的は,加盟各国間の相互審査によって援助の増大と効率化を促し,かつ,援助の全般的実態を明らかにすることにある。なお,毎年の年次審査の結果をまとめたDAC議長報告書「開発協力―DAC加盟国の努力と政策」は,援助に関する国際的に最も権威のある資料とされている。1972年におけるDACの活動のうち,わが国との関係で特に注目すべきものは次の通りであつた。
(1) 対日年次審査
DAC加盟国の1971年における開発援助実績についての年次審査は1927年6月から12月にかけ実施され,わが国に対する審査は,オーストリアおよびオランダを審査国として7月7日に行なわれた。
同審査では,わが国の開発途上国向け「資金の流れ」総量に関しては21億4,OOO万ドルに達し,GNP比率ではO.96%と前年に比べ更に1%目標に接近したものの,右増大の大部分は民間資金の伸びによるものであったことが指摘された。真の「援助」とも云える政府開発援助(0DA)については,同支出額が5億1,100万ドルと,前年の4億5,800万ドルに比べその増加率が緩やかであり,GNP比率は前年並みの0.23%にとどまり,DAC平均水準のO.35%を大きく下回ったことに対して懸念が表明された。他方政府開発援助の約束額が前年に比べ約30%の大幅増加を示したことについては評価を受けた。さらに,わが国が第3回国連貿易開発会議において援助に関し積極的姿勢を示し,特に政府開発援助のGNP比率O.7%目標について,達成時期は付さないものの,その受諾を宣明したことに対し強い関心が寄せられ,今後のわが国の方針などにつき活発に質疑応答が行なわれた。
援助条件に関しては,1971年に借款条件は若干緩和されたものの,政府開発援助全体の条件は依然としてDAC条件勧告の諸目標を大幅に下回った点が指摘され,わが国が贈与比率を高め,借款条件改善のための具体的措置をとることを含め,条件勧告を達成するために最善の努力を払うよう強く要請された。他方,わが国が1971年に二国間借款の一方的アンタイイングを開始したことは高く評価され,今後の進展につき参加各国の強い期待が寄せられた。
(2) 第11回上級会議
第11回DAC上級会議は,DAC加盟国の閣僚または政府高官ならびに国際復興開発銀行および国際通貨基金の代表者出席のもとに,1972年10月16日から18日まで0ECD本部において開催された。
同会議は,(i)1971年におけるDAC加盟国の開発援助政策の分野での進展状況,および(ii)開発途上地域の中でも特に開発水準が低く,国連により「後発開発途上国」として識別された25カ国のための特別措置等につき検討を行なうとともに,(iii)1965年および1969年DAC条件勧告に代るものとして1973年1月1日以降に約束される政府開発援助に適用される新援助条件勧告を採択した(ただし,イタリアはその立場を留保)。
新条件勧告は,旧勧告が複雑な内容であったのに対し,条件目標の簡素化と基準引上げを行ない,次の4点をその内容の骨子としている。(i)基本条件目標―加盟国は,政府開発援助約束額全体の平均グラント・エレメント(借款等の条件の緩和度を計る尺度)を少なくとも84%にすべきである。(ii)政府開発援助の基準―グラント・エレメント25%未満のものは,今後政府開発援助として記録されない。(iii)条件の調和―加盟国は,各開発途上国の状況に応じた「適正条件」を考慮しつつ,他の加盟国と同様の援助条件を供与するよう努力する。特に1人当りの所得水準の低い「貧困開発途上国」については条件の調和に努力する。(iv)後発開発途上国のための特別目標―後発開発途上国向け援助は贈与が望ましく,援助の平均グラント・エレメントは後発開発途上各国につき3年間で少なくとも86%とするか,あるいはこれら諸国全体につき毎年少なくとも90%とすべきである。
OECD開発センターは,開発援助問題に関する先進国の知識,経験を集積して開発途上国に利用させるという形で開発に協力することを目的としており,同目的達成のため,(i)技術知識の普及を目的としたフィールド・セミナーの開催,(ii)経済開発問題,経済援助問題の調査,(iii)各国の経済開発研究機関との連絡および(iv)その他開発途上国への知識,情報の通報,普及に努めている。また,人口問題に関する活動も積極的に行なわれており,わが国は,人口問題活動計画に対し1973年度より同センターに対し拠出を行なうこととなった。
第22回コロンボプラン協議委員会会議は,10月30日から11月8日までニュー・デリーにおいて開催された。同会議は全会一致でバングラデシュおよびフィジーの加盟を認めた(これにより加盟国は26カ国となった)あと,特別議題の開発途上国からの頭脳流出の問題について,頭脳の流出国と流入国との間の協力の必要を認め,ハイレベルの委員会によりさらに深い研究の必要があることで合意し,また,シンガポールに域内訓練センターの設立が決定した。(同センターの参加および協力は各国の自発的意志による。)そのほか,麻薬に関する経済的,社会的問題,農業における国際協力および緑の革命の2次的問題,および人的資源の適切な活用による経済開発の問題等についても討議された。