-技術協力-

 

第3節 技 術 協 力

 

1. 現    況

 

1972年におけるわが国政府の技術協力支出額(DACべース)は109億7,389万円であった。これは,1971年の97億1,800万円に対して12.9%の増加である。

地域別にその内訳をみると,1971年に比べてアジアが11.8%,中南米が10.2%の増加を示したのに対し,中近東が3.8%,アフリカが16.4%の減少となった。この結果各地域のシェアは,アジアが63.5%(1971年は60.8%)と過去の平均の約70%を下回り,アフリカおよび中南米についてはそれぞれ11%(同じくアフリカ14.9%,中南米11.2%),中近東については5%(同4.0%)の水準であった。従来ともすればわが国の技術協力がアジアに集中しすぎているとの批判があるが,近年わが国の協力規模の拡大に伴い,アジア以外の地域に対する協力も漸次増加の傾向を示してきている。

次に,外務省所管の技術協力関係支出額は,DACの基準(技術協力事業の実施に直接関係して支出されるもの)によって集計すれば1972年は総額73億7,154万1千円であった。また,海外技術協力事業団については,同じくDACべースで前記の外務省予算のうち68億4,083万5千円,通産省予算から5億6,841万2千円,文部省予算から3,605万3千円が支出され,合計74億445万3千円であったが,これは,前述の政府べース技術協力支出総額の67.47%を占めるものである。

 

2. 1972(会計)年度の技術協力関係予算

 

1972(会計)年度の海外技術協力事業団の予算は,総額で126億9,059万4,OOO円であったが,その内訳は,外務省予算から113億3,738万1,000円(同省予算全額の17.19%),通産省予算から7億3,104万5,000円,文部省予算から3,684万1,000円,その他5億8,532万7,000円(賠償等技術協力勘定,東南アジア漁業開発センター協力勘定等)である。この結果実現のはこびとなった技術協力関係の主要な改善措置は次のとおりである。

 (1) 海外技術協力事業団関係

(イ) 研修員の受け入れ

滞在費,厚生費等が大幅に増額され,日本滞在中の死亡,傷害に備えての保険付保が可能となった。また,研修員を受け入れる諸々の機関に対してなるべく経済的損失をかけないようにするために,付帯費を72年10月から増額した。

(ロ) 専門家の派遣

農業,医療等の分野でプロジェクト方式により行年われる協力のために派遣される専門家の場合を含め,次の改善措置がとられた。すなわち,72年10月から在勤基本手当が15%増額されたほか,技術報酬の一型態として管理職手当が新設された。また,専門家の所属先に対する財政的補填制度が72年度から無職者にも適用されることとなった。現地業務費についても飛躍的な増額をみた。このほか,派遣中の専門家からの依頼に基づいて行なわれる技術調査の依頼謝金,ならびに,現地の政治的動乱等を避けて緊急引揚げなどを行なう場合の損害救済金が新設された。

(ハ) 開発調査

1972年度から長期調査団を派遣することが可能となったほか,コンサルタント報酬の技術料率がひきあげられた。この新しい技術料率は,農業プロジェクト協力の調査団でコンサルタントを使用するものにも適用される。

(ニ) 日本青年海外協力隊員の派遣

駐在員および調整員の増員,調整員の海外手当および国内本俸の増額をみたほか,隊員の募集に関して協力団体(特に地方公共団体)に支払われる謝金の新設,ならびに派遣前訓練および帰国隊員対策を強化するための措置がとられた。

(ホ) 技術協力実施体制の強化

海外事務所1カ所(メキシコ)の新設が認められた結果,海外事務所が置かれている国は計11カ国となった。また,研修員の受入施設としての国内センターの拡充を積極的にはかる方針の下に兵庫県の須磨にセンターを新設することとし,その買取および追加改装工事費等が認められた。

 (2) 海外技術協力事業団以外の関係

1971年度には国際開発センター,海外農業開発財団および日本国際医療団に対する補助を行なったが,1972年度からは上記3団体に加えてあらたにオイスカ産業開発協力団,東南アジア農業教育開発協会,家族計画国際協力財団および国際技術振興協会の4団体に対しても技術協力推進のための補助金を交付することになった。1971年度から開始された地方公共団体の研修員受入事業に対する助成についても,1972年度からは,従来の山梨,熊本,兵庫に加えてさらに7県(福岡,広島,高知,神奈川,長野,静岡および香川)が参加し,計10県が補助金の交付を受けて事業を実施した。

 

3. 1972(会計)年度の技術協力実績

 

(1) 上記予算措置の下に海外技術協力事業団を通じて行なった各種技術協力事業の概要は次のとおりである。

 (イ) 研修員の受け入れ

アジア地域1,061名,中近東・アフリカ地域279名,中南米地域270名,その他151名,合計1,761名の研修員を受け入れた。この結果,わが国がコロンボ・プランに加盟した1954年度以来の受け入れ研修員累計は17,774名となった。

 (ロ) 専門家の派遣

(ホ)以下に述べる開発調査およびいわゆるプロジェクト方式協力(海外技術訓練センター,医療協力,農業協力および開発技術協力の4種より成る)のために派遣した専門家を含め,アジア地域975名,中近東・アフリカ地域244名,中南米地域149名,その他13名,合計1,335名の専門家を派遣した。(うち,プロジェクト方式の協力についてはアジア220名,中近東・アフリカ61名,中南米5名,合計289名)また,このほかにエカフェ,東南アジア漁業開発センターなどの国際機関に対しても,計33名の専門家を派遣した。この結果,1954年度以来の派遣専門家数累計は7614名となった。

 (ハ) 日本青年海外協力隊員の派遣

1972年4月にトンガとの間に,さらに1973月3月にバングラデシュとの間に,それぞれ協力隊派遣に関する取極が締結された結果,取極国数は18カ国となった。

1972年度の新規派遣隊員数は,アジア地域105名,中近東・アフリカ地域118名,中南米地域8名,大洋州地域5名,合計236名で,協力隊事業が発足した1965年度以来の派遣隊員数累計は1,395名となった。

 (ニ) 機材供与

プロジェクト方式によらない,いわゆる単独機材については,韓国の嶺南大学畜産学部に対する韓牛飼育用機材,ペルーの漁業省に対する水産指導用機材,ウガンダのテレビ局に対するテレビ技術指導機材など,計30カ国に対し合計42件の機材供与を実施するため,総額約2億4,625万円を支出した。

 (ホ) 開発調査

投資前基礎調査(外務省予算)と海外開発計画調査(通産省予算)の双方をあわせて,新規43件(うちアジア27件,中近東・アフリカ7件,中南米9件),継続16件の開発調査を実施した。

このほか,実施設計調査を3件,資源開発協力基礎調査(通産省予算)5件を実施した。なお,本事業の予算により,1972年12月ペルーおよびグァテマラに約2週間プロジェクト・ファインディングのための調査団が派遣された。

 (ヘ) 海外技術訓練センター協力

予算8億1,244万円をもって前年度に引き続きメキシコ電気通信,ウガンダ職業訓練・イラン電気通信研究,タイ道路建設技術,台湾の職業訓練の5センターの運営に協力した。

本年度に協定上の協力期間が終了して相手国政府に引き継いだものとしては,ガーナ繊維技術,ケニア小規模工業,フィリピン家内小規模工業,シンガポール原型生産,インドネシア漁業技術がある。また前記台湾の職業訓練センターについては9月29日を以て台湾とわが国との外交関係が消滅したので協定上の協力関係も終了した。

本年度には新規プロジェクトとしてシリアに小型プロジェクトの養鶏センターの設置に必要な協力を開始した。そのほか,これまでに相手国政府に引渡したセンターに対し補充機材を特し個別専門家を派遣する等の形で協力を行なった。

 (ト) 医療協力

予算9億7,892万円をもってフィリピン(日本住血吸虫病対策および家族計画)ビルマ(ビルマ歯科大学)ネパール(結核および失明者対策)ナイジェリア(ナイジェリアおよびイフェ両大学の基礎医学)ブラジル(ポルト・アレグレのカソリック大学成人病対策)の5カ国に対して新規協力実施にさきだってそれぞれ調査団を派遣,フイリピン,タイ,ケニア,ブラジル等の9カ国に供与機材の修理および指導のための巡回チームを派遣するとともに,協力を実施中のプロジエクトの将来計画等の打合せのためのチームをタイ,韓国,ケニア等6カ国に派遣した。

従来から協力してきたヴィエトナムのサイゴンおよびチョウライ両病院,タイの国立がんセンター,フィリピンのコレラ,ポリオ対策等の31プロジェクトに加え前記調査団派遣の結果1972年度から協力を始めたフィリピンの日本住血吸虫病研究協力,ビルマの歯科大学,ナイジェリアのナイジェリアおよびイフェ両大学に対する協力等を含む6プロジェクトとあわせ37プロジエクトに対し専門家の派遣,機材供与および当該プロジェクトに係わる研修員の受け入れ等の形で協力を行なった。

 (チ) 農業協力

予算11億1,438万円をもって,従来から協力してきたインドネシアの西部ジャワ食糧増産,タジュム・パイロット事業,食用作物共同研究,フィリピンの稲作開発,ヴィエトナムのカントー大学農学部協力,ラオスのタゴン地区農業開発,マレイシアの稲作機械化訓練,タイの養蚕開発,セイロンのデワフワ地区村落開発,インドの農業普及センター(4カ所)ダンダカラニア地区農業開発,ネパールの農業開発ならびに1972年度から始めたインドネシアのランポン農業開発およびバングラデシュの農業開発の14プロジェクトに対し,専門家の派遣,機材供与などの協力を行なった。また韓国およびインドの農業研究協力に関する実施調査個,イランに対する農業協力の予備調査団,東アフリカの農業プロジェクト・ファインディング調査団をそれぞれ派遣し,1973年度以降に開始される予定の本格的協力のための準備を行なった。

 (リ) 開発技術協力

予算2億6,609万円をもって,前年度に引き続きインドネシアの東部ジャワとうもろこし開発,同じくカンボディアのとうもろこし開発およびタイにおける一次産品(大豆および油糧種子試験)開発ならびに1972年度から始めたインドネシアのランポン州におけるとうもろこしおよび豆類を主とする一次産品開発の5プロジェクトに対し,専門家の派遣および機材供与の協力を行なった。そのほかエティオピアの一次産品開発および,タイのエビ養殖に関しそれぞれ調査団を派遣した。

(2) 上記のほか,1972年度は海外技術協力事業団の創立10周年にあたる年度であったことにも鑑み,これまで国の内外においてわが国政府の技術協力に功労のあった個人(23名)および20団体を選考して,6月12日外務大臣より表彰した。この技術協力功労者表彰は,今後も毎年実施してゆく方針である。

 

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