-概    況-

 

第3章 わが国の経済協力の現況

 

第1節 概   況

 

「第1次国連開発の10年」と名付けられた1960年代において,開発途上国は目標成長率5%を上回る5.4%を達成したものの先進国に比べ開発途上国への人口増加率が依然として著しく高いこともあり南北間の実質的格差は一層拡大したといわれ,開発途上国の経済および社会開発の促進による南北問題の解決は,1970年代に入っても益々重大な国際問題となっている。そのため先進国と開発途上国の国際協力による本問題の解決が国連の場を中心に種々国際的に論議されてきた結果,「第2次国連開発の10年」の国際開発戦略,第3回UNCTAD決議等,先進国による経済協力の具体的措置の拡充を求める声が強くなっている。かかる状況に鑑み,今や自由世界第2位の経済力を備えるに至ったわが国としては,国際社会の1員としての責務を果すため,また,わが国自身の長期的繁栄と平和の確保のためにも,開発途上国の経済,社会開発に対する貢献を一層強めてゆかなければならない立場にある。

わが国の政府べースの対開発途上国経済協力は1954年のコロンボ・プランへの参加を契機に始まったが,その後,わが国経済力の目覚しい伸長に伴い,量的にも質的にも著しい拡充を示しており,援助量では1971年以来DAC加盟国中,米国に次いで第2位の援助国となっている。

1971年のわが国の援助総額(政府および民間資金のネット・フロー)は21億4,050万ドルで,前年の18億2,400万ドルに比べ11.4%の増加を示した。その結果・援助量が議論される際の重要な指標となるGNPに対する比率をみると,1971年には0.95%に達し,わが国が1970年5月(0ECDの閣僚理事会)に努力目標として国際的に宣明して援助のGNP比1%目標の達成に向って大きく前進した。さらに,1972年には前年比27.3%増の総額27億2,538ドルに達したが,GNP比はO.93%となり若干減少した。

以上のようにわが国の経済協力は総量としては自由世界第2位の経済力を有する国として国力相応のレベルに達したと言えるが,その内容をみると(1972年),純然たる民間べースのものが46.2%,政府資金による輸出信用,直接投資金融等が31.4%を占め,真の援助と言われる政府開発援助(ODA)は21.8%(6億1,109万ドル)にすぎない。政府開発援助は無償資金協力,技術協力,政府借款,国際機関への出資・拠出等を含み,政府または政府関係機関により開発途上国の経済および社会開発を目的として緩和された条件で供与されるものであり,開発資金の不足,外貨事情の悪化等に悩む開発途上国にとって,最も重要な援助である。

1972年のわが国政府開発援助(支出納額)のGNP比は0.21%であり,同年におけるDAC諸国平均0.34%をかなり下回っている。政府開発援助については,前記「国際開発戦略」が0DAをGNPのO.7%にするよう求めており,わが国は1971年9月の「総合的対外経済政策(8項目)」において,右GNP比を「当面可及的すみやかにDAC平均水準にまで引き上げるよう努力するとともに,引き続き財政力を勘案しつつ,国際的要請の水準まで高めるよう努める」との方針を決定した。さらに,1972年4~5月チリに於て開催された第3回UNCTADでは,このラインを一歩進め,はじめて0.7%目標を正面からとり上げ,達成時期については明示せず,また同目標の早期達成は容易なことではないとしつつも,その達成のために最善の努力をする意向である旨を表明した。この意図表明はわが国の経済協力に対する積極的姿勢を示したものとして高い評価をうけたが,前述のように1972年のわが国政府開発援助額は,71年実働に対し微増に止まり,対GNP比は逆に下落しており,従って今後の問題はこの政策方針を如何にまたどの程度早期に実行に移すかにある。同目標を達成するためには,現在よりも,はるかに大きな財政負担を覚悟せねばならず,そのためには政府として経済協力をわが国の基本的国策の一つとして確立し,国民のこれに対する理解と支持を得ることが不可欠である。

わが国援助の質的問題としては,政府開発援助の量のほかにその条件がある。DACにおいて政府援助の条件を計る指標として“グラント・エレメント" (G.E.)が使用されているが,わが国の1972年政府開発援助約束額における平約G.E.は61.0%で,DAC諸国平均の84.5%に比べ,かなり低い水準にある。政府開発援助条件の内容としては政府開発援助全体に占める贈与(技術協力を含む)の割合と借款条件があるが,わが国の場合,同じく1972年実績でみると,贈与比率は32.7%(DAC平均は63.1%),平均借款条件はG.E.41.7%(DAC平均は58.O%)または金利4.0%,償還期間21.2年,据置期間6.7年であり,わが国援助条件の厳しいことは明らかである。このため,政府は前述の「総合的対外経済政策(8項目)」および昨年10月の「対外経済政策の推進について(5項目)」において,政府借款の条件緩和等の措置を努力目標として掲げているほか第3回UNCTADにおいても,政府開発援助のうちの無償部分(無償資金協力,技術協力および国際機関に対する出資,拠出)の拡充ならびに政府借款条件の緩和に努め,政府開発援助の条件改善に格段の努力を払う意向を明らかにした。その後,昨年10月DAC新条件勧告(第4節にて詳述)が採択され,わが国としては極めて厳しい内容であつたが,条件緩和の重要性に鑑み,これに同意しており,今後とも援助受入国の債務負担を軽減し,援助の効率的な使用を促進するため,この目標の早期達成に努める必要がある。

さらに,援助の質の面での大きな問題として援助のアンタイイング(調達先制限の激発)がある。この問題については,1970年9月のDAC上級会議において,国際機関への拠出および二国間政府借款の一般的アンタイイングにつき原則的合意が成立し,それ以来,DACにおいて一般的アンタイイング実施のための国際スキームの策定作業が行なわれてきたが,未だ完全な合意を得るに至っていない。わが国は従来より援助の効率化および開発途上国の利益重視の観点から,一般的アンタイイングを積極的に支持するとの立場をとってきたところ,政府は第3回UNCTADにおいてこの問題をとり上げ,「1974年ないし75年の期限を付し先進諸国が合意達成に努力すべきである」とし,さらに一歩すすめてわが国としては,右の合意成立以前においても「二国間政府借款についてのアンタイイングの積極的拡大に努力することは勿論,さらに全面的アンタイイングの一方的実施についても,周囲の情勢をも勘案しつつ,検討する用意がある」旨述べ,きわめて前向きの姿勢を示した。政府はかかる方針の下に1972年11月には基金法および輸銀法の改正によりアンタイイングに対する制度的障害を取除き,さらに,12月の東南アジア開発閣僚会議において,2国間政府借款のアンタイイング拡大の一環として,開発途上国からの調達を認める(所謂LDCアンタイイング)旨発表し,各国から好評をもって迎えられた。

なお,わが国の経済協力行政は,現在,関係各省庁の協議により実施する建前がとられているが,重要問題については閣議が政府の最高意志決定議関となっており,政府間取極等の重要事項は全て閣議で決定されている。また,法制上の機構ではないが,経済協力の基本政策の策定を目的として設けられた「対外経済協力閣僚懇談会」は重要な国際会議等を前にして随時開催されており,最近では昨年4月に第3UNCTADを前にして開催され,同会議に対するわが国の対処方針を決定している。そのほか,総理大臣の諮問機関である「対外経済協力審議会」も昨年3月に新委員任命後活動を再開し,11月には国際協力のための言語教育に関する審議会意見を答申した。現行の経済協力行政には長所とともにまた多くの問題もあり,関係方面においてかねてより経済協力の効率的実施のための行政機構・実施機関の一元化ないし整備強化を求める声が強いが,今後ますます経済協力規模の拡大が,見込まれるわが国にとって本問題の解決が重要な課題となっている。

以下に1972年(歴年)におけるわが国の経済協力の内容を資金協力と技術協力に分け,国際的に使用されているDACの分類に従って略述するとともに,経済協力のための国際協力について述べる。なお1972年の援助実績数字は1ドル=308円の換算レート(1971年は1ドル=350.83円)を使用して算出した。ただし,第2節1の(3)の国際機関への出資・拠出額は実際に支出したドル建額によった。(参考までにわが国の過去5年間の援助実績に関する統計資料その他第3部に集録した)。

 

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