-国際海運- |
近年,発展途上諸国は,海運における自国権益の獲得をめざして,先進海運諸国と鋭い対立を続けている。発展途上諸国の主張は,従来の“海運自由の原則"を基礎とする国際海運秩序は,先進海運国の利益のための海運秩序であり,発展途上国が自らの利益を護るためには,政府が海運に介入し,新たな国際海運秩序を形成する必要があるとするもので,その主たる目的としては,自国海運の保護育成,慢性的な赤字を続けている国際収支の改善,自国産品輸出促進のための低廉な輸送手段の確保等をあげることができる。
上記の如き発展途上諸国の主張は,具体的には,UNCTAD等国際会議の場における種々の要求,とくにこれら要求を総合した定期船同盟憲章の条約化の要求として,また,自国国内法令等によるいわゆる自国船優先政策の採用・拡大としてとらえることができる。
(1) 定期船同盟憲章問題
国際海運におけるいわゆる定期船においては,各航路ごとにほぼ例外なく,運賃率等の協定を主内容とするいわゆる定期船同盟(海運同盟)が船社により形成されている。
定期船同盟は,国際カルテルの一形態であるが,一部例外を除き,各国とも,独占禁止法の適用除外とする等安定サービスを確保する等の観点から,定期船同盟の存在を認めるとの態度をとっている。
しかし,発展途上諸国は,近年,定期船同盟の独占性,閉鎖性を鋭く批判し,定期船同盟慣行の改善を強く要求するに至った。
こうした状況をふまえて,先進海運国側は,1971年東京で開催された海運閣僚会議(わが国を含むConsu1tative Shipping Group加盟13カ国の海運担当閣僚により構成)においてCENSA(Committee of European Nationa1 Shipowners' Associations日本およびヨーロッパの船主協会により構成)に対し,定期船同盟の行動規範としての定期船同盟慣行憲章を作成することを要請する旨決議し,これを受けて,CENSAは,1971年末いわゆるCENSA同盟憲章を作成した。CENSA同盟憲章は,従来の定期船同盟の閉鎖性からすれば一歩前進したものではあったが,従来どおり船社による自主規制を基本とするものであり,発展途上国側が要求する従来の海運秩序の改編を意図するものではなかった。
このため,発展途上国側は,CENSA同盟憲章に反発し,自らの参加によるUNCTADの場における定期船同盟憲章の作成を強く要求し,1972年1月のUNCTAD海運立法WGにおいて発展途上国側作成の定期船同盟憲1章草案(アジア・アフリカグループ案およびラテン・アメリカグループ案)を提出し,さらに同年4月の第3回UNCTAD総会には上記2案を統一した定期船同盟憲章草案を提出するに至った。この同盟憲章草案は貿易当事国による50:50(第3国船が存在する場合には40:40:20)の画一的貨物輸送シェアの設定,船主と荷主の協議機構への政府の参加,船主間および船主と荷主との間の紛争処理のための国際仲裁(強制仲裁)の導入(ただし,国内法が優先)等を主内容とし,しかもこれを条約形式により実現しようとするものであった。
このため,先進国側は,発展途上国同盟憲章草案は国際海運の現状と著しくかい離しており,効率的な輸送サービスを不可能ならしめるものである旨指摘するとともに,かかる事項を条約化することは,商慣行を硬直化させるおそれが強い旨主張したが,結局第3回UNCTAD総会および第27回国連総会の審議の結果,(i)1973年11月に定期船同盟憲章を条約として採択するための国連主催による全権会議を開催する,(ii)条約草案作成のための準備委員会をUNCTADの主催のもとに開催する,(iii)発展途上国定期船同盟憲章草案を条約草案検討の基礎とする旨の国連総会決議が強行採決された。
上記決議に基づく第1回定期船同盟憲章作成準備委員会は,1973年1月開催されたが,基本的対立点は何ら解決されないまま終了した。西側先進国は,上記準備委員会において,西側先進国としての対案を1973年6月開催予定の次回準備委員会を目途に可能な限り早期に提示することを約しており,このため,OECD海運委員会のUNCTAD特別グループにおいて西側先進国対案の作成作業を行なっている。
(2) 自国船優先政策
自国船優先政策(貨物留保政策,国旗差別政策)とは,国際海上輸送における貿易業者の船舶選択権を事実上制限する効果を持つ政府による措置の総称であり,自国関係貨物の全部または一部を自国船舶に留保することを目的とするものである。
これらの措置には,
(イ) 一国の政府の一方的措置によるもの(貨物の一定割合の法令等による留保,外国船利用に対する差別的税制の適用等)
(ロ) 二国間協定によるもの(二国間の通商航海条約または海運協定等において,両国間貿易貨物の海上輸送を同等の割合または一定のパーセントで両国船舶に優先的に輸送させる)
の2種類がある。一般的でかつ影響の大きい(イ)の措置を従来からとっている国としては,中南米では,アルゼンティン,ウルグアイ,グァテマラ,コロンビア,ブラジル,メキシコ等,アジアでは,タイ,韓国等の諸国があり,1972年以降新たに,エクアドル(一般貨物20%,石油50%等を自国籍船に留保),ニカラグァ(輸出入貨物の50%を自国籍船に留保),スリ・ランカ(政府貨物の自国籍船への留保等)等の諸国が自国船優先政策を採用し,ヴェネズエラ等の諸国が採用の動きを示している。
かかる自国船優先政策の蔓延化傾向は,わが国の海上貿易,海上輸送に多大の悪影響をもたらすものであり,わが国は,CSG,0ECD等の場を通じ,各国との情報交換,意見交換に努めるとともに,これら関係諸国と共同歩調をとりつつ,自国船優先政策採用国への抗議申し入れ等必要な措置を講じている。
わが国を含む他の先進海運諸国がいわゆる海運自由の原則をその基本政策としているのに対し,米国は,従来から自国海運業の保護等のため政府関係貨物等につきいわゆるシップ・アメリカン政策を推進するとと,もに,反独占の観点からの船社間の協定の認可等海運に対し強い政府規制を行なってきている。
さらに,近年,米国は,DISC(Domestic Intrnationl Sales Corporation)が米国船舶または航空機を使用して輸出を行なつた場合の税制上の優遇措置,対日借款綿花輸送ウェーバーの不許与等シップ・アメリカン政策を強化するとともに,邦船社間のスペース・チャーター協定の認可にあたりわが国港湾において米船社が差別待遇を受けているとしてその改善を要求する等海運に対する保護主義的傾向を強めつつある。
(1) シップ・アメリカン政策の強化
(イ) D I S C
1972年1月1日に発効した1971年歳入法により,輸出業者は,DISCを通じて輸出を行なう場合で,かつ,米国籍船舶または航空機により輸送した場合には,税制上の優遇措置を与えられることとされている。現在までのところ表立った影響はでていないものの,長期的観点からの影響が憂慮されている。
(ロ) 借款綿花輸送ウェーバー
米国は,国内法により,政府機関が行なう借款を受けて輸出される生産物は,原則として米船積みとすることとし,運用上,借款借入国が米国に対し差別政策をとっていない場合には,50%未満のウェーバーを与えるとの措置をとっている。
わが国は,米国輸出入銀行からの借款による輸入綿花について,借款当初から20年間にわたり50%の輸送ウェーバーをえてきていた。
しかし,第22次借款綿花(1972年8月から1973年7月)輸送ウェーバーの認可にあたり,米国政府(商務省海事局)は,米国から日本への葉たばこの輸送に米船が全く参加していない事実を米船に対する差別待遇として,かかる事態が改善されない限り借款綿花輸送ウェーバーを認可できないとの態度を示した。
わが国は,米船が葉たばこ輸送に参加していない事実は,商社等が商業的考慮に基づき邦船を選択した結果生じたものとあり,米船差別の事実はない旨説明したが,米側の理解を得るに致らず,結局第22次借款綿花については,邦船社は,個別ウェーバーの場合を除き大部分の綿花の輸送に参加できない事態となっている。
(2) スペース・チャーター協定認可問題
米国1916年海事法により,船舶運航事業者間の協定は,米国政府(連邦海事委員会)の認可を要することとされているが,近年,連邦海事委員会は,邦船社間のスペース・チャーター協定(船腹の相互部分傭船契約)の認可にあたり,米船社が日本港湾において差別待遇を受けているとしてその改善を認可の条件として要求するに至った。
とくに,1972年8月のニュー・ヨーク航路へのわが国コンテナ船の就航に際しては,第1船就航直前に,当該スペースチャーター協定とは無関係な神戸におけるコンテナバースの使用に伴う問題の解決を要求されたため,第1船就航時期の遅れが危ぶまれたが,日本側における問題解決の努力,米側に対する説得が効を奏し,最悪事態を回避することができた。
(3) 日米海運会談
日米間の海運諸問題を討議するための日米海運会談が,米国連邦海事委員会の提唱により,1973年1月サン・フランシスコで開催され,太平洋航路における船腹過剰問題,太平洋往復航路間運賃格差問題,スペース・チャーター協定の期限延長問題等につき意見交換が行なわれた。