-公海の漁業に関する諸問題-

 

第6節 公海の漁業に関する諸問題

 

わが国漁業をめぐる最近の国際環境は極めて厳しいものとなっている。それは一つには沿岸国の一方的かつ広大な管轄権の拡張に伴うものであり,一つには環境保全運動の一貫として展開されつつある鯨等海産哺乳動物捕獲禁止運動である。

領海幅員等の問題については,明年に予定されている第三次海洋法会議において決定されることとなっているが,同会議において,例えば距岸200カイリ等の沿岸国の広大な管轄権が認められる場合,あるいは,海洋法会議が失敗に帰する場合には,沿岸国の一方的管轄権の拡張により,わが国遠洋漁業は大きな打撃をうけることが予想される。

また,海産哺乳動物捕獲禁止運動は,ストックホルムにおける国連人間環境会議以降ますますその勢いを増しており,依然として鯨を重要な動物蛋白供給源としているわが国としては余断を許さない状況である。

 

I. 多数国間漁業問題

 1 国際捕鯨委員会 (IWC)

(1) 国際捕鯨委員会第23回会合

1948年発効した「国際捕鯨取締条約」(加盟国は現在,日本,オーストラリア,カナダ,デンマーク,フランス,ソ連,・英国,南ア,アイスランド,メキシコ,パナマ,ノールウェー,アルゼンティン,米国の14カ国)に基づき設置された国際捕鯨委員会の第24回会合は1972年6月ロンドンで開催された。

それに先立ちストックホルムで開催された国連人間環境会議において「捕鯨10年モラトリアム勧告」が圧倒的多数により採択されたため,委員会会合の成行が注目されたが,同会合においては,モラトリアム提案は科学的根拠なしとして否決され,(i)1972~73漁期の南水洋母船式捕鯨によるながす鯨,いわし鯨およびミンク鯨の捕獲頭数をそれぞれ1950頭,5000頭および5000頭とすること(従来使用されていた白ながす鯨換算方式は廃止され今回から南氷洋においても鯨種別捕獲規制が実施されることになった。),(ii)1973年漁期の北太平洋におけるながす鯨,いわし、鯨,およびまつこう鯨の捕獲頭数をそれぞれ,650頭,3000頭,10,OOO頭(雄6,OOO頭,雌4,000頭)とすること,(iii)南半球におけるまつこう鯨の捕獲頭数を雄8,000頭,雌5,000頭とすること等の規制措置のほかに新たに「委員会強化小委員会」を設置し同委員会の強化に努めること等が合意された。

(2) 国別割当会議

委員会が決定した捕獲頭数を出漁国間に割当るための政府間会議は委員会会合に引き続きロンドンで開催されそれぞれ南氷洋捕鯨規制取極,北太平洋捕鯨規制協定を作成した。

両協定により決定された割当は以下のとおり。

(イ) 南氷洋

(a) ながす鯨

日本1,142頭, ソ連768頭,ノールウエー40頭

(b) いわし鯨

日本2,919頭, ソ連1,961頭,ノールウェー120頭

(ロ) 北太平洋

(a) ながす鯨

日本291頭, ソ連359頭

(b) いわし鯨

日本2,017頭, ソ連983頭

(c) まっこう鯨

日本(雄)2,565頭(雌)1,710頭

ソ連(雄)3,435頭(雌)2,290頭

南鯨取極および北鯨協定は1972年8月1日それぞれ東京およびモスクワにおいて署名され,同日発効した。

なお南半球のまつこう鯨の国別割当は以下のとおりとすることが非公式に了解され,後日書簡交換により同了解が確認された。

 日本    (雄) 1,200頭   (雌) 690頭

 ソ連    (雄) 5,OOO頭   (雌)2,900頭

 南ア    (雄)  900頭   (雌) 905頭

 豪     (雄)  900頭   (雌) 505頭

 2 北太平洋おっとせい委員会

日,米,加およびソ連の間で1957年採択されその後修正延長された「北太平洋のおっとせいの保存に関する暫定条約」は,当事国による北太平洋のおっとせいの海上猟獲を禁止し,(その代償として,おっとせいの繁殖島を持つ米国およびソ連は陸上で猟獲したおっとせい獣皮の15%を繁殖島を持たぬ日本およびカナダにそれぞれ配分することとなっている。)同条約に基づき設置された北太平洋おっとせい委員会に,おっとせいの陸上猟獲との関連において海上猟獲が一定の状況下で許容されるか否かを研究し勧告するとの任務を課しているが,同委員会の第16回年次会議は,1973年3月東京において開催された。

なお同委員会は明年オタワにおいて開催される第17回会議で上記勧告を行なうことが予定されている。

 3 北西大西洋漁業国際委員会(ICNAF)

1950年発効した「北西大西洋の漁業に関する国際条約」(加盟国は,現在,米国,英国,アイスランド,カナダ,デンマーク,スペイン,ノールウェー,ポルトガル,イタリア,フランス,ドイツ,ソ連,ポーランド,ルーマニアおよび日本の15カ国,日本は1970年7月1日加入)に基づき設置された北西大西洋漁業国際委員会は,北西大西洋の漁業資源の保存およびその合理的利用の見地より,この漁業に関する調査研究を行ない,その結果に基づき総漁獲量の決定等の規制措置を締約国に提案する任務を有してしいる。

同委員会の第22回年次通常会議は,1972年5月ワシントンで開催され,漁網の網目規制,禁漁区・禁漁期規制,およびタラ,ハドック,ヘイク等の総漁獲量規制等の規制措置に加え,長年の懸案であった漁獲量の国別割当規制が採択された。なお1973年1月にはローマで委員会特別会議が開催され,ニシンの総漁獲量規制およびその国別割当規制が採択されたが,同会議において,米国より漁獲努力量規制が提案され,今後引き続き検討を続けることとなった。

 4 北太平洋漁業国際委員会(INPFC)

北太平洋漁業国際委員会第19回年次会議は,1972年10月30日から11月3日まで,カナダのヴァンクーヴァーにおいて開催された(これに先立ち10月16日から同じ場所で同委員会の生物学調査小委員会,自発的抑止特別小委員会等が開催された)。

この会議における主たる討議事項はつぎのとおりであった。

(1) 1953年に発効した「北太平洋の公海漁業に関する国際条約(日米加漁業条約)」に基づいて日本が漁獲を抑止している西径175度以東の水域におけるさけ,ます,ベーリング海を除く水域における北米系のおひょうおよびカナダ沿岸の一部水域におけるカナダ系のにしんについて,これらの魚種がその漁獲の自発的抑止のため必要とされている条件を引き続き備えているかどうかの検討。

(2) 1973年における東部ベーリング海のおひょうの共同保存措置の決定および締約国政府に対するその実施のための勧告。

(3) アラスカ湾で日本が行なっている底曳漁業が同水域のおひょう資源に及ぼす影響。

(4) 西径175度付近における北米系とアジア系さけ,ますの混交状態。

(5) 東部べーリング海のたらばがにおよびずわいがにの資源状態。

(6) 北東太平洋のおひょう以外の底魚の資源状態。

(7) 委員会の財政運営事項。

 5 南東大西洋漁業国際委員会 (ICSEAF)

「南東大西洋の生物資源の保存に関する条約」は1969年ローマで開催された全権代表会議で採択され,その後日本,南ア,スペイン,ソ連の受諾,批准により1971年発効したが,同条約に基づき設置された南東大西洋漁業国際委員会の第1回会合が1972年4月ローマにおいて開催され,南東大西洋の漁業資源の評価およびその管理のための意見交換を行なうとともに,事務局長の任命,事務局所在地の決定(マドリッド)等を行なった。

 6 大西洋まぐろ類保存国際委員会 (ICCAT)

1969年発効した「大西洋のまぐろ類の保存に関する国際条約」に基づき設置された大西洋まぐろ類保存国際委員会は,現在,日本,米国,カナダ,フランス,スペイン,南ア,ガーナ,ブラジル,ポルトガル,モロッコ,韓国およびセネガルの12カ国により運営されているが,その理事会第2回会議が1972年12月マドリッドにおいて開催され,大西洋のまぐろ類資源の評価およびその管理措置の検討が行なわれ,きはだの体重規制が合意された。わが方が提案したきはだの総漁獲量規制提案は合意に至らなかった。

 7 全米熱帯まぐろ類委員会 (IATTC)

1950年発効した「全米熱帯まぐろ類委員会の設置に関するアメリカ合衆国とコスタ・リカ共和国との間の条約」(加盟国は,現在,米国,コスタ・リカ,カナダ,パナマ,メキシコおよび日本,日本は1970年7月1日加入)に基づき設置された全米熱帯まぐろ類委員会は,東太平洋のまぐろ類資源の保存のために,同資源に関する調査研究を行ない,その結果に基づき必要な規制措置を締約国に勧告する等の任務を負っている。

現在同委員会では,いわゆるオリンピック方式を主体とするきはだの総漁獲量規制を実施しているが,近年メキシコ等は,沿岸国の優先的権利の主張に基づく特別配分枠を主張し,委員会規制措置の採択がしばしば難行しており,1972年には2度にわたり作業部会を,また2度にわたり委員会会議を開催し漸く規制措置の採択に至った。

 

II. 二国間漁業間題

 

 1 日韓漁業共同委員会

日韓漁業共同委員会第7回定例年次会議は,1972年7月10日から13日までソウルにおいて開催された。同委員会は両国が行なった漁業資源の共同調査の結果を審議するとともに,両国漁船間の事故防止と迅速な処理のため政府による指導を両国に勧告することを決定し,ならびに共同規制水域内における沿岸漁船規制の問題を協議するため政府間の会合をもつよう両国に勧告することにした。なお両国は同年11月初め東京において政府間会合を開き,沿岸漁業問題について協議を行なった。

 2 中国との漁業交渉

1972年9月29日署名された日中共同声明において,日中両国は貿易,海運,航空等とともに漁業についても政府間協定の締結を目的として,交渉を行なうことに合意した。

なお,日中間には,現在1970年6月に調印された日中民間漁業協定があり,同協定は1973年6月22日まで有効である。

 3 日本・インドネシア暫定民間漁業取極

現行の日・イ暫定民間漁業取極は,1968年7月,わが国民間漁業者団体と,インドネシア政府農業省との間で締結され,翌69年の交渉でさらに1年間延長された後,70年の交渉では,実質3年間延長されて現在にいたつている。有効期限は73年7月までである。

 4 米国との漁業交渉

米国との漁業交渉は,1972年11月7日から同27日まで,ワシントンに日米両国政府代表者が会合し開催された。この交渉は,現行の「米国との漁業取極」(1967年締結,1968年および1970年に修正延長)ならびに「米国とのたらばがに漁業およびずわいがに漁業取極」(1964年締結,1966年,1968年および1970年に修正延長)がいずれも1972年末までの暫定取極であったので,1973年以降の取極について協議するため行なわれたものである。その結果,これら2取極に必要な修正を加えた上で,引き続き1973年より2年間その規定を適用することに合意をみ,同年12月20日ワシントンにおいて牛場大使とロジャーズ国務長官との間で,合意確認の公文交換が行なわれた。

これまでの取極に比べ,新しい取極における主な修正点は,上記の「漁業取極」では,(i)プリビロフ諸島周辺での日本漁船の漁業が禁止されたこと,(ii)米国距岸12カイリ間の水域で日本漁船が転載作業を行ないうる区域に2~3カ所の調整があり,結局,従来の区域に1カ所追加されて合計9カ所となったこと。また,「たらばがに漁業およびずわいがに漁業取極」では,東部べーリング海の全水域における日本の年間たらばがに漁獲量を70万尾,ずわいがにの漁獲量を1,400万尾としたことである。

 5 日墨漁業協定第4回定期会合 (最終回)

1968年6月に発効した「日墨漁業協定」は1972年12月31日をもって有効期限を満了した。両国政府はこれに先立ち同協定に基づく最後の定期会合を1972年12月11日メキシコ市において開催した。右会合において在メキシコ日本国大使館林公使を団長とするわが方代表団とメルカード外務省公使参事官を団長とするメキシコ側代表団との間で上記協定に定める操業水域における日本漁船の操業に関する諸問題について過去1年および協定有効期間中の実績等を回顧しながら意見の交換を行なった。両国代表団は協定実施に当っての両国の協力と相互理解を高く評価した。

わが方代表団は,本協定の効力が終了するに当り,これまで培われて来た漁業分野での貴重な協力関係を今後とも持続させるために,何らかの話し合いの場を持つこととしたい旨の希望を表明した。

 6 ソ連との漁業交渉

(1) 日ソかに交渉

第4回日ソ政府間かに交渉は,1972年3月1日から4月18日までモスクワにおいて行なわれ,かに資源に対する日ソ双方の法的立場を棚上げした上で,1972年におけるかにの漁獲量を合意し,4月28日新関大使とイシコフ漁業大臣との間に.書簡が交換され,合意議事録が署名された。

この取極により,1972年の北西太平洋におけるわが国のかにの漁獲量は,全体として従来の実績を若干下回ることとなった。

(2) 日ソ漁業委員会第16回会議

北西太平洋日ソ漁業委員会第16回会議は1972年3月1日からモスクワにおいて開催され,4月21日,日ソ双方の委員が合意議事録に署名して終了した。

その結果,わが国の1972年のサケ・マス年間漁獲量はA区域43,500トン,B区域43,500トン(但しB区域については10%以内の増減があり得る)と決定された。

(3) 日ソつぶ交渉

第1回日ソ政府間つぶ交渉は1972年2月7日から6月10日までモスクワおよび東京で行なわれた。

つぶ資源に対する日ソ双方の法的立場を棚上げした上で,1972年におけるつぶの漁獲の量を合意し,7月14日新関大使とイシコフ漁業大臣との間に書簡の交換が行なわれた。

この取極により,1972年の北西太平洋におけるわが国のつぶの漁獲量は,樺太東方水域およびオホーツク海北部水域においてそれぞれ2,500トンとなった。

 7 日豪漁業協定関係

日豪漁業協定に基づき,1972年2月東京においてパプア・ニューギニアの漁業に関する協議がおこなわれ,同年8月「パプア・ニューギニアに関する合意議事録」が署名された。これにもとづき,パプア・ニューギニア水域のかつお資源調査のため,わが国より専門家が派遣された。また,わが国のかつお漁船は新たに73年末までラバウル,マダンおよびカビエンの各港に入港できることとなった。

 8 日本・モーリタニア民間漁業契約

日本トロール底魚協会は,1970年4月モーリタニア政府と一年間有効の漁業契約を結び(但し毎年更新),同国の主張する領海(12マイル)内での操業を許可されている。しかしモ政府は1972年7月,領海幅を30マイルに拡大したため,これまで12マイル水域外で漁獲を行なっていた本邦漁船は以後操業できないことになり,トロール協会としては現行契約とは別に12~30マイル水域での操業許可を対象とする,新契約を締結する必要が生じ,12月に交渉が行なわれたが,双方とも合意に達しなかった。

 

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