-中南米地域-

 

第4節 中 南 米 地 域

 

1. 現    状

 

わが国と中南米諸国との関係は従来から良好に推移してきたが,わが国の経済発展にともない,経済面においても中南米諸国のわが国に対する関心と期待とが最近とみに高まってきている。1972年3月のメキシコ大統領の訪日に続き,1972年度にも中南米諸国からパラグァイのストロエスネル大統領,ブラジルのデルフイン・ネット大蔵大臣,コロンビアのロドリゴ・ジョレンテ大蔵大臣のほか数多くの閣僚および経済使節団が訪日し,わが国政府財界要人と会談し経済技術協力問題のみならず広く政治経済全般にわたって意見を交換した。

一方,わが国にとっても中南米諸国は,わが国との政治的関係が極めて良好な上に,約80万人(1971年現在)に及ぶ邦人および日系人社会が存在することや,工業原材料,食料などの安定した供給源として,鉄鋼や機械類の輸出先として,また対外投資先として近年ますます経済的相互補完関係を強めてきている事情を背景に,1972年度にも数多くのミッションがわが国より同地域を訪問した。

また,このような人の往来に加え,わが国と中南米諸国との間には政府レヴェルの各種の協議を定期的に行なう場が設けられており(例,ブラジル,メキシコ,アンデス統合等),わが国と中南米諸国との関係緊密化は,経済技術協力を中心に今後も一層進展すると見込まれている。

 

2. 通商および経済協力

 

 (1) 対中南米経済関係

チリ,ペルーの鉄,銅,鉛,亜鉛などの鉱石,ブラジルの鉄鉱石,鉄鋼くず,メキシコの綿花,および中南米に広く栽培されているコーヒーなどが中南米からの主要な輸入品目であるが,これらの主なものは工業原材料とわが国の経済発展に必要欠くべからざるものであり,中南米の資源して供給源としての重要性は極めて大きいといえる。

一方わが国から中南米への輸出は鉄鋼と機械類が主要な品目であり,繊維製品その他の軽工業製品については,中南米地域内の先発発展途上国が国内産業の保護育成の立場から消費財の輸入を抑制し同諸国において輸入代替が進んだことにより近年その重要性を減じてきた。

以上にみるようにわが国と中南米諸国との経済関係は,主としてわが国の資本財輸出と投資,中南米よりの一次産品の輸入によって相互に補完関係を呈しており,この関係は今後とも一層の発展が期待される。

 (2) 対中南米経済・技術協力

わが国は中南米諸国に対して日本輸出入銀行ないし海外経済協力基金の資金利用による延払輸出,円借款の供与,輸出信用枠(クレジット・ライン)の供与,国際金融機関との協調融資,全米開発銀行および中米経済統合銀行への融資,ラ米諸国および国際金融機関のわが国における起債,債務の救済,民間投資等によって資金協力を行なっている。また技術協力は専門家の派遣,研修員の受け入れ,訓練センターの設置等によって行なつている。1972年度の主要な実績は以下の通りである。

(イ) 中南米地域に対する円借款の供与については,わが国は1972年10月パラグァイ政府との間で同国のマイクロウェーブ通信施設設置および衛星通信地上局建設両計画のため計39億円までの供款を供与するための書簡を交換した。さらに,同年12月チリ政府との間で同国の経済安定を促進するための商品援助として27億円までの借款を供与するための書簡を交換した。

(ロ) 1972年10月ブラジル鉄鋼産業拡張計画に対して総額550億円にのぼる融資取りきめ(ウジミナス製鉄所200億円,パウリスタ製鉄所200億円,国立製鉄所150億円)がわが国輸銀および市中銀行と前記製鉄3社との間で締結された。ブラジル輸出回廊計画については,1972年8月本計画の第一次段階に含まれる機器の延払い輸出総額3,600万ドルが承認され,本計画のローカル・コスト分2,000万ドルの融資取りきめがわが国市中銀行10行とブラジル側との間で締結され,また同年12月わが国主要銀行24行は本計画の一般資金として2億ドルを融資する契約をブラジル側と締結した。そのほかメキシコのラス・トルーチャス製鉄所建設計画,第4次電力開発計画にバイヤーズクレジットが供与されることになつている。

(ハ) 全米開発銀行(IDB)は,地域開発銀行としては最大の資金規模(アジア開発銀行の約2倍)であり世銀に次ぐ有力な開発金融機関であるが,1972年度にはわが国市中銀行が総額30億円にのぼるIDB参加証書を購入し,IDBに対し融資を行なった。

(ニ) 対中南米民間直接投資については,対ブラジル投資が1971年度に引き続き1972年度にも大幅に伸びたのが目立った。

(ホ) 技術協力に関しては,1972年度に中南米に派遣した専門家は34名うち短期11名,長期23名,受け入れた研修負は269名うち集団161名,個別108名であり,調査団派遣は7件(プロジェクトファインデイング調査団(ペルー,グァテマラ),メキシコ太平洋岸港湾建設調査団,エル・サルヴァドル空港建設計画調査団,ブラジル輸出回廊調査団,コスタ・リカ太平洋岸港湾調査団,ブラジル経済開発調査団,アンデス・グループ多国籍海運基礎調査団)であった。

 (3) 対チリ債務救済

チリ政府は1971年11月,同国の外貨危機を緩和するため主要債権国(米国,西欧および日本の12カ国)に対して債務救済を要請した。同要請に基づき1972年2月から4月までパリにおいて債権国会議が4回にわたり開催された結果,1971年11月1日から1972年12月31日までに弁済期のくる商業債権および政府借款の元利合計の70%を,1975年1月1日を第1回支払日とする13回均等半年賦で支払延期することが合意された。同合意に基づきわが国はチリとの間で交渉を行なった結果,約286万ドルの商業債権の支払延期を延滞金利6%で認めることとし,この趣旨を取決めた交換公文に1972年11月28日調印した。

チリ政府は,1973年1月再び主要債権国に対して1973年および1974年に弁済期のくる債務の救済を要請し,これを審議するための債権国会議が1973年1月パリで開催されたが結論がえられず,7月再びパリで会議が開催されることとなっている。

 (4) ニカラグァ震災救援

12月23日ニカラグアの首都マナグア市に大地震が発生し,政府は直ちに60万ドルの緊急援助を決定した。

緊急援助のうち30万ドルは日赤を通じての医薬品,毛布,発電機の救援物資等にあてられ,残りの30万ドルについてはKR食糧援助規約に基づき,米国より小麦粉を購入の上ニカラグアに贈ることとした。

医薬品等はすべて空輸され第1便は12月29日東京発で,残りも1月末までにすべて現地に到着した。小麦粉は2月10日ニカラグアのコリント港に到着した。

 (5) 日墨研修生・学生等交流計画

エチエベリア・メキシコ大統領の発意に基づき1971年から開始された交流計画は,2年目をむかえ,前年度同様100名の研修生,学生などを10カ月間にわたって相互に受け入れ,研修せしめることとした。

本年度,日本側は,100名にのぼるメキシコ人研修生を受け入れた。そのうち50名は海外技術協力事業団を通じて政府関係機関で,他の50名は民間企業で受け入れられた。

メキシコも100名にのぼる日本人研修生を受け入れた。これらの研修生は,メキシコ人研修生の受け入れに関連している企業,政府関係機関等の推せんを受けたものか,大学より推せんを受けた学生等である。日本人研修生は前年度同様メキシコ国家科学技術審議会によって受け入れられ,同国の大学,その他の機関でスペイン語,その他の科目を研修している。

 

3. 定期協議関係

 

 (1) 日本・ニカラグァ経済関係促進作業部会

4月にロレンソ・ゲレロ外務大臣が公式に日本を訪問し,福田外務大臣と会談した際,両国官民をもって構成する経済関係促進作業部会を設ける構想について原則的に合意がなされた。

そこで,初の作業部会が日本側伊達アメリカ局参事官を団長とし官民合計13名,ニカラグア側バライス勧業院総裁を団長とし,合計14名がそれぞれ出席し,7月4日,5日の2日間にわたりマナグアにおいて開催され両国間の経済関係の緊密化について有意義な討議が行なわれた。

 (2) 日墨漁業脇定第4回定期会合(最終回)

1968年6月に発効した「日墨漁業協定」は1972年12月31日をもって有効期限を満了した。両国政府はこれに先立ち同協定に基づく最後の定期会合を1972年12月11日メキシコ市において開催した(日本側代表は在メキシコ日本国大使館林公使,メキシコ側代表はメルカード外務省公使参事官)。

この最終会合においては上記協定に定める操業水域における日本漁船の操業について過去1年および協定有効期間中の実績等を回顧しながら意見の交換を行なった。

また,両国代表団は協定実施に当って示された両国の協力と相互理解の増進とを高く評価した。

わが方代表団は,本協定の効力が終了するに当り,これまで培かわれてきた漁業分野での貴重な協力関係を今後とも持続させるために,何らかの話し合いの場を持ちたいとの希望を表明した。

 

4. ストロエスネル・パラグァイ大統領の訪日

 

ストロエスネル・パラグァイ大統領は1972年4月14日から20日までの間,国賓としてわが国を訪問した。一行は,大統領のほか,サペナ外務大臣,アコスタ中央銀行総裁をはじめ各省庁幹部,産業・商業界等140名にのぼる大型訪日団であり,パラグァイのわが国に対する関心の高さを示した。

大統領は,滞日中,天皇・皇后両陛下と会見したほか,宮中晩餐会,総理大臣主催レセプションに出席した。また大統領は総理大臣と会談し,サペナ外務大臣をはじめとする主要随員は,わが方関係大臣等の要人と個別会談を行なった。これら諸会談の結果,4月18日総理大臣・大統領の間で共同コミュニケが発表されたが,同コミュニケにおいては,国連における両国間の協力関係の強化,両国間の文化・科学・技術・移住面の交流の促進,衛星通信地上局およびマイクロ・ウェーブ通信施設設置両計画に対するわが国からの経済協力の促進等について意見の一致がみられた旨が述べられている。

今回のパラグァイ大統領のはじめての訪日は日本・パラグァイ両国間の政治・経済・文化等の関係増大に大いに資するところがあったと思われる。

 

5. 日本・エル・サルヴァドル査証相互免除取極締結

 

1972年12月在京エル・サルヴァドル大使より,査証免除取極締結の申入れがあった。わが方としても両国間の経済・文化関係の緊密化に伴って人的交流も活発化していることに鑑み,本取極を締結することは有意義であると判断し,在京エル・サルヴァドル大使館との間で交渉の結果合意をみ,2月13日東京において本件口上書の交換が行なわれた。

なお本取極は本年2月25日に発効した。

 

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