-国際的相互理解の増進と文化交流- |
明治以降百年の歴史を振返り,とくに戦後20余年の努力の跡をかえりみるとき,諸外国との関係に多大の努力を払い,また時には多大の犠牲を払つてきたわが国が,各国との間に一層の相互理解の増進に努め,社会・文化の各面における諸外国との交流に格段の努力を尽すべきことはいうまでもない。
とくに,戦後,憲法により戦争を放棄し,平和国家・文化国家として国際社会の中で積極的役割を演ずることを最高の国是としているわが国にとつて,永続する平和の前提たる諸国民間の相互理解,友好親善の促進は,いわばわが国外交の基本ともいうべきものである。
その点で,相互理解,友好促進のための最も有効な手段は,文化交流の促進である。文化を通じて諸国民が心と心のつながりをもつことは,国際関係においてややもすれば生じ易い誤解や偏見を是正し,不信や疑惑を取り除く上に,はかりしれない役割を果すものだからである。
とくに独特の文化的伝統を持ち,言語の障壁等のため,諸外国との意志疎通が殊のほか困難なわが国の場合,このことは一層必要であり,かつ,今日,わが国民が世界各地において縦横の活躍を行なうに至つた現状に照らして一層切実である。
他方,発展途上国においては,最近,経済開発の重要性もさることながら,経済開発促進の基盤として,社会や文化の面における均衡のとれた発展と向上が必要であるとの認識が高まり,この面での協力要請がとみにさかんとなつている。
従来のわが国の外交は,主として政治および経済の分野に重点が置かれてきたが,今や,わが国は政治・経済・経済協力と並びわが国外交政策の四つの柱の一つとして文化交流を推進しなければならない時に来ている。
政府が1972年10月国際交流基金を設立したのもかかる意義をもつ文化外交を実施するための基盤を確立せんとの考えに基づくものであつた。同基金はすでに活発な文化交流事業を実施しているが,これに対して各国から多大の好感と期待が寄せられ,わが国に対する各国のイメージが改められる契機となつている。
同基金は,わが国に対する諸外国の理解を深めるとともに,広く国際理解と友好親善を促進することを目的とし,とくに文化人,学者等の人物交流に重点を置いているが,政府としては,今後この基金を拡充強化して,上記の人物交流,さらに日本研究援助を中心とする幅広い文化交流を進めてゆくことができるよう引き続き努力する所存である。