-わが国の対外経済姿勢- |
貿易立国を国是とするわが国としては,今後とも発展を続けるためには世界経済との調和を保っていくことが必要なことは自明の理である。世界経済との調和という場合,従来わが国は世界経済を与件としてとらえ,これへの適応という形で問題を設定してきた。しかし,世界で最も大きな経済力を有する国の一つとなり,その行動が世界経済に直接大きな影響を及ぼし,わが国の経済動向や経済政策が国際経済社会の注目を集めるようになった現在,世界経済全体の繁栄を常に念願に置き,世界経済秩序の改善発展のため,その経済力にふさわしい責任を分担し,繁栄する世界経済の中で日本も繁栄を享受するという姿勢に徹することが要請されている。
さらに,戦後四半世紀にわたり世界経済の繁栄を支えてきたGATT,IMF体制が動揺し,世界経済の均衡ある発展を確保するために,過去の実績を踏まえつつ国際経済ルールの見直しを行なおうとする気運にある現在,世界経済全体の視点に立つた発想の重要性はとくに大なるものがある。
わが国が国際経済の担い手の一つとしてそれにふさわしい役割を果すに当り,とくに重要なのは,わが国の経済体質を改善し,開放化を促進することおよび新世界経済秩序の建設に積極的に貢献することである。
まず,第一にわが国経済体質の転換を通じて対外経済関係の長期的均衡を図っていくことである。
貿易収支の黒字が定着したのはここ数年のことに過ぎないが,あまりにも急速に,しかも特定国との間で黒字累積が進む場合には,摩擦の原因となることは避けられない。また,黒字の累積が国民経済的にも損失に通ずることも広く指摘されているところである。わが国は両三年中に経常収支の黒字をGNPの1%程度とし,基礎収支の均衡を図る旨の国際収支目標をかかげているが,これも上記のごとき観点から打出されたものである。
黒字累積対策として最も根本的なものは,日本経済の体質改善,すなわち,輸出重視,設備投資主導型の経済を生活重視,福祉重点型の経済に転換することである。この転換は国際協調としての意義のみならず,同時に国民的欲求に沿うものであることは言うまでもない。もちろん,根本的な体質転換には年月を要するであろうが,その間にとるべき当面の重要施策は,わが国経済の開放化促進である。最近わが国は100%原則に基づく資本自由化,関税の大幅引下げ,貿易の自由化,輸入枠拡大等の措置をとって来たが,対外経済関係の拡大均衡を指向する見地からも,今後とも一段と開放化を推し進める必要がある。
他方,輸出面においては,外国市場の撹乱,摩擦の発生を回避するため,従前にも増して輸出秩序の維持を図らなければならない。
昨年から本年にかけての各種国際討議を通じ,現在の世界経済には貿易・通貨面の諸問題に加え,国際投資・資源・環境等,各国協調して対処しなければならない新しい問題が生じているとの認識が深まった。加えて,例えばインフレ問題にみられる如く,各国経済の相互依存関係が緊密化するに伴い国内経済政策が対外的に影響を及ぼす度合が強まり,国内経済政策の運営に当っても対外的配慮を加える必要性があるとの考え方も現れて来た。さらに,国際経済ルールの策定は,圧倒的大国の指導力によることは期待できず,日・米・EC等各国のコンセンサスにより進めて行かなくてはならないという事情も一段と明らかになった。
こうした背景の下に今後のわが国の発展を確保するためには,世界経済が直面している新秩序づくり,すなわち,自由無差別原則に立脚する開放的世界経済体制の確立という重大な課題の解決を目指し,わが国も米・EC等と並んで積極的な貢献を行なわなくてはならない。来るべき多国間貿易交渉の開幕を告げるGATT閣僚会議(48年9月)を東京に招致したのもわが国の積極的姿勢の一つの現れであるが,今後,実質問題につき,貿易・通貨・投資・資源・環境等の諸問題の複雑な相互連関を常時総合的に把握しつつ,かつ国内政策との調和をも念頭に置き,分野別の二国間,多国間の交渉を進め,国際的コンセンサスの醸成を図るという課題に取組まなければならない。これは容易な課題ではなく,機動的な経済外交の展開が要請されることは言を俟たないが,その背後には「世界経済の繁栄あってこその日本,国際協調の下での発展」という意識に根ざした目先の利害にとらわれない長期的な国益追求の姿勢が確立していなければならない。