-諸外国との関係の増進-

 

第2節 諸外国との関係の増進

 

 

1. アジア・太平洋地域諸国との関係

 

長い年月にわたり戦乱の舞台となり,また,貧困と政治的不安定に悩まされてきたアジアにも,ようやく全般的な平和のきざしが表われ,繁栄に向かつての地道な建設に努力を傾注することがアジア諸国民の具体的課題となりつつある今日,アジアにおける唯一の先進工業国たるわが国がアジアの平和の定着に果すべき役割はまことに大きい。とくにわが国はその経済力を活かして,国内建設にとり組まんとしている域内諸国民に可能なかぎりの手助けをすることによって,この地域の安定と繁栄に貢献してゆかねばならない。

わが国のアジア政策において当面重要なことは,わが国と中華人民共和国との間に善隣友好関係を発展させること,朝鮮半島その他対立的要素が存在する地域における緊張緩和に応分の貢献をすること,東南アジア諸国の国家的存立の基盤強化と経済的自立性増進への努力に寄与することである。

(1) わが国と中国との関係は過去数十年にわたって不幸な経過を辿り,戦後においても長く不正常な状態を脱却するに至らなかったが,1972年9月両国は相互の理解と互譲の精神により,ついに国交を正常化するに至り,ここに日中関係の歴史は新たな発展の段階を迎えることとなった。日本および中国が共にアジアの国として信頼と理解,互恵と平等の関係をつくりあげることは,両国のみならずアジアの平和と安定にとって大きな礎となるものである。

もとより,日中間の国交は正常化されて日もまだ浅く,これから取り組むべき問題は多い。今後,日中両国は,共同コミュニケに示された諸原則に従って協力し,また,着実に実務関係を積み重ねることによって,両国関係を真に安定した永続的信頼関係の上に築くことが肝要である。このような信頼とけじめのある国交を通じてのみ,両国間に末長き友好関係を築き発展させることができるものと考える。わが国と中国との関係の発展は,いかなる第三国に対して向けられたものでもなくアジアの安定と繁栄の基礎をかためることを一つの大きな目的とするものである。ただ,今後対中国政策を進めるに当っては,それが諸大国は勿論,広くアジアに対して及ぼすことあるべき影響を勘案し,きめ細かい配慮をもって行なうことが肝要であると思われる。

(2) 朝鮮半島の情勢はわが国の安全に直接影響するものであるだけに,わが国は同地域における安定が一日も早く達成されることを希望している。政府は,目下南北間に行なわれている対話の成り行きを注意深く見守り,かかる対話を通じて南北間の関係が平和的な統一に向って改善されていくことを期待している。わが国としては韓国が今後とも経済の自立と民生の安定を達成することを希望しつつ同国との協力関係を維持してゆくが,これとともに北朝鮮との接触についてはきめ細かい配慮を行ないつつこれを漸進的に拡げてゆきたいと考えている。

(3) インドシナ半島ではヴィエトナム,ラオスに和平協定が成立したが,戦闘はなお局地的に続いている。今後当事者間の努力により和平協定が遵守され,一刻も早く完全な平和が訪れることが切望される。ポスト・ヴィエトナムにおける同地域の復興と開発に対し,これら諸国の要請に応じて人道的援助を行なうとともに,関係国と協力してこの地域の戦後の復興開発に貢献することが,わが国の今後の対インドシナ政策の一つの重要な課題である。

(4) ASEAN諸国は,近年域内協力を強化するとともに,外部からの好ましくない介入を避けて自主性を強めようとしつつある。わが国としては,かかる地域協力が健全な発展を遂げることはアジアの平和と安定にとって望ましいとの観点から,多大の関心をもって今後の動きを見守ってゆく所存である。

(5) わが国と大洋州諸国との関係は,経済,なかんずく資源・貿易面を中心に強い結びつきを有するに至っており,この意味で日豪間に閣僚委員会第1回会議がは1972年10月にキャンベラで開催されたことは重要な意義を有するものといえる。

豪州,ニュー・ジーランド両国はかねてよりアジア諸国との連帯強化を求めており,とくに1972年末に成立した両国の労働党政権は,積極的な対アジア・太平洋外交を進めている。わが国としては豪州およびニュー・ジーランドを中心にその他の太平洋諸国との関係拡大に一層努力するとともに,アジア太平洋地域の平和と繁栄のためにこれら諸国とできる限り協力してゆく所存である。

 

2. 米州諸国との関係

 

(1) わが国と米国とは政治理念を同じくし,極めて密接な貿易関係をもち,多くの共通する基本的利害を有している。米国との緊密な友好協力関係は,わが国の安全と繁栄に不可欠のものであり,また,わが外交の基軸をなし今後わが国がソ連,中国等と広く多角的な外交を推進する場合の基盤ともなるべきものである。このような日米関係があってこそ,はじめて極東のみならず,アジア・太平洋地域における平和と安定が確保され,一層の緊張緩和も可能となろう。したがって,わが国は米国との間に政治・経済はもとよりその他あらゆる分野にわたって,政府間のみならず,民間各層においても幅広い接触を行ない,相互の信頼と理解をますます深めるよう努力していくことが肝要である。

米国との安全保障条約は,わが国の平和と安全を維持するために不可欠のものであり,またこれは今や日米両国の相互信頼と協力関係を具象する紐帯にもなっている。さらに,日米安保体制を含むわが国と米国との友好関係は,現在のアジアにおける国際政治の基本的な枠組の重要な柱であり,この意味から,安保体制を維持することは単にわが国の安全保障のみならずアジア,ひいては世界の平和と安定に寄与するものと考える。

経済の面において,近年日米間における最大の問題となっていた大幅な貿易収支の不均衡は1972年をピークとして,73年に入り急速な改善をみつつある。わが国は日本経済の一層の発展のためにも,また日米友好関係の維持増進のためにも,今後ともわが国の経常収支の多角的均衡をはかりつつ,米国との経済関係に調和を求めていくことが肝要であると考えられる。両国は間断なき対話を通じ両国に共通の利益が何であるかを知り,言うべきことは言い,譲るべきところは譲るという態度を固め,相互信頼の上に安定した経済関係を確立することが肝要である。

(2) カナダは,近年アジア諸国との関係拡大を追求してきている。わが国とカナダとの関係はとくに経済面において年々密接になってきており,今後は貿易関係のみならずエネルギー資源や資本の需給関係をも通じて両国の相互依存関係が強まるものと思われる。わが国としては貿易相手国としてのみならず,アジア・太平洋地域の平和と繁栄のために協力する良きパートナーとして,政治・経済・文化のすべての面における交流を拡大し,もって両国の友好関係の一層の増進を図ってゆかねばならない。

(3) 中南米諸国は,わが国と伝統的な友好関係にあり,経済的にも,わが国はこの地域の天然資源,或いは農産物に大きく依存するとともに,わが国からは資本財の輸出や経済技術協力を行なうという相互補完関係にある。

また,この地域は,過去60年以上にわたり,わが国民の移住発展地であり,これら日系人は居住国からその資質と能力を高く評価され,わが国との友好関係に強固な地盤を提供している。わが国としては,このような関係にあるこれら諸国との関係を一層密接化するとともに,同地域との間に友好・親善関係を一段と強めてゆかねばならない。

 

3. ソ連・東欧諸国との関係

 

日ソ両国の善隣友好関係の進展は,日ソ両国のみならず,アジア,ひいては世界の平和と安定に資するものである。わが国としては,今後とも,経済・文化等を含む広い分野においてソ連との関係の発展をはかることが望ましい。

しかしながら,日ソ両国間には,北方領土問題を解決し平和条約を締結するという大きな懸案が残っており,これが両国間に真に安定した関係を樹立する上に障害となっている。1972年10月に行なわれた両国外相会談で,平和条約締結第一回交渉が行なわれたが,その際同交渉が今後も引き続き行なわれることが合意された。その後さらに1973年3月田中総理大臣がブレジネフ・ソ連共産党書記長に対して発出した書簡およびそれに対するブレジネフ返簡において1973年に同交渉を行なうことが確認されている。わが国は,日ソ平和条約交渉を通じて,わが国固有の領土である歯舞群島・色丹島・国後島および択捉島の返還をはかる方針である。

また,石油・ガス等シベリア天然資源開発プロジェクトについては現在,日ソ当事者間で話し合いが行なわれているが,政府としては,わが国経済の発展にとって必要な資源の確保という見地から,双方の当事者間の話し合いが双方に満足のいく形で固まるのを待って前向きに対処する方針である。

東欧諸国とわが国のと関係は,経済貿易面を始めとして年々強まっている。わが国としては今後とも,各方面での友好関係の強化を計っていく方針である。

 

4. 西欧との関係

 

西欧諸国は,本年1月,英国等の加盟を得て拡大した欧州共同体を中心に,その経済力を強めるとともに,今後とも,東西関係の進展等の国際情勢の変化に応じ,さらに政治的な発言力を高めていくものと思われる。わが国は,欧州の重要性がこのようにとみに高まりつつあり,かつ,日欧間の協力,協調の可能性と必要性が増大しつつあることにかんがみ,西欧諸国との関係を従来以上に緊密かつ広汎なものにしてゆくべきであると考える。このためには,わが国は西欧諸国が国際政治・経済に大きな比重を占めている事実を認識し,今後の国際経済秩序の建設,維持をはじめ政治・経済上の多様な国際問題の解決を目指して日欧間の対話を一層強化する必要があろう。さらに欧州と日本は,ともに高度先進自由主義国家として,例えば,環境,エネルギー問題など共通の問題をかかえており,これら問題の取扱いについても日欧協力の場は数多いと思われる。

 

5. 中近東諸国との関係

 

わが国は中東地域の緊張が依然として緩和されず,平和解決への努力が実を結ぶに至っていないことを憂慮するものであり,1967年の安保理決議に基づき一刻も早くこの地域に公正かつ永続的な平和がもたらされることを強く希望している。わが国は,国内石油需要の約90%を中近東地域に依存しており,同地域の平和と安定はわが国の経済的存立にとり重要な意義を有していることもあり,わが国は,今後とも国連を通じ紛争解決のためにできる限り協力をするとともに,経済・技術協力を通じて同地域の平和と繁栄に寄与していきたい。今日,国際エネルギー情勢は変動しつつあり,わが国としては,産油国を含む中東諸国との友好・協力関係を強化することが肝要と思われる。

 

6. アフリカ諸国との関係

 

アフリカ諸国は,独立後10年余を経て経済自立を最大の政策目標としている。この目標の達成には先進諸国の協力が不可欠であるが,近年アフリカ諸国のわが国に対する期待はますます高まっており,わが国としても,かかる期待に応えてアフリカ諸国の経済自立に応分の協力を行ない,もってこれら諸国の政治的安定が実現されることを期待している。

なお,アフリカにある天然資源の多くは未開発の状態にあるが,わが国としては,わが国および資源保有国の共通の利益になるような方向で,それら資源の開発に協力していきたい。

 

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