-基本的課題- |
第1章に述べたように1972年度の世界は,米中および米ソ関係の急速な改善を軸として,ヴィエトナム停戦の実現,東西両欧間の対話の進展等により、緊張緩和の気運が著しく進展した。戦後の歴史の新しい時代がまさに展開しつつある。
また,この年にわが国は,沖縄返還の実現と日中国交正常化という二大懸案を解決した。これによって,わが国の戦後問題処理の時代は,北方領土問題を残して一応完了し,日本外交は新しい段階に入りつつある。
このような時にあって,わが国は,慎重にして積極的な外交施策を展開することにより,わが国の安全と繁栄を確保し,国際社会の平和と繁栄に寄与するようにしなければならない。
(均衡のとれた外交の展開)
国際関係が多極化し,国際交流が活発化するにつれて,外交関係は錯綜したものとなってくる。わが国は,わが国をとりまく国際環境を冷厳に把握し,わが国の国力を的確に評価しつつ,正しい遠近感覚をもって,現実に徹した外交を進めなければならない。
わが国にとって,広く世界各国との友好関係をきめ細かく進めることが大切であることは言うまでもないが,近代日本外交史が物語っているように,わが国は,米国をはじめとする先進諸国や,中国その他のアジア諸国およびソ連との相互関係と交流の中で発展して来た。したがって,これら諸国との関係がとくに重要である。
以上のような観点の下に,わが国としては,米国と最も緊密な友好協力関係を維持し,アジア・太平洋諸国,西欧諸国との伝統的な友好関係を増進するとともに,中国およびソ連との友好関係をそれぞれ進める必要がある。
かかる立場に立って,わが国の本質的国益を考慮した諸施策を進めることこそ,均衡のとれた外交ということができよう。
(アジアの中における日本)
アジアの一員であるわが国にとっては,アジア諸国との関係が最大の関心事である。
アジアは,ヨーロッパと同様に古い歴史と伝統を有する。しかしヨーロッパと違って政治的にも,文化的,宗教的にも等質性に乏しく,長く貧困と政治的不安定の中で低迷状態を続けて来た。この状態からの脱却は容易ではない。ここ1年余の間に,米中首脳会談,朝鮮半島における南北間の対話開始,日中国交正常化・ヴィエトナム和平協定の成立など,アジアにおける国際政治上の重要な事件が相つぎ,アジア諸国は,一つの大きな機転を迎えつつある。
アジア諸国にはなお,きびしい政治的,経済的試練に直面しているものが多く,アジアの所々には依然として緊張が続いている。しかし,国際関係全体としてみれば,アジアも対決から対話,他動的から自主的な方向を迫りつつ,平和と安定に向っている。わが国としては,こうしたアジアの動きを歓迎しつつ,アジアにおける緊張緩和が関係国間の話し合いによって固まるよう,関係国と協調して応分の努力をすることが必要である。
また,アジアの平和と安定の基礎となるアジア諸国の経済的自立のために経済協力を行なうことが肝要である。わが国としてはアジアの平和と繁栄がわが国に直接的影響を及ぼすところが大であることを深く認識し,アジア諸国との間に,経済協力の増進に努力するほか,人的,文化的交流を進めることにより相互理解の増進をはかるなど,きめの細かい外交を展開しなげればならない。
(拡大するわが国の貢献の分野)
わが国の経済力は近年著しく増大した。今後わが国経済の発展を確保するためにも,わが国は国際経済秩序の維持と発展のために,米,EC諸国とともに積極的な寄与を行なわなければならない。
また,わが国は,国力の充実に伴い,開発途上国の国造りの努力のためにできる限りの協力と援助につとめ,もって南北問題の解決に応分の寄与をしてゆかなげればならない。
さらに,わが国は今や視野を拡げて政治および経済の分野にとどまらず,各国との間に一段と文化交流を活発化し,とくに,幅広い分野にわたる人的交流を進めなければならない。かくしてわが国は,諸国民との間に心のつながりを培うとともに,人類の知的,文化的資産の増大に一層の貢献をすることができよう。