-米ソ関係-

 

第2節 米ソ関係

 

過去1年,米ソ間には,両国の核戦略面における均衡を背景として,いわゆる「対話」の関係が進展し,米ソ間の緊張緩和への動向に好ましい影響を与えた。また実務面における両国関係の進展も特徴的であった。

主要な出来事としては,(i)米国の対北越強硬措置にもかかわらず,予定通りニクソン大統領の訪ソおよび米ソ首脳会談が実現し,「両国関係の諸原則」ならびに第1次SALT協定,その他の諸協力協定が調印(72年5月)された,(ii)穀物協定の調印(72年7月)に続いて,ニクソン大統領の訪ソでは合意をみなかったソ連の対米戦時債務返済協定や貿易協定等の問題が10月には解決された,(iii)キッシンジャー補佐官の訪ソ(72年9月)において欧州安全保障協力会議,相互均衡兵力削減交渉等将来における欧州の東西交渉に関する米ソ間の意見調整が行なわれた,などが挙げられる。

さらに二国間関係だけでなく,国際情勢全般についても協調姿勢がうかがわれた。インドシナ問題,とくに,米国による北越海上封鎖措置が米ソ関係へはね返ることが一時心配された(12月のブレジネフ演説)が,しかし米ソ関係悪化を示す具体的な動きにはつながらなかった。また,中東問題でも,米ソ対立の要因ともなりうる問題について,両国関係に対立の様相が強まる兆候がみられなかった。

過去1年間において米ソ関係にみられた特記すべき動きは以下のとおり。

 

1. 米大統領の訪ソ

 

ニクソン大統領のソ連訪問(72年5月)は,現職の米大統領が戦後はじめてソ連を訪問したという意味で,1959年のフルシチョフ・ソ連首相の訪米以来の画期的な出来事であった。

しかも米の対北越海上封鎖というヴィエトナム問題をめぐる米ソ両国の対立が浮彫りにされた状況にもかかわらず実現した。そして両国関係に関する基本文書(「両国関係の諸原則」),第1次SALT交渉の合意に基づく協定ならびにいくつかの実務的な取極が締結されるなど具体的な成果のともなったものとなった。

これは米ソ間の限定的共存協力関係が根を下しつつあることを示すものとして評価された。

 

2. 軍縮面における両国関係の進展

 

 (1) ABM条約等の発効

世界の軍事戦略体制に重大な影響をおよぼす米ソ間の戦略兵器制限交渉(いわゆる第1次SALT交渉)の第7ラウンドが,72年3月28日から5月26日までヘルシンキで開催された。その結果,米ソ間に対弾道ミサイル(ABM)システムの制限に関する条約および戦略攻撃兵器制限に関する一定の措置についての暫定協定が締結された。引き続き10月3日に米ソ間で右条約の批准書および暫定協定の受諾の通知書の交換が行なわれ,上記条約および協定は正式に発効した。

ABM条約は,首都防衛用および1カ所の大陸間弾道(ICBM)基地防衛用ABMをそれぞれ100基以内に制限することおよびレーダー等付属設備についての若干の質的規制を主たる内容としている。他方攻撃兵器についての暫定協定および右暫定協定の付属議定書では,(i)ICBMおよび潜水艦搭載弾道ミサイル(SLBM)を72年7月1日までに運用中および建造中のものに制限すること,(ii)米国の新型弾道ミサイル潜水艦を44隻,SLBM発射基を710基,ソ連の場合には,それぞれ62隻,950基に制限することを趣旨としている。なおABM条約は無期限であり,戦略攻撃兵器についての暫定協定は有効期限が5年となっている。右条約および暫定協定は過去約2年半にわたる米ソ間の戦略兵器制限交渉により得られた第1次の合意である。

 (2) 核戦争回避のための米ソの努力

第1次SALT交渉が妥結されたことは,世界の平和と安全にとり基本的な重要性を持つもので,米ソ首脳会談の最大の成果であった。

同交渉の妥結は,(i)核戦争を回避するための米ソ両国の協力関係および 信頼関係を深めた,(ii)防御用核兵器だけでなく攻撃用核兵器についても部分的にせよ合意を達成した,(ii)第2次SALT交渉の早期開始についても合意した,などの点で成功であり,一般的国際緊張の緩和に大きく貢献するものとして評価された。

米ソ両国は引き続き72年11月21日から12月21日までジュネーヴで第2次SALTの第1ラウンド交渉を行ない,第1次SALTの協定に基づく常設委員会の設立についての了解に関する覚書に合意した。

 

3.通商,海運など米ソ間の実務関係の進展

 

ニクソン大統領の訪ソの際,各種の協力協定が調印されたが,種々の理由から貿易協定,対米戦時債務返済協定は合意をみなかった。しかしその後,2回にわたる両国合同委員会の開催(7月及び9月)の結果,10月にその調印をみた。また同時に海運協定,相互クレジット供与協定等も調印された。

さらにこの間米ソ穀物協定(72年7月)も調印され,米ソ関係は首脳会談以後実務面で順調な進展をみせた。

その後も米ソ漁業協定の調印(73年2月),米ソ通商会議(73年2月),米ソ宇宙生物学,宇宙医学専門家会議(73年2月),シュルツ米財務長官の訪ソ(73年3月),ソ連宇宙飛行士の訪米,ソ連体操選手団の訪米等経済的,文化的接触を深める一連の出来事がみられた。

 

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