-時代の特徴-

 

第 1 部

 

総   説

 

 

第1章 世界のおもな動き

 

第1節 時代の特徴

 

国際政治面においては,1971年に劇的に動き出した米中および米ソ関係は,その後さらに進展し世界に広汎な影響をもたらしつつある。多数の国々は多かれ少なかれこの影響の下にあって,変転する国際情勢の中で各自の立場を調整しようと種々な反応を示している。国際経済面においても,1971年以降の不安定状態が継続し,これに対する対応策がとられるとともに,新秩序への模索がつづけられている。

かくして,過去1カ年の国際情勢は,全体として波乱に満ちたものであったが,このような情勢の中からとくに顕著な動きを次に概観してみよう。

 

1. 主要国の動向

 

 (1) 米ソの協調関係

1972年5月,ニクソン大統領は現職の米大統領としてはじめてソ連を訪問し,ヴィエトナム問題,欧州の安全保障問題等世界の重要問題について意見を交換するとともに,両国の関係についての各種の合意をとげた。その中には,米ソ関係に関する基本原則についての合意および戦略兵器の制限に関する二つの協定等の重要な合意が含まれている。これはまさに一つの時代を画する出来事であった。

 (2) 進展する米中関係

米中間においては,1973年2月,キッシンジャー米大統領補佐官が訪中した際に,米中両国はそれぞれ相手国首都に連絡事務所を設置することに合意し,ここに米中関係の調整の過程は一段落した。今後両国は,実務関係を進める段階に入ることになろう。

 (3) 中ソ関係の現状

米中,米ソ関係の進展に反し,中ソ間の基本的対立は,1972年を通じて改善の徴候を示さなかった。むしろ両者間の非難応酬のトーンは高まりをみせ,両国論調には双方が互いに相手を主敵と見なしていることを示す発言があらわれた。

 (4) 中国の国際社会への進出

中国は国連,ヴィエトナム和平会議等の国際的な場においても,また,米国,日本,西欧,開発途上諸国等との二国間の関係においても,活発な外交活動を展開しつつあり,かなりの成果を収めている。

 (5) 西欧の発展

欧州においては,欧州共同体が6カ国から9カ国に拡大し,経済力において米国と比肩しうべき大きな統合体へと成長しつつあり,政治的にも協力関係をつくりつつある。

 

2. その他の重要な動き

 

米中,米ソ関係の展開と並行して,世界の各地域で緊張緩和の進展がみられた。

欧州においては,独ソ,独ポーランド両条約およびベルリン4カ国協定が発効し,東西両独間基本条約の署名が行なわれた。また,欧州安全保障協力会議の開催のための準備会議や相互均衡兵力削減交渉のための予備協議が開始された。

アジアにおいても,中国と米国との関係改善,日中間の国交正常化と並んで,朝鮮半島における南北間の対話が続けられた。とくに,1973年1月にはヴィエトナム和平協定が成立し,ついでラオスの和平協定も締結された。

しかしながら,中東においては,エジプト,イスラエル間に停戦状態は維持されているものの,緊張は依然として続いている。

 

3. 国際経済面における重要な動き

 

 (1) 主要通貨,変動相場制へ

1971年末に発足した「スミソニアン体制」の下に国際金融体制は小康を保つたが,1973年に入り大規模な為替投機の結果,ドルの再切下げ,円の変動相場制移行,欧州主要通貨の変動相場制への移行等が行なわれた。

 (2) 新国際ラウンド発足へ

貿易面では,日,米,EC間の政治的意思決定を受けて,1973年9月に東京でGATT閣僚会議を開き新国際ラウンドを発足させることになった。新ラウンドは自由貿易体制を維持する上できわめて大きな意義を有するものとみられる。

 (3) 重視されるエネルギー問題

近年,0PEC(石油輸出国機構)加盟産油国は資源ナショナリズムに基づく価格の引き上げ,事業参加,国有化等を中心とする一連の石油政策を展開してきた。他方,日・米・EC諸国等先進工業国を中心とする世界のエネルギー需要は大幅な伸びを示し,とくに,米国はその国内石油自給率低下傾向により,世界の石油市場に大輸入国として本格的に入ってくるものと見込まれ,世界的にエネルギー・石油需給関係がタイト化するものと予想されている。この両面を背景に1972年には,エネルギー問題が国際的に大きな注目をひくようになった。

この問題にいかなる解決を与えるかは1970年代後半の世界的な課題となるものとみられ,とくにエネルギー資源に乏しいわが国にとっては重大な関心事となってきた。

 (4) 開発途上国の問題

交易条件の悪化,債務の累積,先進国からの援助の停滞等,開発途上国をとりまく情勢は依然として改善されず,さらに,食糧不足も深刻化し,開発途上国の直面する困難は減じていない。また,開発途上諸国の間で格差が開きつつあることも問題である。

 

 

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