-その他の重要外交文書等-

 

(3) 1971年NATO閣僚理事会(於ブラッセル)最終コミュニケ(要旨)

 

(1971年12月10日)

1. NATO閣僚理事会は1971年12月9日,10日の両日ブラッセルで開催された。

外務大臣及び国防大臣が本理事会に出席した。

2. 閣僚は各政府が,緊張の真の緩和を通じ,過去におけると同様欧州における正しい永続的な平和と安定とを達成するよう努力することを力説した。閣僚は20年以上前のNATO創設以来条約のカヴァーする地帯には武力紛争が無かつたこと,及び現在の国際情勢下では北大西洋条約は加盟国の安全保障に不可欠のものであることを想起した。

3. 閣僚は国際情勢を検討し,東南アジアにおける悲劇的な事件に深い関心を示した。印・パ間の戦闘行為が本紛争のあらゆる局面の早期平和的解決にGIVE WAYすることを強く希望した。

4. 欧州及び地中海を含めた欧州周辺地域の情勢の発展を検討して,一閣僚は加盟国により執られ,支持された各種のイニシァティヴの進展状態を分析し,NATO加盟国と他の欧州諸国家とが行なった多くのバイラテラルな接触の成果を評価した。

5. 閣僚は貿易通貨問題が長引く場合のNATOに及ぼす影響を確認したが,かかる問題を救済せんとする種々の努力が重ねられていることに勇気づけられるとともに,本問題を今後とも検討し続けることに決定を見た。

6. ベルリン4カ国協定の仮調印を見たことに満足するとともに,両独交渉が妥結間近であり,妥結を見るや,米・英・仏政府はベルリン協定最終議定書に調印することを指摘し,かかる調印が早期に行なわれることを希望した。

7. 閣僚は完成途上にある同協定を重要且つ勇気づけられる出来事と見ている。同協定が完成し,発効すると,協定は,ベルリンについての四カ国の地位,並びにベルリン及びドイツ全体に関するフランス,英国,米国及びソ連の権利,義務を維持しながらも,実際上の改善をもたらすことになる。

閣僚は,特に,ドイツ連邦共和国と西ベルリン間の人間及び商品の流通が何らの拘束なしに行なわれ,西ベルリン住民は東ベルリンと東独を訪問できることになることに注目した。閣僚はドイツ連邦共和国と西ベルリン間のきずなが維持され発展するという四大国協定中の保障に満足した。

8. ベルリン協定の締結は,双方の建設的な態度のおかげで,独に現存する特殊な情勢を考慮しつつ,ドイツ連邦共和国とドイツ民主共和国間が合理的な解決に至ることが可能であることを示すことであろう。この例は,欧州の他の問題についても進歩をもたらすであろうと考えた。

9. リスボン閣僚会議にて,ベルリン交渉が成功裡に終れば直ちに欧州安全保障会議の多角的会談を行なう用意がある旨宣言したことを想起し,最近の勇気づけられる進展にかんがみ,かかる基礎の上に,可及的速やかにかかる会談を始める用意がある旨確認した。

10. かかる見通しのもとに,会談準備及び他の関係国とバイラテラルな接触を強化することを提案した。

11. 在ヘルシンキ関係国の外交使節の長による多角的会談の開始に関するフィンランド政府の招請に留意するとともに,NATO加盟国政府はかかるイニシアティヴをAPPRECIATEし本件につき協議するためフィンランド政府との接触を続けることを宣言した。

12. 欧州安全保障会議は戦後の欧州分裂の永久化に資するものであつてはならず,むしろ現存する障壁を徐々に取り除くことにより,参加国間の和解と協力をもたらすものでなければならぬ。従つて欧州安全保障会議は欧州の緊張の根本原因と,関係国の政治・社会体制が如何なるものであれ,国家関係を規制する基本原則を具体的に扱うものでなければならぬことを再確認した。

13. 閣僚は欧州安全保障会議に関する常設委員会の報告をテーク・ノートした。本報告は欧州安全保障会議における次の4議題を検討している。

(イ)安全保障。国家と安全保障の軍事的側面との関係を規制する原則を含む。

(ロ)人間,情報,思想のより自由な交流

(ハ)経済・応用科学・技術及び純粋科学に関する協力

(ニ)人間環境の改善のための協力

閣僚は交渉が始まつた際,建設的な討議を容易にし得るよう,かかる研究を更に継続すべきことを事務当局に要請した。

14. NATO統合防衛計画参加国閣僚は関係国全ての正統なる安全保障の権益を守る中部ヨーロッパにおけるMBFR(相互的均衡的兵力削滅)は欧州における安全を維持し,安定を高め,緊張緩和に多大の貢献をなすとともに,東西関係全般を改善するものであることを再確認した。

15. これら閣僚は前回のリスボン理事会以降のMBFRに関する進展と情勢とを検討した。閣僚はソ連及びその他関係国政府との予備会談を提案するため1971年10月5日,6日の外務次官レベルの会談において執られた決定を再確認し,ブロジオ氏に重要な委任状を与えて,この使命を託した。

16. これら閣僚はソ連が以前に関心を表明しておきながら,かかる東西関係の重要な分野において,現在まで何ら反応を示さないことに遺憾の念を表明した。欧州兵力削減東西会談を可及的速やかに開始すべしとのソ連首脳の声明を想起し,これら閣僚はブロジオ氏が間もなくモスクワを訪問出来ることを希望した。関係国政府は本問題の事前の打診が多角的交渉準備に不可欠であると信じ続けている。

17. これら閣僚は軍事対決の危険を少なくし,欧州の安全保障を高める措置には重大な考慮を払つていることを強調し,欧州安全保障会議は本問題を適当な方法にて取り扱うべきことに注目した。

18. MBFRに関するNAT0の研究報告に注目し,本研究を継続すべきことを命じた。

19. SALT交渉が偶発核戦争の危険を減少し,米・ソ間の通信網を改善する具体的な協定を生むに至つたことを歓迎し,SALT交渉につき緊密なNATOとの協議が行なわれていることに満足の意を表するとともに,かかる交渉が戦略兵器競争を和らげ国際平和と安全を強化する協定に間もなく至ることを希望した。

20. 軍縮を更に推進する決意を再確認し,この分野における最近の進展を検討した。生物・毒兵器の開発・生産・貯蔵を禁止し,それらを破壊する措置に満足の意を表し,すべての国家が同様の措置をとることを希望した。同様に,化学兵器の管理禁止に関する協定成立についても進展がある様希望を表明した。NATO統合防衛計画参加国閣僚は核実験完全禁止条約の遵守を査察する効果的な手段を見出すべき努力が重ねられていることに関心を表明した。

21. 閣僚は事務局が命により準備した地中海情勢報告をテーク・ノートし,平和的解決が東地中海においても見出されることを希望しつつ,本地域の情勢進展に関心を表明した。本報告の結論を考慮に入れて,本件に関する協議を続け,次回閣僚理事会に本問題の報告を提出出来るよう情勢の種々の側面の進展をフオローするよう事務局に命じた。

22. 現代社会挑戦委(CCMS)が特に空気・水汚染分野において行つた研究の新たな成果と近代技術を健康管理に適用する計画の開始に満足した。

23. 次回閣僚会議は1972年5月30日,31日,ボンにて開催される。

24. 閣僚は上記テキストを中立国・非同盟国を含むすべての関係国に,外交ルートを通じ転交するようベルギー外相に依頼した。

25. NAT0統合防衛計画参加閣僚は防衛計画委を開催した。

26. 上記パラグラフに盛られている諸点を考慮に入れて,これら閣僚は十分な防衛能力を達成せんとするNATOの努力と緊張緩和の努力は両立しないものではなく,むしろ補完的なものであり,更に,十分な信頼出来る防衛は欧州安全協力に関する現実的な交渉の必要欠くべからざるコロラリーであることを強調した。同様な考えに従い,かつ根本原則としてNATOの全体的な軍事能力は規模とタイミングで均衡のとれた相互兵力削減によることがなければ,削減さるべきではないとのNATOの良く知られた立場を再確認した。

27. MBFRを検討し,NATO内の共通の立場を緊密に連絡しつつ探究するとの意図を再確認した。

28. ソ連は近年軍事努力を重ね,明らかに戦略核兵力及び通常兵力特に海軍を増強し続けていることに注目し,NATOの通常兵力の継続的・系統的な改善の必要性と,効果的な抑止力を確保し,NATOの緊張緩和努力の基礎が弱化することを避けるために適当な近代的戦術・戦略核兵力の維持が必要であることにつき合意を見た。

29. AD70(70年代の同盟防衛計画)の後続研究を討議し,NATOの防衛力の改善につき進歩を見たことを歓迎した。特に,12月7日,EDIP(欧州防衛改善計画)参加国の発表した防衛努力に満足の念をもつて注目し,EDIP諸国がAD70に沿つて,陸・海・空の装備の近代化に重点をおいていることを認めた。更に,米国が計画中の通常兵力の実質的な改善を歓迎し,POSEIDONシステムの開発の結果,NATOの戦略的抑止力に米国が大いに貢献したことを歓迎した。米国防長官が他の加盟国も同様の態度をとるならば,米国は在欧米軍を維持・改善し,東西間の相互的行動によるのほかは,在欧米軍を削減しない旨再確認したことに多大の関心を示した。

30. AD70の勧告を実施するに際し,優先部門が提案されていることを認め,かかる部門として,対戦車兵器の追加及び近代戦車,戦闘機積戴電子装置,改良型全天候迎撃・攻撃・偵察機,改良型対兵器と軍用機防護施設・海上パトロール機及び海上ミサイル,老朽艦艇の代替,北欧・南東欧兵力の強化と近代化ならびに陸・空軍弾薬貯蔵の増強と言つた部門を明示した。

31. ソ連海軍が世界的性格を有していること,特に大西洋・地中海におけるソ連艦隊の展開と行動を確認し,適当なNATOの対抗策をとるべきことを再確認した。

32. 1972年の加盟国の軍事力コミットメントに注目し,AD70に基づく措置を含む1972年より1976年までのNATO軍5カ年計画を採択した。

33. NAT0加盟国の目的はそれぞれの経済力の枠内において,抑止力と防衛力を維持するため,増大する国富の出来る限り多大の一定した割合を防衛費に向けるべきことを結論とした。

34. 核防衛委員会の国防相は核計画グループの活動に関する報告を検討するため会談した。

35. 次回防衛計画委閣僚会議は1972年春に開催される。

 

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