議長閣下,代表各位ならびに御列席の皆様
私はまず閣下に対し,第3回UNCTADの議長に満場一致選任されたことに心からの祝意を表します。一昨日当地に参りまして以来,私はチリ国政府及び国民の暖かい歓迎と,今次会合の成功を期する大きな熱意とに深い感銘を受けております。閣下の有能な指導のもとに,今回の会合が必ずや成功するであろうことを確信するものであります。
今次会合を主催されたチリをはじめとするラテン・アメリカ大陸の諸国とわが国との関係は古くから親密なものがあります。特に近年貿易の拡大,開発援助の促進等を通じてこの関係が一層の発展をみせていることは誠によろこばしく,わが国としては,今後ともかかる友好関係の発展に期待するところ大なるものがあります。
次に,私はアジアにおけるわが国の隣人である中華人民共和国が今回初めてUNCTADに参加したことに対し,心から歓迎の辞を述べたいと思います。今後,中華人民共和国がUNCTADの事業に対し積極的な貢献を行なうことを期待するものであります。
議長
第3回UNCTADのため当地に参集したわれわれは,国際政治上の対話の拡大を始めとし国際情勢の一つの大きな転機に立つております。特に,現在起りつつある国際経済・金融体制のパターンの変革への胎動は,われわれ全ての国にとつて大きな関心事であり,かかる事態をふまえて,国際通貨金融体制や国際貿易体制の長期的な再調整に向つての対話が新たにはじめられようとしております。この中にあつてわれわれの課題である国際開発協力は如何なる状況にありましようか。一方において,近年における開発途上国の経済成長率や「緑の革命」はわれわれを勇気づけるものであります。しかしながら,他方第2次開発の10年のための開発戦略が策定されて以来,未だ1年半足らずにして今日既に70年代における国際開発協力の将来に対し危惧の念が各方面で抱かれております。第3回UNCTADこそは70年代の国際開発協力強化のため新たなモメンタムを作り出さなければならないのであります。
今次会議に対するわが代表団のモットーは「国際開発協力に活を入れる」にあることをここに明らかにしたいと思います。
議長
われわれの共通の問題である開発途上国の経済開発は如何にすれぼ促進されるでありましようか。
まず第一に最も基本的かつ重要なことは平和の維持に他なりません。
わが国の平和主義は第二次大戦後国民の心の中に深くかつ根強く定着しております。わが国には徴兵制度もなく,またわが国が核を保有せず,一兵たりとも海外に派遣しないとの政策はわが国民の確固たる信念に基づいております。今次会合の議題となつている「軍縮の経済的側面」の問題についてもかかる立場から,わが国よリマ憲章の述べている原則を支持するものであります。
開発途上国の経済開発にとり平和の維持につづいて最も基本的なことはこれら諸国の経済社会全般にわたる自助努力と安定であり,この努力はそれぞれの国が自から最も適当と考える手段と方決により行なわれるべきことは言を待ちません。
国際開発協力の基本的な方向は,第2開発の10年のための開発戦略に具現されておりますように,貿易を拡大し,開発途上国に対する資金の流れを増大し,この自助努力を補完すべきものなのであります。
世界の平和と開発途上地域の繁栄とはわが国の平和と繁栄のため欠くことの出来ない前提であります。わが国はかかる現実を踏まえ平和に徹し開発のための国際協力に対する貢献を率先強化してゆく決意をいたしております。
私は第3回UNCTADに臨みそのためにわが国がとることを考慮している基本的な政策を以下に申し述べたいと思います。
議長
今次会合の背景にある最大の問題は,昨年来注目を浴びるに至つた国際通貨金融体制の将来を如何にするかという問題であります。最近の通貨調整は,わが国を含む全ての国々に種々の形で大きな影響を及ぼしておりますが,わが国は今後国際通貨金融問題の検討にあたつてこれにより一層参加していきたいとする開発途上諸国の願望を支持するものであります。
わが国としては,本件に関する先進国と開発途上国との間の対話及び開発途上国の問題検討への参加を強化する必要性を認識するものであり,そのための方策の国際的な検討協議に積極的に参画する所存であります。
さらに国際通貨体制の将来にかかわる問題としてSDRと開発援助とのリンクがあります。わが国としても,開発途上国がこれを先進国からの資金協力の積極化のための有力な方法として提案している立場を十分理解するものでありますが,現在SDRの将来の役割そのものについての国際的検討がようやく緒についた段階であります。わが国としては,SDRの役割りに関する検討との関連に留意しつつ,リンク問題に関するIMFによる検討が積極的かつ真剣に進められることを強く希望し,かかる検討に積極的に参加する所存であります。
議長
開発途上国の経済開発にとり長期的に最も重要な要因は,その輸入をまかなうため及び経済構造の多様化のための輸出の増大であります。わが国は,開発途上諸国との間に極めて緊密な貿易関係を維持してきており,現にわが国の全輸入に占める開発途上国からの輸入のシェアは40%台と先進国中最も大きくかつ,一貫して増加しております。一例をあげれば,アジアの開発途上諸国からわが国への輸入は,繊維製品について1965年から71年の6年間にほぼ30倍の増加を示し,機械についても,その間21倍の増加がみられるのであります。因みにこの実績は,アジア諸国とわが国とのあらゆる面でのきわめて緊密な関係を象徴的に示している点においても重要なものであります。
また,開発途上国が大きな関心をもつている農林水産物についても,これら諸国からわが国への輸入はここ5年間に年平均17.5%の伸びを示し,そのわが国農林水産物総輸入に占める割合もこの両3年漸増して1970年には38%に達しております。
わが国は開発途上国関心産品を含め1971年124品目,さらに1972年には238品目の関税引下げを行なつてきました。また,1969年秋から,わずか2年半の間に当時輸入制限のもとにあつた品目の3分の2以上すなわち87品目を自由化してきたのであります。わが国としては,今後とも,開発途上国からの輸入の増大に最善の努力を払う意向であります。
わが国は昨年8月その一般特恵スキームの早期実施に踏切りました。わが国は今月1日を期して,わが国スキームの受益国,地域を大幅に拡大いたしました。また新会計年度におけるわが国特恵枠は,昨年度に比べ,実質25%以上の増加となつております。
議長
一般特恵制度を効果あらしめるためには,主要先進国が一致して特恵の実施に踏切るとともに,他の先進国も特恵改善の努力を払つていくことが望ましいと考えております。
わが国は,その特恵スキームをさらに効果あるものとするため,他の主要先進国と協調しつつできる限り速やかな時期に,わが国特恵の実質的改善を行なうこととし,所要の検討を進める意図を有することをこの際明らかにしたいと思います。
なお,貿易面での国際的措置との関連で,わが国は,国際ココア協定が輸出入国双方にとつて利益をもたらすため,できる限り速やかに締結されることを期待いたします。
わが国は,すべての先進国,開発途上国の参加のもとに一層自由な世界貿易関係を拡大するため,最近,米国,ECとともに明年を期し,新たな貿易交渉をGATTの場で推進することとし,交渉においては開発途上国の問題に特別の考慮を払うべきことを内外に宣明いたしました。本件交渉の準備にあたつては,UNCTADとしても主として開発途上国関心産品に対する非関税障壁の識別,研究等を通じて有益な貢献をなしうるところであると考えます。
開発途上国からの輸入に門戸を開放するための諸措置とならんで,近年先進国の産業政策のもつ役割りに対する認識がとみに高まつております。わが国は,これまで,自らの産業近代化に政策的努力を払つてきた結果,その産業構造は開発途上国と競合する部門から競合度のより小さい部門にウェイトを移しており,また,開発途上国産業から強い影響を受ける業種については,一般特恵との関連で立法措置をとる等,産業の転換の円滑化に努めてきております。わが国は,今後ともその産業調整のための国内的措置を推進し,これによつて開発途上国からの輸入機会を拡大していく所存であります。各先進国がかかる観点から産業政策を実施していくことは世界経済の効率化と自由貿易の維持発展をもたらすゆえんであると信ずるからであります。
さらに,開発途上国の輸出増大のためには,これら諸国の輸出の振興が重要であります。この分野において,わが国は,UNCTAD/GATT国際貿易センターに自発的拠出を行ない,「東南アジア貿資・投資・観光促進センター」の東京における設立に協力したほか、従来より,二国間の技術協力,資金協力についても多くの実績をあげており,今後もかかる協力を惜しまないものであります。
議長
貿易面での協力を補完するものとして開発融資面での協力は,開発に関する国際社会の連帯の一つのきずなであります。「第2開発の10年」の発足にあたり,わが国は1975年までに開発途上国への資金の流れの総量を国民総生産の1%とすべく最善の努力を払うことを約束いたしましたが,すでに一昨年,昨年とも0.9%台と,この目標にきわめて接近した実績をあげることができました。絶対量をとりましても,1964年第1回UNCTADの際には2億9千万ドルでありましたものが1971年にはおおむね21億ドルを越えるものと推定され,この間実に7倍余の増加を示しております。
わが国は今後とも開発途上国への資金の流れの総量の増額につとめるとともに,政府開発援助量の増加と,援助条件の改善を自らの課題としていきたいと考えます。
議長
わが国は,その国民総生産の伸び率が特に高いこともあつて,これまで政府開発援助に関する国際的目標を受諾し得なかつたのであります。にもかかわらず,第3回UNCTADのこの機会に,その早期達成は容易なことではありませんが,あえて,政府開発援助を国民総生産0.7%にすべしとの国際的目標を達成すべく,最善の努力を払う意図を表明するものであります。
援助条件の緩和につきましてはわが国は,これまで1969年のDAC条件勧告の達成を目指して,できる限りの努力を払って参りました。わが国は,今後とも無償資金協力,技術協力及び国際機間に対する協力の拡充と政府借款条件の緩和に努め,政府開発援助の条件の改善のため格段の努力を払う所存であります。
また,わが国は,一般的アンタイイングの実施に関する国際的合意の早期成立が必要であると考えます。そのため,先進諸国は,おそくも1974年ないし1975年との期限を付して合意達成に効力すべきものと考えます。わが国は,すでに国際機関拠出分を原則的にアンタイしておりますが,さらに一般的アンタイイングの実施に関する国際的合意が成立する以前においても,二国間政府借款についてのアンタイイングの積極的拡大に努力することはもちろん,さらに全面的アンタイイングの一方的実施についても,周囲の状勢をも勘案しつつ検討する用意があります。
さらに,公的資金の流れに加え,わが国は,投資家及び受入国双方の立場を生かしつつ民間投資を拡充していくことが重要であると考えます。わが国としては,受入国と協調し,開発途上国の産業開発に資する形でその民間投資を進めていくことを基本的理念としていきたいと考えており現在民間海外投資の拠るべき望ましい規準を検討することとしております。
議長
ここで貿易外分野での諸問題について一言いたすならば,海運,技術移転,保険等この分野においてもUNCTADの貢献しうることは多いのであります。特に,海運につきましては,わが国としても,開発途上国側の要請に適切な考慮を払いつつ,今回の討議を通じ,海運活動に対する開発途上国の一層の参加につき,双方にとり満足すべき成果が得られるよう努める所存であります。また,最近注目されつつある技術移転の問題につきましても,わが国独自の経験を生かしつつ,UNCTADでの討議に建設的な協力を行ないたいと考えます。
議長
最後に私は後発開発途上国の問題に触れたいと考えます。これは国際的衡平の観点から重要な問題でありますが,これら諸国については,まず,開発の経済的,社会的基盤を整備し,援助吸収能力をたかめるための国際協力を集中的に行なうことが必要であります。そのため,わが国としては,これら諸国に対する贈与または緩和された条件での援助の必要性を認識し,さらに,これら諸国の開発援助のためには技術協力が基本的な重要性を有することにかんがみUNDPにおいて,イヤー・マーク方式またはトラスト・ファンド方式により,特別の措置がとられることが適当であり,わが国も,これに協力していきたいと考えます。なお,これら諸国に対する資金援助は,IDA,アジア開銀等を今後とも活用していくべきものでありますが,この関連で,わが国はアフリカ開発基金が設立されれば当初からその加盟国となり,相当額の資金協力を行なう用意のあることを付言いたします。
議長
UNCTADは発足以来8年を経ましたが,その間国際開発協力の推進に中心的かつ有意義な役割りを果して参りました。
特に近年現実をふまえつつ強いイニシアチブをとつて来られたペレス・ゲレロ事務局長のご努力に対し,深甚なる敬意を表するものであります。
一般特恵の発足は,関係国のすべてが相互の立場を理解しつつ地道な対話を続けたことによるものであり,このような対話こそ開発問題の解決のため最も適切な方途であることを示しております。UNCTADは今後ともいかなる意味においても加盟国間の対決を避け,われわれすべてが相互に依存関係にあることを出発点としてこそ,はじめてその任務を効果的に果しうるのであります。国際開発協力のためには,まさに「世界は一つ」なのであります。
今次会合は来たるべき10年の展望に立ち,開発問題の解決のためのわれわれの共同事業を達成するため,長期的かつ実際的な指針を探究するとの大きな課題を荷つております。われわれはこの大きな課題の解決のため,ともに前進しようではありませんか。
最後に,来たるべき5週間が国際開発協力の強化のための実り多い記念すべき5週間となることを今次会議参加各国ともども希念しつつ私の一般演説を終りたいと思います。