国際政治の多極化と共に,その一極を担う日本の外交も全方向的にめまぐるしく動いている。しかし日本のかかる外交を強力に推進するためには,国民外交乃至世論外交と呼ばれている今日では,国の内外の理解と支持を得ることが必要不可欠である。
そのため,国内においては,国内報道機関との接触や広報活動の強化拡充を通じて,国際情勢の動向とそれに対応するわが国外交の指針について正確かつ十分な説明を行なうべく努めている。
他方海外においては,わが国のめざましい経済発展と国際的地位の向上を反映して諸外国のわが国に対する興味と関心が高まると共に国際社会においてわが国が果すべき役割に対する期待が増大しており,わが国の外交政策がさらに注目を集めるようになつてきている。反面,日本の経済的侵略といつた非難や軍国主義警戒論も見え始めていることも事実であり,かかる趨勢に呼応して,広く海外諸国に対してわが国の政治,経済,社会および文化等諸般の事情を正しく紹介し,またわが国外交の基本方針や重要外交問題に関する立場を十分説明することによつて,わが国に対する知識の不足や誤解に基づく不正確な報道や認識を是正し正しい理解を深め,ひいては対日世論の一層の好転を図ることが,わが国外交の推進上ますます重要となつている。このため,外務省は,外国報道機関との常時接触に努めると共に本省および各存外公館を通じての海外広報活動の強化拡充に努めている。
(1) 国内・国外に対する報道事務
情報文化局は,外務省と内外報道機関との接点であり,国内的には主として外務省常駐の霞クラブ(主要新聞,テレビ,ラジオ,計36社が加盟)を通じて国内報道機関に対し,対外的には在日外国報道協会(Foreign Press in Japan,27ヵ国から144社が加盟)を通じて外国報道機関に対し,また在外公館においては現地報道機関に対し,常時わが国の重要外交問題や主要国際問題に関する発表や解説を行なつている。このため,
(あ) 霞クラブに対しては,外務大臣はじめ,事務次官,情報文化局長による記者会見,記者懇談のいずれかを毎日実施するとともに,重要案件については随時,主管の局部課長等によるブリーフィング(解説)を行なつている。
(い) 外国報道関係者に対しては,情報文化局長が毎週1回英語による記者会見を実施しているほか,各種の照会に関し,随時応接している。
(う) 上述の口頭による発表のほか,文書による発表として,外務大臣談話,情報文化局長談話,情報文化局発表,記事資料および参考資料の形で随時,内外報道機関に配布している。
(え) 内外報道機関のみならず,在京の外国公館の広報関係者とも常に連絡を密にし,外交案件の説明あるいは照会に対する回答を行なつている。
(お) 主要国際会議の開催に当つては,プレス・アレンジメントを行ない,内外報道関係者のために,会議場での記者会見室,控室のアレンジ,会議に関する新聞発表,会見のあつせん等を行なつている。
(2) 報道関係者への便宜供与
(あ) わが国の報道関係者が海外取材をする際に,本省と在外公館の双方で各種の便宜を供与し,諸海外事情の対内報道の充実にできる限りの側面的協力をしている(昭和46年4月~昭和47年3月間には431名の報道関係者に対して海外取材のための便宜を供与している)。また,天皇,総理,外務大臣等の外国訪問に同行する報道関係者にも種々取材の便宜を図つている。
(い) 外国報道関係者に対しては身分証明書を発給し(47年3月1日現在の発給数319),わが国における取材活動をする際の便宜を供与し,あるいは総理大臣,外務大臣等との会見につきあつせんを行なつている。
(う) 外国の国賓,公賓の訪日に際しては,ほとんどの場合,記者団が随行するため,これら随行記者団に対し,取材上の便宜を討つている。
(3) 海外における対日論調収集および編集
わが国に関する海外紙の報道,論評はここ数年来夥しい量に上つており,これら海外紙に現われた対日観を把握しておくことは政策立案上,国内啓発上,あるいは対外広報の上できわめて必要とみられるので,引き続きこれらを出来得るかぎり広範にわたつて収集し,傾向を取りまとめている。例えば前年度においてはわが国の防衛,沖縄返還,天皇訪欧などのテーマのほか,日米関係の新展開についての米国紙の対日観をシリーズとして取りまとめた。
(4) 一般情報の編集
-般情報は,在外公館に本邦関係のニュースを速やかにかつ正確に伝え執務参考に供することを目的として編集しており,具体的には,(あ)総理大臣,外務大臣の外交に関する重要演説(い)外務大臣談話,官房長官談話,情報文化局長談話,情報文化局発表,記事資料,共同声明等(う)外務大臣記者会見記録(え)事務次官,情報文化局長,その他本省幹部(課長クラスも含む)の会見およびブリーフィングの要旨(お)外交関係の新聞記事(コメントを付す)(か)わが国外交上の重要案件,主要国内問題についての主要紙論説のとりまとめ(き)本省関係記事(く)外務省関係人事等を掲載している。一般情報は電報,郵送,ファクシミリ等の方法により,全在外公館に送付されている。
(5) 在外公館に対する外国語によるニュース送達委託
在外公館に対し,わが国に関する重要ニュースをできるだけ速やかに知らせ,各館の執務参考にするとともに,広報活動および報道対策に役立たせる目的で,共同,時事両通信社に対し外国語(主として英語,一部にスペイン語と中国語)による本邦関係ニュースを在外公館に送達する業務を委託しており,46年度現在共同ニュースを28公館,時事ニュースを28公館に対してそれぞれ送付をせしめている。
国内広報活動としては,国際情勢や当面の外交問題の啓発のために,刊行物の発行,あるいは講演会への講師派遣などを実施している。現在情報文化局において編集,発行しているものに「国際問題資料」,「国際週報」がある。また編集のみを行なつているものに「世界の動き」,「われらの世界」がある。このうち,「国際間題資料」は月2回発行,「国際週報」は週刊で,それぞれ主として報道機関,専門家に配布している。さらに「世界の動き」は月刊で報道機関,政界,学界,経済界,中央・地方諸官庁,商工会議所,小・中・高校長,大学図書館,各種団体等に配布している。また「われらの世界」は中・高校長,地方公共団体,各種団体等に配布している。なお「世界の動き」と「われらの世界」は,世界の動き杜(東京都港区西新橋1-6-14デトロイトビル電話504-1655)で発行している。さらに従来より各種団体および地方公共団体などの求めに応じ,国際情勢および外交問題に関する講演会,研修会などに省員を講師として派遣してきたが,1971年4月から1972年3月末までに派遣した回数は350回に及んでいる。なお,わが国の外交政策あるいは世界におけるわが国の立場に対する国民各層の正しい認識のための参考資料として重要外交案件に関する平易な小冊子を作成配布して国民の要望に応えているが,その主要なものは1972年3月現在次のとおりである。
○日米安保条約早わかり
○目でみる日本の安全保障
○われらの北方領土
○核兵器不拡散条約
○1970年代を考える
○これからの日本外交
○25周年を迎えた国際連合
○人間環境の諸問題
○米国内に高まる対日批判
○沖縄返還協定と県民生活
○日本の経済協力
○沖続返還について
○日米友好関係強化の必要性
○日米友好関係強化の必要性(続)
○1970年代の日本の国際的立場-海外の論文-
○「日本軍国主義」に関する海外論調
○国際主要事項年表(1945-1971年)
(1) 概 況
(あ) 高度の文化と伝統を保持しつつ,近代的な民主主義国家として発展をとげているわが国の実情と自由主義諸国の主要な一員として世界の平和と繁栄のために努める日本の外交政策をひろく,かつ,正しく諸外国の官民に周知せしめるため,外務省は積極的た海外広報活動を行なつている。
最近わが国のめざましい経済発展にともない諸外国の対日関心が高まると同時に一部には対日批判ないし警戒心の台頭も見られるところ,外務省としてはこのような対日関心増大の気運をとらえて一般的な対日認識の増進をはかると同時に,わが国の実情ならびに外交政策を正しく知らせることにより,このような対日批判ないし警戒心の除去または緩和に努力している。
なお世界146ヵ所に置かれている在外公館には,最低1名(兼任を含む)の広報担当官を配置し,さらに主要公館には広報文化センターを順次設置し,講演・資料・映画・写真その他のあらゆる可能な手段を活用して,わが国の実情と外交政策の紹介に努めている。特に諸外国の報道機関とは常時緊密な連絡を保ち,これらの報道機関によつて正しい日本の姿が報道されるように努めている。
(い) 特に1971年度には,通常の広報活動に加えて,日米間の相互理解の向上および天皇,皇后両陛下のヨーロッパご訪問に際し,ヨーロッパの対日認識の増進を図るため集中的な広報活動を行なつた。
米国官民の対日理解を増進させるために,在米公館長,館員により全米各地において記録的回数の講演を行ない,また,同国各界の指導層の参加を得て各地でシンポジュームを開催する一方,本省においては米国の世論形成に大きな力のあるシンジケート・コラムニストその他報道関係者を始め,婦人団体,労働組合代表等民間の有力団体を計41名本邦に招き,日米関係について各界との意見交換を図り,また各地を視察見学せしめ,わが国の実情の紹介に努めた。更に同国の有識層を主な対象として各種の特別広報資料を作成,配布するとともに,全米テレビ局向けに,わが国の政界,財界,学界の人士や文化人,一般市民を網羅した短篇テレビ番組用のクリップを多数作成して配布する等,多角的な方法によつて集中的に広報活動を行なつた。
また,1970年秋の天皇・皇后両陛下のヨーロッパご訪問に際しては,事前にヨーロッパの関係諸国より有力報道関係者を多数本邦に招待し,陛下謁見がとり行なわれたが,この他わが国の皇室や国情を紹介したプレスキットを始め各種の特別広報資料を作成,配布する等により,ご訪問を契機に,ヨーロッパ諸国との友好親善と相互理解の増進に努めた。
(2) 広報資料の作成と配布
海外広報用として外務省が発行し,各方面に配布している資料は定期・不定期を通じ多種多量にのぼる。
不定期刊行物のうち,最も基本的なものは,わが国の現状に関する基礎的な事実を総括的に説明した小冊子「今日の日本」である。この小冊子は,カラー写真さし絵29頁,白黒写真さし絵28頁を含む計115頁余りのもので,従来より海外において多大の好評を博し,隠れた「ベスト・カラー」となつているが,1971年度においては,米・英語版のみならず,仏・独・西・露語等各国語版の改訂作成を進めた。
この「今日の日本」は,高校生以上を対象としたものであるが,このほかに中学生および小学生をそれぞれ対象とした日本紹介小冊子も各国語版で作成されている。
また,わが国の外交,政治,経済等については,レファレンス・シリーズという比較的詳細かつ専門的な記述を含む20頁程度の小冊子を刊行しており,1971年度においては従来の「北方領土問題」「国連と日本」等に加え新たに「公害問題」「日本の経済協力」など装丁にも工夫をこらしたものを作成した。本シリーズは1971年度末現在で35種類に達した。他方,明治維新以降のわが国の近代化の過程を総合的に紹介する写真入り小冊子「移り変わる日本」は,タイ,ヴィェトナム,中国,インドネシア,アラビア,イランの各国語版をも加え開発途上国を中心に広く配布したが,右冊子の好評にも鑑み,1971年度からはわが国の実情について進んだ知識の提供を目的とするこの種解説資料の作成に重点をおくこととし,「日本の教育と近代化」の如きシリーズものの作成を進めた。
また,各種の照会に迅速に回答できるよう,わが国の憲法・地理・歴史・教育等の36項目をそれぞれ簡単に説明したファクト・シーツを主要5ヵ国語にて作成しているが,この改訂・拡充にも常時努力している。
このほか,大小地図,およびいけ花をテーマとした1972年用カレンダーを英・仏・西の3ヵ国語による説明文入りで作成した。色彩印刷の美しいこれら広報刊行物は,多大の好評を博し,わが国情の紹介にとどまらず,わが国の高度の印刷技術の紹介にも役立つている。
定期刊行物としては,わが国の外交・政治・経済その他各般の実情と政策を紹介する英文インフォメーション・ブレティンを毎月2回本省で発行しており,各在外公館は,これを基礎にそれぞれの地域の事情に応じて再編集の上,これを現地語で発行・配布している。現在がかるインフォメーション・ブレティンは27ヵ国語で発行されており,毎号合計約9万部に及んでいる。またグラフ誌「ジャパン」を年4回,英・仏・西・中国語・露語および独語版にて毎回計12万部近く刊行している。
(3) 広報用映画,スライドおよび写真の作成配布
(あ) 広 報 用 映 画
映画は直接視聴覚に訴える極めて効果的な広報手段であるので,諸外国の官民がわが国の社会・経済・文化その他各般の実情を理解するのに役立つよう,広報映画(カラー16ミリおよび35ミリ)を毎年4種程度作成している。外務省作成広報映画には英・仏・西・葡・アラビア語をはじめとして約10ヵ国語版があり,全在外公館に配布の上,在外公館主催の映画会,一般貸出し,テレビ上映,広報車による巡回上映などを実施して非常な好評を博している。
1971年度には,「日本の国土開発」「富士山」,「日本の旅」(改訂版)及び「かぐや姫」の4種を作成した。さらに諸官庁・団体・会社等が作成した映画の中で海外広報上有効と認められる広報映画29種を購入し,在外公館に配布した。
(い) 巡 回 広 報 車
アジア・アフリカ・中近東・中南米地域の特に電気のないような辺地において,映画による広報活動を積極的に行なうため,1960年以降,発電装置を備え,映写機,スクリーン,テープレコーダー,拡声器等を搭載した巡回広報車を配置し,広報上大きな効果を挙げている。1970年度には在インドネシア,イラン,メキシコ,チュニジア各大使館および在カラチ総領事館(イランおよびチエニジアの他は買替)にこれを配布した。本広報車を保有する公館は,現在34公館にのぼる。
(う) 外国テレビ用スクリーン・トピックス
外務省は,毎月1回,比較的カレントなトピックスをあつかう「ジャパン・スクリーン・トピックス」(白黒15分)を企画・作成し,50の在外公館に配布している。これらの映画は配布先公館の所在する各国テレビ局の番組に組み入れられて,毎月放映されている。
(え) ス ラ イ ド
カラー・スライドの利用は,映画に次ぐ視聴覚手段として多大の効果があるので,在外公館保有のスライドおよび解説用テープレコーダー同調式スライド映写機の充実とその利用に努めており,在外公館では,日本事情紹介講演会その他の催しにあたつてこれらスライドを利用し,また貸出しを行なつている。
(お) 写 真
1971年度においては,3,000種,約60,000枚にのぼる各種写真を作成し全在外公館に配布した。これらの写真は,各国主要新聞,百科辞典,教育用図書および雑誌等にひんぱんに掲載利用されている。
(4) 報道関係者の招待および便宜供与
海外の有力報道関係者を本邦に招待し,あるいは来日報道関係者に本邦の各分野にわたる視察・会見などのあつせんの便宜を供与することは,これら報道関係者が新聞・雑誌・テレビ・ラジオ等を通じて,わが国の正しい姿を彼らの見た目で紹介するので,極めて効果的な手段である。
(あ) 報道関係者招待
外務省は,世界各国より有力報道関係者をそれぞれ約2週間招待し,わが国の外交・政治・経済・社会事情を視察・研究せしめている。
1971年度は,米国,西欧,アジアその他の諸国より45名を招待したが,これら招待記者は,帰国後,各種の日本紹介記事を執筆し,また日本紹介講演を行なつた。さらに,同年度中には,英国,タイ及び韓国よりテレビ取材チーム(計10名)を招待し,日本紹介テレビ番組を作成せしめたが,各チームは帰国後同番組を放映した。
(い) 報道関係者に対する便宜供与
本邦事情取材のため来日する報道関係者が近年急速に増加して来ているが,この中には国際的に著名な一流記者も相当含まれている。情報文化局は,これらの報道関係者に対し,可能な限りブリーフィング・会見・見学のあつせんを行ない啓発に努めている。
(5) 外国教科書,百科辞典等の日本関係記述の是年
諸外国で発行され,使用されている教科書挙らびに百科辞典等の中には,いまだに日本に関する誤つた記述があり,これを是正することは次代の諸国民の正しい対日理解をはぐくむ意味で極めて重要である。
外務省は,このために設立された財団法人・国際教育情報センターと緊密な連絡を保ちつつ,誤つた日本関係記述の指摘,関係資料・写真の提供等により誤つた記述の是正に努めている。
(6) 広報文化センター
各在外公館においては,わが国の実情および外交政策の紹介を図るため,講演会の開催,広報資料の配布,映画の上映,日本事情に関する照会処理等あらゆる手段を活用していることは前述のとおりであるが,とくに重要な所には順次広報文化センターを設けて,広報活動の拡充強化を図つている。
ニュー・ヨーク,ロンドン,バンコック,ジャカルタ,ブェノス・アイレス,ジュネーブ,ニュー・デリー,カイロ,シドニー,ラゴス,ウィーン,マニラ,リオ・デ・ジャネイロ,メキシコ,香港,ウエリントン,サン・フランシスコ,パリ,クアラルンプール,ソウル,テヘランの既設21個所に加えて,1971年度には,トロントおよびカラチの2個所に広報文化センターの開設の準備を進めている。なお,1972年度には,サイゴンにも,開設する予定である。
(7) 対日論調
海外における対日世論の動向を迅速かつ的確に把握するため,在外公館においては,常に注意深く対日論調,日本関係記事等を検討分析するほか,関係記事を本省に送付し,本省においては,さらに総合的に分析の上,その結果を海外広報活動の立案および実施に組み入れている。
さらに外務省は,対日世論傾向把握のため,従来より各国の権威ある世論調査研究所に依頼して,米国その他の諸国において,対日世論調査を実施している。
1971年度には,米国において1972年3月に,一般市民を対象とした一般調査及び有識者層を対象とした深層調査をそれぞれ実施した。