-国連における社会人権問題-

 

第5節 国連における社会人権問題

 

1. ウ・タン前国連事務総長の提唱になる国際大学の設立構想は1971年においても引続き1970年の国連総会決議に基づき,各国より本件大学構想に関する意見を徴しつつ,また国連とユネスコの各々が設立した専門家委員会をはじめとする諸会議で本件大学のあり方につき更に審議が行なわれてきた。この間,わが国は本件検討に積極的に参加し,広い国際的なコンセンサスを得て本構想が実現に至るよう努力してきたが,この大学設立そのものに疑義を有する米,英,仏,ソなど消極派諸国と積極派の意見の調整を見るに至らなかつた。結局1971年の第26回国連総会においては,わが方国連代表部の努力もあつて,1972年においても国連の専門家委員会を存続せしめることにより,引続き本構想を維持し,更に検討を続ける形となつたが,本構想が実現するまでにはなお多くの困難が予想される。

2. 国連は,その目的の一つである社会問題の解決および基本的人権と自由の尊重を推進するため積極的に活動しているが,この分野においては,地道な努力の積重ねによつてはじめて具体的な成果が得られるものが多い。

1971年には特に顕著な進展は見られなかったが,第26回国連総会では,事務総長の世界社会情勢報告や武力紛争における人権尊重問題などが審議され,また,精神薄弱者の権利に関する宣言が採択された。

世界社会情勢に関する今次報告は,主として第1次開発10年の後半期における社会開発の状況を分析し,この期間にとられた政策を紹介したものであるが,総会は,所得,雇用,教育,保健,住宅,人口などの分野における世界社会情勢の悪化を防止するため有効な措置を講ずることが緊要であるとして,先進諸国に対し,「第2次開発10年」の開発目標を達成するために援助努力を強化するよう要請した。

武力紛争における人権尊重問題については,1970年に引続き,人権委員会,経済社会理事会で検討され,総会では,1971年5月の赤十字国際委員会主催政府派遣専門家会議による戦時法規の再検討作業に支持を表明することとなった。この関連で,従来から検討が行なわれてきた武力紛争を取材するジャーナリストの保護に関する条約案については,その審議において,ジャーナリストという特定のグループを一般住民以上に厚く保護する必要はないとする批判や,ジャーナリストの権利のみならず義務をも明示的に規定せよとする意見などの表明があつたが,結局,人権委員会で再検討されることとなつた。

精神薄弱者の権利に関する宣言は,フランスが精薄者は社会において極めて弱い立場のグルーブに属するので,その権利を宣言することにより道義的,精神的支援を与えるとの趣旨により提案したもので,総会では圧倒的多数をもつて採択された。

3. 麻薬の乱用は近時,世界的な社会問題となつているが,国連はこの問題にも積極的に取組んでいる。

その一つに,1971年春以降,米国のイニシアティブに基づき,麻薬の製造,取引などの規制に関する1961年の麻薬単一条約について,国際的な麻薬取締りを強化する目的でこの条約に所要の改正をほどこすことが国連の麻薬委員会などで検討されてきた。この検討結果を踏え,1972年3月には,国連の主催の下にジュネーブにおいて全権会議が開催され,単一条約の改正議定書が採択された。

また,国連には1971年3月麻薬基金が設置され,今後,麻薬取締り,麻薬中毒者の矯正措置など広い分野で援助活動を行なっていくことになつている。

なお,1971年2月に国連の主催の下に,LSD,覚醒剤などの向精神剤の規制について定める「向精神剤に関する条約」が採択されたが,わが国は1971年12月,批准を条件として本条約に署名した。

 

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