-経済協力のための国際協調-

 

第4節 経済協力のための国際協調

 

開発途上国に対する経済協力として,わが国は,二国間べースの協力を推進するとともに,世界銀行等の国際機関を通ずる協力に対しても積極的に貢献しており,また,DAC等の国際機構を通じて経済協力面における国際協調をはかりつつ,援助の効率化に努めている。アジア地域を中心とする国際協調については,第2部第1章第1節2においてふれる。

 

1. 世界銀行を中心とする国際協力

 

世界銀行(国際復興開発銀行)は,1945年,加盟国の戦後の復興と経済開発を目的として設立されたが,現在はもつぱら開発途上国に対する援助機関としての色彩を強めている。この世銀の活動は,その姉妹機関でより緩和された条件により経済の社会開発事業に融資する国際開発協会(IDA)および開発途上国に対する民間投資を促進する国際金融公社(IFC)の活動と相まつて開発途上国の経済開発に重要な役割を演じている。

71年の世銀グループの開発融資は25億8,000万ドルに上つた。その内訳は,世銀が18億9,600万ドル(前年16億8,OOO万ドル),IDAが5億8,400万ドル(同6億500万ドル),IFCが1億100万ドル(同1億1,200万ドル)である。この結果,マクナマラ世銀総裁が68年総会で打ち出した援助倍増5ヵ年計画は順調に推移しており,今後2年間に71年なみの年間25億ドル相当の融資がなされれば目標は達成される見込みである。71年融資の特色として,(あ)内戦のあったナイジェリア,サイクロン被災の東パキスタン及び地震で被害を受けたペルーの復興にノン・プロジェクト融資をした(い)ブラジルに河川汚染防止を目的とした初の公害対策融資を実施した(う)今後世銀にとつて主要な業務となつていくであろう援助の協議・調整活動の一環として,農業研究に対する協議グループが世銀を中心に設置されたなどである。

一方,資金調達面でも71年中に18件の世銀債を発行し13億6,800万ドル(前年7億3,500万ドル)を借り入れ新記録となつた。また,世銀は自己資金拡充のため22億2,200万ドルの特別増資(授権資本は270億ドルとなつた)をし,目下その払込みがなされている。

IDA第3次財源補充案(総額24億ドル)は,総務会の承認を得たが未だ米国の賛成が得られず発効をみていない。この間,IDAに対する資金需要は旺盛で71年6月末をもつてIDA資本はすべてコミット済みとなつたため,IDAは世銀の純益から1億ドルの移転をうけ,かつ第三次財源補充案の前払拠出を関係国に要請した。カナダ,デンマーク,英国等が前払拠出を表明し,日本も財源補充案の第1回払込分(4,800万ドル)の前払拠出を受諾した。

わが国と世銀グループの関係は年々緊密化し,特に資金協力の面で著しい。71年6月に70億円及び10月に60億円を日銀より貸付を行なつた外,71年6月に110億円及び10月に120億円の世銀債(円建て)発行にも協力した。他方,世銀東京事務所(70年11月開設)の活動を通じて日本人職員(71年12月現在65名)のリクルート面でも充実がはかられており,このような人的交流の密接化の中で71年11月にはマクナマラ総裁が訪日し,各界代表と懇談した。また,10月には韓国の協議グループが東京で開催された。

 

2. OECD開発援助委員会(DAC)

 

DAC(Development Assistance Committee)は,OECDの一機関であり,開発途上国の開発援助問題を取り扱つている。その目的は,(あ)開発途上国に対する援助の量的拡大とその効率化をはかること,(い)援助の量と質について定期的に相互審査を行なうこと,および(う)援助の公正な分担を決定するための諸原則について研究することにある。現在DAC加盟国は,オーストラリア,オーストリア,ベルギー,カナダ,デンマーク,フランス,ドイツ,イタリア,日本,オランダ,ノルウェー,ポルトガル,スウェーデン,スイス,英国,米国の16ヵ国およびEEC委員会である。

DACは,その活動を効率的に遂行するために本会議に加え,下部組織として援助需要作業部会および援助資金作業部会の他,統計問題グループ,投資保証アドホック・グループ,公的融資機関アドホック・グループ等を有している。本会議は,これら作業部会,グループから付託される問題等を検討するほか,あらゆる関心事項について審議することができるが,特に重要な活動として,加盟各国の行なつている援助に関する国別年次審査がある。年次審査の目的は,加盟各国間の相互審査によつて援助の増大と効率化を促し,かつ,援助の全般的実態を明らかにすることにある。なお,年次審査の結果をまとめたDAC議長報告書「開発援助努力と政策」は,援助に関する国際的に最も権威のある資料とされている。1971年におけるDACの活動のうちわが国との関係で特に注目すべきものは次のとおりであつた。

 (1) 対日年次審査

1971年におけるDAC加盟各国の開発援助パーフォーマンスについての年次審査は,1971年5月から11月にかけ実施されたが,わが国に対する年次審査は,7月9日に0ECD本部で行なわれた。同審査においては,わが国の援助総量が18億2,400万ドル(GNP比O.93%)とこれ迄の最高水準に達し,わが国が表明した1975年迄にGNP1%目標達成に極めて接近したことは評価されたが,右増大の大部分が民間投資,輸出信用の伸びを反映したものであり,政府開発援助は絶対額では一応増加したものの,そのGNP比率ではむしろ0.23%と前年(O.26%)より低下さえ示し,依然DAC平均(0.34%)を下回ることが指摘され,政府開発援助の一層の拡充のための措置をとるよう要請された。わが国の援助条件については,次第に緩和しつつあるものの,依然1965年DAC勧告,1969年補足勧告のいずれも達成するに至つていないことについて重ねて指摘を受けるとともに,開発途上国の債務累積問題が深刻化し,援助供与国の条件のハーモニゼーションのための要請が高まりつつあることにかんがみ,条件緩和のためとくに努力を払うよう要望された。わが国援助の構成に関しては,無償援助の比率が減少しており,また技術援助が依然小規模であることから,賠償に代るべき新たな無償援助計画の策定および技術援助の大幅拡大の必要性が指摘された。これらの指摘に対して,わが国としては,総合的対外経済政策(いわゆる「8項目対策」)の1つの柱として,援助強化のための各種政策措置を検討していることを明らかにしたが,各国よりその具体的実施について強い期待が寄せられた。

 (2) 第10回上級会議

第10回DAC上級会議は,DAC加盟国の閣僚を含む経済協力担当政府高官出席のもとに,10月21,22の両日OECD本部において開催された。

同会議では,当初,前年来DACにおいて検討が続けられてきた援助の一般的アンタイイングについて合意が成立することが期待されていたが,71年8月の米国の新経済政策発表を契機とする通貨および貿易面における国際環境の悪化等もあつて,結局同会議における合意成立までには至らなかつた。同会議においては,開発途上国に対する援助量,とくに政府開発援助の最近の伸び悩みにつき懸念が表明されるとともに,援助の十分な増加を確保する上での障碍を克服するための方途・手段が検討されるべきことにつき合意をみた。援助条件面では,1972年にDACは過去3ヵ年の経験に照らし,1969年援助条件補足勧告のレヴューを行なう予定であることに注意が喚起された。また,開発水準が特に低く,かつ開発途上国のための一般的措置の多くから必ずしも十分な恩恵を得る立場にないいわゆる後発開発途上国の問題に関しても,加盟国がこれら諸国に対して一層効果的に貢献すべき方法につき討議が行なわれた。

 

3. 技術協力委員会

 

技術協力委員会(Technical Cooperation Committee)は,OECD加盟国の中の開発途上国(トルコ,ギリシア,スペイン,ポルトガル,アイスランドおよび準加盟国たるユーゴスラヴィア)に対し技術援助を行なうことを目的としている。わが国も,すでに建築,都市計画等の分野で協力を行つているほか,1971年には同委員会副議長をつとめた。

 

4. OECD開発センター

 

OECD開発センター(Deve1opment Center)は,開発援助問題に関する先進国の知識,経験を集積して開発途上国に利用させるという形で開発に協力することを目的として1962年に設立された。同センターは,その目的達成のため,(あ)開発途上諸国において,技術,知識の普及を目的としたフィールド・セミナー(例えば中小企業問題に関するもの)を開催し,(い)経済開発問題,経済援助問題について独自の調査(開発途上国の工業化問題,雇用問題等)を行ない,(う)各国の経済開発研究機関と連絡をとり,(え)それら機関の長の年次会議を開催し,(お)開発途上諸国への知識,情報の通報,普及(例えば Question-Answer Serviceの提供)に努めている。また,人口問題に関する活動も積極的に行なわれている。

 

5.コロンボプラン協議委員会会議

 

コロンボプラン協議委員会会議は例年秋に開催されているが,前回第21回会議は1970年11月にフィリピンのマニラで開催予定であつたところ,開催直前同地を襲つた台風による被害が大きく開催に支障をきたしたため,1971年2月に延期,開催された。

このため第22回会議の1971年秋開催は,同一年2回開催ということになるため,同会議の1971年秋開催は見送られ,本年秋インドのニューデリーで開かれることになつている。

 

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