-技術協力の概要-

 

第3節 技術協力の概要

 

1. 概     説

 

1971年(暦年)におけるわが国技術協力支出額(DACべース)は,2,770万ドル(97億1,800万円)に達し,1970年の2,160万ドル(77億8,100万円)に対し28.2%の増加となり,前年の増加率13.7%を大きく上回つた。

地域別にその増加をみると前年に比べてアジアが6%の低い伸びにとどまつたのに対し,アフリカが15%,中南米が97%,中近東が59%とそれぞれ大幅な増加を示した。この結果,従来ともすればわが国技術協力が集中しすぎるとして非難されていたアジアのシェアが過去の平均の70%から10%滅の60%となつたのに対し,アフリカ,中南米への技術協力実績が,それぞれ増加した。このことは,1971年におけるわが国技術協力の一つの特色として注目されるべきものである。

しかしながら,開発途上諸国からの要請は年々増大しており,要請に応じえなかつた案件が近年になく多く,わが国として今後これまで以上に量的拡大及びこれを支える国内基盤の整備,拡充の必要が痛感される。

一方,国内においても技術協力を更に拡充すべきであるとの声は引続き高く,9月には対外経済協力審議会より総理に対して「開発途上国に対する技術協力の拡充強化のための施策について」と題する答申が提出された。この答申では技術協力の量の増大とそのための広い国民的支持を得ることの必要性及び技術協力実施の体制づくりの要あることを強調するとともにわが国が立ち遅れている医療,教育,学術研究等の面での技術協力の推進につき今後の方向が示唆されている。

 

2. 1971年度の技術協力関係予算

 

外務省は,1971年度においてひきつづき開発途上国に対する技術協力を拡大すべく予算措置を行い,予算額は初めて100億円をこえた。この中心となる海外技術協力事業団に対する予算として,(イ)海外技術協力実施委託費78億5,898万円(対前年度比19.7%の増加),(ロ)運営費たる交付金12億2,443万円(対前年度比28.7%の増加)および(ハ)同事業団出資金4億1,700万円を計上した(なお,海外技術協力事業団に対しては,以上のほか,外務省経済開発計画実施設計等委託費1億5,O00万円,通商産業省海外開発計画調査委託費1億3,819万円および文部省理科等海外協力委託費2,776万円が委託された)。この結果,実現の運びとなつた主要な改善措置は次のとおりである。

 (1) 研修員の受入れ体制の改善

滞在費,書籍費等が増額された外,研修員受入れ先に対し支払う研修付帯費及び民間研修委託費が大幅に増額されたので従来に比し民間に大幅に委託した形での研修コースの実施が可能となつた。

 (2) 専門家待遇の改善

専門家に対する語学手当,僻地手当支給の制度が新設された外,専門家の所属先に対する財政的補填制度の新設,専門家に対する特別技術報酬経費の大幅増額等が認められた。なお,専門家について,かねてより要望の強かつた学会等出席のための公費による特別一時帰国制度が新設された。

 (3) 専門家「装備率」の強化

専門家の携行機材費,現地業務費が増額された。

 (4) 開発調査事業

特定の開発調査プロジェクトの実施に当つては,海外技術協力事業団が本邦コンサルタント企業と一括契約を行なう方式を予算制度上創設した外,コンサルタントフィーについても,若干の増額が図られた。

 (5) 海外技術協力事業団の強化

規模が拡大し,内容が多様化していく技術協力を円滑に実施していく上に必要な同事業団の整備拡充を図るため引き続いて,同事業団職員および海外駐在員等の増員,海外事務所の拡充・強化,東京インタナショナル・センターの増築,三崎国際水産研修センターの建設及び日本青年海外協力隊訓練施設拡充のための措置がとられた。

上記のほか,国際機関,民間団体等の技術協力活動に対しても拠出金,補助金等により積極的な協力を行なつたが,その主要な協力は次のとおり(カッコ内予算額)。

国際稲研究所拠出金(2,045万円)

アジア工科大学院奨学金(918万円)

東南アジア文部大臣機構協力(813万円)

海外農業開発財団補助金(300万円)

日本国際医療団補助金(300万円)

国際開発センター補助金(1,103万円)

国際開発センター調査委託費(1,720万円)

地方公共団体補助金(3,128万円)

なお,地方公共団体補助金は地方公共団体が行なう技術研修員受入事業を助成する目的で新らたに設けられたもので,71年度はとりあえず3県(兵庫,熊本,山梨)に対し実施し,開発途上の諸国から20人の研修員を受け入れた。この助成方法は,技術協力が人と人との触れ合いを基礎とする事業であるので,幅広く,層の厚い,国民参加の形で進められることが望ましいとの見地に立って開始されたもので,将来は全国的規模に拡大したいと考えている。

 

3. 1971年度の海外技術協力事業による技術協力実績

 

上記予算措置の下に実施された技術協力実施状況は次のとおりである。

 (1) 研修員の受入れ

アジア地域1,284名,中近東アフリカ地域319名,中南米地域162名,その他5名,合計1,770名の研修員を受入れた。この結果,1954年度以来の累計は16,013名となつた。

 (2) 専門家の派遣

下記(5)以下のプロジェクト関係の協力のために派遣した専門家を含めて,アジア地域655名,中近東アフリカ地域171名,中南米地域76名,その他11名合計913名の専門家を派遣した。またエカフェ,東南アジア漁業開発センター及びその他の国際機関に対しても計24名の専門家を派遣した。

この結果1972年3月末現在でわが国から開発途上国へ派遣した各種専門家の累計は6,246名となつた。

 (3) 日本青年海外協力隊の派遣

1971年度においては,7月にマラウィ,9月に西サモア,11月にエチオピアとの間に,それぞれ協力隊派遣に関する取極めが締結され,取極め締結国数は16ヶ国となつた。

本年度の派遣隊員数は,アジア地域119名,中近東アフリカ地域79名,中南米地域10名,計208名で協力隊事業発足以来の派遣隊員総数は1,151名となつた。

 (4) 機 材 供 与

フィリピン国営放送局に対する放送訓練用機材,ビルマ鉱業省に対する鉱物探査機材,工業者に対する織布指導機材,マレーシア文部省に対する工作機材,インドネシア水資源総局に対する水資源調査機材,アラブ連合地震観測所に対する地震計,ボリビア・ラパス電話公社に対する電話修理機材,ペルー農科大学に対する漁具漁法研究機材など,アジア,中近東,アフリカおよび中南米の25ヵ国に対し,43件を実施するため総額2億4,840万円を支出した。

 (5) 海外技術訓練センターの設置,運営

前年度に引続きフィリピン家内工業,メキシコ電気通信,シンガポール原型生産,ケニア小規模工業,ガーナ繊維,ウガンダ職業訓練,中華民国職業訓練の7センターに対して協力をしているほか(韓国工業及びインドネシア漁業の2センターは協定による協力期間が終了したので相手国政府にセンター運営を引継いだ),本年度は新しくイラン電気通信及びタイ道路の2センターを設置し協力を開始した。以上のほか既に(前年度以前に)相手国側に引渡したセンターに対しても,機材の供与,個別専門家の派遣等の形で協力を行なつたものもあり,これらすべてを含めたセンター協力の総経費は8億数千万円に達した。

これまでわが国の協力により設置されたセンターは17ヵ国に及び,20ヵ所にのぼつている。

 (6) 開 発 調 査

投資前基礎調査(外務省),海外開発計画調査(通産省)あわせて約6億円の予算をもつて,新規35件(アジア21件,中近東・アフリカ9件および中南米5件),継続12件の開発調査を実施した。

このほか,実施設計調査を3件実施し,予算約3億8,000万円をもつて資源開発協力基礎調査(通産省)3件を実施した。

 (7) 医 療 協 力

予算8億5,874万円をもつて韓国(労働災害対策),インド(救ライセンター研究部門),エティオピア(天然痘撲滅対策),インドネシア(インドネシア大学付属中央病院臨床検査室)等7ヵ国に調査団を派遣,タイ,ラオス,ケニア等7ヵ国に供与済機材の巡回修理チームを派遣すると共に,従来から協力を実施して来たヴィエトナムのサイゴン,チョウライ両病院,タイの国立がんセンター,フィリピンのコレラ,ポリオ等40プロジェクトに対し専門家の派遣,機材供与および研修員の受入れ等の形で協力を行つた。

 (8) 農 業 協 力

予算8億2,548万円をもつて,従来から協力してきたインドネシアの西部ジャワ食糧増産,インドネシア食用作物共同研究,フィリピン稲作開発,タイ・養蚕開発,セイロンのデワフワ地区村落開発,ヴィエトナムのカント大学農学部協力,ラオスのタゴン地区農業開発,インド農業普及センター(4ヵ所)・インドのダンダカラニヤ地区農業開発,マレイシア稲作機械化ならびに1971年度から始めたインドネシアのタジュム地区農業開発の11プロジェクトに対し,専門家の派遣,機材供与などの協力を行なつた。またネパールおよびインドネシア南スマトラのランポン地区に対する農業開発ならびにインド農業研究協力に関する調査団をそれぞれ派遣し,1972年度以降に開始される予定の本格的協力のための予備または実施調査を行なつた。なお,ネパールについては71年度末に一部協力を開始した。

 (9) 開発技術協力

1971年度には,2億396万円の予算をもつて,前年度に引き続きインドネシアの東部ジャワおよびカンボディアのとうもろこし開発ならびにタイー次産品(油糧種子,大豆)開発の3プロジェクトにつき専門家の派遣および機材供与による協力を行なつた。そのほか,とうもろこし開発のためにタイ(ラムナライ地方)およびインドネシア(ランポン州)にそれぞれ調査団を派遣した。

 

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