1954年のコロンボ・プラン参加を契機として始まつたわが国の経済協力は,わが国の経済力の充実とともに,量的にも質的にも目覚しい伸展を示した。この結果,わが国経済協力は開発途上国の経済開発に多大の貢献をなし,また,わが国の対開発途上国外交政策上もますます重要となりつつある。すなわち,援助量からみれば,1968年にはDAC加盟諸国中,米,ドイツ,フランスに次いで第4位,さらに1970年には一躍米国に次ぐ第2の援助国となつた。
1970年のわが国の援助総額は18億2,400万ドルで,前年の12億6,310万ドルに比べ,44.4%の増加を示し,この結果,援助量が議論される際の重要な指標となるGNP(国民総生産)との比率をみると,1970年は対GNP比0.93%に達し,わが国が1970年の5月(0ECD閣僚理事会における宮沢通産大臣演説)にわが国の努力目標として国際的に宣明した援助のGNP1%目標の達成に向つて大きく前進した。さらに1971年には総額21億4,050万ドル,GNP此0.96%となり,1%目標の達成までいま一歩に近づいた。
以上のように,わが国の経済協力は量的には一応自由世界第2のGNPを擁する国として恥ずかしくないレベルに達したといえるが,援助の質の面ではなお改善を要する点が少なくない。特に,真の援助ともいわれる政府開発援助(政府開発援助には,賠償,無償経済協力,技術協力,国際機関への贈与・拠出等及び政府貸付けが含まれる)は,1970年の実績でGNP比0.23%であり,同年におけるDAC諸国平均O.34%に比し,少なからず立ち遅れている。政府開発援助については「第2次国連開発の10年」の「1970年代の国際開発戦略」(1970年10月の国際連合25周年記念総会で採択)が政府開発援助をGNPの0.7%とするよう求めており,ドイツ,フランス,オランダなどが何れもこれに対して何らかの前向きの姿勢を示していることに鑑み,わが国としてもこの問題につき積極的な姿勢を打出すことが必要とみられていた。1971年9月3日の「総合的対外経済政策(8項目)」(「対外経済政策推進関係閣僚懇談会」決定)は,これらの事情を背景として,「政府開発援助の対GNP比を当面可及的すみやかにDAC平均水準にまで引き上げるよう努力するとともに,引き続き財政力を勘案しつつ,国際的要請の水準まで高めるよう努める」との方針を決定するとともに,さらに,その後の援助をめぐる国際的動向をもふまえて,4月13日から5週間にわたりチリのサンチャゴで開かれる第3回国連貿易開発会議に臨むにあたり,政府は,従来のラインを一歩進め,「政府開発援助の対GNP比O.7%の国際目標」の達成のために「最善の努力をする」との重要な政策決定を行なつた。このことは,前述した援助量についてのGNP1%目標の受諾決定とならんで,わが国の経済協力に関する積極的姿勢を国際的に明らかにしたものとして意義が大きい。
わが国援助の質的側面については,上述の政府開発援助の量の問題のほか,その条件の面でも改善の余地が少なくない。すなわち,わが国の援助条件は1970年実績でみると贈与比率が39%とDAC諸国平均63%に比して著しく低く,借款条件についてみても,わが国が平均金利3.7%,期間21.4年(うち据置期間6.7年)であるのに対し,DAC平均は2.8%,29.9年(7.4年)で,わが国の条件の厳しいことは明らかである。このため政府は,前述の「総合的対外経済政策等(8項目)」においても政府借款の条件緩和を努力目標として掲げるとともに,さらに第3回国連貿易開発会議に臨むにあたつて,政府開発援助の実体をなす無償資金協力,技術協力及び国際機関に対する協力の拡充ならびに政府借款条件の緩和に努め,政府開発援助の条件改善に,「格段の努力」を払うべき旨の方針を決定した。
なお,援助の質の面でいまひとつ大きな問題として援助のアンタイインク(ひも付き撤廃)がある。この問題については,1970年9月のDAC上級会議において国際機関拠出及び二国間政府借款の一般的アンタイイングにつき原則的合意が成立し,それ以来,DACにおいて一般的アンタイイング実施のための国際スキームの算定作業が行なわれてきたが未だ完全な合意を得るに至つていない。わが国は従来より援助の効率化及び開発途上国の利益の見地から,一般的アンタイイングを積極的に支持するとの立場をとつてきたところから,政府は第3回国連貿易開発会議に臨むにあたり,上に述べた0.7%目標及び政府開発援助の条件改善の問題とならんで,このアンタイインク問題をもとり上げ,これにつき,「遅くとも1974年ないし1975年」という期限を付して先進諸国が国際的スキームにつき合意に達するよう努力することが必要であるとし,更に一歩をすすめて,わが国としては,右の「国際的合意が成立する以前においても」2国間政府借款についてのアンタイイングの積極的拡大に努めることはもとより,さらに,情勢をみつつ,「全面的アンタイイングの一方的実施」をも検討すると取極めて前向きの方針を打出したことは注目に値する。わが国の経済協力は現在,関係省庁の協議によつて実施されているが,重要問題については,「対外経済協力閣僚懇談会」が必要の都度開催され,重要政策問題の調整に当つている。なお,経済協力については広く国民の総意を反映させる必要があるところから,民間有識者によつて構成される内閣総理大臣の諮問機関として「対外経済協力審議会」が設けられており,1971年9月には技術協力及び民間経済協力に関する答申が行なわれ,さらに10月には前期委員の任期満了を前にして最終答申が総理大臣に提出され,政府はこれら答申を尊重し,今後の施策に反映させる考えであるが,急遠な国際的変化に対応するため,本年3月には新委員を任命し,引続き同審議会を活用する態勢を整えた。
以下にわが国の経済協力の内容を資金協力と技術協力に分け,国際的に使用されているDACの分類に従つて略述するとともに,国際機関を通じて行なわれる経済協力のための国際協力について述べる。なお,以下の1971年の援助実績数字は,DACへの報告として,円建額で集計したものを基礎に,変動相場制移行後の実勢レートを加味した1ドル=350.83円の換算レートを使用して算出した。ただし,第2節1の(3)の国際機関への出資,拠出額は実際に支出したドル建額によつた。(わが国の過去5年間の経済協力実績に関する統計資料を参考まで第3部に集録した。)