-資 源 問 題-

 

第4節 資 源 問 題

 

1. 発展途上の資源保有国の攻勢

 

1971年の資源問題は,OPECの原油公示価格引上攻勢ではじまり,12月のリビア政府によるB.P.(British Petroleum Company)の在リビア子会杜の国有化で終つたと言えよう。

周知のとおり,1971年春OPEC加盟産油国の攻勢を背景として,テヘラン,トリポリ等協定締結交渉がOPECと国際石油会社の間で行なわれ,国際石油会社は大幅な譲歩を強いられ,産油国の勝利のうちに終了した。

その後,OPEC加盟産油国は,1971年7月第24回OPECウィーン総会を,また,9月に第25回ベイルート総会を開催し,1968年の第16回OPECウィーン総会の決議の中でその基本理念が確立された参加政策をOPECの統一政策としてとりあげ,OPEC加盟産油国政府が如何なる形でも資本参加していない旧石油利権に対する参加攻勢をかけてきた。1972年1月21日よりジュネーヴで開催されたOPEC加盟産油国と国際石油会社の間の交渉では,OPEC側がかなり高姿勢でその全般的要求説明を行なつたが,国際石油会社側は基本的に反対しており,今後の交渉の推移が注目されている。OPECの参加攻勢は,発展途上国の資源ナショナリズムに基く参加政策ないし国有化政策として注目に値するところであり,国際産銅資本に対するCIPEC(銅輸出国政府間協議会)加盟産銅国(チリ,ペルー,ザンビア,ザイール)の最近の国有化政策,国際石油資本に対するアルジェリア,リビア等の急進派産油国の国有化政策は同じ傾向を有するものと考えられる。

既に指摘されているように,OPEC加盟産油国の参加要求はグローバルな国際石油秩序の枠内での国際石油会社の役割に直接挑戦しようとするものであり,かつ,参加(究極的には石油生産の国家支配とみられる)が実現すれば,従来の国際石油会社と産油国との関係が大幅に修正され,世界の原油供給体系全体に価格面,投資面等で重大な影響を及ぼすであろう。

なお,ニクソン政権の新経済政策に伴ない,金とドルの交換性が停止され,世界の主要国際通貨がフロートに移行した結果,OPEC加盟産油国は前記第25回ベイルート総会においてドルの実質的価値の下落に伴なう政府の石油収入の減少に対処するため,原油の公示価格引上を国際石油会社に対し要求する決議を採択した。その結果1972年1月10日よりジュネーヴで交渉が行なわれ,テヘラン協定への追加の形で,ドルの対金引下率にほぼ等しい8.49%の原油公示価格の引上を内容とするジュネーヴ協定が締結された。このことは,OPEC加盟産油国は国際石油会社との力関係において依然として勝つていることを再確認したものと言えよう。

 

2. 石油資源をめぐる国際情勢

 

上記のOPECの参加攻勢をめぐつて,とくに,外交的側面から考慮する必要のあるのは,中東における米ソの角逐であろう。周知のとおり,中東・北アフリカのアラブ圏に世界の低コストの石油資源の大部分が賦存しており,そこで西側の国際石油会社が原油を生産し,西側諸国に供給していることは,国際政治における米ソの対中東政策を一層複雑化しているわけである。一方で,米国では国内原油生産が1970年代前半で頭打ちとなり,対中東依存度が増大するであろう。他方,石油輸出余力が増加するにしても減少するにしても対中東・北アフリカ地域の産油国に対する経済協力,技術協力等によりソ連の全般的立場を維持し,西側に抵抗する民族主義グループを強化し,国際石油情勢にかなりの影響力を確保しようとするソ連の動向は重要視せざるを得ない。OPEC加盟産油国の事業参加政策は,前記のとおり,資源ナショナリズムに基く根強い要求であるところ,これに対する国際石油会社ないしその母国政府の行動いかんが中東紛争の当事者であるOPEC加盟アラブ諸国とイスラエルの関係をいやが上にも一層複雑で解決困難なものとする惧が多分にあり米ソの平和共存体制のバランスにも大きな影響を及ぼす惧なしとしない。OPEC加盟産油国のうち,西側の国際石油資本に対し強い嫌悪感を抱く強硬派諸国の民族主義グループを一層強化する可能性があり,この地域でのソ連の全般的立場は強化され,西側の安全保障が著しく損われる可能性もある。発展途上の資源保有国の攻勢はまさに国連の「天然資源の垣久主権」に関する決議の具体的適用とみて差支なく,その保有資源を最も効果的に国民経済開発戦略として活用するためのものであるところ,直接的には原油の主要供給者である国際石油会社の利益とまつこうから対立するわけである。国際石油会社の母国やわが国の如き石油大消費国が,かかるOPEC攻勢を前にして,それぞれ消費国,国際石油会社,OPEC加盟産油国の利益を大局的にどのように調整していくかが今後の主要関係国の資源外交上の重要課題と考えられる。

 

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