-中南米地域-

 

第4節 中南米地域

 

1. 概    観

 

わが国と中南米諸国とは歴史的に良好な関係を維持して来たが,特にわが国の最近の目覚ましい経済力の進展に伴ない中南米諸国よりわが国との経済関係を緊密化するための接近が目立つて多くなつている。

他方わが国にとつても中南米諸国は,20世紀初頭以来日本人移住者の主要受入れ先として,1970年現在約77万人の邦人及び日系人を擁するに至つている上,わが国の工業原材料の安定した供給先としても,また貿易相手国としてもその重要性を高めつつある。

このような背景のもとに,近年わが国と中南米諸国との間の定期的協議や経済使節団などによる政府・民間要人の人的交流がますます深まつている折しも,1971年10月22日に対外経済協力審議会は,わが国の対外開発協力に関し,従来のアジア地域集中を排して全世界的に拡大せしめることを趣旨とする最終答申を提案しており,経済技術協力を中心としてわが国と中南米諸国との関係の飛躍的発展の機はまさに熟したということが出来よう。

 

2. 通商および経済協力

 

 (1) 対中南米経済関係

わが国の中南米からの主たる輸入品目は鉄鉱石(チリ,ペルー,ブラジル),非鉄金属(チリ,ペルー,ボリヴィアの銅。ペルーの亜鉛),綿花(メキシコ,ブラジル,ニカラグア,エル・サルバドル,グァテマラ)および砂糖(キューバ)であり,これらのみで輸入総額中3分の2以上を占めている。これらはわが国の経済発展に不可欠な産品であり,資源確保の意味からも中南米の輸入市場としての重要性はきわめて大きい。

輸出については鉄鋼と機械類が主要品目であり,繊維製品およびその他の軽工業製品は中南米地域内の比較的先進国において輸入代替が進だんことおよびそれらの諸国が国内産業保護の立場から消費財の輸入を抑制していることなどにより,近年著しくその重要性を減じている。

このようにわが国と中南米との貿易は,わが国の資本財と中南米の一次産品によつて補完関係をなしており,今後一層の発展が期待されるが,中南米諸国はわが国よりのプラントの輸入に際してソフトな条件による融資が伴うことを要求しているので,今後の貿易関係増進のために政府借款やバンク・ローンなどの資金協力の必要性が高まつて来ている。

 (2) 対中南米経済技術協力

わが国は中南米諸国に対し日本輸出入銀行ないし海外経済協力基金の資金利用による延払輸出,円借款の供与,輸出信用枠(クレジット・ライン)の供与,国際金融機関との協調融資,全米開発銀行及び中米経済統合銀行への融資,民間投資を通ずる経済協力,あるいは専門家の派遣,研修員の受入れ,訓練センターの設置等による技術協力を行なつているが,71年度の主たる実績は次の通りである。

(イ)中南米地域に対する初めての円借款が,ペルーのリマ・チンボテ間送電線計画(54億円),タララ肥料工場建設計画(139億円)及びマイクロ網建設計画(40億円)に供与されることとなつた。

(ロ)近年中南米諸国で入札の条件として要求される例が多くなつていたバイヤーズ・クレジット方式が,輸出保険法の改正によつて可能となり,ブラジルのCEMIG社サン・シモン発電所建設計画にわが国としては初めてのバイヤーズ・クレジット供与が決定されたほか,同じくブラジルのマリンボンド水力発電計画及びメキシコのラス・トルーチャス製鉄所建設計画,第4次電力開発計画についてもバイヤーズ・クレジットが供与されることとなつた。

(ハ)全米開発銀行に対して第4次借款(2,000万ドル)が供与されることとなつた。

(ニ)技術協力に関しては,71年度に中南米に派遣した専門家は62名,受け入れた研修員は182名,調査団派遣は3件(メキシコ及びコスタ・リカ太平洋岸港湾整備予備調査団,パラグァイ通信衛星地上局及びマイクロウェーブ網建設調査団,コロンビアのフルミート水力発電計画基礎調査団)であつた。

 (3) 日墨研修生・学生等交流計画

メキシコのエチェベリーア大統領の発意に基づき,1971年3月3日付のラバサ・メキシコ外相と在墨加藤大使との間の書簡交換により開始された日墨両国が100名以内の研修生および学生などを10ヵ月間相手国で研修せしめる交流計画は,円滑に実施された。

この計画に従い,1971年度中にメキシコ政府推薦のメキシコ人研修生97名がわが国の海外技術協力事業団および海外技術者研修協会によつて受け入れられ,技術実習を主体とした研修を行ない,他方わが国からは経済団体連合会を通じて推薦された企業関係研修生および大学などを通じて推薦された学生など計99名がメキシコの国家科学技術審議会によつて受け入れられ,同国各地の大学などにおいて,スペイン語その他の科目を研修した。

この交流計画は1972年度も同じ規模で行なわれる予定である。

 (4) 対ペルー債権繰り延べ

ペルー政府は,1968年以降外貨危機打開のため2回に亘り債務の繰り延べを行ない,わが国も総額約15百万ドルの債権繰り延べに応じたところ,更に,1971年2月同国は債務救済と国内開発計画の実施に伴う資金協力を目的とする債権国会議の開催を,わが国を含む主要債権国に要請した。同年6月パリにおいて同会議が開催されたが,わが国は,債権繰り延べの手段によることなく各債権国が資金協力を行なうことがペルーの経済発展に寄与する旨主張した結果,参加国の各々の政府の名で世界銀行に対し早期に対ペルー協議グループ会議の召集を求め資金協力を行なうことを骨子とする大綱が作成された。よつて,わが国は右大綱に基づき,1972年2月に開催される協議グループ会議に先立つてペルーの肥料工場,マイクロ網建設プロジェクトに対し,総額約49百万ドルに相当する円借款の供与を決定した。

 (5) 対チリ債権繰り延ベ

チリ政府は国際収支困難を打開するため,1971年11月わが国を含む主要債権国に対して債務繰り延べを要請した。このため1972年2月から3月にかけてパリにおいて3回の債権国会議が開催されたが,繰り延べ条件についてチリ側と債権国側との間の意見に隔りがあるため合意するに至らず,日を改めて協議することとなつた。

 (6) 南米経済使節団の派遣

昭和45年度のアンデス諸国訪問(コロンビア,ヴェネズエラ,エクアドル,ペルー)の経済使節団があげた成果に鑑み,土光東芝社長ほか24名からなる政府派遣南米経済使節団は12月3日から18日までブラジル,アルゼンティン,チリの3カ国を訪問した。

これら諸国はわが国が必要とする鉄鉱石,銅,綿花などの一次産品の主要供給先であるが,同時に従来の米国の強い経済的影響力からの脱却を図つて着々と工業化の道を歩みつつあり,こうした背景の下に従来から良好な関係を維持して来たわが国との貿易および経済・技術協力関係緊密化を強く希望している折柄,同経済使節団はこれら訪問国側の大きな期待をもつて迎えられた。

同使節団は訪問先において大統領をはじめ経済関係閣僚,商工会議所など政府や経済界の指導者と意見交換を行ない,また現地の経済事情をつぶさに視察して今後のわが国とこれら諸国との経済協力,特に投融資による協力の可能性を検討し,その結果を報告書にまとめて提出した。

 (7) メキシコ経済使節団の来日

トーレス・マンソ商工大臣を団長とし,81名のメンバーからなるメキシコの官民合同経済使節団が1971年11月28日から12月11日にわたつて来日し,皇太子殿下に謁見したほか,日墨両国間の貿易,とくにメキシコ産品の対日輸出増大,経済技術協力の問題について,福田外務大臣,水田大蔵大臣,田中通産大臣等の政府首脳,各省庁幹部,政府金融機関,財界などと幅広い話し合いを行なつた。

 (8) アンデス地域統合使節団の来訪

ボリヴィア・チリ・コロンビア・エクアドル,ペルーの5カ国を加盟国とするアンデス地域統合は,10月10日より16日までの間,わが国の政府・民間の同統合に対する認識と理解を深めもつて同統合に対するわが国よりの経済・技術協力を得る基礎とすることを目的として,同統合理事会のソマビア議長および同統合執行委員会のサラサール委員と在京の上記5カ国大使または代理大使をもつて構成する使節団をわが国に派遣した。

同使節団は,滞日中わが政府関係諸機関の代表ならびに経団連・日本商工会議所などと会談を行なつた。16日わが政府側諸機関代表と同使節団との間で双方の関心事項協議のため政府事務レベルの合同委員会の設立に合意したことその他を内容とする共同コミュニケを作成発表した。

 

3. 貿易交渉

 

 日本とグァテマラとの間の貿易上の待遇供与に関する書簡の交換

従来わが国とグァテマラとの間には通商関係を規制するなんらの協定や取決めも存在しなかつたので,わが国は1971年3月グァテマラ市において荒井臨時代理大使とエレーラ・グァテマラ外相との間に,両国が相互に関税,輸出入規則・手続などに関し,国内法令の範囲内で無差別の原則に基づいてできる限り好意的な待遇を与える旨の書簡を交換した。

 

4. 定期協議関係

 

 (1) 日伯経済合同委員会第3回会議

日伯経済合同委員会第3回会議は外務省人見中南米審議官を団長とするわが代表団と,ブラジル外務省パウロ・パジーリャ・ビダル東欧・アジア局長を団長とするブラジル代表団との間で,1971年10月26日,27日の両日,ブラジリアで開催された。両国代表団は日伯両国の経済情勢,政策,両国間貿易,経済技術協力関係などの問題につき意見を交換し要望事項を提出した後共同コミュニケを発表した。

 (2) 日墨経済合同委員会第4回会議

日墨経済合同委員会第4回会議は1971年10月21日,22日の両日メキシコにおいて開催された。外務省人見中南米審議官を団長とするわが国代表団と,メンドサ商工次官を団長とするメキシコ側代表団との間で,相互に自国の経済情勢を説明し,両国間の貿易,経済技術協力関係などの問題につき意見を交換し要望を行なつた後,共同新聞発表を行なつた。

 (3) 日墨漁業定期会合

第3回日墨漁業定期会合は,1971年9月20日,21日の両日東京において開催された。外務省人見中南米審議官を団長とするわが国代表団と,カストロ・イ・カストロ外務次官補を団長とするメキシコ側代表団との間で,日墨漁業協定に規定するメキシコ領海に接続する水域内の操業区域における日本国船舶の漁業活動について意見の交換を行なった後共同報告書を作成した。

 

5.日墨航空協定の署名

 

「航空業務に関する日本国政府とメキシコ合衆国政府との間の協定」は,1971年11月3日から22日までメキシコ市において,在メキシコ大使館林公使を団長とするわが国代表団と,ロドリーゲス・卜ーレス通信運輸省航空局長を団長とするメキシコ代表団との間で交渉が行なわれ,その結果実質的に妥結し,同22日両国代表団長の間でイニシャルが行なわれていたところ,1972年3月エチェベリーア・メキシコ大統領の国賓としての訪日の機会に,同年3月10日外務省において,福田外務大臣とラバサ・メキシコ外務大臣との間で署名が行なわれた。

この協定の署名がなされたので,日墨両国のそれぞれの指定航空企業は,日本とメキシコとの間の定期航空運送を行なうことができることとなり,わが国の指定航空企業である日本航空は,同年4月3日より東京-ヴァンクーヴァー-メキシコ市の路線での運航を開始した。

日本航空のメキシコ線運航は,同航空の中南米地域への初めての定期運航であり,わが国と中南米諸国との関係の緊密化にとり,少なからぬ意義を持つものといえよう。

なお,メキシコ航空の運航開始時期は未定である。

 

6. エチェベリーア・メキシコ大統領の訪日

 

エチェベリーア大統領夫妻は,本年3月9日から14日までの間,国賓としてわが国を訪問した。一行は,大統領夫妻のほか,ラバサ外務大臣,トーレス商工大臣,メンデス通信運輸大臣の3閣僚を始め,各省庁幹部,報道関係者等99名にのぼる大型訪日団であり,更に,大統領一行の訪日に前後して来日した民間実業人は約300名といわれており,メキシコの対日接近への意気込みの程を示したものと言える。

大統領夫妻は,天皇・皇后両陛下と会見したほか,宮中晩餐会,総理大臣晩餐会に出席した。大統領は,総理大臣と会談したほか,随行の3閣僚を始め,メキシコ政府要人をして,わが方関係大臣等の要人と個別会談を行なわしめた。これら諸会談の結果,3月14日総理大臣・大統領の間で共同コミュニケが発表されたが,両国首脳は同コミュニケにおいて,国連に対する両国の支持の強化,軍縮に関する話合いの促進,両国間の文化・科学・技術交流の促進及び文化協定の効果的実施,貿易の促進,メキシコにおける共同投資の促進,メキシコ太平洋岸港湾改善計画,ラス・トルーチャス製鉄所建設計画及びメキシコ第4次電力計画に対するわが国からの経済協力の促進等について意見の一致をみるとともに,大統領訪日中両国外務大臣間で行なわれた航空協定の署名及び査証免除の取極めについて満足の意を表した旨を述べている。

今回の大統領訪日は,日墨両国間の政治・経済・文化等の関係増大に大いに資するところがあつたものと言えよう。

 

中南米地域要人来訪一覧表

 

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