-軍縮問題-

 

第3節 軍 縮 問 題

 

 

1.わが国の軍縮委員会の加入の実現

 

 わが国は,軍縮促進に貢献するため18カ国軍縮委員会に加入することを希望し,かねてより,同委員会の共同議長国である米ソ両国に加入希望を申し入れ種々働きかけてきたが,1969年5月末に至り,わが国とモンゴルの新規加入について,共同議長国間に合意が成立し,わが国に対し参加招請状が送られてきた。このため,わが国は,同年7月3日より軍縮委員会の審議に参加し,積極的に活動している(後述2,(2),参照)。なお,わが国およびモンゴルのほか,同年8月に,オランダ,ハンガリー,パキスタン,モロッコ,ユーゴ,アルゼンティンの6カ国が加入し,加盟国は26カ国となったので,「18カ国軍縮委員会」(ENDC)の名称は「軍縮委員会」(CCD)に改められた。

 

2.軍縮委員会の審議

 

(1)審議の概要

(あ)本年度の軍縮委員会では(イ)海底軍事利用禁止,(ロ)地下核兵器実験禁止,(ハ)化学・生物(細菌)兵器禁止,の3問題が最も活発に討議された。このうち,海底軍事利用禁止の審議が最も進展をみせ,夏の会期の終了近くになって米ソ両国は,「(イ)核または他の大量破壊兵器の付属する物体,かかる兵器の貯蔵,実験または使用を目的とする構造物,発射施設等を沿岸国の距岸12カイリ以遠の海底,海床およびその地下に設置することを禁 止し,(ロ)他の当事国の海底での活動が条約義務履行についての疑惑を生ぜしめるときは,当事国は,公海の自由を含め国際法で認められる権利を侵害することなく,当該活動を検証する権利を有する」旨を骨子とする条約案を提出し,その後同条約案は軍縮委員会の報告書の付属として国連総会に送付された。

(い)地下核兵器実験禁止については,現地査察の要否をめぐる米ソの対立が依然として続いており,また,化学・生物(細菌)兵器禁止については,問題の取組み方(化学兵器と生物(細菌)兵器を分離して取り扱うかどうかの点を含め)自体について各国の意見が分れており,このため委員会では実質的な討議が行なわれたものの,本件につき具体的進展をみるに至らなかった。

(2)わが国の活動

わが国は,7月3日より始まった夏の会期(第16会期)に初めて軍縮委員会の審議に参加したが,初参加こもかかわらず,わが国は極めて積極的に活動し,この活動は軍縮委員会参加各国から高く評価された。

朝海代表は,審議の冒頭軍縮問題に対するわが国の基本的態度を説明し,次いで審議の焦点となっている海底軍事利用禁止,地下核兵器実験禁止,化学・生物(細菌)兵器禁止の3問題につき発言した。更に中山代表が会期終了間際に提出された海底軍事利用禁止に関する米ソ条約案に対するわが国の見解を明らかにした。わが代表の発言のうち,注目すべき点は次のとおりである。

(あ)わが国の軍縮に対する基本的態度

7月3日,朝海代表は,まず軍縮の理念として,「抑止力の規模を,均衡を保ちつつ漸次縮小し,核兵器の全廃に導くこと」を強調し,次いで,わが国の平和憲法の趣旨を説明し,非核三原則に言及し,軍縮の促進にいっそう協力する決意を表明した。更に同代表は,すべての核兵器国が完全軍縮に向かって努力することを希望する一方,「一歩一歩可能なところ」からの部分的措置の積み上げの必要を説いた。

(い)海底軍事利用禁止

本件に関し,朝海代表は7月16日,公海下であると領海下であるとを問わず,核,その他の大量破壊兵器を海底に説置することを禁ずるべきであると述べた。

(う)地下核兵器実験禁止

本件については,現地査察の要否をめぐる米ソ間の対立を解消するため,スウェーデンなどの努力が続けられているが,朝海代表は7月30日,地下核兵器実験禁止条約締結のため,要旨次の提案を行なった。

(a)一定期間内に,マグニチュード4.0以上のすべての地下爆発を監視し得る検証制度を設置するため,すべての国が協力するとの約束をとり付けた上で,マグニチュード4.75以上の地下実験を禁止する。

(b)右の検証制度が完成した時,全面的な地下実験の禁止に踏み切る。

(c)右の検証制度完成のため,マグニチュード決定のための制度を設置し,地震観測所の適切な分布を確保し,地震データの国際交換制度を確立し,国際監視センターを設置する。

地震学的方法に基づく朝海代表の発言は,わが国の高度な科学技術を反映したものとして,各国より高く評価された。

(え)化学・生物兵器禁止

本件につき,8月14日朝海代表は,要旨次のとおり発言した。

(a)化学・生物兵器は,その使用のみならず,その開発,製造,貯蔵をも禁止すべきである。

(b)英国提案は,(69年7月10日に軍縮委に提出された条約案でとりあえず生物兵器のみその使用,開発,製造を禁止し,貯蔵を廃棄することを骨子とする)生物兵器に関する限り,開発,製造,貯蔵にまで範囲を拡大しており,日本はかかる包括的アプローチを歓迎する。しかし,生物兵器と化学兵器を単に性質が異なるという理由により分離するのは適当でない。

(C)英国提案は検証の問題で自国に対して使用されたと信ずる当事国の要請に基づいて国連事務総長が自動的に独自の調査を行なう権限を付与しているが,これは効果的な抑制力として働くものと信ずる。この方式を化学兵器の使用禁止の検証にも適用することは可能である。

(d)開発,製造,貯蔵の禁止の検証は,使用の検証より複雑であるが,生物兵器よりも化学兵器の方が困難であろう。

(e)このため,検証に関する技術問題の研究を国際的な専門家グループに委任することを示唆する。

(f)ジュネーヴ議定書は,化学・細菌兵器の使用を禁止したのみであり,また,禁止の範囲の解釈について異なった意見があるので, 完全に満足し得る条約ではない。わが国は,化学・生物兵器の完全禁止のために努力するが,近い将来そのような合意が達せられない場合は,ジュネーヴ議定書の批准を考慮する用意がある。

 

3.第24回総会における審議

 

 国連第24回総会は,全面完全軍縮,化学・生物(細菌)兵器禁止,地下核兵器実験禁止,非核兵器国会議の軍縮関係4議題について審議を行なったが,総会において採択された決議のうち,主要なものは次のとおりであった。

(1)全面完全軍縮

(あ)わが国はイタリア,アイルランドと共に「1970年代を軍縮の10年とし,全面完全軍縮条約を目標とし,軍縮により節約される経費を発展途上国援助に向けるべし」との趣旨の決議案を提出し,同決議案は賛成104,反対O,棄権13,により採択された。(決議2602E(XXIV)

(い)本年度の軍縮委員会の大詰めに,米ソ両国は,海底軍事利用禁止に関する共同条約案(前記2,(2)(あ)参照)を提出し,同条約案は軍縮委報告書の付属として今次総会に送付された。しかし,同条約案に対しては多数の諸国が,とくに検証問題および大陸棚関係で多岐に亘る提案を行ない,あるいは修正案を提出したため,総会で最終的に確定するに至らず,米,ソ,わが国等33カ国は,「軍縮委員会は今次総会で提出されたすべての提案および示唆を考慮して審議を継続し,条約案のテキストを次期総会に提出するよう要請する」旨の決議案を提出し,これは賛成116,反対0,棄権4で採択された。(決議2602F(XXIV))

(2)化学・生物(細菌)兵器禁止間題

カナダ,米国,ソ連等32カ国は「(あ)ジュネーヴ議定書の厳格な遵守および同議定書に未加入,または未批准の国が,1970年中に加入または批准するよう勧誘する,(い)化学・生物(細菌)兵器に関する国連事務総長報告を周知せしめるべきこと,(う)ソ連等共産圏諸国9カ国の提出した化学・生物 (細菌)兵器禁止条約案および英国が提出した生物学的戦争方法の禁止に関する条約案に留意して,化学・生物(細菌)兵器禁止条約作成のために緊急に審議を行ない,その交渉の結果について第25回国連総会に報告するよう軍縮委員会に要請する」ことを骨子とした決議案を提出し,賛成120(わが国を含む),反対0,棄権1で採択した。(決議2603B(XXIV))

また,スウェーデン等21ヵ国は「国際間の武力紛争におけるあらゆる化学・生物兵器の使用は,ジュネーヴ議定書に具現されている国際法の違反である旨総会が宣言する」との趣旨の決議案を提出し,これは賛成80,反対3(米国,豪州,ポルトガル),棄権36(わが国を含む)で採択された(決議2603A(XXIV))

なお鶴岡代表は表決に際し,(i)ジュネーヴ議定書の締約国はいまだかつて同議定書で禁止されている化学剤の範囲,なかんずく,催涙ガスが同議定書に含まれているか否かにつき統一解釈を行なったことはない,(ii)条約の解釈は,当事国の合意によってのみ確定すべきであり,総会が同議定書の解釈につき行なう宣言の法的効果につき多大の疑問を有する旨の投票理由説明を行なった。

(3)地下核兵器実験禁止問題

まず,地下核兵器実験禁止問題では,わが国は,カナダ,英国等軍縮委員会メンバー諸国10カ国と共に,「世界的な地震データ交換を確立するため,地震データを提出する用意のある観測所のリストの提出を,国連事務総長から各国に要請し,その回答を各国に配布するよう国連事務総長に要請する」との趣旨の決議案を提出したが,この決議案は,軍縮委員会におけるわが国提案(前記2,参照)の具体化の第1歩としての意義を有するものであった。同決議案は,賛成99,反対7(ソ連その他の共産圏諸国),棄権13により採択された。(決議26004A(XXIV))

なお,軍縮委員会メンバー非同盟諸国10カ国は,「CCDに対し,CCDで既になされた提案および今次国連総会で示された見解を勘案の上,地下核兵器実験禁止条約案審議を継続し,第25回国連総会に本件に関する特別報告書を提出するよう要請する」との趣旨の決議案を提出し,同決議案は賛成115(わが国を含む)反対0,棄権4,で採択された。(決議2604B(XXIV))

 

4.核兵器不拡散条約とわが国

 

(1)条約の発効

核兵器の不拡散条約は,1968年7月1日署名のために開放されたが,(条約の成立経緯等については,「わが外交の近況」第13号第1部第2章4,第2部第4章軍縮問題,の項参照)署名,批准国は遂次増加し,1970年3月5日,所要の数(米,英,ソを含む43カ国)以上の批准書寄託を得て発効した。1970年3月末現在の条約署名国は98(わが国を含む),批准書寄託国は50である。

(2)わが国の条約署名

(あ)わが国は,当初より核兵器国の増加を防止するとの条約の精神に賛成し,条約作成過程において核軍縮,非核兵器国の安全保障,原子力平和利用等に関するわが国の主張が条約に反映されるよう努力を重ねた結果,条約中にはわが国の主張がおおむねとり入れられた。したがって,わが国は,1968年の国連再開総会での条約推奨決議に賛成投票した。

(い)1970年2月3日,わが国は,条約が間もなく発効するとの見通しを得たのを機会に条約に署名した。しかしながら,この条約は,軍縮,安全保障,原子力平和利用等わが国の国益に重大なかかわりを有する問題を含んでいるので,わが国は条約署名に際して政府声明(資料3の(7))を発表し,これらの問題に対するわが国の見解を内外に明らかにした。

(う)条約批准に対するわが国の態度

わが国の条約批准については,前述の政府声明で述べたとおり,「軍縮交渉の推移,国連安保理事会による非核兵器国の安全保障のための決議の実施状況に注目する」ほか,条約第3条に基づき,わが国が国際原子力機関との間に今後締結する原子力平和利用に対する保障措置協定の内容が,他の締約国が個別に,または他国と共同して締結する協定の内容と比べて,実質的に不利なものとならないとの見通しをつけた上で批准手続をとることとしている。

 

 

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