4. 日本の締結した重要国際取決め
(1) 南方諸島及びその他の諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定(米国との小笠原返還協定)
(昭和43年4月5日に東京で著名,同年6月26日に効力発生)
日本国総理大臣とアメリカ合衆国大統領は1967年11月14日及び15日に南方諸島及びその他の諸島の地位について検討し,これらの諸島の日本国への早期復帰をこの地域の安全をそこなうことなく達成するための具体的な取極に関して日本国政府及びアメリカ合衆国政府が直ちに協議に入ることに合意したので,
アメリカ合衆国は,南方諸島及びその他の諸島に関し,1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第3条の規定に基づくすべての権利及び利益を日本国のために放棄することを希望するので,また,
日本国は,南方諸島及びその他の諸島の領域及び住民に対する行政,立法及び司法上のすべての権力を行使するための完全な権能及び責任を引き受けることを望むので,
よって,日本国政府及びアメリカ合衆国政府は,この協定を締結することに決定し,このためそれぞれの代表者を任命した。これらの代表者は,次のとおり協定した。
第1条
1 アメリカ合衆国は,2に定義する南方諸島及びその他の諸島に関し,1951年9月8日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第3条の規定に基づくすべての権利及び利益を,この協定の効力発生の日から日本国のために放棄する。日本国は,前記の日に,これらの諸島の領域及び住民に対する行政,立法及び司法上のすべての権力を行使するための完全な権能及び責任を引き受ける。
2 この協定の適用上,「南方諸島及びその他の諸島」とは,孀婦岩の南の南方諸島(小笠原群島,西之島及び火山列島を含む。)並びに沖の鳥島及び南鳥島をいい,これらの諸島の領水を含む。
第2条
日本国とアメリカ合衆国との間に締結された条約及びその他の協定(1960年1月19日にワシントンで署名された日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約及びこれに関連する取極並びに1953年4月2日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の友好通商航海条約を含むが,これらに限られない。)は,この協定の効力発生の日から南方諸島及びその他の諸島に適用されることが確認される。
第3条
1 合衆国軍隊が現に利用している硫黄島及び南鳥島における通信施設用地(ロラン局)は,1960年1月19日にワシントンで署名された日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定に定める手続に従って,合衆国軍隊が使用する。もっとも,避けがたい遅延のためこの協定の効力発生の日までに前記の手続によることができない場合には,日本国は,アメリカ合衆国に対し,その手続が完了するまでの間,これらの特定の用地を引き続き使用することを許すものとする。
2 合衆国軍隊が現に利用している南方諸島及びその他の諸島における設備及び用地は,1に掲げるものを除くほか,この協定の効力発生の日に日本国に引き渡される。もっとも,避けがたい遅延のためこの協定の効力発生の日までに前記の引渡しを完了することができない場合には,日本国は,アメリカ合衆国に対し,その引渡しが完了するまでの間,これらの設備及び用地を引き続き使用することを許すものとする。
3 必要な手続又は引渡しが完了するまでの間合衆国軍隊が1及び2の規定に基づいて行なう設備及び用地の使用は,1960年1月19日にワシントンで署名された日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に従って行なわれた取極により規律されるものとする。
第4条
合衆国気象局が現に運営している南鳥島の測候所は,この協定の効力発生の日に日本国政府に引き渡される。この引渡しについて避けがたい遅延がある場合には,引渡しが完了するまでの間,測候所の現状どおりの運営が継続されることが合意される。
第5条
1 日本国は,この協定の効力発生の日前に南方諸島及びその他の諸島におけるアメリカ合衆国の軍隊若しくは当局の存在,職務遂行若しくは行動又はこれらの諸島に影響を及ぼしたアメリカ合衆国の軍隊若しくは当局の存在,職務遂行若しくは行動から生じたアメリカ合衆国及びその国民並びにこれらの諸島の現地当局に対する日本国及びその国民のすべての請求権を放棄する。ただし,前記の放棄には,これらの諸島の合衆国による施政の期間中に適用されたアメリカ合衆国の法令又はこれらの諸島の現地法令により特に認められる日本国民の請求権の放棄を含まない。
2 日本国は,南方諸島及びその他の諸島の合衆国による施政の期間中に合衆国の当局若しくは現地当局の指令に基づいて若しくはその結果として行なわれ,又は当時の法令によって許可されたすべての作為又は不作為の効力を承認し,合衆国国民又はこれらの諸島の居住者をこれらの作為又は不作為から生ずる民事又は刑事の責任に問ういかなる行動も執らないものとする。
3 合衆国の当局又は現地当局は,南方諸島及びその他の諸島の合衆国による施政の期間中,これらの諸島における財産権及び所有利益で,日本国及び前記の期間中にアメリカ合衆国が執った措置により当該財産権又は利益の使用,収益又は行使を不可能にされた日本国民に属するものの権原を移転するようないかなる公的な行動も執らなかつたことが確認される。
第6条
この協定は,日本国がその国内法上の手続に従ってこの協定を承認した旨の通知をアメリカ合衆国政府が日本国政府から受領した日の後30日目の日に効力を生ずる。
以上の証拠として,下名は,各自の政府から正当な委任を受け,この協定に署名した。
1968年4月5日に東京で,ひとしく正文である日本語及び英語により本書二通を作成した。
日本国のために 三木武夫
アメリカ合衆国のために U・アレクシス・ジョンソン
(硫黄島の記念碑に関する書簡)
拝啓
日本国との平和条約第3条の規定に基づいて合衆国政府が行使してきた小笠原群島及びその他の諸島の施政権が,日本国に返還されることになったことは,本大臣の深く満足するところであります。このたび返還される諸島のうち,硫黄島は,太平洋戦争の過程において,最も激しい戦闘の一つが行なわれた地であります。
この硫黄島の摺鉢山の頂上には,勇敢に戦った合衆国海兵隊員のための記念碑があります。合衆国側がこの記念碑を長く残したい気持は,よく理解されるところであります。しかし,この戦場は,わが日本の兵士も同様に勇敢に戦った戦場であります。したがって,今回硫黄島の返還を機として,日本の兵士のための記念碑も建てられ,この二つの記念碑が両国永遠の平和を願い,かつ,両国勇士の勇敢と献身を記念するものとしてこの地に長く残ることを念願するものであります。
よって,本大臣は,合衆国に対し,合衆国海兵隊員のための記念碑が摺鉢山に存置され,合衆国の関係者がこれに立ち入ることができるようにすることが日本国政府の意図であることを閣下にお伝えします。
敬具
昭和43年4月5日
日本国外務大臣 三木武夫
日本国駐在アメリカ合衆国特命全権大使
U・アレクシス・ジョンソン閣下
(2) 日本国の指定航空企業によるシベリア上空を経由する自主運航の開始の時期に関する交換公文
(1969年3月7日東京で)
(日本側書簡)
書簡をもって啓上いたします。本大臣は,1969年2月6日から13日まで東京において,日本国運輸大臣原田憲とソヴィエト社会主義共和国連邦民間航空大臣エ・エフ・ロギノフとの間で,両国間の航空業務を拡大する問題について行なわれた交渉に言及し,その交渉において,ソヴィエト社会主義共和国連邦政府が日本国の指定航空企業に対しその航空機及び乗組員によるシベリア上空を経由する運航の開始を認めることを考慮し,かつ,両国間の航空業務の一層の拡大を目的として到達された次の了解を日本国政府に代わって確認する光栄を有します。
1 ソヴィエト社会主義共和国連邦政府は,日本国の指定航空企業が,1966年1月21日に署名された航空業務に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定(以下「協定」という。)に基づき,特定の航空機の使用を条件とされることなく,その航空機及び乗組員により,協定の特定路線において,両国の指定航空企業の間の商務的権利の平等の原則の下に,国際航空業務を1970年3月31日よりおそくない時期に開始することに同意する。
前記の航空業務が開始されるまでの間,次の措置が執られるものとする。
(1) 東京とモスクワとの間(両方向)における国際航空業務は,協定の議定書に基づいて1966年1月21日に両国政府の間で交渉された書簡に従い,かつ,次の要領により行なわれるものとする。
(a) 運航回数は,1969年4月から週2便とする。この運航回数は,必要に応じ,さらに1便増加することができる。
(b) 航空機の機種は,イリューシン62とし,必要に応じ,両国の航空当局間の合意により,変更することができる。
(c) 運航計画表は,日本航空株式会社とアエロフロートとの間で別途合意される。
(2) 両国の航空当局は,それぞれの国内法令に従い,日本航空株式会社及びアエロフロートに対し,本日から1970年の日本万国博覧会の実施に関する輸送が終了するまでの間,日本国内の一地点とハバロフスクとの間の貸切飛行を共同で実施することを認める。
(3) 日本航空株式会社とアエロフロートは,前記(1)及び(2)に関して商務的取極を締結するため,1969年3月モスクワにおいて交渉するものとする。
2 両国の航空当局は,日本航空株式会社及びアエロフロートが日本国内の一地点とハバロフスクとの間の貸切飛行を引き続き実施する問題につき,日本国の指定航空企業が1に基づいて開始される国際航空業務を開始した後に検討する。
3 日本国内の一地点とハバロフスクとの間に貨物の航空運送業務を開始することについて積極的に解決するため,日本国の指定航空企業が一に基づいて開始される国際航空業務を開始した後1箇月以内に両国の航空当局の間で交渉を行なうものとする。この交渉においては,当該区間における将来の旅客の航空運送業務についても討議されるものとする。
閣下が前記の了解をソヴィエト社会主義共和国連邦政府に代わって確認されれば幸いであります。
本大臣は,以上を申し進めるに際し,ここに重ねて閣下に向かって敬意を表します。
1969年3月7日に東京で
日本国外務大臣 愛知揆一
在本邦ソヴィエト社会主義共和国連邦
特命全権大使 オ・ア・トロヤノフスキー閣下
(ソ連邦側書簡)(訳文)
書簡をもって啓上いたします。本使は,本日付けの閣下の次の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。
(日本側書簡)
本使は,前記の了解をソヴィエト社会主義共和国連邦政府に代わって確認いたします。
本使は以上を申し進めるに際し,ここに重ねて閣下に向かって敬意を表します。
1969年3月7日に東京で
在日本ソヴィエト社会主義共和国連邦
特命全権大使 オ・ア・トロヤノフスキー
日本国外務大臣 愛知揆一閣下