第3部
資 料
1. 国会における内閣総理大臣および外務大臣の演説
(外交に関する部分)
(昭和43年8月3日)
第59回臨時国会が開かれるにあたり,所信の一端を申し述べたいと思います。
このたびの参議院議員通常選挙において,高い投票率が示されたことは,国民の政治に対する関心の高まりと,議会制民主主義に対する信頼の現われであり,政治にたずさわる者はひとしくこのような国民の期待にこたえるよう,いっそうの努力を傾けなければならないと存じます。(中略)
また,国民各位の率直な声を直接聞くことができましたが,国民は,なによりも安定と繁栄を希望し,平和と安全が確保されることを念願しております。日米安全保障体制を基調とし,自衛力を整備してわが国の安全を確保し,経済発展によって国力を増進していくという政府の政策は,きわめて現実に適したものであり,日本民族の将来の発展につながるものであることがよく理解されているとの確信を深めました。今後ともこの基本政策のもとに,自由を守り平和に徹し,わが国の安全と繁栄を確保してまいる決意であります。
およそ,相応の国民的負担なくして国の安全を確保することはできません。日米安全保障条約によって米国は日本を防衛する責務を負っており,これに対しわが国は基地および施設を提供する義務を負っております。われわれは,国の安全を確保するという見地から,この条約上の相互の関係を明確に認識する必要があります。しかしながら,政府は,国土ならびに国民生活の実情にかんがみ,基地周辺の住民に生活上の不安や危惧を与えることのないよう,最善の努力をつくしてまいります。
さる6月26日には,われわれが多年念願してきた小笠原諸島の祖国復帰が実現いたしました。まことに喜びに堪えません。今後は国民的願望を背景に,沖縄の早期返還に全力を傾ける決意であります。日米共同声明に基づく沖縄返還に関する継続協議は,すでにその第1回会合を行ないました。日米関係の友好と信頼の基礎に立ってこそ,沖縄の早期返還が実現するというわたくしの信念には,いささかの変りもありません。また,沖縄百万の同胞が現実に祖国へ復帰するまでの間は,本土との一体化を各分野において着実に推進いたします。
北方領土の返還は,全国民の切なる願いにもかかわらず,いまだに解決の手がかりをつかんでいないことはまことに残念であります。しかしながら,われわれは,今後とも忍耐づよく北方領土問題の解決を図ってまいらなければなりません。
アジアの安定と平和を念願する日本国民は,ヴィエトナム紛争がようやくにしてパリにおける会談にこぎつけたことを,ひとしく歓迎しております。わたくしは,すべての当事者に受け入れられる永続的な平和が一日も早く実現することを心から希望しており,和平実現のあかつきには,この地域の復興と繁栄に寄与することはもとより,和平にいたる過程においてもわが国の役割りをじゅうぶんに果たす考えであります。これはまた日本国民の総意でもあります。
経済の動きは,輸出の顕著な増加などにささえられ,国内経済活動はかなりの水準を保っております。国際収支も,貿易収支の好転を中心に最近著しく改善されてまいりました。しかしながら,米国の景気動向,国際金融情勢の推移など,国際経済の前途には,なお注意を要する多くの問題があります。政府は,今後における事態の推移を慎重に見守りつつ,財政,金融政策の適切な運用を図り,わが国経済の均衡のとれた持続的成長を図ってまいりたいと考えます。(後略)
(外交に関する部分)
(昭和43年12月11日)
第60回臨時国会が開かれるにあたり,所信の一端を申し述べたいと思います。
世界は,いま多くの分野で転換期を迎えていますが,とくにわが国は,社会構造の急激な変化に伴って,大学問題をはじめ,数々の困難な問題に直面しております。これらはいずれも,わが国近代化百年の歴史の中で,われわれがはじめて当面した新しい試練であります。これを乗り越えて,10年先,20年先,さらに21世紀へ向かって賢明に対処することこそ,政治の使命であると確信いたします。わたくしは,国民各位のご協力を得つつ,最も適切な解決を図ってまいる決意であります。
最近の国際情勢は,新たな局面を迎えつつあります。
米国においては,共和党のニクソン氏が次期大統領に選ばれました。政府は,引き続き,日米友好関係を維持し,世界の平和とアジアの安定という共通の目標に向かって協力してまいります。
ヴィエトナムにおける北爆の全面停止が実現し,政治交渉の糸口が開かれたことは,過去数年間,アジアにおける最も大きな不安定要因であったヴィエトナム戦争が,ようやく終息の時期にはいったことを示すものであります。われわれは,和平の気運が動きつつあることを心から歓迎し,今後とも,わが国独自の役割を果たしてまいりたいと考えます。とくに,和平実現に備え,政府は,インドシナ地域の復興と繁栄に寄与する方策を鋭意検討しております。
中共の文化大革命も,収拾段階にあるものと認められます。われわれは,国際緊張緩和のため,中共が柔軟な態度を打ち出すことを期待するものであります。
一方,さる8月に起ったチェコ問題は東西関係に大きな刺激を与えました。この影響は,今後の世界情勢に長く尾を引くことが予想されます。
この間にあって,わが国は,自由を守り平和に徹し,政治的安定の上に経済的繁栄を達成しつつあります。それだけに,わが国に対する国際的な信頼と期待はますます強まり,わが国の使命と責任はさらに重きを加えるものと考えます。
当面の最も大きな外交課題は,沖縄の祖国復帰であります。先般の琉球政府主席選挙においても,一日も早く祖国に復帰したいという沖縄同胞の願望が強く示されました。祖国を離れて二十余年,いまだに外国の施政権下に暮らす同胞の心情を思うとき,わたくしは,沖縄の早期返還を実現するとの決意を新たにした次第であります。
わたくしは,今後とも,米国との相互信頼の基礎に立って,安全保障上の要請をふまえつつ,沖縄の早期返還実現のため全力を尽くす考えであります。同時に,沖縄と本土との一体化政策を強力に推進してまいります。
他方,北方領土に対する国民的関心もまた急速に高まっております。北方領土の回復を実現するため,わたくしは,国民の願望を背景として忍耐づよく取り組む決意であります。(後略)
(外交に関する部分)
(昭和44年1月27日)
第61回国会が開かれるにあたり,当面する内外の諸問題について所信を申し述べたいと思います。
教訓に富み,波欄に満ちた明治百年を終え,新しい百年に向かって第一歩をふみ出したわが国は,多くの分野で転換期を迎えつつあり,これからの数年間はきわめて大切な時期であると考えます。時代の流れを的確に把握し,誤りなく歩を進めることこそ,現代に生きるわれわれの使命であります。工業生産力において世界第三位を占めるにいたったわが民族の活力は,さらに豊かな未来を創造する可能性を十分に持っております。人間の尊厳と自由が守られ,国民のすべてが繁栄する社会を実現するとともに,国際的信頼にこたえ,世界の平和と文化に独自の貢献をしなければなりません。(中略)
わが国の国際的立場を考えるにあたっては,常に国際政治の基調を把握し,時代の新しい流れを冷静に見きわめなければなりません。
アジアにおいては,多年緊張の中心であったヴィエトナム問題が政治的解決の方向に大きく動き,平和が芽ばえつつあります。和平交渉の前途には,幾多の曲折が予想されますが,この動きが恒久的な平和につながるよう,政府は,今後ともわが国の役割を果たしてまいりたいと考えます。
パリ会談を契機として,アジア全体に平和と建設のための協力の気運が盛り上り,アジアの先進工業国であり,近年とみに国力の充実したわが国に対する国際的な期待は,ますます高まりつつあります。わたくしは,アジアの平和と安定がそのままわが国の平和と繁栄につながることを深く認識し,東南アジア諸国の自助の気概と努力に敬意を払いつつ,その復興と建設に可能な限りの協力と援助を行ないたいと思います。
他面,国際政治の基調は,依然として変わらず,イデオロギーを異にする二大陣営がそれぞれの集団安全保障体制のもとに共存し,時の推移とともに,それぞれの陣営の中で分裂や意見の対立はありますが,究極的には,その力関係によって世界の平和が維持されています。この冷厳な現実を見失ってはなりません。
このような国際環境のもと,資源に乏しいわが国の生存と繁栄を確保するためには,わが国のみならず,わが国周辺の平和と安全が保たれることがきわめて肝要であります。
政府は,今日まで,国力に応じ自衛カを漸増整備しつつ日米安全保障体制とあいまって,脅威と紛争を未然に抑制してまいりました。かくして,わが国の安全が保たれ,繁栄が達成されたということは,何人も否定し得ない厳然たる事実であります。国民各位は,引き続き日米安保体制を堅持する政府の政策に必ずや強い支持を寄せられるものと確信いたします。
政府は,日米安保体制から派生する諸問題については,安全保障上の要請を考慮しつつ,適切な解決を図る方針であります。昨年来,日米安全保障協議会において協議の結果,約50の施設区域について,返還,移転,共同使用を検討することとなりました。このことは,日米双方が基地周辺住民に生活上の不安を与えることのないよう,真剣に対処している一つのあらわれであります。政府は,今後とも,随時米側と話し合って,基地問題について最善の努力を払ってまいります。
沖縄の祖国復帰については,早期返還を願う国民世論を背景として,今年こそその実現に向かって大きく前進を図らねばならないと堅く決心しております。わたくしは,今年後半の適当な時期に訪米し,ニクソン新大統領と率直に話し合って,日米両国政府および国民の相互理解と友好協力のもと祖国復帰の実現の時期を取り決めたいと思います。その際沖縄にある米軍基地が,現状において,まず第一にわが国の安全に果たしている役割と,あわせてわが国のみならず極東の安全保障に果たしている役割を認識し,国際清勢の推移を見守りつつ,国民の納得のいく解決を図りたいと存じます。
政府の基本方針である本土と沖縄との一体化については,本土復帰の日に備え,沖縄同胞の意向を十分にくみ入れて推進いたします。沖縄同胞の国政参加については,超党派的な合意によるすみやかな実現を期待するものであります。また,米軍基地の存在から生ずる種々の問題についても,施政権が米国の手にあるという現実に即しつつ,最善を尽してまいります。
わが国とソ連との通商,経済開発,文化交流等の分野における友好親善関係は,近年とみに緊密の度を加えつつあり,政府は今後ともその増進を図る方針であります。
しかしながら,両国間の最大の懸案である北方領土問題については,基本的な考え方の相違があり,その前途には大きな困難が横たわっております。わたくしは,国民の強い関心と願望を背景に,忍耐強く交渉を続け,その解決を図る決意であります。
韓国,中華民国をはじめ近隣諸国との友好関係を維持増進することが大切であることは,申すまでもありません。同時に,将来のアジアの情勢に思いをいたすとき,最大の問題はわが国と中国大陸との関係であります。アジアの歴史において,古くから,中国本土とわが国とは,相互に理解し合い,政治,経済,文化の面で有益な交流を行なってまいりました。今後,中共が広く国際社会の一員として迎えられるようになる事態は,わが国としてこれを歓迎するものであります。
しかしながら,現在の中共は,文化大革命は収拾段階にはいったとはいえ,内外に多くの問題をかかえ,いまだ世界すべての国との国際的な理解と協調を基礎とする対外関係を,打ち出すにいたっていません。政府は,当面,中共の態度の変化に期待しつつ,従来どおり各種接触の門戸を開放してまいります。
最近の経済動向をみますと,国際収支は引き続き大幅な黒字を続け,国内経済も全体として順調に推移し,わが国経済はかつて例をみない長期にわたる好況を続けております。しかしながら,最近の経済清勢には,消費者物価の根強い上昇基調があり,また,米国景気の今後の動向,流動的な国際通貨情勢など,なお警戒を要する動きも少なくありません。
わたくしは,内外経済の動向を注意し,慎重にして節度ある財政金融政策の基調を堅持しつつ,さらにその機動的,弾力的運営に努め,現在の好調をできるだけ長期にわたって持続させたいと考えます。
このような観点から,昭和44年度予算の編成にあたっては,経済の拡大が過度にわたることめないよう,財政規模を適度のものにとどめるとともに,国債発行額を縮減いたしました。
欧州における通貨不安は,国際通貨体制の安定が世界経済の発展にとって重要な基盤であることをあらためて認識させました。現在,各国は密接な連絡と協調のもとにこの安定のための努力を重ねておりますが,この間にあって,わが国は,今後とも適切な経済運営によって円価値の維持に努めてまいります。
さらに,自主技術の開発,産業構造の改善等を通じて,国際的競争に耐えうる企業の育成と国内経済体制の整備を進め,貿易および資本の自由化に真剣に取り組み,いっそう貿易の拡大に努めてまいります。関係者の決意と努力を期待します。(後略)
(昭和44年1月27日)
わが国外交の基本方針と当面の重要外交施策について所信を申し述べます。
日本国憲法は平和国家の理想を高く掲げております。わたくしは,真にその名に価する平和国家とは,自らの自由と安全と繁栄を保ちながら,進んで,戦争のない世界の創造を目指し,「平和への戦い」のために積極的な貢献を行なう国家であると考えます。
わたくしは,こうした基本的な考え方のもとに,わが国益に最も合致する政策を自主的に選択し,これを国民の理解と支持のもと,強力に推進いたしたいと存じます。
まず外交の基本にある問題としてわが国の安全をいかに確保すべきかにつき一言したいと思います。
われわれは,ややもすれば,戦後わが国の平和と安全に対し外部から大きな脅威や障害が加わらなかったことを当然のごとく思いがちであります。この間,世界の各処において,現実に武力紛争が起り,戦争の脅威が存在したにもかかわらず,わが国が安全と自由を享受し,世界に類例のない経済の発展を達成しえたのはなぜでありましょうか。それは,わが国が独立回復以来とってまいりましたわが国の安全保障および国際緊張緩和のための施策に負うところが大きかったというべきではないでしょうか。
核時代における安全保障の考え方の基本は,戦争が起った場合いかにこれに対処するかということから一歩進んで,戦争の発生をいかにして未然に防止するかということに移ってきております。
平和国家を目指すわが国の今後の施策も戦争の未然の防止に重点を置くべきは当然であります。この見地からも,国際緊張緩和のための外交をさらに促進し,妥当な安全保障体制を確立することが車の両輪のごとく必要であります。国際緊張緩和の努力については,政府は国際連合の強化,軍縮の促進をはじめ世界各国との平和友好関係の維持発展等,できる限りの施策を講じてまいることはもとよりであります。他方,安全保障体制については,世界に依然として平和に対する脅威が存在しており,国際連合による安全保障体制もいまだ確立されていない今日,わが国が必要かつ可能な自衛力を保持するとともに,その足らざるところを補いわが国およびわが国を含む極東の安全を確保するため,今後とも日米安全保障体制を堅持することが戦争の発生を未然に防止するゆえんであり,わが国益に沿う最も賢明な策であると信ずるものであります。
わが国と米国とは,友好と信頼の精神に基づき,政治,経済,文化等あらゆる分野において緊密な協力関係を維持強化してまいりました。かかる日米両国間の友好協力関係は,わが国の平和と繁栄の維持増進のために重要であるのみならず,アジアの平和と繁栄にとって欠くことのできないかなめの一つであります。
このような認識に立って,政府としてはこのほど発足した米国新政府との間に率直かつ十分な対話を通じ両国間の友好関係をいっそう促進するとの基本的目標のもとに個々の問題について公正妥当な解決をはかってまいる所存であります。
当面,日米両国間において,最も重要な問題は沖縄問題の解決であります。
佐藤総理大臣の施政方針演説に述べられているとおり,政府は沖縄の早期返還について,米国新政府との間に全力をあげて交渉を進める方針であります。先般の小笠原返還のごとく,領土を平和的な話し合いで回復することに成功することは世界史にも例の少ないことであります。私は沖縄返還問題の困難さを否定するものではありませんが,沖縄の早期返還は,米国との対決という姿勢によってではなく,日米両国の相互信頼と友情の基礎の上においてのみ実現可能であると信ずるものであります。
次にソ連との関係でありますが,北方領土問題につきましては,政府は,全国民の強い要望を背景として,今後ともソ連政府との間に忍耐強く折衝を続け,あくまでその解決に努力する所存であります。また,隣国ソ連との間に能うかぎり友好善隣の関係を維持して行くことは,単に両国の利益であるのみならず,極東における平和と安定にも資するところ少なからぬものと考えますので,今後とも日ソ両国の利益の一致するかぎり対ソ友好関係を促進し,当面北方水域の安全操業,航空問題等,懸案の解決に努力して行きたい考えであります。
中国問題もまた,わが外交の極めて重要な課題であります。先ず,中華民国とわが国との友好関係はますます促進されつつあります。
他方,中国大陸においては,いわゆる文化大革命が収束の段階にはいったといわれておりますが,事態はいまだ流動的であるように見受けられます。政府といたしましては,当面事態の発展を注視するとともに,アジアの平和と安定のためにも中共が進んで国際協調の態度をとることを期待するものであります。
わが国の最も近い隣国である韓国が着々と政治的安定と経済発展の実を挙げつつあることは,われわれにとっても心強い次第であります。他方,朝鮮半島には依然緊張含みの情勢が続いております。わが国はアジアのこの地域の安定に特に重大な関心を有するものであり,今後ともその動向に不断の注視を続けて行くことが必要であると考えます。
パリにおける和平会談が再開の運びとなり,ヴィエトナム問題の平和的解決の見通しが一段と明るくなったことは誠に喜ばしいことであります。
政府としては,和平実現に至る過程においても,難民住宅の建設等の人道的援助を行なうとともに,従来から明らかにしているとおり,今後の和平交渉の進展に応じ,平和維持機構への参加,民生安定と戦後の復興のための協力など,この地域に永続的平和を確保するため,可能なかぎりの協力を行なう考えであります。
わが国は,平和国家としていかなる武力紛争にも絶対に関与しないとの立場を堅持してまいりました。しかしながらわたくしは,わが国は「平和への戦い」には,進んで参加し積極的役割を果すべきであり,これこそわが国の平和国家として進むべき途に沿うものと信ずるものであります。
たまたま国際連合も,1970年代を「第二次国連開発の10年」とする宣言を行なうこととしております。これは,誠に時宜を得たことと考えます。けだし,いわゆる南北問題の解決は世界の真の安定した繁栄と平和のために今後人類が取り組むべき最大の課題のひとつであるからであります。
さいわい,アジア諸国の間には,あいたずさえて共通の課題に取り組もうとの地域協力の気運がたかまり,政治,経済,社会の各分野にわたって相互理解と協力のための努力が重ねられてきていることは,心強いところであります。
政府としては,アジア,とくに東南アジアに対する経済協力のいっそうの充実に努めるとともに地域協力の促進をはかる考えであります。このためわが国がになうべき負担や犠牲はもとより少なくないでありましょう。しかしながら,アジアの諸国と手をたずさえて明るい未来を切り開くといった雄大な国民的気魄をもってこの問題にとり組むことなくしては,世界の期待にこたえ,また,戦争のない世界の創造に真に寄与することはできないと考えるのであります。
わが国が今を去る3年前東南アジア開発閣僚会議の開催を提唱し,東南アジアの経済開発という共通の目標達成に向かって具体的な努力を行なってまいりましたのもこのような考えの現われであります。
また,本年6月わが国においてアスパック,すなわちアジア太平洋協議会の閣僚会議が開かれますが,アスパックはいかなる国,いかなる国家群との対立をも意図するものではなく,参加国の共通の諸問題についての自由な意見交換と協同事業のための協力を通じてアジア太平洋諸国間の協調を緊密化し,もってこの地域全体の平和と安定に貢献することを目的とする機構であります。わが国としてはこれらの機構が,それぞれの分野において,今後ともアジア太平洋地域諸国の連帯と協力の機構として健全な発展を遂げるようこの上ともいっそうの努力を惜しまない所存であります。
他方わたくしは,近年ますます深まりつつある欧州,中南米および中近東・アフリカの諸国との友好関係を今後ともいっそう促進してまいりたいと存じます。
わが国が「平和への戦い」に寄与するためにも自らの経済力の充実が必要であることは申すまでもありません。とくにわが国が今後とも高度成長を続けて行くためには,国際通貨体制の安定のほか世界貿易の拡大が不可欠の条件であります。
国際通貨体制をめぐる問題につきましては,わが国は国際通貨基金の加盟国として,またいわゆる十ヵ国会議の一員として,国際協調を通じ国際的な金融,通貨体制の安定をはかって行きたい考えであります。かかる見地から国際通貨体制の長期的安定を目的とする国際通貨基金特別引出権の創設はわが国としてもこれを歓迎する次第であります。
世界貿易の拡大につきましては,戦後のわが国の経済成長がガット体制に象徴される自由貿易原則の下において可能とされたことに改めて留意する必要があります。この原則に立つわが国は,ケネディ・ラウンド交渉の結果合意されました関税引下げの第一段階を実施し,関税以外の貿易障壁の撤廃にも努力を続けて来ているのであります。わが国が自由貿易によって国のいっそうの発展を期さねばならぬ立場にある以上,各国における保護貿易主義の台頭を押え,世界貿易の拡大をはかることは当然でありますが,それとともにわが国としても輸入自由化の課題に真剣に取組んで行かねばなりません。また,資本取引の自由化につきましても,世界各国の指向する自由経済の原則に立っていっそうの努力を払って行く所存であります。
先般の国際連合第23回総会において,わが国を含め極めて多くの国がチェッコ事件を遺憾とし,今日の世界における大国の責任の重大なることを説き,平和の維持のため国際連合憲章の原則を忠実に遵守する必要を強調いたしました。他方,中東における情勢は,国際連合の努力にもかかわらずいまだに改善を見ず,世界平和に脅威を与えております。私は,国際紛争の平和的解決のための努力の必要性が今日ほど大なる時期はないと考えるのであります。
この関連においてとくに強調すべきは,世界の諸国が軍縮の実現にさらに真剣な努力を払うべきことであります。政府が核兵器拡散防止のための条約案の精神を基本的に支持する態度を明らかにしてまいりましたのもかかる立場からであります。
戦争なき世界の創造のためには,国際平和維持機構としての国際連合の強化に努力すべきものと考えます。とくにわたくしは,わが国が平和国家としての積極的役割を果たしうるためにも,国際連合内におけるわが国の地位の向上に一段と努力したいと考えます。
わたくしは,以上申し述べた考え方にのっとり,変転する国際情勢の動向を正しく見きわめながら,平和国家たるにふさわしい外交を積極的に進めてまいる決意であります。国民各位のご理解とご支援を切に希望いたします。