科学技術における国際協力
国際原子力機関(IAEA)第12回総会は,1968年9月24日より1週間ウィーンで開催され,わが国からは,在オーストリア新関大使を代表とする代表団が出席した。
今次総会は,核兵器不拡散条約(NPT)が署名のため開放され,すでに70数ヵ国が署名していたことや非核兵器国会議の直後であったことなどから,同条約の下におけるIAEAの役割,特に保障措置,理事会の構成および核爆発の平和利用について活発な論議が行なわれた。
核爆発の平和利用に関しては,米国より,NPTに基づき核爆発平和利用を監視する機関としてIAEAの責任遂行の方法を検討すべしとする決議案が提出され,採択された。
1968年2月26日ワシントンにおいて署名された新日米原子力一般協定は,同年7月10日発効した。
新旧両協定の主たる相違点は,協力の範囲が従来の「情報の交換」,「研究用資材および研究用施設」以外に「動力用原子炉の燃料」,「燃料の再処理」が加えられ,協力の条件として,旧協定の「平和目的」,「公開の原則」,「保障措置の適用」および「管轄外移転の制限」のほか,認められた者である民間人による取引が可能になったことである。
なお,有効期間は,30年とされた。
1968年3月6日東京で署名された新日英原子力協定は,同年10月15日発効した。同協定の内容は,日米原子力協定とほぼ同じであり,有効期間は,30年である。
非核兵器国会議の経過については,本章の「軍縮問題」の項で略述したがこの会議においては,軍縮問題と平行して原子力平和利用一般,核爆発の平和利用および保障措置関係について大要次のとおりの審議が行なわれた。
(イ) 原子力平和利用一般
わが国は,原子力に関する技術,情報の国際的移転促進の問題に強い関心を抱いていたので,非核兵器国は,核兵器の製造,開発の権利を放棄する代償として,原子力平和利用に関する技術,情報および核物質の国際移転等の権利を認められるべしとする決議案を提出し,これを成立させることに成功した。
また,原子力平和利用の面での発展途上国への援助拡大に関する決議案が,ラ米諸国共同提案およびパキスタン提案として提出され,両決議案とも採択された。
(ロ) 核爆発平和利用問題
メキシコおよびイタリアよりそれぞれ別個に,平和目的の核爆発の担当機関として新国際機関を設立することが提案されたが,わが国としては,原子力平和利用の面で実績があるIAEAの役割を重視することおよび核爆発の平和利用には未だ日数を要するので,新国際機関を設立する前にIAEAで具体的実施の態様について検討すべきであるとの態度を表明した。この結果,わが国のような考え方が大勢を占め,メキシコおよびイタリアの案は不成立に終った。
(ハ) 保障措置関係
すべての非核兵器国に対しIAEAの保障措置を受諾するよう勧告し,また,IAEAの保障措置は簡素化されるべしとするパキスタンの決議案が,提出され,採択された。
また,スイスが提出した決議案とスペインの提出した決議案が合体し,さらにラ米諸国が加わった共同決議案が提出された。その内容は,保障措置に権能をもつ特別委員会をIAEAに設置することおよびIAEAの保障措置を簡素化するため保障措置適用を高濃縮ウランとプルトニウムに限るとするもの等であった。
わが国は,この提案に対し,特別委員会は理事会の下部機関とすることおよび保障措置の簡素化のために燃料サイクルの枢要な個所に機器等を使用するとの修正案を提出して,この修正された決議案は多数をもって採択された。
第18回国連科学委員会は,1968年4月8日から17日まで,ニュー・ヨーク国連本部で開催された。わが国からは,塚本国立がんセンター病院長御園生放医研所長および檜山東大教授が出席した。同委員会では,環境汚染に関する資料の検討,神経系に及ぼす放射線の作用および人体細胞における放射線による染色体異常について討議し,同委員会より加盟国および専門機関等に要請する情報の内容について検討を加えた。
国連第23回総会は1968年11月1日,放射線の影響に関する決議を採択した。同決議では,科学委員会に対し,その設立(1955年)以来放射線の影響と水準に関する知識と理解の増大に貢献していることを称讃するとともに,現在の作業を完了し,将来の活動計画を作成するよう要請している。
1966年国連第21回総会決議および1967年国連第5回特別総会決議により,宇宙空間の探査と平和利用に関する国連会議は1968年8月ウィーンで開催された。会議は,2週間にわたり,78ヵ国約500人の参加を得て進められ,宇宙開発国と非宇宙開発国とのギャップを橋渡しする第一歩としての目的は達成された。
1968年10月の宇宙空間平和利用委員会は,宇宙空間の探査と平和利用に関する国連会議の成果をさらに世界に広めること,同会議での宇宙空間平和利用に関する各国の提案,直接放送衛星について検討するための作業部会の設立などを審議した。
国連第23回総会は,宇宙空間の探査と平和利用に関する国連会議の成果の広報,直接放送衛星について検討するための作業部会の設立などに関する決議を全会一致で採択した。
1968年6月の宇宙空間平和利用委員会法律小委員会は,宇宙空間に発射された物体により生じた損害の賠償に関する協定の案文を審議した。同協定案文は,国連第22回総会決議により,第23回総会に提出するよう要請されていたが,法律小委員会では,従来からの重要な諸点に関する各国の意見の相異は何ら妥協されることなく会期を終った。
第23回総会は,損害賠償に関する協定案文を早急に作成し,これを第24回総会に提出することを,宇宙空間平和利用委員会に要請することなどを定めた決議を全会一致で採択した。
1968年1月,米国は,わが国に対し,わが国の宇宙開発計画に有用な人工衛星打上機器および通信衛星の開発に関する技術および機器を提供する用意がある旨申し入れた。米国はさらに同申し入れの中で,(イ)通信衛星についての協力は,日米両国政府がインテルサットの約束に合致して行動するとの仮定の下に実施しうること,および(ロ)打上機器についての協力の結果は,平和目的に使用されるべきこと,および第三国に移転されるべきでないこと,を提案した。
わが国はこの申し入れについて関係省庁および宇宙開発委員会において検討した結果,1968年12月,米国に対し,米国よりの申し入れを歓迎するとともに,(イ)米国との協力の結果開発された通信衛星の利用は,その時点で効力を有し,かつ日米両国が当事国となっている国際通信衛星組織における両国の約束に反しない目的・方法で行なう,および(ロ)ロケットに関し,米国から移転された技術または機器の使用は平和目的に限定されること,および第三国への移転禁止については,さらに両国間で問題点の検討を行ないたい旨回答した。現在この点について外交折衝が行なわれている。
インテルサットは,1964年に署名された「世界商業通信衛星組織に関する暫定制度を設立する協定」および「特別協定」によって設立され,1969年3月現在,わが国はじめ68ヵ国がこれに加盟して宇宙商業通信の開発運営に関する共同事業を行なっている。
インテルサットは,暫定制度であり,協定の規定により1970年1月1日までに恒久制度に移行するための協定を作成することとされている。恒久協定を作成するための会議は,66の加盟国政府の出席と,26の非加盟国と2の国際機関のオブザーバーとしての参加を得て,1969年2月24日よりワシントンで開催され,設立すべき組織の法的形式,構成機関,役務の範囲および加盟国の権利と義務などが審議された。
第22回国連総会は,国家管轄権の及ぶ範囲以遠の海底(以後深海海底という。)の平和利用問題を検討するために,1年間の期限付きで米,ソ,英,仏,日本等35ヵ国で構成される海底アド・ホック(特別)委員会を設置した。このアド・ホック委員会は1968年の3月,6月,8月に開催され,技術経済面では,海底資源の分布の見積り,開発技術,資源開発の経済性などを,法律面では大陸棚条約との関連,深海海底の人類の利益のための開発,海底開発と公海自由の原則との関係などを,政治面では深海海底の平和利用(軍事利用禁止)問題などを,科学面では探査の自由と,1970年から始まる「海洋開発10年」に関するアメリカ提案などを,そして国際協力面では,深海海底とその開発に関しての原則問題等を検討し,その報告書を第23回総会に提出した。
わが国は,このアド・ホック委員会において,一般演説で,または討議を通じて,(イ)大陸棚条約第1条の大陸棚の範囲を明確にするために,この条約改訂を検討する必要があること,(ロ)深海海底にはいかなる法的規制も存在しないが,いずれの国も,この地域に主権を主張してはならないこと,(ハ)海底開発がその上部水域である公海における自由(航行の自由,漁業の自由)を侵してはならないこと,(ニ)海洋汚染を防止するため十分注意が払われなければならないこと,そして(ホ)この地域は平和的目的のみに使用されなければならないこと,などの見解を明らかにした。
第23回国連総会では,このアド・ホック委員会の報告書を審議し,各国から提出された決議案を討議,採択した。この総会では新たに常設の海底平和利用委員会が設けられたが,アジア,アフリカ,ラテン・アメリカの諸国が,この委員会に強い関心を示し,委員数の多い委員会の設置を要望したが,委員会の能率的運営のために委員数の制限を主張する西欧,東欧諸国との間で妥協が計られ,結局,米,ソ,英,仏,日本等を含む42ヵ国で構成されることとなった。
その他,この総会で海洋汚染防止,海底開発国際機関新設の検討,および海洋開発10ヵ年計画関係の3決議案が採択され,深海海底開発の原則宣言に関するいくつかの決議案は新設される海底平和利用委員会で検討されることとなった。
わが国は海底平和利用委員会の委員に選任されたが,海洋国として海底資源問題に強い関心を有するところがら,この委員会設置決議案等3決議案の共同提案国としてその成立に努力した。
新設された海底平和利用委員会は,1969年2月に第1回会期を開き,役員の選出,委員会の手続問題を審議した。
南極条約第9条の規定に基づく第5回協議会議は,1968年11月18日より29日まで,パリにおいて開催され,南極地域の気象,無線通信の改善問題および遠洋あざらし捕獲規制問題を中心議題とし審議を行なった上,9つの勧告を採択した。
なお第6回協議会議は,わが国が主催することとなり,1970年秋頃東京にて開催される予定である。