第4章 国際連合における活動とその他の国際協力
国連第23回総会に対するわが国政府代表は次のとおりであった。
鶴岡 千仭 国際連合日本政府常駐代表
高橋 覚 駐チリ大使
安倍 勲 国連代表部大使
重光 晶 国際連合局長
赤谷 源一 大臣官房審議官
三木外務大臣は68年10月4日の総会本会議において一般討論演説を行ない,チェコ問題,国際緊張の緩和と国連の強化,軍縮,ヴィエトナム問題,アジアの経済・社会開発,中東問題,中国問題,南部アフリカ問題,国連と経済・社会開発,大国の自制と国連精神の育成等について発言した。(同演説全文は第3部資料2(1)参照)
本問題は,1949年10月1日中国大陸に中共政権が成立し,同政権が1949年11月18日国連に対し,中共は中国人民を代表する唯一の正統政府であること,中華民国代表の法的地位は否認されるべきことを通告してから,約20年余にわたって中華民国,中共のいずれが中国を代表する権利を有するかの問題として争われてきたもので,国連が発足以来直面した最も困難かつ複雑な問題として毎総会世界の関心と注目を浴びているものである。
第23回総会本会議は,11月11日から19日まで中国代表権問題を審議した。一般討論では60ヵ国の代表が発言し,例年通り活発な討論を行なった。
審議に際し,米国,日本,オーストラリア等アジア,アフリカ,西欧,南米,14ヵ国は,「中国の代表権を変更する提案はすべて重要問題であるとの決定を再確認する」旨の決議案を,アルバニア,カンボディア,キューバ等16ヵ国は,「中国の代表権を回復し,蒋介石の代表を追放する」旨のいわゆるアルバニア型決議案を,イタリア,ベルギー,チリ等西欧,南米の5ヵ国は,「中国代表権問題の公正かつ実際的解決策を探究する委員会を設置する」旨の決議案をそれぞれ提出した。
19日,表決の結果,重要問題指定確認決議案は賛成73(わが国を含む),反対47,棄権5で採択され,アルバニア型決議案は賛成44,反対58(わが国を含む),棄権23,委員会設置案は賛成30(わが国を含む),反対67,棄権27でそれぞれ否決された。表決は前年に比べ中華民国に僅かながら有利な結果に終ったが,これは中共をめぐる内外の情勢に基本的変化がなく,かつ,また新規加盟国が中華民国に有利な投票をしたためとみられる。
鶴岡代表は,11日の一般討論において,中国代表権問題の帰すうは極東の平和と安全に重大な影響を及ぼすものであり,中国の代表権を変更する提案は軍縮,アパルトヘイト,中東その他の国連における主要問題と同様に重要問題であると考える旨述べるとともに,国連から中華民国を一方的に追放することに反対する旨の発言を行なった。
1948年8月大韓民国,次いで同年9月北朝鮮「政権」が成立したため,国連は1948年の第3回総会以降の各総会において平和的統一など朝鮮をめぐる諸問題を審議してきたが,統一問題については,ソ連等北鮮支持国が朝鮮人民の内政問題であるとして国連における審議に反対しているため,総会は朝鮮における国連の目的と活動を確認するだけでなんら具体的成果を挙げていない。
第23回総会において,第1委員会は,11月25日から27日まで南北両鮮代表の招請問題,12月11日から16日まで朝鮮についての実質問題を審議した。
招請問題の審議では,ソ連,ハンガリー,カンボディア等共産圏,非同盟17ヵ国は北朝鮮と韓国の代表を同時,かつ無条件に招請するとの決議案を提出し,他方,日本,米国,オーストラリア等12ヵ国は「韓国代表を招請し,北朝鮮の代表は,朝鮮問題に関する国連の権威と権限を受諾することを条件として招請する」との決議案を提出した。27日表決の結果,17ヵ国案は賛成40,反対55(わが国を含む),棄権28で否決され,12ヵ国案は賛成67(わが国を含む),反対28,棄権28で可決された。
実質問題では,ほぼ例年のとおり「国連朝鮮統一復興委員会(UNCURK)」の存続と在韓国連軍の駐留承認を主張する韓国支持国と,UNCURK解体,在韓国連軍の撤退,朝鮮問題の審議取止めを主張するソ連,ハンガリー,キューバ等の北鮮支持国との間で応酬が繰り返された。12月16日表決の結果,日本,米国,オーストラリア等16ヵ国共同提案の「UNCURK存続,在韓国連軍駐留承認」の決議案は賛成72,反対23,棄権26で採択されたが,UNCURK解体,在韓国連軍撤退,朝鮮問題審議取止めの3決議案はいずれも大差で否決された。
鶴岡代表は,11月25日招請問題,12月13日実質問題について発言し,韓国支持の態度を明らかにした。とくに,第1委員会開会冒頭の議事日程審議に当ってソ連等北鮮支持国が招請問題と実質問題の審議切り離しを狙って議事が混乱した際,鶴岡代表が韓国支持の立場を貫きつつ事態収拾に努力したことは今次総会における日本の活動の中でも顕著な動きであった。
12月20日,本会議は,第1委員会報告を審議し,委員会勧告通り「UNCURK存続・在韓国連軍承認」を賛成71,反対25,棄権20で採択した。
本問題は,南アのアパルトヘイト問題,ナミビア問題,南ローデシア問題,ポルトガル施政地域問題等人種差別政策をとる白人少数派政権と,民族自決と独立を求める国民大多数の黒人との対立を基本とするものである。従来この問題については,国連総会の場においてアジア・アフリカ諸国が,植民地独立の歴史的すう勢を背景として,かなり過激な決議を行なう傾向があったが,第23回総会においては,本問題に対し,従来よりは現実的に対処せんとの動きも若干みうけられた。その端的な例として,ポルトガル新政権の政策に期待して,前回に比べて相当穏やかな表現で終始したポルトガル領問題に関する審議があげられよう。他方,本問題が依然としてアジア・アフリカ諸国の国連外交における中心問題であり,アジア・アフリカ諸国としては本件について一歩も譲れないものである点は基本的に変わっていないものとみられ,例えば,決議採択までには至らなかったが,国連貿易開発会議において,これら諸国は南アの権利停止を要求した。
わが国は,従来より,植民地の独立を支持し,人種差別政策には反対してきたが,問題の解決はあくまでも話し合いによるべきであり,かつ解決の方法は現実的なものでなければならないとの立場を堅持しており,この点で必ずしもアジア・アフリカ諸国と考え方を一にしていないので,対アジア・アフリカ外交上さらには対国連外交上しばしば困難な立場におかれている。
また,ナミビア問題すなわち旧南西アフリカの南アによる統治終了の問題については,総会の活動は近年一つの行き詰りに至った感があり,第23回総会でも特に活潑な動きは見られず,アフリカ諸国は,この問題を安保理で取り上げて,南ア政府に圧力を加えようとする動きを示している。
国連は,紛争当事国の同意を得て,休戦ラインの監視等を主目的とする国連平和維持軍,軍事監視団等のいわゆる平和維持活動(PKO)のための機構を設置してきたが,かかる機構の設置権限,経費の支弁方式等本質的問題については,相変らず東西間の根本的対立が続いており,ために本問題は国連強化の最も重要な課題であるとはいえ,加盟国の地道な努力以外に解決の道はないというのが各国のほぼ一致した見方である。
わが国としても総会の下部機構として平和維持に関する諸問題をつかさどっているPKO特別委員会の一員として,このような方向での努力を継続している。1968年のPKO特別委は,主としてPKOの準備面に関する検討を続けたが,実質的な進展としては,米,英,北欧4ヵ国等による国連待機軍等に関する研究,提案の提出,およびPKO特別委に設置された作業部会による過去の国連軍事監視団に関する文書の集大成が挙げられる。