商品問題をめぐる国際協調の動き
発展途上国の輸出はその8割以上が一次産品によって占められており,一次産品貿易の安定と拡大は発展途上国の経済発展にとって重要な鍵となっている。しかるに,一次産品の需要は近年停滞しており,その価格が低迷していることから,発展途上国は,種々の機会をとらえて一次産品の輸出増大と価格の安定のために先進国の協力を要請している。
一次産品の需給の均衡と価格の安定を目的とする国際協調の動きとしては,すでに穀物,砂糖,コーヒー,すず,オリーブ油の5品目について商品協定が締結されており,わが国もこのうちオリーブ油をのぞく4つの商品協定に加入しているが,1968年2月インドのニュー・デリーで開かれた第2回UNCTAD(国連貿易開発会議)においては,ココア,砂糖,採油用種子および油脂,天然ゴム,ジュート,硬質繊維が特に緊急に国際措置をとるべき産品としてとり上げられ,協定締結交渉が進められている。ココア協定および新砂糖協定についてはこれを促進すること,また,その他の産品については既設の国際機関とUNCTADとの共同により現在検討中の問題(例えば合成品,代替品との競合問題,価格帯や輸出割当についての非公式な取決め等)の検討を推進することが合意された。このほかバナナ,甘橘類,綿花,タングステン,茶,米等についてはFAO(国連食糧農業機関)の研究部会等において問題点の研究が行なわれており,また第2回UNCTADにおいて鉄鉱石,タバコ,マンガン鉱,雲母,こしょう,シェラック(絶縁材料),りん鉱石についてあらたにUNCTAD事務局長の下に研究を開始することが合意された。
わが国は食糧および原料として大量の一次産品を輸入しており,価格の引上げが行なわれるとすれば,最も影響をうける国の1つであり,また発展途上国の産品(例えば米,砂糖,紅茶,銅,鉛,亜鉛)あるいはこれらと競合する産品(例えば合成ゴム)がわが国において生産される場合も少なくないので,発展途上国の要求をそのままうけ入れがたい面も多い。しかしながら,わが国としても,一次産品の合理的価格による安定的供給の確保は望ましいものであり,UNCTADの諸勧告,ガット新章(発展途上国の貿易と開発に関する規定)等に盛られている南北問題解決のための国際協力を支持する観点からも,種々困難はあっても,可能な限り商品協定の締結に協力するとの基本姿勢をとっている。
次に主要商品について,最近の動きを略述する。
ガットのケネディ・ラウンド交渉の一環として,1967年7月から8月にかけて国際小麦理事会主催のもとにローマにおいて交渉が行なわれた結果,国際穀物協定が作成されたが,これは1968年7月1日から発効した(有効期間は3ヵ年)。国際穀物協定は従来の国際小麦協定の考え方を踏襲した小麦貿易規約と食糧援助規約の2つの部門から構成されており,両規約は共通の前文で結びつけられている。アルゼンティン,オーストラリア,カナダ,デンマーク,フィンランド,日本,ノールウェー,スウェーデン,スイス,英国,EECおよびその構成国,米国の各国は前記両規約の双方に加入することを条件として穀物協定への加入を認められているが,その他の国はいずれか1つの規約に加入することが認められている。
新たに成立した小麦貿易規約と従来の国際小麦協定との最大の相違点は標準小麦と価格帯に関するものである。すなわち,国際小麦協定(旧協定)はカナダのマニトバ1号のみを基準小麦とし,その価格帯をカナダのフォトウィリアム/ポートアーサーの倉庫渡しで定め,その他の銘柄は相当価格として取扱われていたが,新規約ではカナダ,米国,アルゼンティン,オーストラリア,EEC,スウェーデン,ギリシャ,スペイン,メキシコの代表的銘柄14種を基準小麦とし,価格帯はメキシコ湾岸の港におけるf.o.b.で計算し,規約に明記した(新価格帯の水準を旧協定のものと比較すると,運賃の取り方,算出方法により若干異なっているが,1ブッシェルについておおむね10セントないし20セント程度の引上げとなる)。なおこのように新規約では14銘柄の小麦について各々価格帯を設けたので,特定銘柄についてその価格を最低価格にまで引下げても,他の銘柄と価格競争ができず,輸出しえないという事態も予想されうるので,かかる事態においては当該銘柄の小麦の最低価格を一時的に下げうるという規定が設けられた。現在世界的に小麦が過剰状態にあり,最低価格を割って輸出されているか否かでしばしば輸出国間で問題となっている。
(1) 砂糖の国際価格の安定を計り,あわせて砂糖を生産する発展途上国の経済発展へ協力するため新しい砂糖協定を締結すべきことについては,第2回uNCTADにおいて合意を見ていたが,1968年10月国連砂糖会議において「1968年の国際砂糖協定」が採択され,日,英,加,ソ連等の8輸入国,豪,キューバ,ブラジル等28輸出国の加入により,1969年1月1日より暫定発効した。
この協定は年間約2000万トンといわれる世界砂糖貿易量のうち,いわゆる特恵市場(米国内の消費向け輸出,英連邦砂糖協定による取引,キューバの社会主義国への輸出等)以外の自由市場(年間約850万トンから870万トンの貿易量をもつ)を直接対象としているものである。協定の骨子は価格水準ポンド当り3セント25~5セント25を指標として,需要の動向,国際価格の変動に応じ輸出国に課せられている輸出割当量を増減し,もって安定した妥当な国際価格による砂糖貿易の発展を図ることを主眼としている。
新協定が旧協定に比べて変った点は,価格帯の幅がひろがったこと,新たに輸出国に供給保証の義務を課したこと(相場がポンド6セント50以上となった場合),輸入国側には非加盟国からの輸入禁止規定が設けられたこと(価格が3セント25を下回った場合),発展途上国優遇の措置が盛りこまれたこと等である。
なお,この協定は1969年6月末までに,輸出国票数の60%,輸入国票数の50%以上に当る国が正式受諾の手続を終えれば,予定どおり7月1日に確定発効することとなっている。
(2) 新協定の発足に伴って1969年1月ロンドンで開催された第1回国際砂糖理事会は69年度の割当総数量を859万1千トンと決定し,各国の基準輸出トン数の90%になるよう割当てている。かかる割当て量の決定もあって,近時国際糖価は3セント50をこえて上昇しているが,砂糖はきわめて投機的商品であることもあり,自由市場最大の輸入国であるわが国としては,今後の動向に注目してゆく必要があろう。またわが国の主要輸入先キューバ,豪州,中華民国,南阿にとって,なかんずく豪州にとって砂糖の対日輸出は重要な経済的意味をもっており,わが国は従来から砂糖協定の締結にあたり,日豪関係にも十分配慮してきたところであるが,今後とも砂糖協定との関連で,かかる配慮が必要と思われる。
1963年に発効したコーヒー協定は1968年9月30日をもって有効期間が切れることになっていたので,国際コーヒー理事会は1968年2月,この協定を改正し「1968年の国際コーヒー協定」の名称で同10月1日から有効期間5ヵ年の新協定を採択した。同協定は所定の要件を満し,1968年12月30日に正式に発効した。新協定の骨子は従来の協定とほとんど変っていないが,価格安定のための方策として輸出割当の設定,品種別価格帯制度,生産規制,多角化基金の整備強化,非加盟国からの輸入制限,消費増大のための検討等具体的な内容については旧協定よりかなり強化されている。なお新協定の基本割当は約5,504万袋であるが本年度(1968年10月~1969年9月)は需要見込量を勘案して4,730万袋に削減して,出発した。また多角化基金も具体的規約ができて,初年度は約2,663万8千ドルが輸出国から基金に払込まれることとなっている。また1968年12月30日現在の協定加盟国は輸出国41ヵ国,輸入国21ヵ国(日本を含む)である。なおキューバは前記交渉会議でのキューバの基本割当ての量および多角化基金の整備強化を不満として,新協定には加入していない。
わが国は新協定に輸入国として引続き加入することとし,1968年9月暫定適用通告を行なった。新協定でも旧協定同様,わが国は当分新市場国(1人あたりの消費量が現在未だ少ないが,将来著しく増加する可能性のある国を特別扱いとし,この新市場国に対する輸出は加盟輸出国の輸出割当のわく外とする)の地位を享受することとなるので,加盟輸出国から輸出割当外のコーヒーを買付けることができる。新市場国の存続の可否は従来よりしばしば理事会で議論されてきたが,概して輸出国は新市場向けの輸出が割当にしばられないのでこの存続を希望していた。但し,新協定では輸出割当を旧協定よりかなりふやしているので協定の運用を強化すべしとの原則論から今後輸入国のみならず,輸出国からも新市場国廃止の動きが出てくる公算もあろう。
すずについては1966年7月1日以来第3次すず協定が有効期間5ヵ年で発効しているが,1967年来すずは生産過剰に転じ,市況も協定の下限価格帯(ロングトン当り1,280英ポンド~1,400英ポンド)の低目のところを上下してきたため,協定の規定に従い,市場からすずを買上げて価格の低下を防いでいた(この買上げ基金は「緩衝在庫基金」といい原則として生産国が拠出している)。しかし市況は回復しないので,1968年9月の理事会において輸出統制が決定され,生産国は輸出を制限することとなった。
現在この輸出制限の実効が上っており,市況はロングトン当り1,400英ポンドに回復している。
他方すずの価格低落のため,今後生産国から先進国における代替品の生産抑制を要望する声も出るのではないかと思われるので,クロームメッキ,すずを使用しないかん詰用かん等の代替品を生産しているわが国としては,今後の生産国の動きに注目する必要があろう。またすずの主要生産国はタイ,マレイシア,インドネシア等東南アジアに集中しており,わが国としては,かかる事実に十分留意する必要があろう。
1967年11月~12月生産国に販売割当を課し,緩衝在庫を補完的手段として用いることを骨子とするココア協定作成のため,国連ココア会議がジュネーヴで再開されたが,一部協定のメカニズムにつき合意に達せず中断されたままとなっている。1969年1月のUNCTAD第8回TDB(国連貿易開発理事会)においてココア交渉会議の早期再開が要望されたが,現在ココア価格が高水準にあこるともあり,早期再開の可能性は薄いとみられている。
ゴムについては政府間で設立している独立の国際機関である国際ゴム研究会において,一般的な研究および情報交換のほか,天然ゴムと合成ゴムとの競合問題がとり上げられているが,マレイシアをはじめとする天然ゴム生産国は,合成ゴム生産国に対し,天然ゴム市況軟調の一因が合成ゴムの不当に有利な販売条件にあるとして,1967年末以来フェアー・マーケッティング・コード(市場取引を公正化するための規約)の作成を強く要求していた。かかる事情から1968年10月パリで開催された同研究会の第83回会合では,市場撹乱防止等の努力目標をかかげたコード(法的拘束力はない)が採択された。しかし天然ゴム生産国は,これに満足せず,1968年11月ジュネーヴで開かれたUNCTAD合成品代替品第2回会合においても,法的拘束力を伴う協定締結の必要性を強調した。
しかしその後,(1)米国の戦略備蓄在庫に保有する天然ゴムの放出停止 (2)ソ連・中共の買付増大 (3)インドネシアの不作等を背景として天然ゴム価格は急騰しており,今後の動きが注目される。