第2章 国際経済関係

世界経済をめぐる主要な動きについては,第1部I「世界の動き」第12章「世界経済の流れ」の項で略述したが,本項においては,この分野における最も重要な国際協調の場であるガットおよびOECDにおける国際協力並びに他の主要な国際経済問題として国際金融問題および商品問題についてここ一年間を中心とした動きを概観するとともに,1970年の日本万国博覧会の開催準備について略述する。なお二国間の経済関係については,第2部第1章「わが国と各国との諸問題」を参照願いたい。

ガット(関税および貿易に関する一般協定)における国際協調

1968年は各国がケネディ・ラウンド関税引下げの第一段階を実施に移した年であったが,過去1年ガットはダンピング防止委員会の設立等にみられるごとく,ケネディ・ラウンドの成果の確保に努めるとともに,ケネディ・ラウンド交渉でいわば取残されたとされている問題,すなわち非関税貿易障害,農産物貿易の問題について将来の多角的交渉の準備の意味から,きめの細かい地道な作業を行なってきた。

他方,米国の国際収支問題および米国内の保護主義をめぐる動きは,ガットにも大きな影響を及ぼした。1968年当初世界に波乱をなげかけた米国の輸入課徴金導入の動きは,各国がケネディ・ラウンド関税引下げを繰上げて実施することにより協力するとの態度をとったこともあって,ようやく回避されたが,かかる米国の動きは,EECの国境税調整問題(下記3.参照)や残存輸入制限が,ガットにおいて大きく取上げられる要因の一つとなった。

さらに,フランスの五月危機や1968年11月の欧州通貨不安を契機として,国際通貨不安問題と貿易政策のからみ合いが国際的に問題となり,ガットにおいてもフランスの輸入制限や英国預託金制度の取扱いをめぐって種々の議論が行なわれた。

なお,このほかにガットは,第2回国連貿易開発会議のあとを受けて発展途上国貿易問題についても地道な作業を行なってきた。

これらの問題についてガットにおける過去1年の動きを略述すれば次の通りである。

1. 残存輸入制限問題

1967年のガット第24回総会以来ガットにおいて残存輸入制限問題が注目を浴びたが,これには次のような事情があると考えられる。

すなわち,(イ)ケネディ・ラウンド交渉によって関税が大幅に引下げられた結果,関税以外の貿易障害の問題が目立ってきたこと,(ロ)米国が自国内の保護主義との関連から,諸外国の輸入制限に対し,従来にまして厳しい態度をとるに至ったこと,(ハ)農産物が各国において輸入制限の対象となっているのに対し,カナダ,オーストラリア,ニュー・ジーランド等の不満が高まっていること,(ニ)先進国へのアクセス(貿易障害撤廃および輸入保証)増大を望む発展途上国の動きが無視できない状態になっていること等がこれである。

1968年のガット総会においては,前回総会にひき続きニュー・ジーランドより1969年6月末までに残存輸入制限を撤廃できない国は,義務免除(ウエーバー)を取得するか自由化計画を提出すること,またこの問題に関して特別委員会を設置する旨の提案が行なわれ,アメリカ,カナダ,オーストラリアをはじめ低開発国の支持を得たが,残存輸入制限品目を工業品と農産物にわけ,各々ガットの既存機関である工業品貿易委員会,農業委員会および貿易開発委員会の検討にゆだねるべしと主張するEEC,英国等の態度と,本件をガット違反の問題として別箇に取上げようとする米国の態度がかみ合わず,結局今後この問題の取扱いは理事会で検討することになっている。

なお米国は,1968年11月残存輸入制限問題に関しわが国との協議を要請し,これを受けて11月20日から22日までジュネーブにおいて,また12月27,28日の両日東京において日米協議が行なわれた。

目次へ

2. 国際通貨不安と貿易政策の関連とガット(英国の輸入預託金問題およびフランスの緊急措置の取扱い)

1968年6月,フランスはいわゆる五月危機による経済再建策の一環として,鉄鋼,繊維,電気製品,自動車等に輸入数量制限を導入し,加えて多くの製品,半製品に賃銀の値上り分を補償する型の輸出補助金を導入した。また英国は1968年11月,国際収支上の困難に対処するため,原燃料,船舶,食料等を除く輸入品に対し高率(50%)の輸入担保金を6ヵ月預託せしめる輸入預託金制度を導入した。

英仏の措置はガットに通報され各々作業部会が設けられたが,仏の措置については五月危機に発する複雑な事情を背景とするものであること,英国については英国国際収支の困難に関しIMF(国際通貨基金)の判定が下されたこと等が考慮され,ガットは各国がガットに提訴する権利を侵害しないこととしつつも,実質的には暫定的にこれを黙認するという形で処理した。

しかしながら,英仏の両措置を背景として,ガットにおいても国際通貨不安と貿易対策の関連があらためて深く認識され,1968年11月のガット第25回総会の結論として,締約国団は最近の国際通貨上の困難にかんがみ,現在若干の主要貿易国が直面している諸問題に内在する自由貿易の慣行に対する危険性を憂慮し,当該諸国がその採用を必要と認めた一時的諸措置につきその貿易上の側面の検討を続けていくこと,またこれらの一時的な困難にかかわらず,ガット締約国がガットの原則と目的に従って国際貿易の自由化と拡大を引続き遂行する用意がある旨を一致して再確認した。

目次へ

3. 国境税調整問題

輸入品に対し同種の国内産品に課されている間接税を課し,他方自国産品の輸出に際しては国内間接税相当分を払戻す制度は,ガット上合法ではあるが,米国のような直接税中心の国には貿易上の不利をまぬがれないとして従来から米国により問題とされていた。ガットは,1968年3月以来作業部会を設けて本制度に関するガットの規定,各国の実態を検討してきたが,1969年3月でほぼ事実の確認に関する第1段階の作業を終了し,現在本制度が国際貿易に与える影響について検討を行なっている。

目次へ

4. 非関税貿易障害

1967年秋のガット第24回総会で採択された手続きに従って,1968年前半各国は自国の輸出にあたり,各国(政府および民間双方)の非関税貿易障害と考えられる事項をガット事務局に通報した。これらの通報は極めて多岐にわたるものであったが,1968年10月の工業品貿易委員会は一応これらを(1)政府援助,政府調達等を含む政府の貿易介入,(2)相殺関税,アンティ・ダンピング,関税評価等を含む関税制度,(3)各種の規格要件,(4)輸出入制限,(5)為替管理等を含む価格メカニズムによる輸出入抑制,(6)その他の6項目に分類し検討を進めることに合意し,1969年2月,3月の同委員会において各項日毎に関係国間で精細な質疑のやりとりが行なわれた。1969年前半中に全項目の検討を終了する予定となっている。

目次へ

5. 農産物貿易

1968年1月の農業委員会の決定に従い各国は,当面の検討対象品目である酪農品,穀物,牛肉,その他の食肉,野菜果実,油脂,煙草,ブドウ酒の8品目につき,生産量,保護措置,消費量,内外価格および輸出入数量等細目にわたる資料を提出した。1968年10月の同委員会は,今後の作業として品目毎の検討をやめ事項別に検討することとし,その項目として国際貿易(輸出補助金,輸出価格措置等並びに輸入制限,関税,課徴金等が農産物貿易に与える影響の分析等)および生産政策(生産政策一般,生産制限および合理化措置,支持保護の水準,生産政策が市場に与えるインパクト等の検討)をとりあげることに合意した。次いで1969年3月同委員会は前記項目別検討を行なったが,新たに各国は価格支持,関税および課徴金,数量制限等の各種保護措置を計量化する資料を提出することとなった。なお農産物貿易のうち酪農品および家きん肉については,輸出補助金等によって,伝統的貿易パターンが影響をうけており,緊急にその解決策を検討すべきであるとの観点から,それぞれ特別のグループが設置されているが,酪農品については1968年12月および69年2月の会合を通じ最低価格の設定および共同財政負担による食糧援助計画を柱とする具体案が検討されており,また家きん肉については,輸出補助金規制あるいは輸出補助金に対する相殺関税賦課の可能性等が検討されている。

目次へ

6. 発展途上国貿易問題

ガットは過去1年発展途上国貿易問題についても,残存輸入制限,発展途上国産品を特掲する関税再分類,調整援助等に関し,地道な検討を行なうほか,熱帯産品に関する関税消費税軽減の可能性を検討してきた。1968年11月のガット第25回総会でも「ガットは,発展途上国の問題に優先的考慮を払うとともにその解決のための措置を直ちにとる必要がある旨を留意し,発展途上国の貿易および開発に関する貿易開発委員会の実効性を強化するために,同委員会が発展途上国の輸出に影響を及ぼしている関税,非関税貿易障害等について協議し問題の解決策を探求すること,工業品貿易委員会,農業委員会等他のガットの諸機関に対し発展途上国の特別関心問題に早期かつ十分な注意を払いうるよう然るべき提案を行なうこと,また同委員会が先進諸国によるガット第4部の履行上の困難につき詳細な検討を行ない,より効果的,体系的な履行を確保するための措置を勧告すること」に合意を見た。

なお,発展途上国貿易関心品目のうち,熱帯産品については特別部会が設置されているが,1968年7月の会合で,対象6品目(紅茶,コーヒー,ココア,バナナ,油脂,香辛料)について事務局が研究を続ける一方,輸出国が随時輸入国と協議し,その結果を次回部会に報告することになっている。

目次へ

7. 国際アンティ・ダンピング・コード

ケネディ・ラウンド交渉の成果の1つとして作成された,いわゆる「国際アンティ・ダンピング・コード」は,それぞれの国内手続を終えて,わが国を含む主要先進国により1968年7月1日より発効したが,1968年11月のガット第25回総会において,同コード17条に従い,コード受諾17ヵ国およびEECをメンバーとする「アンティ・ダンピング委員会」が設置された。同委員会は各国のアンティ・ダンピング制度がコードにそって運用されているかどうかに関して協議を行なうことを主目的とするものであり,1969年2月に非公式会合が開催され,さらに9月に第1回の正式会合が開かれることとなっている。

目次へ