資 料
池田総理大臣および大平外務大臣の国会演説
第四十一回国会における池田内閣総理大臣所信表明演説
(外交に関する部分)
(昭和三十七年八月十日)
(外交方針)
わたくしは、再三にわたり、内政と外交は本来一体であるという信念をひれきしてまいりました。内に平和と秩序が保たれ、国民のおう盛な活力の展開と国論の一致とがあってはじめて、力強い外交が可能になるわけであります。また、よく外国の信頼と畏敬にこたえうる外交があってこそ、横溢した国力の展開の場が提供されるものであることは申すまでもありません。
御承知のように、われわれは、平和維持機構としての国際連合の強化をはかりつつ、理想を同じくする自由圏諸国との提携を密にし、アジア、アフリカ並びにに中南米諸国と相協力することを外交の基本方針としてまいりました。同時に、共産圏諸国とは相互の立場を明確にし、内政不干渉の原則に立って、経済と文化を中心とする友好関係の増進をはかってきたのであります。
国際連合の果たす役割は、ますます重要の度を加えるにいたりました。わが国は、その有力なる一員として、常に公正、かつ、建設的な世界与論の形成に寄与し、加盟各国の高い評価を受けてきましたが、今後も一層この努力を続け、間際連合において、名誉ある日本の責任を果たしてまいる所存であります。
おもうに、今日の世界は、東西陣営のきびしい対立に加え、先進国と後進国との間の容易に解決しえぬ格差のため、緊張の緩和は、にわかにこれを望み難い情況にあります。わが国はその間に処して、自らの平和と繁栄の基礎を固めることを第一義としなければなりませんが、同時に、世界における緊張の緩和に寄与するところがなければなりません。わが国が、核戦争と、その危険に通ずる一切の措置に強く反対し、アジアの友邦をはじめとして、アフリカ並びに中南米諸国にあとう限りの経済及び技術の協力を実行してきたゆえんもここにあるのであります。
わが国と自由圏諸国との協調は、いくたの利害の対立を克服しつついよいよ緊密の度を加え、自由圏との貿易は対米輸出をはじめとして順調な伸張を示しております。われわれは、さらに相互の理解を深め、互恵と協力の精神をもって、新たに貿易拡充の場を見いだして行かねばなりません。英国の欧州経済共同体に対する加盟が当面の問題となり、米国が通商拡大法案を通じてこれと協議する姿勢を進めてきたことは、今後における世界経済の再編成を物語るものであります。わが国としては、つとに、このすう勢を察知し、為替及び貿易の自由化を中核として秩序ある輸出体制の整備を進め、あわせて、わが国への差別的な輸入制限に対して根気よくその除去に努め、その結果多数の国との間に通商航海条約の締結をみっつある次第であります。今後もこの方針に基づいて貿易の拡大をはかってまいる所存でありまして、わたくしが近く英国をはじめ欧州諸国を歴訪せんとするゆえんも世界の平和と貿易の拡大について、関係国の首脳と隔意ない意見の交換をとげたいためであります。
日韓両国が、いまだに正常な国交関係に恵まれないことは、両国民の不幸であり、隣りあう両国にとってきわめて不自然なことでもあります。政府としては、両国間に横たわる諸問題の合理的、現実的な解決を通じて、すみやかに国交の正常化をはかるため、誠意をもって努力する所存であります。
(外交に関する部分)
(昭和三十七年十二月十日)
(外交政策)
キューバをめぐる最近の危機は、世界の人心を深刻な不安に陥れたのでありますが、関係者の平和解決への努力の結果、最悪の事態が回避されるに至りましたことは、同慶に堪えないところであります。しかしながら、今回のキューバ危機、さらには国境紛争をめぐるインドと中共との武力衝突の事実は、単なる平和への要請や中立主義の主張がいかに非現実的なものであるかを立証するものであります。私は、世界各国が、世界平和の維持に対する責任を真に自覚し、真に有効にして現実的な緊張緩和のための方策を、誠意をもって、実施することが、緊要であると存じます。すなわち、東西両陣営において、核問題に対する認識が高まりつつある今日、私は、わが国が多年にわたって主張してきた、実効ある核兵器実験停止協定が一日もすみやかに締結されるよう、この際、一段の努力が必要であると信ずるものであります。このたびの西欧諸国訪問に際しましても、私は、この点を特に強調いたし、各国首脳の共鳴を得たのであります。
世界の平和を維持し、人類の繁栄と向上を図るためには、各国が狭い国家的利害をこえ、あらゆる分野にわたって、国際協力を積極的に推進しなければならないと信ずるのであります。この意味において、西欧諸国が経済共同体を形成し、究極的には政治統合への道を志向しつつ、しかも単に域内各国の利害の調整にとどまらず、広く眼を外に向け、国際的連帯の基盤に立って、その経済的発展を図ることを基本方針としている事実は、注目に値するものであります。私は、この欧州経済共同体とわが国との経済関係の発展を特に重視して、関係諸国の首脳との会談におきましても、この点について率直に意見の交換を行ないました。その結果、これらの諸国が、アジアにおける先進工業国であるわが国に対して、通商上の障害を除去するなどわが国との関係をさらに発展させるよう努力している事実をみいだし、心強く感じた次第であります。また、このたびの訪英に際して、多年の懸案であった日英通商航海条約の署名を見るに至ったことは、両国友好関係の今後の進農を約束するのみならず、他の諸国との関係にも新局面を開くものであり、まことに意義深いことであります。
思うに、このような成果をあげえたことは、これら諸園がわが国民の多年の努力の結果である経済の発展、社会の安定などわが国力の伸長を認識したためにほかなりません。また、アレキサンドラ内親王殿下の御来日、秩父宮妃殿下の御訪欧をはじめとし、最近ようやく活発となった各界にわたる親善交流もあつかって力があったものと存じます。
わが国の発展にとって、米国との関係が重要であることは申すまでもありません。本月上旬に行なわれた第二回日米貿易経済合同委員会において、両国の一層緊密な発展について隔意のない村議が行なわれました。その結果、さらに今後両国と欧州経済共同体とが相互に協力して、自由な貿易の拡大を通じて経済的繁栄を図り、発展途上にあるアジア・アフリカ諸国に対する協力を一層強化することとなりました。このことは両国の経済関係のみならず広く世界の発展に貢献するものであると信ずるのであります。
わが国の繁栄および平和は、アジア各国の繁栄および平和と密接に結びついております。アジアの繁栄なくして、わが国の繁栄はありません。私は、わが国と最も近い隣邦である韓国との国交が、いまだに開かれていないことは、不自然、かつ、不幸なことであると思うのであります。また、日韓両国の国交正常化は、わが国民の大多数の希望するところと存じます。幸いにして去る八月、日韓両国の交渉が再開されて以来、両国間の解決を要する諸問題について鋭意折衝を続けた結果、相互の立場について理解を深めることができたのであります。さらに、最近、両国の朝野において、国交正常化早期達成の機運が盛り上っております。ことは、嘉ばしいことであります。私は、この機通を背景とし、国民が納得できる内容をもって、交渉が妥結するようさらに努力をつくす所存であります。
(外交に関する部分)
(昭和三十八年一月二十三日)
(外 交)
一国が世界の動きと無関係にその安全と繁栄をはかることは不可能であります。以上申しのべてきました「人つくり」「国づくり」が真に実を結びわが国が一層の繁栄をかちとるためには、わが国が国際社会の一貫としての役割と責務を忠実に果たし、世界平和に寄与することが必要であります。このことがまた、わが国の国際的信用を高め、その安全を全うし、わが国を繁栄に導くゆえんであります。私がかねがね内政と外交の一体を唱えているのもまさにこの点に存するのであります。
昨年は、インドシナ半島における情勢の緊迫化、中印間の国境紛争、キューバをめぐる危機の発生、さらには中ソ対立の顕在化等、国際政局は誠に多事多難をきわめた年でありました。なかんずくキューバ問題は、幸いにして戦争の破局に発展することなく、未然に防止されましたが、これは、米ソ両国首脳が、戦争が人類を破滅に陥れることを十分に認識して、良識ある忍耐強い努力を払ったためであります。しかし、その背後に、米国の堅い決意と中南米諸国を始めとする自由陣営全体の確固たる団結があったことを見落してはなりません。さらにキューバ問題は、西欧陣営に政治的、軍事的、経済的並びにこれらの総合的な力に対する確固たる自信を与えたものと考えられます。
しかしながら、東西陣営間の基本的対立関係や、各種の国家的利害関係の対立は、依然として根強いものが存することには変りはありません。私は、世界各国が波乱に満ちた昨年の国際情勢の推移を反省し、国際紛争は、すべて平和的手段によって解決するという国際連合憲章の根本精神を厳守するよう強く訴えるものであります。この意味におきまして、私は、軍縮問題なかんずく核兵器実験停止協定締結のための交渉がさらに進展を見ることを強く期待するものであります。政府は、かねてより有効な核実験禁止協定の早期締結について強く働きかけてきましたが、最近、地下実験の査察方式について、米ソ両国間の話合いに打開の糸口が出てきたことを喜ぶものであります。私は、関係国がさらに一段の熱意をもって協定成立に到達することを、強く要請し、本年こそ話合いによる緊張緩和に、新たな第一歩を踏み出す年としなることを期待いたします。
昨年は、わが国の対外経済発展の上からも、誠に意義深い年でありました、さる十一月、多年の懸案でありました日英通商航海条約の署名をみるに至り、また、その他西欧諸国との間にも、対日輸入制限の緩和ないし撤廃について原則的了解に到達し、さらに経済協力開発機構(OECD)への加入についても明るい見通しをうるに至りました。これらの事実は、西欧諸国の、わが国に対する信頼の向上、北米に加えてわが国との協力提携を緊密にしようとする意図の表われにほかならないのであります。しかし、今後日本と西欧諸国との間の経済関係が、さらに発展の道を進むか否かは、わが国がこれら諸国の信頼を維持し、さらにこれを強化しうるか否かにかかるところがきわめて大きいのであります。したがって私は、特に秩序ある輸出体制の整備強化について、政府民間相協力して、一層の努力を必要とすることを重ねて強調いたしたいのであります。
今後西欧諸国は、経済統合の下にさらに繁栄を続けるものとみられ、米国は、通商拡大法の成立により貿易の拡大をはかる態勢にあり、これにカナダを加えた先進工業国は、関税の一括引下げを含み、相互の貿易の一層の自由化拡大の方向に向うものと予想されるのであります。わが国といたしましては、このようなすう勢に対応して、関税一括引下交渉に自ら参加するとともに、貿易の自由化についても、一層の努力をいたす所存であります。
ソ連との貿易が次第に増大の方向に向い、対中共貿易も再開の緒につき、東欧諸国がわが国との貿易の促進に目を向けつつあるなど共産圏諸国との貿易は、増大の機運に向っているのであります。しかし、これら諸国の経済状況を見るとき、貿易の伸長に多くの期待をかけることは困難であります。政府としては、これら諸国との貿易を行なうにあたり、自由陣営の一員としての立場を考慮しつつ、自主的判断のもとに、これを進めて行く従来の方針に変りはありません。
先進工業国の経済発展が明るい前途を約束されている際に、われわれは、発展途上にある新興諸国家の前途にも目を向けることをおこたってはなりません。もし先進工業国と新興諸国との経済上の格差がますます拡大するごとき結果となるならば、調和のとれた世界の発展を阻害し、世界平和の維持をも危うくするものであるといっても過言ではありません。先進工業国の経済的繁栄は、新興諸国家の政治的安定と経済発展に依存するところがきわめて多いのであります。私は、この意味において、アジアにおける最も進んだ工業国としてわが国の責務の重大さを痛感し、本年はアジアを中心とする発展途上にある諸国家に対し、経済協力を一層積極的に推進する所存であります。
日韓交渉とビルマ賠償再検討問題は、いずれもわが国のいわゆる戦後処理として残された懸案であります。この意味におきましても、私は、できる限りすみやかに交渉が妥結に到達することを希望し、これがため格段の努力をなさんとするものであります。私は、これらの問題に取り組むに当たりまして、単なる過去の懸案を解決するとの立場にこだわらず、新興諸国に対するわが国の寄与を通じて、相互の発展と繁栄をはかるという大局的見地に立ち、相手国の理解を得て交渉を促進し、諸問題を解決するよう最善の努力を傾ける所存であります。
(昭和三十八年一月二十三日)
今日の世界情勢は、キューバをめぐる危機の発生と、その収拾を契機として、一つの大きな転機を迎えたと思います。そしてそれは、世界政治の指導的立場にある諸国家が、世界平和の維持に決定的な責任をもつていることを立証するとともに、すべての国々が平和的手段により国際紛争を解決する精神に、より深く徹することの重要性を示唆するものであると思います。さらに、今後、世界が平和を維持しつつ、その調和ある発展と繁栄を遂げるためには、各国が、それぞれ、国際社会の一員として、その分に応じ、広い基盤にわたって、国際的協力を積極的に推進する必要のあることは申すまでもありません。
わが国は、その国力の伸張と国際的地位の向上に伴い、世界の平和と繁栄に対し、ます圧す重い責任を負担するに至りました。私は、国際的役割と責任が増大すればするほど、わが国としては、常に冷静に国際情勢の判断を誤らず、その国際環境にふさわしい地道な努力を、積み重ねてまいりたいと思います。
私はこのような観点に立ち、過去一年にわたるわが国外交を回顧しつつ、当面する外交案件について、若干の展望を試みたいと考えます。
旧臘、第十七回国際連合総会は、平穏裡に幕を閉じましたが、加盟各国が、いたずらに自国の宣伝と他国に対する非難に終始することなく、軍縮、経済開発その他、世界の平和と繁栄にかかわる諸問題の討議に積極的に参加したことは、国際連合の権威を高める上に意義深いものがあったと思います。わが国は、従来より、国際連合に積極的に協力してまいったのでありますが、本総会においても、引き続き経済社会理事会理事国に選出されました。このことは、国際連合におけるわが国の活動が、高く評価された結果にほかならないと考えます。
この総会において取り上げられた議題のなかで、速やかにその解決を迫られているものは、核兵器実験停止の問題であることは改めて申すまでもありません。その成否は、一に地下爆発の疑ある場合に、査察を認めるか否かにかかっているのであります。この点について、最近米ソ両国間に直接、問題解決のために、交渉が行なわれております。私はこの話合が円滑にすすみ、有効な核兵器実験停止協定が速やかに締結されるよう強く要望するものであります。政府といたしましても、そのため、引き続き積極的な働きかけを行いたいと考えております。
次に、わが国の直面する外交問題を、地域別に概観いたしたいと存じます。
まず、米国との関係は年を迫うて緊密になってきております。日米貿易経済合同委員会および日米科学委員会は、一昨年以来二回にわたって開催され、また、日米文化教育会議も、来る十月には第二回の会合を行なうこととなっております。さらに、安全保障協議委員会も随時開かれております。このように、政治、経済、文化の広範な分野にわたり、日米両国間に意志の疎通が活発に行なわれております。米国との関係は、わが国の安全と繁栄に至大の関係があり、日本外交の根幹であることは申すまでもありません。安全保障の分野における日米協力は、すでに日米安全保障条約に明らかにされているとおりであります。他方、経済の分野における協力は、文化や科学の面における協力とともに、今後ますます発展せしむべきものであると考えております。政府は、今後とも米国との間に、相互の信頼を深め、幅広い接触を保ちつつ、緊密かつ円滑なる関係を、維持発展せしめたいと考えております。
なお、明年度における沖縄援助につきましては、十二月下旬対米協議がととのい、約十八億円の援助を、沖縄住民の生活水準向上のために供与することになりました。また、昨年来、沖縄に対する経済援助のための日米琉間の協議機構を設置することにつき、米国政府と協議を重ねておりますが、近く東京に協議委員会、沖縄に日米琉の技術委員会が設置されることになるものと考えております。
中南米諸国につきましては、メキシコ大統領の来日を始めとして、わが国とのこの地域の友邦国との間に、要人多数の往来があり、彼我の友好関係が大いに深められました。また、貿易、移住、経済協力、文化交流の面においても、相互の関係がますます緊密になりました。わが国としてはこの地域の有望な将来性にかんがみ、さらに彼我の関係を一層強化してゆきたいと考えております。
わが国の対西欧外交は、池田総理の訪欧を契機として、一層の進展をみるに至りました。すなわち、現在日米間に存する如き緊密な関係を、日本と西欧との間にも発展せしめる道が開かれたのであります。このことは、ただに、わが国と西欧諸国相互の利益を増進するに止まらず、広く世界の平和と繁栄に寄与するものであると信ずるのであります。
わが国とソ連との間では、それぞれの体制上の相異を認めつつ、近時、貿笏と文化の面における交流が進展しております。北方領土問題は依然として未解決でありますが、固有の領土に対する、わが国民の正当な権利と愛着を無視して、安易な妥協をはかることなく、あくまでわが方の主張を堅持し、今後とも、この問題の正しい解決を期してまいる所存であります。
最近アジアにおいては、中印国境、インドシナ半島等にみられるように、その情勢は依然として、安定を欠いております。アジアに位置するわが国といたしましては、後に述べるようにアジアの友邦諸国に、可能な限り、経済協力を推進してアジアの平和と安定に貢献したいと考えております。
日韓両国の国交正常化は、それ自体当然の要請であります。今次の日韓会談は、幸い両国朝野における国交正常化への気運を背景として、ようやく、軌道に乗って具体的討議が進められるに至ってております。とくに請求権の問題につきましては、その討議を通じて、その法的根拠の有無に関する両国の見解に大きなへだたりがあること、また戦後十数年を経適し、その間朝鮮動乱があった等のために、事案関係の正確な立証も極めて困難なことが、判明するに至ったのであります。しかしながら、このような両国の対立をそのまま無期限に放置することは、大局的に見て適当でないことは明らかであります。そこでかかる困難を打開する構想につき、昨年夏以来、韓国側と交渉してまいりました。その骨子は、かつて一つの国家を形成していたという両国の特別な関係と、将来における親交関係の展望に立って、この際、韓国の民生の安定、経済の発展に貢献することを目的として、同国に対し無償および有償の経済協力を行なうこととし、このような経済協力を供与することの随伴的な結果として、平和条約上の請求権の処理が同時に一切解決したことを、日韓間で確認するというものであります。この構想の大筋は、昨年末までに両国間で合憲を見ております。政府といたしましては、請求権の問題のみならず、漁業問題を始め、在日韓国人の法的地位、竹島等の全懸案を、一括して同時に解決することにより、国交正常化をはかるべく、目下鋭意折衝中であります。
また、中共の国連参加、その承認の問題は、わが国のおかれた立場、とくにアジアと世界の平和に対し本問題の及ぼすべき重大な影響にかんがみ、慎重に対処する必要があると考えております。同時に、このことを十分認識した上で、可能な範囲において、民間べースによる貿易等については、現実的に対処してまいる所存であります。
ビルマが提起した賠償再検討要求の問題につきましては、わが国はビルマの経済発展と福祉増進に協力するため、無償および有償の経済協力を行なうこととし、ビルマ側は、再検討条項に基づく要求を今後行なわないという方式で解決すべく、目下折角交渉中であります。
中近東アフリカ諸国は、わが国の貿易市場として、次第に重要性を増してまいりました。このため、政府は、アフリカの新興独立諸国に順次在外公館を整備拡充し、これら諸国と貿易協定の締結、人的交流の促進等をはかるほか、昨年ガーナとの間に技術協力協定を締結し、また、近く、ガーナ、ナイジェリアおよびケニアに技術協力センターを設置することになっております。
次に経済外交について、申し上げます。
国内経済の高度成長、輸入自由化の推進により、わが国の貿易総額は一〇五億ドルを越え、いまやわが国は、自由世界におげる第七位の輸出国、また第五位の輸入国として国際的な経済交流に大きな役割を演ずるとともに、開発途上の諸国に対する経済協力を強化し、世界の繁栄に対する貢献の度を年々高めております。
昨年の通商関係を顧みまするに、わが国の重要な安定市場である米国に対する輸出は、為替統計によれば、十一月までの実績で、約十三億五千万ドルと前年同期に比し三十五%の増加を示しております。一昨年は八億五千万ドルにのぼった貿易収支の赤字も、昨年十一月末現在で約一億二千万ドルに縮少され、日米経済関係は著実な進展と改善を見ております。日米間におけると同様、このほど、カナダとの間にも、新年早々閣僚委員会を開催する等、太平洋にまたがる日米加三国間の協調は今後ますます緊密の度を加えるものと考えます。
昨年十一月英国との間に調印をみた通商航海条約は、英国のガット第三十五条援用撤回をも含む画期的なものであり、日英の通商関係に安定した基礎を提供し、その進展に寄与するばかりでなく、わが国と西欧との通商関係の将来に明るい影響をもたらすものであると存じます。
さらに政府は、ガット第三十五条援用、あるいはその他の対日差別を行なっている諸国と交渉を重ねた結果、フランス、イタリア、ベネルックス三国、ノールウェー、スペインおよびオーストリアの西欧諸国ならびにローデシア・ニアサランド連邦等の対日輸入制限はかなり縮少をみたのであります。また、ニュー・ジーランドおよびガーナはガット第三十五条援用を正式に撤回いたしました。なお、オーストラリアについても、一層安定した通商関係を発展せしめるため、目下交渉中であります。また、アフリカの新興独立国であるカメルーン、ダホメおよびニジェールも、対日無差別待遇の意向を表明いたしました。かくて、たとえば、昨年の西欧に対する輸出は、著しい伸びを示し、十一月までの実績は約五億九千二百万ドルと、前年同期に比し約二十七%の増大をみております。
池田総理訪欧の際、欧州経済共同体諸国の指導者が、わが国との経済関係の正常化に努めることを約するとともに、経済開発協力機構(OECD)へのわが国の全面加盟についても、その支持を表明されたことは御承知のとおりであります。彼我の経済使節の往来等、民間における経済交流も活発となり、業界相互の親善と理解が増進されたことは、まことに意義深いものがあります。このような気運を背景として、わが国は秩序ある輸出体制の整備に努め、西欧諸国との通商関係の一層の発展をはかりたいと思います。
開発途上の国々に目を転じますれば、一般的にこれら諸国の貿易は、一次産品市況の不振と深刻な外貨の不足等により、伸び悩みの状況にあります。過去八年の趨勢をみましても、先進国間の貿易は倍増しておりますが、これら諸国と先進国間の貿易は三十八%、これら諸国相互間では二十五%の増加をみたにすぎない実情であります。開発途上の国々が、その経済開発促進のために、自国の一次産品価格の安定と販路の確保を要望し、先進諸国の一層の協力を期待していることは、十分理解し得るところであります。わが国としては、昨年も一次産品の買付増大につき努力してまいりましたが、今後とも後進国貿易の拡大に、あるいは国際商品協定による一次産品の価格安定に、一層の協力を続げてまいりたいと考えております。この意味におきまして、国際連合が中心となって目下準備を進めている国連貿易開発会議にも、わが国は進んで参加する所存であります。
世界経済の趨勢をみますれば、欧州経済共同体の発展を契機として、先進工業国間においては、輸入自由由化に引き続き、ガットを通じての関税の一括引き下げにより、貿易上の障害を軽減するため多角的な交渉を開始する準備が進められております。わが国は、昨年も世界関税会議に参加し、欧州経済共同体をはじめ、米国その他の国との間に関税交渉を行ない、関係品目につき相互の関税引き下げを約束しました。さらに、来るべき関税の一括引き下げ交渉にも参加し、世界経済の新らしい動向に即しつつ、わが国の貿易体制の整備をはかりたいと考えております。
かかる先進工業国相互間、および先進工業国と開発途上の国々との間における経済協力関係の発展は、関係各国の国内経済に、程度の差こそあれ、相当きびしい試練を課するものであり、わが国もその例外となり得ないことは、御承知のとおりであります。しかし、今後の世界経済においては、もはや孤立の繁栄はあり得ず、協調による繁栄こそ、基本的にわが国の利益に合致するものであると固く信ずるのであります。
貿易とともに経済外交の重要な一翼をになら経済協力につきましては、政府は引き続きその拡充に努めてきており、インド、パキスタンヘの借款供与をはじめとして、開発途上の地域に対する投融資残高は、昨年九月末現在において約九億ドルに達し、さらに賠償の実施済額も約三億八千万ドルに上っております。ちなみに、昭和三十六年における開発途上の地域に対する資金供与額は、三億八千二百万ドルでありまして、米、仏、英、西独に次ぎ世界第五位を占めております。技術協力の分野におきましても、昨年九月末で、受入研修生の数は延べ四千名を越え、派遣専門家も総数六百名に近い規模となりました。さらに、昭和三十三年度から始まった海外技術訓練センター計画も、今日までに十カ所のセンター設置協定が結ばれ、そのうち六カ所は、すでにその開設をみております。技術協力の能率的な実施を目的として設立された海外技術協力事業団も、ようやく、その活動が軌道に乗りつつあります。
経済協力を通じて、アジア近隣諸国をはじめとする多くの国々との政治経済関係を安定せしめ、その緊密化をはかることは、わが外交の基本方針の一つであります。政府といたしましては、わが国の経済力が充実するに伴い、今後とも、わが国の経済技術協力が、相手国の経済発展に積極的に貢献し、その規模の拡大に寄与すると同時に、多種多様の相手国の要請にできる限り効果的に応じ得るよう、その内容の多角化をはかってゆきたい所存であります。
海外移住の問題につきましては、移住に対する新しい考え方の確立と、移住行政の刷新を期するため、政府は海外移住審議会の答申に基づき、移住の実務機関を刷新強化する等、適切な施策を進めることにいたしました。すなわち、来る七月一日を期して、日本海外移住振興株式会社および日本海外協会連合会の業務を統合し、特殊法人海外移住事業団を設置することといたしました。政府はその海外移住行政を簡素化し、移住実務をできる限り同事業団に委ねる考えでありまして、事業団が、その責任において、地方、中央、海外を一貫する能率的な移住業務を積極的に推進することを期待するものであります。
最近の国際情勢の動きをみて、私のとくに強く感じますことは、世論が各国の外交政策を左右する傾向が強まってきていることであります。政府は、かねてより、文化はもとより政治、経済等各般にわたるわが国の事情を、平和に対するわが国民の念願とともに、ひろく海外に知らせるべく努力してまいりました。幸いにして、近来、世界各国民のわが国に対する認識は、次第に深まり、わが国と相携えて平和と福祉に向かい前進しようとする気運がとみに顕著となってまいりました。一方、政府がその外交方針を策定するにあたっては、常に国民の世論に深甚な考慮を払い、慎重を期している次第であります。国民各位におかれても、諸外国の実情はもとより、複雑なる国際情勢全般に対する関心をますます深められるとともに、世界平和に対してわが国の果すべき役割を十分認識され、その実践に参往されますよう期待するものであります。
わが国はいまや直接世界の平和と人類の幸福に応分の寄与をなすことを、全世界から期待されております。私は、国民各位がこの点に、新たな自信と抱負をもたれ、内政面の充実と相まって、全世界の信頼にこたえる外交の展開を、さらに強く支援されますよう切望する次第であります。