四 わが国の経済協力の現状と問題点

 

 

経済協力に関する国際協調の動き

 

1 DAC(開発援助委員会)の活動

DACの前身にあたるDAG(開発援助グループ)は、一九六〇年一月パリで主要欧米一三カ国が参加して開かれた大西洋経済会議の決議により低開発国援助に関する意見交換を目的として設けられたが、一九六一年九月三十日にOECD(経済協力開発機構)が発足すると同時に、同機構の下部機関であるDAC(開発援助委員会)に改組された。

わが国はDAGには当初から参加したが、同グループがDACに改組されるに当っては、わが国はOECD条約には加盟していなかったので、駐フランス萩原大使とクリステンセンOECD事務総長の間で特に書簡交換が行なわれ、わが国は、正式の構成国としてDACへ参加した。また、わが国は、DACから提出された事項がOECD理事会で討議される場合は、オブザーヴァーとしてこの討議に全面的に参加できることとなった。

DACは、低開発国への資金の流れを増大し、援助の有効性を高め、また加盟国の援助努力の調整を行なうことを主な目的としており、加盟国は大使級の常任代表(わが国代表は駐フランス萩原大使)をパリに置き、加盟国の援助努力および援助政策、特定国、特定地域または援助に関する特定問題について随時会合し、意見、情報の交換を行なっている。現在の構成国は、米国、英国、フランス、西独、イタリア、カナダ、ベルギー、オランダ、ポルトガル、ノールウェー(一九六二年七月参加)、デンマーク(一九六三年二月参加)、日本の一二カ国とEEC(欧州経済共同体)委員会からなっている。

一九六一年秋の発足以来、DACが行なってきた主要活動の概要は、つぎのとおりである。

(1) 年次審査の実施

一九六一年七月東京で開かれた第五回DAG会議で、毎年DAC諸国の国民所得の合計額の一パーセントを低開発国援助に振向けることとし、その額を一定の原則に従ってDAC諸国間で公正に分担する趣旨の提案が行なわれたが、討議の結果、機械的な分担の原則を打ち出すことは困難であることが明らかになった。しかし、この討議と関連して、援助努力の拡大強化のためにはDAC諸国の援助政策、実績などを定期的に検討し、情報の交換をすることの必要性が強く認識され、その具体的実施方法を検討するため、共同援助努力作業部会が設置さた(「わが外交の近況」第六号二一四ページ参照)。この作業部会は、一九六二年一月「年次審査に関する決議」を採択した。同決議は、DAC年次審査制度の実施方法、審査対象項目および審査原則を規定したものである。

この決議に基づき、一九六二年五月から六月にかけて、第一回の年次審査が実施された。わが国に対する審査の会議は、同年六月二十一日に行なわれた。

年次審査終了後、DAC議長は、DAC諸国全体を通ずる援助実績および共通の問題点ならびにDAC諸国に対する共通の勧告を含む報告書を発表した。勧告のうち主要点は、つぎのとおりである。

(イ) 低開発国に対するDAC諸国の援助努力は大きくかつ増大しているが、低開発諸国の資金所要量は現在の資金供与量を上廻っているので、先進諸国は、今後ともその経済的、財政的能力の範囲内で、一層の援助努力を行なう必要がある。

(ロ) DAC諸国の経済力に照らし、援助努力には国によりかなりの差異があり、一部の国については援助努力の一層の拡大の余地があると思われる。もちろん、相対的経済力のみならず、低開発諸国との過去および現在の政治的関係を含む他の諸要素も考慮に入れなければならない。

(ハ) 援助条件の決定に当っては、被援助国の総体的必要および事情に注意を払うべきである。

(ニ) DAC諸国は、現存する特定の被援助国との特殊関係を考慮しながら、援助全体の地理的配分を均衡のとれたものにするよう努力すべきである。

(ホ) 援助資金による買付け先の制限(いわゆる紐つき援助)強化の傾向を阻止するため、共同の努力を払う必要がある。

(ヘ) 低開発国への民間資金の流れの促進および保護のための方法・手段について一層の検討を行なうべきである。

(ト) DAC諸国は、援助と貿易の関係の重要性を認識すべきである。

(2) 調整グループ

DACにおける開発授助を一層効果的に行なうため、DAC諸国が随時特定の開発事業、開発計画、低開発国などについて授助の調整を行なうグループを結成する制度は、一九六一年十二月のDAC会議でのフランスの提案に基づいて、一九六二年一月にDAC加盟国の合意を得て成立した。しかし、DACの各加盟国が特定の調整グループに参加するか否かは、全く各国の自由となっており、また調整グループの具体的作業内容は、それぞれの調整グループ自体が決定することになっている。

現在までのところ、タイについてこのような調整グループが結成されている。同調整グループは、タイに対する技術援助問題を審議することとなり、その第一回の会合は、一九六三年一月十六日わが国のほか、豪州、ベルギー、フランス、西独、イタリア、オランダ、ノールウェー、英国、米国および世界銀行、OECD(経済協力開発機構)、タイの大使級代表が参加して、バンコックで開かれた。この会合では、各国のタイに対する技術援助状況が報告され、また今後の会合の進め方について意見が交換された。また、この問題に関するグループの最初の作業として、タイに対する技術援助に関する諸情報を集成することとなった。また大使級会議のほか、事務レヴェルの会議が開かれており、情報交換などの作業を行なっている。

また、地域的な調整グループとしては、一九六二年二月および五月に開かれたラテン・アメリカ地域諸国に関する会議、ならびに一九六二年十二月に開かれた極東地域諸国に関する会議がある。

(3) OECD(経済協力開発機構)開発センターの設立

一九六一年七月東京で開かれた第五回DAG会議で、米国の提案に基づき、経済開発問題および一般経済政策の作成・実施に関し先進国が有する知識と経験を一堂に集め、経済開発を遂行している低開発国の利用に供することを目的とするセンターを設置することが討議された結果、その有効性が原則的に承認された。同年十一月のOECD閣僚理事会(わが国からは藤山経済企画庁長官が出席)でも、この点が確認された。また、DACは、一九六二年三月の第六回会議で、ロカナサン、ティンバーゲンなどの国際的に著名な学者、有識者によって作成された開発センターの具体案を検討し、同センターの設置につき意見の一致をみた。その後、OECD執行委員会構成一〇カ国にわが国を加えた作業部会が設置されて、この問題が討議され、同年十月のOECD理事会は、同作業部会が作成した案によって、OECDの一機関として開発センターを設立することを決定した。なおその際、OECDの加盟国でないため、わが国は、クリステンセンOECD事務総長と萩原駐仏大使との間で書簡の交換を行ない、同センターの正式参加国となった。

このセンターの主な活動内容は、つぎのとおりである。

(イ) 短期かつ非定期の訓練コースおよびセミナーを設け、低開発国からの研修生を訓練する。

(ロ) 低開発国および開発援助問題などを研究し、他の類似の研究機関の研究を促進する。

(ハ) 他の類似の機関および低開発国に対し諮問に応ずる。

(ニ) 開発計画に関連する政治、経済、商業、教育、科学などの分野の情報交換を目的とする会議およびシンポジウムを組織する。

(4) 技術協力の調整

技術協力に関しては、一九六一年七月に技術協力作業部会が設置され、技術協力に関する情報の交換、調整方法などの討議が行なわれている。

同作業部会は、各国の技術協力機構、技術協力政策、実績などの検討を行ない、特に一九六二年十一月末の年次審査作業部会の討議の結果、資本協力についての年次審査と併行して、技術協力についても一九六三年から年次審査を行なうことになった。同作業部会による第一回の技術協力に関する年次審査は、一九六三年三月二十五日から四日間にわたりパリで行なわれた。

さらに同作業部会は特定の問題として、(イ)技術援助専門家の不足の問題、(ロ)「進歩のための同盟」に対する技術援助の問題、についても検討を行なっている。

(5) 援助条件の検討

低開発国が受け入れる援助量は次第に累積しており、他方、これら諸国の債務償還能力は国際収支の悪化のためますます低下しているので、毎年の利子支払いおよび元本の返済が次第に困難になってきている。他方、援助国により援助の条件が相違していると援助の負担に公正さを欠く、という意見が生じている。よって、これらの問題すなわち援助条件の緩和と援助国間での援助条件の調整に関して検討を行なうため、一九六二年十月、援助条件に関する作業部会が設置された。この作業部会は、従来からDACで検討されていた援助資金による買付け先の制限の問題(いわゆる紐つき援助)もあわせて検討することになっている。

DACは、一九六三年四月の第十六回会議で、この作業部会の報告書を中心にこの問題を討議した。その結果、DAC諸国は、今後、援助の条件を被援助国の事情に見合ったものにし、各国の援助条件の間の差異を減少させるよう努力することが確認された。

(6) その他の特定の問題の検討

上述の諸問題のほか、DACが検討を行なっている問題には、つぎのようなものがある。

(イ) 多数国間の投資保険制度

DAGは世銀(国際復興開発銀行)に対し、民間投資を促進するため、多数国間の投資保険制度の導入の可能性の検討を依頼したが、一九六二年三月同銀行から報告書の提出を受けた。よって、目下同報告書を基礎として、この問題の検討を進めている。

(ロ) 全米開発銀行によるDAC諸国の市場利用の問題

全米開発銀行(IDB)は、その資金を増加させるために、DAC諸国の資本市場における起債、融資参加証書の売却などの方法により、資金を調達することを希望しているが、これに関連する諸問題がDAC第十五回会議で討議された。

(ハ) 援助計画作成の基準と方法

この問題についても検討が行なわれている。

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2 世界銀行(国際復興開発銀行)を中心とする国際協調の動き

前項でも述べたように、低開発国に対する経済協力について援助国が協調し、援助の実効を高めるため、各国の援助努力を国際的規模で調整する動きが最近活発となっているが、世界銀行を中心とする援助努力の組織化および国際協調の動きは、DAC活動の強化とともにその最も顕著なものである。

世銀はすでにインドおよびパキスタンに対し、援助国会議(コンソーシアム)を発足させ、印パ両国の五カ年計画に対する援助調達に大きな成果をおさめてきた(「わが外交の近況」第六号二一七ぺージ参照)。さらに、一九六二年に入ってからは、ナイジェリア、テュニジア、コロンビアの三国に対し、世銀が主催する「協議グループ」を発足させたことは、開発援助において国際協調を大きく一歩前進させたものとして高く評価することができる。

(1) 援助国会議(コンソーシアム)の動き

援助国会議(コンソーシアム、債権国会議とも呼ばれている)は、低開発国に対する援助(主として資金援助)の分担方法に関し、援助供与国が、情報および意見を交換し、討議を行なうことを目的として設立されているものである。

インドに対する援助国会議は、一九六一年の第四回会議で、インドの第三次五カ年計画(一九六一年四月-一九六六年三月)の当初の二カ年に対する援助が討議され、総額二二億二、五〇〇万ドルの援助が約束されていたが、これではインドの所要援助額にはなお不足するので、再び会議が開催されることとなった(「わが外交の近況」第六号二一六ぺージ参照)。このため、一九六二年五月および六月招集された二回にわたる会議で、イタリア、オランダ、ベルギー、オーストリアの四国が新たに同会議の正式加盟国となり(この結果、同会議の参加者は世銀および第二世銀-国際開発協会-のほか、わが国を含む一〇カ国となった)、また従来の加盟国も援助の増額を約束した。その結果、援助国会議のインド五カ年計画の当初のニカ年への援助総額は、二三億六、五〇〇万ドルに達した。わが国も、従来約束している八、○○○万ドルの円借款に加えて、一、五〇〇万ドルの円借款と一、○○○万ドルの延払枠を追加して供与する用意ある旨を表明した(別表一参照)。

上述の二三億ドル強の援助によって、インドの第三次五カ年計画は若干のおくれはみせつつもおおむね順調な進行を見せており、一九六三年四月からは計画第三年度に入っている。これに対応して、インドに対する援助国会議も第三年度分の援助を討議するため、同年六月初旬会議を開く予定であるが、これに先立ち、四月末、当初の二カ年の実績を予備的に討議するため、世銀が行なった計画進歩状況などの調査報告を中心として準備会議が開かれた。

パキスタンに対する援助国会議については、一九六二年一月の第三回会議までにパキスタンの第二次五カ年計画(一九六〇年七月-一九六五年六月)の第二および第三年に対し、九億四、五〇〇万ドルの援助が約束されていたが、同年五月初め、計画第四年度への援助を討議するため同援助国会議の第四回会議がワシントンで開かれた。今回の会議では、新たにベルギー、イタリア、オランダが正式加盟国となり(その結果、参加者は、世銀および第二世銀のほか、わが国を含む九カ国となった。)、合計四億二、五〇〇万ドルの援助が約束され、パキスタンの五カ年計画の第四年度の所要援助額がほぼ全額調達される見通しがついた(別表二参照)。わが国も、同援助国会議結成当初からの原加盟国として引続き討議に参加しており、この会議では、計画第四年度分として三、○○○万ドルの円借款を供与する用意がある旨を明らかにした。

別表一 援助国会議のインドに対する援助(第六回会議まで)

別表二 援助国会議のパキスタンに対する援助(第四回会議まで)

(2) 「協議グループ」の結成

世銀が斡旋して作られている援助国の協議機関のうち「援助国会議」は、ある国の経済開発計画自体を討議し、参加各国が援助を供与することを前提として各国の援助の調整と、所要援助額全体の調達を努力目標としているのに対し、「協議グループ」は、必らずしも援助の供与を前提とせず、世銀の調査、報告を中心として、各国援助努力の効率を高めるための協議、調整を図る場として組織されている。「協議グループ」の結成に際しては、DACの「調整グループ」との重複、競合をさけるため十分の考慮と事前の調整が行なわれており、国際金融機関としての世銀の経験とその機能を十分に活用できるよう配慮されている。

現在までに、ナイジェリア(一九六二年四月発足)、テュニジア(一九六二年五月発足)、コロンビア(一九六三年一月発足)、の三国について「協議グループ」がつくられているが、わが国も開発援助においての国際協調に協力する意味からナィジェリア、コロンビアの「協議グループ」に参加している。ナイジェリア・グループでは、主としてナイガー河多目的ダムの建設と技術協力について、コロンビア・グループでは、同国の経済開発十カ年計画の主要開発計画に対する援助を中心として討議が進められている。

世銀は、前述の三国以外にもイラン、チリーなどに対し、それぞれの政府の要請に基づいて調査団を派遣し、開発計画の検討をすすめているが、これらの国に対しても「協議グループ」の結成が検討されている。

この種グループの活用は、DACの活動とともに、今後開発援助に関する国際協調、協議、調整を行なう有効な場となることが期待される。

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3 コロンボ計画の動き

コロンボ計画は、一応別個の組織となっているコロンボ計画協議委員会とコロンボ計画技術協力審議会からなっており、前者は、南および南東アジア諸国の経済開発の諸問題の検討および国際協力の促進、後者は、これら諸国に対する技術協力実施の調整をそれぞれ目的として、一九五〇年に設立されたものである。両者は、いずれも当初は、英連合諸国のみを加盟国としていたが、その後同連合以外の諸国も加盟し、協議委員会は、一九六二年十一月現在、域内の被援助国一五(このほかに英国が代表する北部ボルネオも対象となっている)と日本を含む域外の援助国六からなっている。

コロンボ計画に基づく技術援助は、まったく二国間の交渉にゆだねられているが、技術協力審議会は単に全般的に調整および検討を行ない、同審議会事務局は、技術協力交渉およびその実績の記録を行なっている(別項一五三ぺージ参照)。

わが国は、右二機関に対し、一九五四年に加盟し、それ以来、この地域の開発問題の審議に積極的に参加するとともに、技術協力を活発に実施している。

コロンボ計画協議委員会の第十四回会議は、一九六二年十月三十日から十一月十六日まで豪州のメルボルンで開かれ、わが国からは福田通商産業大臣が代表として出席した。

本会議で特に問題となった点は、つぎのとおりである。

(1) 韓国の加盟

かねてから、韓国はコロンボ計画に加盟したい意向を表明していたが、今次会議では、韓国側の熱意が効を奏し、正式加盟が認められた。韓国に続いてブータンの加盟も承認されたので、コロンボ計画加盟国は合計二一カ国となった。

(2) 技術援助の問題

低開発国の経済開発には訓練された労働力が重要であることが改めて強調された。また、特に「地域内研修の強化促進」が論議された結果、コロンボ計画技術協力審議会に審議の続行を委任することとなった。

(3) 一次産品の問題

一九六二年の前回の会議と同様、一次産品の価格の安定が援助と同じように重要であることが強調された。特に、メンジス豪州首相は、会議開会の辞の中でこの問題を取上げ、早急に解決策を計るべきであることを訴えた。

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