七、文化の面における国際交流

1 文化交流の促進

国家間の文化交流は、近年ますますその重要性が認識され、各国ともに年々その活動を強化している。何よりも文化を媒介とすることによつて、国民間の相互理解が深められ、また広くゆきわたり、そのことがさらに国家間の友好親善関係を増進し、ひいて世界平和の維持に大きく寄与するからである。いわゆる文化外交の推進ということが強調されるのも、文化のもつそうした重要な超国家的はたらきを役立てたいからにほかならない。

しかし本来文化の交流は、民間の発意によつて自然の流れとして行われるべきもので、政府としての役割は、これら民間における文化交流が効果的に行われるように支援し、促進することにあるが、最近における各国の傾向をみると、国際文化交流事業における政府の役割は増大しつつあり、政府が自ら積極的に各種文化交流事業を行う例が顕著となりつつある。

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2 文化協定

文化の交流は、たとえ政府間に文化協定がなくても行われるものであるが、活動を活発化するための基盤を育成するという意味において文化協定の存在は重要な意義をもつている。戦後、現在までにわが国は次の十カ国と文化協定を締結した。

 (1) ブラジル  昭和一五・ 九・二三 署名(昭和二十八年五月二十三日、ブラジル政府の通告により効力存続が確定)

 (2) フランス  〃 二八・ 五・一二 署名

 (3) イタリア  〃 二九・ 七・三一 署名

 (4) メキシコ  〃 二九・一〇・二五 署名

 (5) タ イ   〃 三〇・ 四・ 六 署名

 (6) インド   〃 三一・一〇・二九 署名

 (7) ドイツ   〃 三二・ 二・二〇 署名

 (8) エジプト  〃 三二・ 三・二〇 署名

 (9) イラン   〃 三二・ 四・一六 署名

 (10) パキスタン 〃 三二・ 五・二七 署名

これらの諸協定の内容は、おおむね同様で、主として次のような事項が定められている。

(1) 出版物、講演、演奏会、展覧会、ラジオ、映画等の諸手段を通じて相互の文化の理解を促進するため、できる限りの便宜を与えること。

(2) 学生、教授等の交換を奨励し、奨学金供与の方法を研究すること。

(3) 相手国文化の研究のために講義、講座等の開設を奨励すること。

(4) 自国における相手国の文化的、科学的または教育機関の設立、およびその発展のためできる限りの便宜を与えること。

(5) 両国の学会その他の文化団体相互の協力を奨励すること。

(6) 両国の国民間のスポーツ競技を奨励すること。

しかしすでに述べたことからも明らかな通り、文化協定の締結は、関係国との文化交流促進の始めであつて終りではない。文化協定を実施するのに必要な最低限度の経費と、これを効果的に運営せんとする締結国相方の熱意があつてこそ文化協定締結の意義がある。

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3 文化交流の現状

現在の限られた予算では外務省が自ら国際文化事業を強力に実施するということは不可能に近い。したがつて、従来の外務省の役割は、できるだけ民間の国際文化交流事業の企画実施を容易にし、あるいは、外務省の企画についてできるだけ広く民間の協力を求めてこれが実現をはかるという程度に限定されざるをえない状況である。しかし幸いにも最近民間各方面における国際文化交流への理解が深まるにつれて民間の自主的なあるいは民間と政府との協力の下での国際文化交流実績はかなり顕著になりつつある。

外務省が関係する文化交流の仕事は、文化協定の締結、文化映画および文化紹介資料の作成、国際的文化展の開催・参加、留学生その他人物交流、スポーツ、学術の交流、在外日本文化会館の建設、在外および国内の国際文化交流団体の援助等、非常に多岐にわたつているが、最近のごく主要なものを例示すると次の通りである。

演 劇、美 術

(イ) 本年六月パリー文化祭に能楽団を派遣

(ロ) 本年六月スイス・チューリッヒにおいて日本の新作オペラ「夕鶴」を初公演

(ハ) ヴェニスおよびサン・パウロの国際現代隔年美術展にわが国作品を毎回出品

(ニ) 本年七月よりミラノにて開かれるトリエンナーレ意匠工芸美術展に初参加

(ホ) 国際美術協議会の設立援助

本会は国際美術交流の強化をはかることを目的とし、国内の美術関係機関代表者よりなり、外務、文部両省の支援の下に本年八月発足した。

映  画

(イ) 劇映画および文化映画の各在外公館巡回映写の実施

(ロ) ヴェニス・カンヌ等国際映画祭への参加

(ハ) 毎年東京において国際短篇映画祭を開催

(ニ) 財団法人日本映画海外普及協会の設立援助  本協会は、日本映画の組織的な海外普及を通じ、日本の国情および文化の対外紹介宣伝を目的とするもので、外務、通産両省の支援の下に本年五月発足した。

留 学 生

本年度は五十名の国費留学生を海外から招へいする計画であり、すでに大部分のものが来日している。募集は、アジア、アフリカ地域に重点をおき、三十数名をこの地域から残りの十数名をその他の地域から招いている。来日留学生に対しては、日本政府から月額二万円の奨学金が交付され、大部分は国際学友会に入寮している。今後、募集人員の増加および給費額の実質的増額、受入施設の整備等あらゆる面での受入対策の改善向上をはかるよう、文部省との協力の下に努力を続けている。

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4 在外の日本文化会館建設

国際文化交流促進のため、海外に日本文化会館の建設を促し、これを紹介宣伝のセンターとして活用することは、わが国の文化を紹介する上に有効適切な方法であることはいうまでもなく、外務省としては、在外の日本関係文化団体の協力をえて、年を追つて逐次世界の中心地域に日本文化会館の建設を実現したい考えであるが、現在までに設置された、また本年度中に設立予定のものは次の通りである。

パリ日本館

通称薩摩会館といわれ、薩摩治郎八氏によつて昭和四年パリ大学都市当局に寄贈されたもので、現在在仏日本人留学生の宿泊会館として利用されているのみならず、わが国の文化活動の一センターとしての役割を果している。館長は、約二年の任期で外務省が詮衡の上日本から派遣している。

ヴェニス日本館

ヴェニス国際美術展の日本展示館として一部は政府支出、大部分は石橋正二郎氏の寄附により昨年六月完成した。

日墨文化会館

メキシコ政府の好意的取計らいによつて、日本政府に返還された戦時中のわが国の在外資産を引当として、メキシコの日墨協会の手によつて建設され、目下内部設備を進捗中である。

日伯文化会館

前項と同様、ブラジル政府の好意的取計らいによる返還金を引当に、リオ・デ・ジャネイロに設置することとなり、目下現地の日伯協会において適当な既存建物を購入すべく手配中である。

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5 国際文化振興会の助成

もともと国際文化交流事業は政府が直接自ら行うよりも、民間組織による有力な綜合団体をして行わしめ、政府がこれを補助金するという方式をとる方が宣伝の効果、事務運営の能率からみて有意義であり、英国、フランス等は、早くからこの方法をとつている。わが国も、戦前から国際文化振興会に多額の補助金を交付して、活発に国際文化交流事業を行わしめていたが、戦後補助金は年間約三百万円にすぎずその事業規模も一千数百万円程度に止まつている状況である。

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