三、国連における活動

1 第十一総会におけるわが代表団とその基本的態度

昨年十二月八日、待望の国連加盟実現とともにわが国は直ちに総会の各種活動に参加したのであるが、重光首席代表をはじめ代表団の一部は、当初の予定通り数日の滞在後帰国し、本年一月第二次代表団がニューヨークに到着し、その活動をさらに活発にした。この後、日本代表団の主要メンバーは、次の通りであつた。

代表(首席) 佐藤尚武大使  参議院議員 (統轄、本会議担当)

代  表  谷正之大使   在米大使 (本会議担当)

代  表  沢田廉三大使  外務省顧問 (本会議、第一および特別政治委員会担当)

代  表  加瀬俊一大使  国連常駐代表 (本会議、第一、特別政治委員会、第五委員会担当)

代  表  松平康東大使  在カナダ大使 (第一、特別政治委員会、第六委員会担当)

代表代理  河崎一郎局長  外務省国際協力局長 (第一、第二、第五各委員会担当)

代表代理  鶴岡千仭公使  在ヴァチカン公使 (第三、第六条委員会担当)

代表代理  土屋隼総領事  在ニューヨーク総領事 (第四委員会担当)

かねてから、日本は、自由民主諸国との協調と国連中心主義を外交の二大基調としてきたが、岸外務大臣は、さきの国会における外交方針演説においても、右の二原則を車の両輪にたとえてわが外交方針を説明している。この国連中心主義とは、単に国連憲章の目的および原則を自ら遵守するにとどまらず、それが国際社会の最高の法として、すべての国によつて遵守され、国連の権威がますますたかめられるような方向に世界を導くため努力しようというもので、きわめて積極的な意味をもつものである。

国連総会に初めて出席した日本代表団は、ひとり、日本の利益を擁護するのみでなく、あらゆる機会を利用して国連の権威の高揚に資するため、国際正義にもとづく是々非々の態度をもつて臨むこととした。

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2 第十一総会における代表団の活動

前記のような基本的態度に基く日本代表団の活動ぶりを具体的な事例に即して振返つて見ると次の通りである。

中 近 東 問 題

本会議における中近東問題の討議に当り、日本は、イスラエル軍のエジプト領よりの撤退を求めるアジア・アフリカ二十四カ国決議案の提案国の一となつた。一月十七日、日本代表は、とくに発言を求めて、ガザ地区とアカバ湾の問題との関係上、イスラエルが撤兵を困難と感じるであろうことに一応の同情を示しながらも、国際紛争の平和的解決という国連憲章の原則を尊重し、イスラエルが和解の態度をもつて問題の解決に当ることを強く要望した。結局、この二十四カ国決議案は、七四対二、棄権二をもつて可決されたが、この決議がこのような圧倒的多数の賛成を得、国連の統一した意思表明として強い道義的な力をもつにいたつたのは、同決議案起草にあずかつた日本代表団の誠意と良識ある努力が報いられたものといえよう。

軍 縮 問 題

第一委員会における軍縮問題の討議に際して、わが国の代表は、「政治情勢の改善と軍縮の実現との間には、困難な因果関係が存在し、国際政治情勢の改善なくしては、それ自体、国際政治情勢の改善を狙いとする軍縮の実現がありえないという悪循環を見ることができる。この悪循環から脱するためには、現在の政治情勢の下で実現可能なあらゆる軍縮措置を実行することが必要である」との趣旨をのべ、終局的には、核兵器が全面的に管理、禁止さるべきであると主張しつつ、現在の段階における日本の最少限の要求として、すべての種類の核爆発実験を事前に国連に通告するという制度を確立することを提案した。

一月二十一日には、この構想を具体化した決議案をカナダおよびノールウェーとともに第一委員会に共同提案した。この決議案は、結局、軍縮委員会および小委員会に回付されることとなり、今回は採決に付されるにはいたらなかつたが、日本代表団の主張は、現段階における実際的、建設的意見として国連の内外において、相当の共鳴をえた。

アルジェリア問題

この問題に関しては、第一委員会で、二月二日から十三日にいたるまで二週間にわたる激しい討論が行われた。ことにA・Aグループ十八カ国は、反植民地主義を強く打ちだした強硬な決議案を提出し、フランスはじめ西欧側と鋭く対立したので、日本代表団は、再び調停者の役割を演じ、問題の平和的解決と、国連の権威の保全を希望して、フィリピン、タイ両国とともに「フランスおよびアルジェリアの人民が適当な交渉によつて、流血を停止し、現在の諸困難に平和的解決をもたらすことに努力するよう希望する、」という趣旨の決議案を委員会に提出した。なお、ラ米六カ国は、単に「本問題の平和的かつ民主的な解決が見出されることを希望する」との趣旨の決議案を提出した。

二月十三日には、以上の三決議案が表決に付されたが、十八カ国案は否決され、日本等三国案およびラ米六カ国案は、いずれも採択された。その後、第一委員会において採択されたこれら両決議案の提案国の間に合意が成立し、本会議では、九カ国の共同提案で「アルジェリアの情勢が困苦と人命の損失を生ぜしめつつあることに留意し、協調の精神の裡に、国連憲章に合致する適当な方法により、平和的、民主的かつ公正な解決が見出されるようにとの希望を表明する」との趣旨の単一決議案が提出され、七七対〇の満場一致で可決された。

本問題の審議をめぐる日本代表団の行動は、終始国連の権威を保持し、国際的性格をもつ事態に処して平和的かつ建設的解決を促進するにあつた。

経 済 問 題

国連の取扱つている主たる経済問題は世界の低開発地域の経済開発をいかに進めるかである。

わが代表は第二委員会の経済一般討論の際、アジアの工業先進国たる立場から国連を通ずる経済協力に全力を尽す用意ある旨を披瀝し、かつ経済協力に関する三原則を提唱した。

続いて本問題の内「工業化問題」については過去七、八十年の短期間にわが国が急速なる工業化を完成した体験を説明し、工業化には国際的援助機構の新設を考えるよりも、既存の国際機関を低開発国自体がより積極的に利用し自主的な工業化政策に乗出すことが大切なる旨を発言した。

低開発国に対する国際融資の問題では「SUNFEDの設置」が最も緊急な問題となつているが、本基金(二億五千万ドル)の出資については、英・米等主たる融資国が未だ積極的でないにもかかわらず低開発国側はその早期設置、規約作成を要請しており、この間にあつてわが国はSUNFEDの早期設置の希望はもつているが、資金の目算がないし、徒らに機関の設置を急ぐことは非実際的であることを説き、先進国側は右のわが国の実際的方針を高く評価した。

このほか、第二委員会でわが代表は英、仏、和、ベルギー等西欧諸国代表に対し目下設立されつつあるOTCや欧州自由貿易圏が排他的地域主義経済の性格を帯びないようアウトサイダーの利益保護について力説した。

社会人道問題

国連において数年来審議が行われてきた人権規約案は、世界人権宣言をより具体的に、かつ法的効力をもつ国際条約の形で規定しようとするもので、経済、社会、文化に関する人権と市民および政治に関する人権との二本建となつている。こんどの総会では、前者の一部について審議が行われたが、わが代表は、とくに生活水準の向上に関する条項の審議に当つて、生活水準向上のためには、国際協力がとくに重要であることを認織するという趣旨の規定を加えるべきであると提案し、貿易、移民、海洋資源の開発等がわが国にとつていかに重要であるかを力説した。この提案は多数の国の支持をえて、規約案中にもり込まれた。

また「人権侵害に関する中間措置」の議題について、サイプラス問題を背景としてギリシヤが決議案を提出した際、米、ソ、仏等諸国の議論がとかく右決議案の形式や手続についての批判を行うに急であり、他方後進諸国は植民地等における人権の侵害を攻撃することに専念する傾向が認められたので、わが代表は、まず各国が自らを顧みて自国内の人権擁護の促進を図るべきであると発言した。これは、他の代表から「良心の声」として賞賛された。

以上を要するに、日本代表団は、こん回の総会における活動を通じ、日本国民および全世界の期待にこたえて、日本の平和愛好、国連尊重の精神をあらためて全世界に表明するとともに、国連の権威の高揚に相当貢献するところがあつたものといえるのであろう。

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3 わが国の国際連合その他国際機関における地位

わが国は一九五六年十二月の国連加盟実現以前から国連に対しては積極的に協力し、一九四七年にはすでにアジアおよび極東経済委員会にオブザーヴァーを出席させ、一九五二年には准加盟国となつた。

また、国連の主要機関たる国際司法裁判所には、一九五四年三月に規程の当事国となつた。その他朝鮮再建局の朝鮮復興計画への物資の拠出国連児童基金および近東パレスタイン難民救済計画に対する拠金の提出、さらには国際労働機関を初めとする十に及ぶ国連専門機関のすべてに逐次加入し、このうち七機関の理事国に選任されるに至つている。

一九五六年十二月、国連加盟が実現することになつて、このような国連協力の実績から国際法委員会の委員に横田喜三郎博士が当選することになり、さらに本年六月下旬国連の最も重要な機関である安全保障理事会の非常任理事国に立候補することを決定し、現在当選を期して万全の努力を行つている。

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