貿易支払取極関係 |
現在わが国との間に貿易取極および支払取極(議定書または交換公文を含む)の双方またはいずれか一方を締結している国は次の二四カ国である。
アルゼンティン、ブラジル、中華民国、韓国、エジプト、フランス連合、オランダ、トルコ、ギリシャ、ベルギー通貨圏、ペルー、スペイン、シリア、英国、ビルマ、セイロン、パキスタン、豪州、西ドイツ、スウェーデン、タイ、イタリア、フィンランド、ウルグァイ
右のうち主として戦後のドル不足その他の過渡的経済状態に対応して採用されたオープン・アカウント協定は十六カ国におよんだが、一昨年来わが国は世界貿易の自由化の傾向に応じて二国間均衡の考え方に立つオープン・アカウント協定はできるだけこれを廃止し、自由な多角的貿易の発展に努力してきた。右の方針に基き三十一年末までに西ドイツ、タイ、イタリア、スウェーデンの四カ国、さらに三十二年に入つてからも一月にフランス連合、四月にフィンランド、六月にオランダ、インドネシアまた七月末日にはフィリピンとの間のオープン・アカウント協定を廃止した。
したがつて現在この種協定が存続しているのは、アルゼンティン(ただし三十一年九月八日に成立した日ア間暫定取極によつて、事実上適用を停止しており、ポンド現金支払が併用されている)、ブラジル(但し事実上の適用)、中華民国、韓国、エジプト、トルコ、ギリシャの七カ国となつている。
三十二年初頭から七月までに行われた主な貿易支払交渉を略述すれば次の通りである。
日英間の貿易取極
三十一年十月より行われた日英貿易交渉は三十二年二月二十六日に妥結し、わが国の年間輸出見込を対英二千七百七十万ポンド、対植民地一億四千万ポンド、一方わが国の年間輸入見込を対英三千百六十万ポンド、対植民地六千八百九十万ポンドとする新しい貿易取極が成立し、同時に日英支払協定および同付属書簡は三十二年三月三十一日をもつて廃止することになつた。(詳細は日英貿易取極の項参照)
日豪通商協定
ガット三十五条の援用国であり、関税上輸入制度上わが国を差別待遇していた豪州との間に通商協定の締結が行われた。
この交渉は三十一年十一月初めより開始され七月六日に署名され、即日仮実施されたもので、この協定の成立は相互に最恵国無差別待遇の許与を約しており、従来わが国にのみ存在していたりザーヴド・リスト輸入割当における差別待遇の品目リストが撤廃され、完全な非ドル待遇となつた結果、わが国の対豪輸出において得る利益はきわめて大なるものがある。(詳細は日豪通商協定の項参照)
中国との貿易交渉
三十二年四月一日以降三十二年三月三十一日までの貿易計画の策定を主たる目的とする日華貿易会談は三十二年二月二十日から行われ、六カ月にわたる交渉の末八月に妥結をみた。
フィリピンとの通商交渉
賠償問題の解決をみたフィリピンとの間にわが方は関税条項等純貿易関係のほか、入国、滞在、支店設置、事業活動、海運等の諸事項についてもこの機会に合意を取付けたい希望の下に通商交渉を三十二年五月より進めている。
パキスタンとの貿易交渉
三十二年三月末をもつて失効したパキスタンとの貿易協定に代る新貿易協定を締結するため、六月中旬より日パ貿易会談を行つているが、わが方、パ側ともに国際収支の悪化傾向にかんがみ、彼我の主張に非常な懸隔があり、交渉はなお続けられている。
スウェーデンとの貿易交渉
本年四月から一年間の日瑞間の貿易方式について三月十八日から東京で交渉を行つた結果、昨年とほぼ同内容の取極を行うことに意見の一致をみ、六月一日新取極の署名をなした。これにより、スウェーデンは日本からの輸入について原則として昨年同様全面的自由化政策を継続することとなつた。
オランダとの支払取極交渉
オランダとの決済は一九五一年四月に締結された金融協定に基きドル建オープン勘定方式により行われていたが、四月からへーグで交渉を行つた結果、本年五月末右協定は廃止され、六月一日から英ポンドまたはオランダ・ギルダーによる現金決済に移行することに合意が成立し、五月二十八日新支払取極の署名を行つた。
フランスとの貿易支払交渉
フランスとの貿易は一九四八年五月の金融取極に基きドル建オープン勘定方式によつて行われていたが、昨年六月以来パリで交渉の結果、右取極は昨年末をもつて廃止し、本年一月一日より英ポンドまたはフランス・フランによる現金決済方式を採用することに意見の一致をみ、昨年十二月二十七日新支払取極の署名を行つた。また右新支払方式の下における両国間の貿易方式についても同時にパリで交渉を開始したが、品目について双方歩みよりが困難なため未だ最終的結論に達せず、交渉継続中である。
ギリシャとの貿易交渉
ギリシャとの貿易は一九五五年三月に締結された貿易支払取極によりドル建オープン勘定方式により行われており、毎年年間の貿易計画を作成することになつているので、本年四月から一年間の新貿易計画について六月からアテネで交渉を行つた結果、昨年度の計画(輸出入各二五〇万ドル)をそのまま延長適用することに話合が成立し、八月十四日新取極の署名を了した。
昨年十月一日からロンドンにおいて五カ月にわたり日英両国間の支払および貿易問題に関し会談を行い、二月二十六日新貿易取極の調印が行われた。本取極の有効期間は、昨年十月から本年九月末までである。また日英支払協定は三月末日をもつて廃止された。
交渉の背景
わが国のスターリング地域諸国との貿易額は貿易総額の約三〇%を占めているが、その貿易収支は必ずしも均衡しておらず、一昨年の交渉当時においてはわが国の受取超過で、ポンド保有高は約一億ポンドに達していたのに対し、今回は日本側が著しい入超傾向を示し、ポンド保有高も四千五百万ポンドに激減した。
前回の交渉において、わが方はスターリング地域から輸入促進を行うことを英側より強く要望され、この要望をある程度受入れたが、こんどの交渉においては、国内の旺盛な投資需要に即応する輸入増大傾向はなお続く見透しであり、輸入を上廻る輸出を達成できる可能性は少ないと考えられたので、わが方は英側に対し日本からの輸入増大をはかるべきであると強く要請する立場にあつた。
右のほか会談に大きな影響を及ぼした問題は交渉中にスエズ運河問題が突発し英国にとり政治的にはもちろん経済的にも緊急事態が発生したことである。これに対し英国はその金ドル準備補強のためIMFより五億六千百万ドルの即時引出しを行うとともに、さらに七億三千八百万ドルのスタンド・バイ・クレディットの供与の承認を受け、また米国輸出入銀行から五億ドルの借款を受ける等の応急措置により、一応その影響を最小限度にくいとめようとしたが、前記わが方の対英輸出増大要請に対しては到底応じ難い状況となり、交渉の困難は倍加した。
交渉の経緯
日本側代表はまず英本国と植民地において日本商品が受けている差別待遇を廃止し、他の諸国の商品に与えていると同様の輸入制度上の便宜をわが国にも与えることを強く要請した。これに対し英側は日本商品をいわゆる英国輸入制度上の輸入緩和国(rilaxation countries)並の待遇に均霑せしめることは、ある種の日本商品の競争力が絶大であるため英国および植民地の国内産業保護の見地から応じ難いと応酬し、わが方要請を受容れなかつた。しかしながら代表団の長期にわたる説得により、英側も逐次日本が英国商品に対する輸入制限をある程度緩和することに同意し、英国の関心ある品目について日本側が輸入を認めるならばこれに対応して英側も日本商品についてある程度輸入緩和を考慮してもよいとの態度を示すにいたつた。すなわち、
(イ) 新取極期間内におけるわが国と英本国間の貿易は、わが方輸出約二千八百万ポンド、輸入約三千百万ポンドであると推定し、英側は旧取極に比し概ね次のような改善を行うことに譲歩した。
約六百品目に対し新らたに包括輸入許可制度を適用する。
個別輸入許可品目ではあるが、マグロ缶詰・イワシ缶詰およびプラスチック材料等の新規輸入を認める。
従来個別輸入許可品目として輸入が認められていたサケ・マス缶詰、桃、ビワ缶詰および人造真珠等の輸入枠を拡大する。
これに対しわが方はわれに有利な比率で次の通り譲歩した。
自動車用安全ガラス、麦芽およびフォーク・リフト・トラック等の輸入を若干認める。
アセトン、顔料、スポーツ用品およびポプリン等の既存の輸入枠を拡大する。
(ロ) またわが国と植民地との貿易は、わが方輸出合計一億四千万ポンド(アデン四百万ポンド、香港四千九百万ポンド、マラヤおよびシンガポール三千二百万ポンド、東アフリカ九百五十万ポンド、西アフリカ三千六百五十万ポンド、その他植民地九百万ポンド)、輸入約六千九百万ポンド(地域別見透しは算定されなかつた。)であると推定し、とくに英国政府は各植民地政庁に対し次の通報を行うことに同意した。
各植民地政庁は協定期間中に前記見透し額に達するまで日本からの輸入を許可し差支えない。
東アフリカ植民地政庁が行つている日本からの一定品目の輸入禁止措置の解除に関する日本政府の要請に対しては、英本国としては当該政庁が解除を希望するならば本国政府としては異議がない。
問 題 点
本交渉を通じわが方には従来必ずしも明らかでなかつた次のような点がはつきりした。
(イ) 従来日英貿易取極は英本国のみならずその他のスターリング地域諸国をもある程度規制するものであると考えられていたが、こんどの協定交渉において英国はスターリング地域諸国はもちろん英植民地の貿易すら十分には規制できないとの立場を示した。従つて今後の貿易取極交渉は主として日本と英本国との間の輸出入クォータの譲許を中心問題とすることとなつた。
(ロ) 右に関連し日英双方は両国の貿易取極の対象国が日本と英本国および植民地に限定された以上、日本とスターリング地域全体との貿易均衡の条項はその実効性がないことを認め、旧取極に含まれていた右貿易均衡の条項は削除された。
(ハ) 英本国の対日差別待遇の緩和については、今次交渉により、わが国は英国輸入制度上の輸入緩和国並待遇獲得に一歩前進したが、さらに西欧諸国並の待遇を獲得するにはなお相当の期間を必要とする。
支払協定および同付属書簡の廃止
英国は以上の貿易取極交渉の最終段階において、突如日英支払協定およびその付属書簡の廃止を提案し、その理由として次の諸点を説明した。
日本を含む諸国の手持ポンドの多辺的振替性が確立されるようになつた現在、このような振替性が確立されていなかつた六年前に締結された支払に関する双務協定はもはや時代遅れのものであり、英国は第三国とのこの種双務協定をすでに順次撤廃しているから本協定も廃止したい。
支払協定付属書簡に盛られているスターリング地域と日本との収支が慢性的に不均衡となつた際、その改善策を日英間で協議するとの了解は、例えば本年のように日本が入超の場合にも英側にはこれを救済する途がなく、逆に日本が将来出超となつた場合にも英側は本書簡を援用して日本の対英輸入促進を要求する意図は持たない。
支払協定廃止後も日本は英国のポンド振替性拡大政策に全幅の信頼をおいて差支えなく、今後も支払面におけるすべての政策は日英双方ともIMFの規定に準拠すれば足りる。
これに対してわが方は、本件支払協定廃止交渉は貿易取極を早期に妥結させるため、これと切り離して行うべきであると主張し、貿易取極成立後東京において英側と本件に関する協議を行つた。
結論としては、わが方は支払協定および付属書簡の廃止に関する英側提案は、従来の貿易協定交渉において英側のみが一方的に右付属書簡を援用した経緯等から見て必ずしも釈然としないものがあつたが、他面右付属書簡を今後わが方が援用することの実質的効果も認められず、また、日英支払関係につき英側はとくに日本を対象として差別的取扱いをすることはなく、かつ今後は両国の関係はもつぱら、IMFによつて規制される旨確言したので、わが方も英側提案に同意し、ここに従来とかく問題となつた日英支払協定は、三月末日をもつて失効した。
通商に関し相互に全面的最恵国待遇を供与し合うことを約したわが国とオーストラリア連邦との間の協定は、七月六日岸外務大臣とマッキュアン豪州貿易大臣およびワット駐日豪州大使との間で署名された。協定の正式発効は、わが国の国会承認手続を経て批准書が交換された後となるが、とりあえず、署名の日から行政上可能な限度において本協定は仮実施されている。
交渉の背景
元来日豪間の貿易はわが国が豪州より羊毛、小麦、大麦、砂糖等の原材料の大量買付を継続する限りわが方の入超になることは貿易構造上不可避ではあるが、戦後一九五二年三月以来実施された極度に差別的な対日輸入制限の結果、わが国の対豪輸出は激減した。この日豪間貿易の尨大な不均衡は常にわが国の全般的なスターリング収支逆調化の主原因であつたことにもかんがみ、差別的輸入制限の撤廃および関税上の最恵国待遇獲得による対豪輸出条件の根本的改善が日豪通商交渉の中心課題となつた。
交渉の経緯
今次日豪通商協定締結のための本交渉は、わが方より代表団を派遣して一九五六年十一月始めからキャンベラにおいて開始され、その後約八カ月を経過して本年七月六日正式調印を了したものであるが、一九五三年五月わが方より通商会談開催を申入れた時期から起算すれば実に四年余の時日を要したわけである。
昨年十一月正式交渉開始直後、豪側はわが国との貿易関係を正常化し、恒常的に安定した基礎に置くため相互に最恵国侍遇を交換する形式の協定締結を行う用意ある旨を明らかにした。ただし、これはわが国が主要豪州産品に対し実効的な最恵国侍遇を供与することおよび日本品の過当競争に対する予防措置を設けることを条件とするものであり、交渉の焦点はわが国が主要豪州産品に対して与えるべき待遇および右の予防措置問題に置かれることとなつた。
軟質小麦問題
豪側は当初より、主要産品につき、実効的な最恵国待遇の供与を求めていた。とくに軟質小麦(たん白質含有量七パーセント程度のもの)については、戦後わが国において豪州軟質小麦の輸入実績は皆無であつたが、これは、一方において当時の世界的小麦不足の関係上豪州小麦は専ら英国等欧州諸国向に売られ、対日輸出余力がなかつたこと、他方において、戦後の食糧事情逼迫の際アメリカより対日援助の一部として軟質小麦の贈与を受け、また、その後二回に亘り余剰農産物協定による余剰小麦の受入れが行われて来たことによるが、とくに余剰農産物協定により余剰軟質小麦を受入れる限り、これと余剰小麦受入の前提となる小麦の対米通常輸入量を合せるとわが国における軟質小麦の全需要を充してしまうこととなるため、豪州軟質小麦を輸入する余地は事実上皆無であつたわけである。豪側としてはこの事態を重大視し、今次協定においては両国間で最恵国待遇を交換し合うという建前になつているのにかかわらず右のような軟質小麦の取扱はこの原則に著るしく反するもので、豪州軟質小麦が日本市場において衡平な分前を保持しうるよう日本側において措置すべきことを要求し、単に豪州軟質小麦に無差別競争の機会を与えるというような形式的保証では満足しないとの態度を強く示した。
このため交渉はまずこの問題を中心に難航したが、一九五六年十二月当時第三次余剰農産物受入方針未定のため交渉を急速に妥結せしめる見通しがつかなかつたため、同月下旬代表団を一時帰国させ、その後本年三月中旬まで交渉中断のやむなきにいたつた。
本年一月中旬第三次余剰農産物は当分見送るとの閣議決定が行われ、日豪協定交渉再開の道がひらけたのでわが方は、三月下旬再び代表団を現地に派遣して交渉を行つた。その結果、原則として豪州軟質小麦に対し無差別待遇を与えること、もし豪州軟質小麦の輸入が公正な貿易または商業慣行に合致しない取引により阻害される場合には、わが国は商業径路により自由競争の基礎の上に豪州軟質小麦の日本市場における衡平な分け前を確保するよう措置をとるとのことで妥結を見た。なお、公正な貿易または商業慣行に合致しない取引が行われたかどうか、また豪州軟質小麦の衡平な分け前の数量の決定については、両国間の協議により定められることとなつている。なお協定実施当初においては豪州軟質小麦の輸入量は二〇万トン以上になり、その後年々増大することが期待されている。
羊毛関税問題
本年三月下旬交渉再開後交渉の大きなやまとなつたのは、日本側において羊毛関税を現行無税のまま据置く問題であつた。豪側としては、本件が理論的には最恵国待遇相互供与を約すべき今次協定の埒外であることを認めながらも、豪州のようにほとんど独占的な羊毛供給国の場合には最恵国待遇の問題よりむしろ羊毛という商品自体に現実的にいかなる待遇が与えられるかという問題が実際の関心事であり、したがつて、羊毛関税の無税据置の約束取付が今次協定の不可欠の要素であると強調した。
交渉は、この問題をめぐつて再び難航したが、結局豪側は三年以内に日本とガット関係に入るよう努力するとともに、わが方も右三年を限り行政府としては羊毛関税引上の意向がないことを言明し、しかしながら将来日豪間においてガット適用に関して交渉が行われる際には右羊毛関税据置は全く新な譲許としてこれに見合う対価を豪側より求めうることとして妥結した。
予防措置問題
昨年十一月初め豪州は関税法の一部改正を行い、もし豪州市場に特定国の産品が氾濫し、豪州国内産業を危殆に陥し入れるおそれがある場合には、その輸入を制限するため特別関税を賦課することができることとした。しかしながらこの措置はガット関係にある国には適用し得ないため、主として日本品氾濫に対する予防措置とみられ、豪側が今次協定において対日最恵国待遇供与に踏み切つたのは右の予防措置の設定が一つの前提となつていたことは明らかである。豪側は交渉開始当初より今次協定によりわが国に最恵国待遇を供与する結果、わが対豪輸出が飛躍的に増大することは十分予期しているが、これらの日本品の中若干のものについては豪州の既存国内産業を危殆に陥れることも考えられるので、これらの日本品については漸進的に輸出が増大するよう秩序ある輸出体制の確立につき日本側の協力を求めるとの態度を示した。すなわち、日本品の氾濫により既存の国内産業の存立が脅かされるという議論は常に政治問題と結びついて今次協定締結に対する反対論の中心となつて来たため、対日最恵国待遇供与に踏み切つた豪州政府としては何らかの形で日本品氾濫に対する予防措置を必要としたものである。
このため豪側はガット第十九条の字句に類似した緊急措置に関する規定を協定に挿入することを希望し、結局相互に他の締約国産品の輸入が国内産業を危殆に陥し入れるおそれのある場合には、その救済または防止のために必要な範囲内で必要な期間に限り協定にもとづく義務を停止しうる旨の規定を置き、同時に両国政府は協力してこのような緊急事態が発生しないよう常に留意し、万一緊急事態が発生した際もできる限り緊急措置をとることなく事態を収拾するよう努力する、また不幸にしてこのような緊急措置をとらなければならない場合にも必ず事前に協議するとともに、このような措置がとられたため協定の目的が著るしく阻害される場合には二カ月の期間の予告をもつて協定を廃棄しうることとして最終的合意に達した。
協定の内容
本協定の内容を要約すれば左の通りである。
1 協定本文(要旨)
(1) 両国は、関税その他の輸出入に関連する事項等について、相互に最恵国待遇(英連邦特恵を除く)を与える(第一条)。
(2) 両国は、輸出入制限に関し相互に無差別待遇を与える。ただし国際収支上の理由に基く場合はこの限りでない(第二条)。
(3) 国家貿易企業も、輸出入に関してはこの協定に定める原則に従つて行動する(第三条)。
(4) この協定は、両国のガットにおける関係及びガットにおける権利義務に影響を与えるものではない(第四条)。
(5) いずれかの国の産品の輸入が、他方の国の国内産業に重大な損害を与え又はそのおそれがある場合は、この協定に基く義務を停止することができる。ただし、できる限り早期に相手国に通告し協議の機会を与えるものとする(第五条)。
(6) 両国は、この協定の運用に関して生ずる事項に関し相手国よりの申し入れに対しては好意的な考慮を払う(第六条)。
(7) この協定は、批准書交換の日より昭和三十五年七月五日まで効力を有するが、それ以後も、三箇月の予告をもつて廃棄しない限り効力を有する(第七条)。
2 本協定の適用地域に関する交換公文
3 本協定の実施に関する交換公文
第一部 (豪州産品の輸入待遇に関するもの)
(1) 羊毛外貨割当総額の九〇%を下らない額について、豪州産羊毛が競争する機会を与える。
(2) 豪州産大麦及び小麦について、競争価格で無差別的に輸入を認める。
但し、豪州産軟質小麦の日本市場における自由競争の機会が阻害される場合は、同小麦が日本市場における公正な分前を得るよう措置をとる。その数量は両国間の協議により決定される。なお、豪州軟質小麦の輸入量は、協定の当初において二〇万トン以上に上るものと期待される。
(3) 砂糖の外貨割当総額の四〇%を下らない額について豪州産砂糖に競争の機会を与える。
(4) 牛脂及び牛皮の自動承認制適用国に豪州を含ませる。
(5) 学童給食用を除き、無差別に豪州産脱脂粉乳の輸入を認める。
第二部 (羊毛関税の無税据置に関するもの)
第三部 (本文第五条に関し日本からの輸出の氾濫を防止し、また緊急措置を回避するための措置に関するもの)
協定の意義および問題点
今回の日豪通商協定締結には前述のような種々の困難があつたが、結局わが国は豪州連邦政府成立以来過去五十余年一度も享受し得なかつた関税および輸入制度上の最恵国待遇を初めて獲得し得たものであり、正に劃期的な通商協定といわなければならない。
元来豪州は人口わずか九百万人余に過ぎないが、国土はほぼアメリカに匹敵するほど広大であり、豊富な天然資源活用のため大規模な開発計画が着々実行されており、国民所得の規模もアメリカに次ぎ、また国民一人当りの貿易量はわが国の十倍に近い状況である。したがつてわが国の輸出市場としての将来性は誠に大きなものがある。今次協定の結果、わが国は関税および輸入制度両面にわたる最恵国待遇を獲得し、関税上においては従来の一般税率の代りに最恵国税率が適用され(本年二月締結された新英豪貿易協定の結果特恵税率と最恵国税率との幅が縮小されることとなつたので右による利益にも当然無条件に均霑する)、また輸入制度上従来日本に対してのみ課せられてきた綿、人繊織物、陶器、ミシン、玩具等多数品目に関する制限が撤廃されることとなつたので、今後の対豪輸出の増大は期して待つべきものがある。
しかしながら、豪州の輸出市場としての将来性がかくも大きいだけに、わが国としても最近アメリカ、カナダ、欧州各国において見られるような日本品に対する輸入防遏問題等が豪州市場において起ることのないよう細心の注意を払いつつ秩序ある輸出の増大を計る必要がある。豪州国内には小規模ながら各種の国内産業が起りつつあり、これらの国内産業の存立を危からしめ失業者を発生させるような無秩序な対豪輸出が行われる場合には必ずやこれら産業家や失業者は政治的に今次協定の反対に立向うであろうし、(現に豪州国内には本協定締結に反対する運動が依然続けられている。)もしこのような日本品過当競争事態が頻発する場合には結局今次協定の破棄という事態すら起り得ぬわけではない。それ故、われわれとしては今後はこのわが国対外貿易の一支柱となるべき日豪通商協定を守り育て、日本の輸出を長期的に伸長してゆくため、かりそめにも過当競争、不公正競争等のないように格段の注意を払う必要があると思われる。