二、最近における通商・貿易交渉

通商航海条約関係

1 交渉の概観

現在わが国と通商航海条約を締結している国は十五カ国あるが、そのうちスウェーデン、デンマーク、フィンランド、スイス、スペイン、アフガニスタンの六カ国との間には戦前の条約が存続し、オランダ、トルコ、ユーゴースラヴィア、ギリシャ、アルゼンティン、ウルグァイ、タイの七カ国との間には戦前の条約が復活されており、戦後新条約が締結されたのは米国(二八年四月二日署名、二八年十月三十日発効)およびノールウェー(三二年二月二八日署名、近く批准書交換の予定、詳細は日諾通商航海条約の項参照)のニカ国である。なお、西ドイツとの間には戦前の条約が事実上適用されている。

右のほか二国間の平和条約、通商協定、貿易取極または交換公文等により新条約締結まで相互に事項を限つて最恵国待遇を賦与することになつている国に、インド、中華民国、ビルマ、セイロン、シリア、カナダ、ソ連、フィリピンおよび豪州の九カ国があり、また英国およびフランスとも事実上最恵国待遇を許与することに相互の諒解がなされている。

通商航海条約は締約両国間の通商経済関係を安定した基礎の上に置くため、入国、滞在、貿易、事業活動、課税、身体財産の保護等に関する基本原則を規定するものであるから、未締結国との間にもできる限り速かに通商航海条約を締結することが必要である。このため政府は現在チリ、メキシコ、ペルー、ヴェネズエラ、ドミニカ、英国、イタリア、フランス、ユーゴスラヴィア、イラン、フィリピン、インド、セイロンの諸国と交渉を継続中である。しかしながら、通商航海条約の内容はきわめて広範でありその国の国内法の実施運用の面と密接な関係をもつので、交渉には彼我ともにとくに慎重な態度で臨むこと、戦後独立して日の浅い諸国中には国内法制も未だ確定していないものがあり、通商航海条約のような恒久的な性質をもつ条約を締結する機運に必ずしもないこと、またこれら諸国は工業化の見地から産業助成措置や国内産業保護主義をとつているため、互恵平等を基礎とする通商航海条約の締結には気乗り薄なこと、そればかりでなく、先進工業国の中にも、わが国輸出品の進出により国内産業が脅威されることを極度に憂慮するものがあること、等の理由により通商航海条約が妥結する迄には相当の期間と忍耐ある交渉を要するものと考えられる。

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2 日本・ノールウェー通商航海条約の締結

交渉の経緯

日諾両国間には明治四十四年に締結された通商航海条約があつたが、戦後、ノールウェーは、平和条約第七条の規定に従つて右条約を復活適用することを望まずこれに代る新条約を締結したい旨を通告してきたので、旧条約は効力を失うこととなつた。ついで昭和二十八年末にノールウェ一国政府は、新条約草案をわが方に提示して来た。

爾来、交渉は東京で行われ、本年初円滑妥結をみるにいたつたが、たまたま、SASの北極航路開設記念飛行でノールウェーからランゲ外務大臣が来日したので、その機会を利し、二月二十八日、津外務大臣とランゲ外務大臣とによつて、新条約の署名が行われた。なお、この条約は五月十七日および六月二十四日、それぞれ日本およびノールウェーにおいて国会の承認を得たので九月十四日オスローで、批准書の交換を了した。

条約の内容

本条約は前文、本文十九カ条および末文ならびに条約と不可分の一体をなす附属議定書から成つている。さきに締結された日米友好通商航海条約に比べるとかなり簡単なものであるが、規定されている事項は大差がない。すなわち、関税および貿易に関する事項のほか、国民および会社に対する待遇(入国、滞在、居住、職業および事業活動、財産権の取得処分、身体財産の保護、出訴権、国内課税等)、航海および船舶に関する事項、領事条項等、両国間の通商貿易の維持発展、経済協力の促進に必要な事項をすべて網羅しており、これらについて原則として無条件の最恵国待遇あるいは内国民待遇を相互に与えることが約束されている。

ただし、この条約ではノールウェーが北欧諸国に与える特恵は最恵国待遇の例外とされている。これは最後まで交渉の争点として残つたが、元来本件は北欧諸国間の民族的、地理的、歴史的な特殊の連帯関係に起因するものであり、ノールウェーと他の国との条約においても例外として留保されているので、諸汎の事情を考慮の上同意することとなつた。

思うに日諾両国は世界における有数の海運国、捕鯨国として共通の利害関係を有しており、今後とも密接な協力を保つて行かなければならない間柄にあるが、この条約の締結によつて、両国間の伝統的な友好協力関係はさらに増進されることとなるであろう。

また、この条約は包括的な通商航海条約としては、日米友好通商航海条約についでわが国が戦後締結した二番目の条約であり、永く懸案であつたこの交渉の妥結によつて、現在交渉中の各国との条約締結も促進されるものと期待される。

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3 日英通商航海条約に関する交渉

英国は日本のガット加入に先きだち昭和三十年四月わが国に対しガット第三十五条を援用する意図を明らかにしたが、同年十月にいたり、英国政府は日英双方の準備整い次第通商航海条約締結交渉をなるべく速かに開始したい旨を草案を附して申入れて来た。日本側は右草案を検討して英側に対案を提示し、目下英側との間にわが対案を検討中の段階である。

この日英間で交換した条約案文はいずれもきわめて浩瀚なものであり、入国、居住、貿易、為替、事業活動、海運等凡ゆる分野を包含しているため、交渉はかなり長期にわたる見透しである。ことに英国がガット第三十五条を援用したのは日本品が英国市場に氾濫して国内産業を危殆に陥し入れるような事態の発生を憂慮してのことであるから、本交渉においても日本からの輸入品の英国における取扱が中心課題となると思われる。

4 日印通商航海条約に関する交渉

戦後の日印間の通商関係は一九五二年の日印平和条約第二条の通商条項により規制されて来たが、右通商条項において、日印両国は貿易その他の通商上の関係を安定した友好的基礎の上に置くための条約または協定が締結されるまで、両国の国民、貿易、海運、航海等に対し、一定の待遇を相互主義にもとづいて四年間供与することとなつていた。しかるに、右の四年の期間は昭和三十一年四月二十七日をもつて満了したため、爾来二回に亘り交換公文をもつて右通商条項により従来与えて来た待遇を事実上相互に与え合うこととしているが、この待遇供与も本年九月三十日をもつて期限が満了することになつている。

右事態に備え、かつまた日印間の通商経済関係をより安定した基礎におくため、なるべく速かに通商航海条約または通商協定の締結を行う必要があるので、目下インド側と折衝中である。

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