西欧関係

1 西欧諸国との友好関係の増進

第二次大戦によつて甚大な損害を蒙つた西欧諸国はすでにほとんど完全な復興を遂げるとともに、戦後の新しい情勢に対応し、最近とくに相互の連携関係を強化して、いわゆる欧州統合への方向を辿りつつ、米国および英国とともに自由陣営の中核として国際世局において有力な発言力と重要な地位を占めるにいたつた。

戦後わが国は、西欧各国すなわち、スペイン、ポルトガル、フランス、イタリー、ヴァチカン、ギリシャ、スイス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、ドイツ、オーストリア、スウェーデン、ノールウェー、デンマーク、アイスランド等西欧各国との外交関係を再開または樹立することにより、国際社会への復帰を完うしたが、爾来均しく、自由諸国の一員としての共通の基盤の上に、これら諸国との友好関係は逐年著しく緊密化しつつある。

戦後西欧各国との友好関係を促進するに当つて障碍とみられたものは、わが国に対する戦争クレーム等の戦後処理問題であるが、その大部分はすでに円満解決をみ、未解決のクレーム問題についても月下早期妥結をめざして鋭意交渉が行われているので、かかる困難な問題に対するわが国の誠意ある態度は、西欧諸国における対日感情を一層良好にし、かつ日本の国際信用の回復に少からず寄与している。

戦前から西欧諸国との間の友好関係は、わが国の社会、経済、文化等の分野における近代国家としての発展にとつて重要な意義を有していたが、戦後再び各分野における西欧との接触が開始されて以来、わが国は、西欧諸国との間に必要に応じ、航空協定および租税条約を、その大部分の国との間に査証免除協定を、ノールウェーとの間に通商航海条約(別掲)その他文化協定等を締結し、今や西欧がこのようなわが国との基本的友好協力関係の面において、最も進んだ地域となるにいたつたことは、わが国におけるすべての分野の急速な進歩と発展に大きな貢献をなすにいたつている。

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2 航空協定の締結

わが国は、昭和二十八年二月オランダとの間に航空協定を締結して以来、スウェーデン、ノールウェー、デンマークおよびフランスの各国と次々航空協定を結んだが、さらに本年四月スイスとの間の協定が処要手続を完了し、発効するにいたつた。この結果、スイス・エア会社も、スカンディナヴィア航空、エール・フランスおよびオランダ航空等各社に引続き、本邦乗入れを実現し、わが国と西欧諸国との間の交通は著しく容易となるにいたつた。またスカンディナヴィア航空は、かねてから北極圏航路の開設を企図していたが、本年二月万端の準備を了し、東京・コペンハーゲン間の新航路の運行が始められた。これにより従来約五十時間を要した両地点間の所要時間はわずか三十時間に短縮され、西欧諸国とわが国との間の距離は著しく接近するにいたつている。なお将来わが国が欧州航空路を開設する場合には、これらの協定によつて確保されたヨーロッパにおける重要な路線を利用しうるわけである。

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3 査証相互免除の取極

わが国は、昭年三十年七月以来、ドイツとの取極を初めとして、西欧諸国と次々に査証相互免除取極を締結し、すでに昨年末までドイツ、フランス、イタリア、ギリシャ、オランダ、ベルギー、スウェーデン、デンマーク、ノールウェーおよびルクセンブルクの十国との間にこの種取極の成立を見たが、さらに本年三月妥結したスイスとの間の取極が四月から実施されたので、現在交渉中のオーストリアとの取極が締結されれば、ほとんどすべての西欧諸国との間に査証取極が成立することになる。

これらの取極の成立により、わが国民は、相手国で職業または生業に従事する意図を有しない限り、ドイツおよびスイスヘは滞在期間のいかんを問わず、またその他前述の諸国へは概ね滞在期間三カ月以内の場合に、査証なしで旅行しうることになり、この意味においてわが国と西欧との交通は、世界の他地域への交通に比して著しく容易になり、これにより今後双方の間の各分野における協力・提携の関係が一層促進されるものと期待される。

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4 中立国クレームの処理

今次大戦中、本邦および日本の占領地域において、日本軍の軍事行動により、中立国政府およびその国民の蒙つた損害につき、戦後約百六十六億円のクレームが提起されたが、これらの大部分は解決し、残る主なものはスウェーデン、デンマーク等のみとなつている。

中立国のクレーム問題は、サン・フランシスコ平和条約とは関係なく、一般国際法に基いて処理するほかないが、この問題を解決するためには、結局個々の事件を個別的に詳細に調査した上、国際法に基く妥当な補償額につき先方の合意をえなければならない。

現在未解決のクレームのうち、スウェーデン関係(要求額約十三億円)は、昨年初頭以来のストックホルムにおける事実調査のための予備会談に引き続き、本年二月末から約二カ月間東京において事実調査および法的討議を一応終了したが、この両会談において双方の見解の差は著しく狭められたので、近く補償額につき円満妥結に達するものと期待される。

またデンマークのクレーム(要求額約二十億円)については、昨年夏以降東京において事実調査のための討議を行つているため、双方の主張点は相当明らかになつたが、関係クレームの件数は百余に及ぶ関係上いまだ予備的な会談を了するにいたつていない。しかし友好的な雰囲気で会談が進められているので遠からず最終討議の段階に達するものと考えられる。

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