ラテン・アメリカ関係

1 ラテン・アメリカ諸国とわが国との関係

メキシコおよび中米諸国

メキシコは経済的ポテンシアリティーも極めて大であるので、わが国との企業提携は有望視せられており、すでに実現をみたものも数件ある。同国はまたわが国文化に対し強い憧憬の念を抱いており、先年同国政府の好意により返還された戦時中の凍結日本政府資金を基礎にして、彼我両国文化交流の殿党として日墨会館がメキシコ市に建設され、近く完成される予定となつており、今後の同施設の活用による両国文化関係紐帯の強化、引いては政治、経済関係の緊密化は期して俟つべきものがあると思われる。

他の中米諸国、ことにグァテマラ、ニカラグア、エル・サルバドルにおいては、中小企業および技術移民の導入について好意的態度をとつているので、今後これを促進すべき段階にある。

カリブ海沿岸諸国

キューバ、ドミニカ、コロンビア、ヴェネズエラ、ハイティ等の諸国との通商貿易関係は漸次緊密化を加えているが、ドル・ドライブ市場として今後さらに努力する必要が痛感せられる。

これら諸国の中ドミニカは、とくにわが国に対して親日的であり、昨年始めてわが国の移住者が同国に導入せられたが、その条件は極めて良好であり、今後の送出に多大の期待が寄せられている。また同国との間には本年三月査証相互免除協定が締結せられた。

コロンビア、ヴェネズエラについても新規移住者の導入が有望視せられ近く実現をみることとなつている。

ブラジル、アルゼンティンおよびその他の南米大西洋岸諸国

ブラジルは中南米諸国中第一の大国としてわが国との関係も極めて密接であり、通商貿易、企業提携等において同国のわが国に対する重要性の比重は極めて大である。

昨年十二月には日伯航空協定が締結せられ、昨年末から四月にかけては水産庁の調査船東光丸が同国沿岸の漁場調査を行い、多大の成功を収めた。リオ・デ・ジャネイロ市には日伯文化協会が復活再建せられ、近く同市に凍結解除された日本政府資金をもつて日本文化会館が開設せられることとなつている。

同国は戦前よりわが国移住者受入国としての大宗であり、戦後もわが国移住者が最も多く導入された地域である。今後も我国移住者の送出にとつて最も重要な国であることは明かである。

アルゼンティンの貿易はオープン勘定廃止後はやや不振に陥つているが、ペロン政権没落後の政情も漸次安定し、経済状態も改善されつつあるので今後の増大が期待される。

同国に対する移住は従来呼寄せ移民以外は認められなかつたが、本年一月に初めて集団移住が許可され、今後の発展が期待せられている。

ウルグァイ、バラグァイも伝統的にわが国に友好的である。

ペルー、チリ及びその他の南米太平洋岸諸国

ペルーは戦後わが国民の入国に種々制限を設けていたが、昨年プラドーこれらの諸制限は新政権になつてから逐次緩和せられるに至り、これを契機として経済関係の緊密化も、一層促進せられるものと期待せられている。同国の鉱物資源は極めて豊富であるので、アンデス地帯の資源調査につき検討が進められている。

チリとは戦前から極めて鞏固な友好関係にあるが、最近経済関係も漸次密接の度を加え、貿易量も年々ともに増加しており、企業提携も漸次活発化している。本年四月同国外務大臣一行来訪の節は、両国通商貿易の拡大につき交渉を行い、両国政府は経済関係の一層大なる発展につき必要なる措置を講ずることにつき合意に達し、その旨共同声明を発表した。

ボリヴイアとの間には鉱山技術者の同国派遣につき昨年十二月末両国政府機関の間に話合いがまとまり、本年二月八名の技術者が渡航した。同国の鉱山の管理、経営につきこれら我国技術者の寄与するところ極めて大なるものとして同国一般の関心をあつめているが、今後さらにこのような我国技術陣による協力を促進することが期待される。また同国との間にはわが国として初めての移住協定が締結せられており、五カ年間に一〇〇〇家族(六〇〇〇人)の枠が確保されているので、今後我国移住者の同国における発展が期待されている。

エクアドルもまた移住者の受入、中小企業の導入を歓迎しているので、今後さらに推進すべき段階にある。

目次へ

2 ラテン・アメリカ諸国への企業進出と経済提携

ラテン・アメリカは厖大な未開発資源を擁し、人口は比較的少く、現世紀のフロンティアとも称し得べき地域であり、政情も概ね安定しており、各国はいずれもその経済の後進性から脱却するため経済開発産業の多角化、工業化等の諸計画を立案し、その実現に邁進している。

しかしラテン・アメリカ諸国はいずれも資本と技術との不足を訴えており、経済開発の目的達成のために門戸を開放し、積極的に外国から資本技術を導入する方針をとるとともに、できる限りこれを優遇する措置を講じている。

そこで米国を始め、英、独、仏、白、伊、蘭等の欧米諸国は競つてこの地域に経済提携の手をさし延べるとともに企業の進出を図つているが、わが国としても市場の拡大、輸出の増進、原料資源の確保を図るとともに投資利益獲得を目的としてこれら地域に資本と技術とを投入する必要が痛感されるにいたつている。

ラテン・アメリカ諸国とわが国との結び付きは、距離的ハンディキャップもあり、また政治的、文化的に欧米諸国など密接でない等潜在的不利を克服し、長期かつ現実的観点に立脚し企業進出活動を活発化するを要する時期に際会している。したがつて対ラテン・アメリカ外交においては政治的文化的関係を緊密化することと相まつて本邦からの移住者の送出、定着を促進するとともに企業進出、経済提携の実現を図ることに重点を置いている。

これが経済外交推進のためにはわが国官民にわが国にとつてラテン・アメリカ地域のもつ重要なる役割についての認識を高め、相手国からも政府あるいは民間の有力者を招聘しわが国経済の実情、工業水準等につき啓蒙、宣伝を行う必要がある。

そのため、昨年十二月にはグァテマラ文部大臣キニョーネス氏一行を本邦に迎え、また三月にはヴェネズエラ交通大臣リヨベラ・パエス氏一行、四月にはチリ外務大臣サントマリ氏一行を各々政府の賓客として招待したが、わが国官民有力者との接触、産業施設の視察、観光等を通じて戦後のわが国の真の姿を把握せしめるとともにわが国に対し親近感を抱かしめる上に多大の効果があつたものと認められ、今後これらの国との経済的緊密化は期してまつべきものがあるものと期待される。

企業進出および経済提携事業中すでに実現をみたもの、あるいは実現確実なものとしてはメキシコにおける同和鉱業(銅の採掘)、豊田自動織機(自動織機、紡機の製造)、三星ベルト(工業用調帯の製造)、呉羽紡(綿紡織)、エル・サルバドルにおける呉羽紡(綿紡機)、チリにおける日本鉱業(銅の採掘)、三菱鉱業(鉄鉱石採掘)、大洋漁業(漁撈および捕鯨)、日本冷蔵(漁撈)、アルゼンティンにおける日本毛織(毛紡績)、大洋漁業(漁撈)、ボリヴィアにおける鉱山の技術指導、ブラジルにおける東洋紡(綿紡織)、鐘紡(綿紡織)、パイロット万年筆(インク製造)、横浜紙器(段ボール製造)、海外機械興発(機械の修理、部品製造)、豊和工業、日本スピンドル、東洋紡共同(自動織機、紡機の製造)、丸栄(陶器製造)、ヤンマー・ディーゼル(ディーゼルの輸入、販売、修理)、日本冷蔵(漁轡)、大洋漁業(漁撈)、久保田鉄工(農機具製造)、ミナス製鉄所の建設協力等があり、その他話合または打診中のものは相当件数に上つている。

右の内特記すべきものはミナス製鉄所に対する参加協力問題である。すなわち昨年四月、ブラジル政府から安東大使を通じ、ミナス製鉄所の建設にわが国より資本的、技術的に参加し、協力して貰いたいとの要請があつたので、経団連を中心として検討した結果、一応参加協力する建前で、十月第一次綜合調査団を現地に派遣した。その調査の結果、きわめて有利な事業であることが判明したので、経団連の建設協力小委員会で具体的協力案を作成し、先方に提示するとともに、本年四月関係者を現地に派遣し、細部につき打合せを行い、最終的に協力案を決定し、六月三日協定が成立した。

なお計画案によると、七〇〇トン高炉二基、銑鉄年間五〇万トン(製品年間三六万トン)を目標とし、総経費所要額は約五一八億円にして、そのうちわが国から輸出される機材設備類の約二八七億円については延払を認め、資本金約二〇〇億円中わが国からの出資は約八〇億円程度になる見込みである。

さらに企業進出、経済提携を強力に推進するためには外交活動を活発に展開する必要があるところ、諸外国は対ラテン・アメリカ外交の重要性を認識するとともにこれら諸国の気風と感情とを尊重して、所在の公館はいずれも大使館としているが、わが国も経済外交推進を図るための外交活動強化のため相手国の希望も勘案して、チリ、ペルー、ドミニカ、キューバ、コロンビアについては五月十五日に、ヴェネズエラについては七月一日に相互に公使館を大使館に昇格する措置をとつた。

また最近の外交は政府のみならず広く民間一般の協力と支持とにまつところが多いことにかんがみ政府と表裏一体となつて対ラテン・アメリカ民間外交を活発に展開する目的をもつて、ラテン・アメリカ中央会を昨年六月再発足せしめたが、資金面の関係もあり、未だ必ずしも十分な活動を行い得なかつたので、中南米地域のわが国に対する重要性が一段と高まりつつある今日の実情にかんがみ、本年六月本会の組織、機構を拡充強化し、経済、文化、技術の交流、企業の進出、経済提携、調査研究、啓蒙、宣伝等の諸事業を積極的かつ強力に推進せしめることとした。

目次へ