三、最近におけるわが国外交の大要
わが国は、昨年十二月、ソ連との国交を回復し、さらに国際連合に加盟するに及んで、国際社会における地位は、わが国戦後外交史上最大の転機を迎えた。
ソ連との国交が回復するまで、わが国は、いわば世界の一方にのみ窓を開き、他方の窓は閉ざしたままの状態であつた。故に、国際社会におけるわが国の交際範囲は一部にとどまり、したがつて、世界におけるわが国の発言権もまた限られたものたらざるを得なかつた。それが、共産圏の指導的立場にあるソ連との国交を回復して、ここに日本は東西に窓を開き、国際社会全体の一員としての地位を得たのである。
さらに時を同じくして、日本は多年の念願であつた国際連合への加盟を実現した。いうまでもなく国際連合は、世界全域の国々が、平和を希求して相集う、国際外交唯一最大の場である。この国際連合への加盟を認められた日本は、ここに国際社会全体の一員としての地位に加えて、平等な一員としての地位を獲得することとなった。
そして本年初頭、岸内閣が成立し、岸首相兼外相は、この新しい国際環境の下で日米関係調整の問題を採り上げることとなつた。それは、わが外交の基調である日米関係を一層強固にして恒久的基礎におくには、日米両国民が相手の立場を尊重し、相互に理解し合うことが最も必要であるとの見地に立つたもので、そのために両国間に介在する諸問題を再検討し、相互理解の障害となつている要因を除去しようとの立場を採つたのである。このような背景において、四月上旬より岸総理とマッカーサー駐日大使との間で予備会談が行われた後、六月岸総理の訪米によつて、真のパートナーシップに基く日米協力関係の基盤が確立されるに至つた。このことは六月二十一日に華府で発表された日米共同声明に明かである。ここに日米関係は新しい時代に入ったと云われるが、それは日米両国が全く対等の立場で協力する段階に入つたという意味である。
かくて日本は、戦後十余年にして、完全に国際社会に復帰し、国際政治場裡に大きく一歩を踏出すこととなつた。
昨年十二月十二日、日ソ国交が回復したのに引続き、今年に入つてからわが国は、フィンランド(三月八日)、チェッコスロヴァキア(五月八日)、ポーランド(五月十八日)とそれぞれ正式に国交を回復した外、アイルランド(三月五日)、リビア(六月二日)と新たに国交を樹立し、また三月六日独立したガーナを即日承認した。これにより、日本を除く世界の国八十五カ国のうち、未だ全然国交を回復又は樹立していないのは、アルバニア、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、およびイェーメンの五カ国のみとなつた。
なお、インドネシア、大韓民国、モナコの三カ国との間には、外交関係は未だ樹立されていないが、すでに在日韓国代表部の設置、インドネシアとの間の総領事の交換、モナコとの間の領事交換合意が行われており、正式国交に準ずる関係が存在するものとみなされている。
このようにして、わが国の国交関係は着々と拡大したが、他方外交機能を強化するため在外公館の整備も進められ、昨年十二月ソ連に大使館を開設したのに引続き、本年一月デンマークに公使館を開き、二月にはスーダンおよびジョルダン、八月早々リビアにそれぞれ兼任公使を置き、さらに五月から七月にかけてペルー、チリ、ドミニカ、キューバ、コロンビア、およびヴェネズエラのラテン・アメリカ六カ国所在の公使館を大使館に昇格した他、四月には、フィンランドとの国交回復に伴い、従来ヘルシンキに置かれていた総領事館を廃し、公使館を設置し、また、国際連合加盟に伴う措置として、ジュネーヴに国際機関代表部を設けた。この結果、わが国が諸外国に現在置いている在外公館の数は、大使館三六(うち兼轄二)、公使館三〇(うち兼轄一三)、総領事館一九(うち兼轄二)、領事館一三(うち兼轄一)、代表部二、計一〇〇(うち兼轄一八)、これに勤務する在外公館員は、現地採用者を除き、約六〇〇名に達している。なおこの他、名誉総領事六名、名誉領事四名を任命した。
アジア諸国との善隣関係を増進することは、既述の通りわが国外交の基調とするところであつて、岸外相就任直後アジア地域在外公館長を東京に集めてアジア中心外交推進策を協議し、また首相就任早々アジア諸国を親しく訪問したのは、いずれもかかる意図に出たものであつた。この訪問の際、アジア全体の繁栄を計るための一方途として、東南アジア開発基金、技術研修センターの設置の構想が岸首相より表明され、各国首脳部の原則的賛同を得たので、さらにその具体策につき検討が進められている。
その他わが外交諸般の施策は、このアジア中心の線に沿つて進められているが、特に重要な懸案として賠償問題と日韓問題がある。インドネシアおよびヴィエトナムとの賠償問題は不幸にして未だ円満解決を見るに至つていないが、わが方としては、賠償関係国全般との釣合も考えながら、公正な賠償額と賠償方法につき相手国と妥結に達し、早急に賠償問題が解決することを希望しており、このため十全の努力を払つている。またすでに賠償協定が成立したビルマおよびフィリピンについては、実行の時期に入つており、わが方は、毎年作成される計画に従い、誠意をもつてこれが実施に当つている。
日韓関係については、わが方としては最も近い隣国である韓国との国交が完全に正常化していないのは極めて不自然であり、なるべく早く日韓関係を調整しようと試みているのであるが、わが国外交再開後五年余を経た今日まで数次にわたる努力にもかかわらず、未だ解決を見ていない。しかもその間韓国は、その週辺から程遠い公海にいわゆる李承晩ラインを宣言し、相次いで日本人漁夫の捕抑留事件が発生した。わが国としては、日本人漁夫の抑留は人道上の問題であり、他の懸案と切離して解決するとの方針の下に鋭意韓国側と交渉を進め、岸首相訪米の直前調印寸前のところまで話合が進んでいたが、土壇場に至り韓国側は調印の延期を求め、その後案文の再修正方を要請してきた。
本年一月わが国に新内閣が成立したのと時を同じくして米国においてアイゼンハワー大統領が再び就任したことは、偶然とはいえ極めて意義深いものがあつた。この日米新転機に際し、すでに述べたように日米関係を新しい視野に立つて再検討し、対等な立場に立つ真の協調関係の礎を築くため、六月日米首脳会談が行われ、極めて有意義な成果を収めたのであるが、それに先立ち東京において岸首相とマッカーサー米大使の間に、数次にわたる予備会談が行われ、単にワシントン会談の進め方に関する準備のみならず、ワシントン会談において採上げられることが予想された広汎な問題のすべてにつき、予備的に腹蔵のない意見の交換が行われた。三日間の首脳会談のみで、複雑な国際情勢、日米関係につき議をつくすことの不可能なるは云うまでもなく、予備会談を通じ予め日米双方が相手側の立場やその当面する問題につき認識を得、ワシントンにおいてはかかる共通の認識の上に立つてさらに両国の最高責任者により高所よりする討議がなされたのである。
首脳者会談は、両国は全く対等な立場に立つた真のパートナーシップを築き上げることに成功し、ここに日米関係は新段階に入ることとなつた。
なお日米共同声明に述べられた安全保障に関する委員会は、八月六日その構成等につき決定をみ、八月十六日初会合を行つた。
昨年十二月十二日、外務省において日ソ共同宣言批准書が交換され、ここに日ソ国交は回復した。これと同時に貿易に関する議定書の批准書も交換され、また共同宣言発効に伴い漁業条約および海難救助協定も効力を発生した。
よつて、わが方は新関参事官を、ソ連はチフヴィンスキー公使を、それぞれ臨時代理大使に任命して両国大使館を直ちに開設し、降つて二月十日にはテヴォシャン大使が東京に着任、二十日信任状を捧呈、また三月八日には門脇大使がモスクワに着任、十六日信任状を捧呈して、両国間の外交使節の交換が完了した。
日ソ復交以来、共同宣言の規定に従い抑留日本人一、〇二五名が昨年十二月二十六日帰国、七月二十八日には朝鮮人一三四名を含む二一九名が帰国した他、二月十五日から日ソ漁業条約に基き東京で開催された漁業委員会において、五十日にわたる難航の後ながら、条約水域におけるさけ・ますの漁獲制限量を十二万トンとすることにつき合意が成立する等、両国間の懸案で円満解決を見るに至つたものもあるが、他方、一月から六月までの間に北洋操業中の日本漁船五六隻、五七五名がソ連官憲によりだ捕抑留される不祥事が従前に引続き起り、邦人引揚についても問題が残されている他、七月二十一日にいたり突如ピヨートル大帝湾内海化宣言を行う等、日ソ関係の将来に暗影を投ずるような事態が生じている。政府は、これら日ソ間懸案を国際正義に基き鋭意解決に努力中であるが、領土問題の解決を含む真の国交正常化についてもその早期実現を図つている。
わが国は国民政府と平和条約を結んでおり、中共不承認の立場を維持してきた。
しかしながら、中共政権が中国大陸に対する事実上の支配権を有している現実はこれを無視することができないのであつて、わが国の中共に対する施策は、右の原則とこの現実との調和の上に立つて進められている。
もつとも、通商貿易は、政治外交とは一応別箇に考えられ得るものであり、わが国として中共とある程度の経済関係をもつことは自然のことである。しかし、自由共産両陣営間の深刻な対立が緩和されない現状において、共産諸国の戦争能力が増大することは極力避けなければならず、このため自由諸国が共同歩調をとらなければならぬことは、またいうまでもない。このような考慮から、わが国は従来中共に対する貿易の合理的発展に努めて来ており、七月十六日には中共に対する禁輸を大幅に軽減することとした。もとより、この場合、中共自体の貿易能力に限度のあること、また中共のような全体主義国家における貿易と対外政策との結びつきについては、留意しなければならない。
欧州、中近東、ラテン・アメリカ、英連邦の諸国ともあらゆる機会を通じて、例えばスカンディナヴィア航空の北極線開通、スイス航空の東京乗入れ、能の欧州訪問、ガーナの独立承認、コロンビア新政権の承認など、着々と友好親善の実を挙げ、経済関係の緊密化を計つてきた。
わが国にとつての経済外交の意義についてはすでに述べたが、経済外交のうちでも長期的観点においてとくに経済協力が重視されており、とりわけ東南アジアにおいては、賠償、特別円等戦後処理に伴う経済協力および賠償抛棄国であるカンボディア、ラオスに対する経済援助は、わが方の義務でもあり、早急に実施する必要があるので、国として直接関与するものとして優先的に考慮されている。一般的経済協力については、わが国の有する広範かつ高度の技術をもつて相手国の経済建設に資する技術協力、とくに差当りはコロンボ・プランを中心として、これにICA、国連等の行う技術協力援助計画に協力している。他面、右以外の経済協力は本来民間が主体となつて行われるべきものでもあり、政府としては、間接にこれが発展を支援しており、また国内的には本年四月以来輸出入銀行法および輸出保険法の改正が実施され、民間経済協力の助成に努めている。
経済技術協力の推進とならんで、一般通商貿易の振興も最近のわが国際収支の悪化にかんがみますますその緊要の度を高めて来ている。
通商振興のための対外施策として、各国との間に通商航海条約を締結するため、現在十数ケ国との間に交渉を継続中であるが、これと併行し、約二十ケ国との間に年々の貿易の規模ならびに支払方法等を取極めるため貿易支払協定の締結交渉を行つてきた。すなわち昨年末フランスとの支払取極の成立に引続き、本年に入り二月英国との貿易取極、五月オランダとの支払取極、七月に豪州との通商協定の調印を見、現に台湾、パキスタン、フィリピン等数カ国との間に貿易通商交渉を継続中である。特に豪州との通商協定は、通商航海条約と貿易協定との中間的性格を有するもので、その交渉の成立は戦前といえどもわが国は豪州との間になんら通商上の基本的取極を有しなかつたことにもかんがみ、わが国経済外交史上画期的な意味をもつものといえよう。
最近米国その他わが輸出品の重要市場における輸入制限運動の激化に備え、外に対しては相手国政府と常時緊密な連絡を保ち、これが現実の輸入制限措置となつて現われることを阻止し、またかかる運動に対しては強力なる啓発活動を展開し、他方内にあつては不当に相手国市場を刺戟するような輸出を慎しみ、いわゆる秩序ある輸出体制の確立を実現することが重要となつてきている。
わが国はまたガット、IMF、小麦・砂糖協定等多数国間の経済協定に加入しているが、これらの協定を中心として常時開かれる国際経済会議に参加して、わが国利益の増進をはかるとともに、これら会議を通じて、世界経済の趨勢把握に努めている。
共産圏諸国との貿易の促進については、自由諸国との禁輸協力を維持しつつも、パリのココム会議を通じ、あるいはまた米国等主要各国との接衝などにより、その合理的拡大を図つている。なお、共産圏諸国中国交回復国との間では、直接の通商交渉開始の準備を進めている。
以上述べたような通商振興のための諸施策と並び、これを有効適功に実施するため、広く民間経済人の智識と経験を活用する目的を以て、新たに移動大使、商務官制度の企画を進め、在外公館を中心とする海外経済事情の調査の完壁を期するため諸般の施策を実施している。
わが国民は、不幸にして原水爆に関しては極めて特異な、かついたましい経験を重ねて来たので、原水爆問題に対するわが国民の感情には、他の国民よりも一段と深刻かつ強烈なものがある。わが国民は、この感情を根底に原子力が専ら平和的目的のみに利用され、人類の福祉増進に役立つべきことを希念するとともに、世界の平和と人類の幸福が原水爆によつて脅かされるような事態を一日も早く解消することを要請しているのである。これは利害関係や政治的考慮を越えた崇高な人道的な立場からの要請であり、国会においても、原子力の国際管理と原水爆の禁止を要望する決議を採択している。
政府はかかる国民的要請を背景とし、国会の関係決議の趣旨に則り、米、英、ソ連など関係国に対し、再三にわたり核爆発実験の中止を申入れるとともに、他方国際連合においても、この目的の達成に資すると考えられる措置をとつてきた。関係国に対する申入れの経緯と、国際連合における措置の概要は後記の通りであるが、後者の場合、国際会議の実情と関係各国の現在の動向に鑑み、政府の措置も自ら漸進的とならざるを得なかつた。この点、関係各国との直接交渉の場合とは行き方は異るものではあつたが、国際連合における政府の措置も究局において、原水爆の禁止を実現せしめんことを目標としていることは、過去半年の経緯を通観するならば、自ら明らかであり、殊に原水爆禁止のための今後の措置は、国際連合において、全加盟国の与論を糾合しつつ歩一歩、究局の目標に近づくとの行き方をとることが最も実際的であるので、政府としては、九月に開かれる国際連合第十二総会を控え、ロンドンにおける軍縮小委員会の審議の成行きを注視しつつ、原水爆問題に対する具体的対策を鋭意検討している次第である。
わが国民の海外移住は、わが国の人口扶養力の増強に資することはもちろんであるが、農、漁業者、技術者、企業者その他の職種の別を問わず、相手国の経済発展に貢献し得るような優秀な移住者を数多く選出することは国際協力、国際親善の面において極めて大きい意義を有するものである。
戦後の移住事業の推進に当つては受入国の希望と要請に応じて適切な移住者を送出することがますます必要となつており、そのためには事前に万全の外交交渉を行い、受入国の自然的、社会的諸条件を十分に調査する必要がある。かかる見地からすでに門戸が開放されている国々に対しては受入枠の拡大およびよりよい受入条件等について、門戸未開放の国に対してはその門戸が開放ざれるよう、必要な外交的努力を重ねてきた結果、昭和二十七年度にはブラジルーケ国に五四名送出したにすぎなかつたのが、二十八年度にはニケ国一、四九八名となり、さらに昨三十一年度には十ケ国に対し約一二、七〇〇名(内政府渡航資金貸付者は六、一五五名)を送り出すというように飛躍的増加を見せており、本年度はさらにこれを上廻る見込みである。
わが国外交政策の重要な一環として移住先国の多元化と移住者受入数の増加等を推進するため、外務省としては後述のようにあるいは国際機関や国際会議に訴え、あるいは友好国と個別的に折衝する等できるだけその機会をとらえて努力している。
なお従来はほとんどすべて農業移住者であつたが、今後は受入国側の期待に応えて技術者、特技者を含め優秀な移住者を選出するとともに資本を伴う企業移住を推進してゆくことが必要であると考え、これが施策を考慮している。
国際間の友好親善関係を強化するには、まず国民間における相互理解を増進しなければならない。このため、外国の事情をわが国内に伝え、わが国の実情を外国に周知せしめるための情報啓発活動を活発に行つてきた。対内的には各種情報・資料の迅速なる作成配布、国際情勢に関する講演、民間企画に対する後援、援助等、対外的には在外公館を通じての啓発活動がこれであるが、対外面における有力な事業として、昨年ニューヨーク総領事館に情報センターを設置し、日本に関する各種照会に対する回答、啓発の対象としての指導的人物や有力親日家のリスト作成、日本紹介定期刊行物その他啓発刊行物の発行、各種団体、テレビ局、報道出版教育関係等に対する啓発映画、写真、スライド等の貸出、巡回展示会の実施、民間催物に対する援助等の活動を行い、顕著な成果を収めており、本年度も引続きバンコックに同様のセンターを設置した。
また特に文化面においては、ユネスコに加入して積極的活動を行つている他、各国との間に文化協定を締結して文化交流の促進を計つているが、本年前半においても、すでにドイツ(二月二十日)、エジプト(三月二十日)、イラン(四月十六日)、パキスタン(五月二十七日)との間に文化協定が調印され、また五月二十四日岸首相のインド訪問と時を同じうして、さきに調印された同国との文化協定批淮書が交換された。
次に、各国要人の往来はまた国際親善・相互理解の増進に資するところ大なるものがあり、岸首相の東南アジアおよび米国訪問はこの意味においても有意義であつたのであるが、他方わが方の招待に応じて訪日した外国要人もメンジス・豪首相、スラワルディ・パキスタン首相の二国賓を始め(いずれも四月)、政府賓客は、主なもののみを挙げても、一月にネパール王室秘書官長、イラン郵政大臣、二月にデンマークのアクセル殿下、ウンデン・スウェーデン外務大臣、ランゲ・ノールウェー外務大臣、三月に中華民国経済部次官、ヴェネズエラ交通大臣、イラン経済大臣、カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学総長、チリ外務大臣兼鉱業大臣、セイロン工業漁業大臣、シンガポール保健大臣、六月にウ・バ・スエ・ビルマ副首相、豪州貿易大臣等の多きを数えている。
外交と内政の不可分関係についてはすでに触れた通りであるが、このことはさらにいえば国民外交ということになる。真に有効な外交は国内の大きな力を背景として始めて可能となるのであり、世論と遊離して強力な外交は行い得ない。従つて外交を行うにはまず民意の所在を問わなければならず、三月十五日以来、経済界財界の有識者と五回にわたり経済外交に関する懇談が行われ、また四月十五日以来文化人言論人と三回にわたる懇談が行われたのもこの趣旨に出たものである。
世界の情勢、各国の事情、わが国の置かれている国際的立場などを常時正確に一般国民に伝え、また逆に国民の総意のあるところを外交に反映せしめて行くことは極めて有意義なことであるが、同時に、一般国民がわが国外交の強力な後楯となり、全国民を挙げて一体となつて国民外交を推進することが望まれる。かくすることにより、わが国の安定と繁栄は確保され、今わが国の置かれた新しい国際的立場をさらに強化して、世界平和のため一層の貢献をなし得るに至るであろう。