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海外移住審議会意見
海外日系人社会との協力に関する今後の政策

平成12年12月11日

目 次

はじめに                                 

1.海外日系人社会との今後の協力に関する基本的な考え方

(1)基本理念

(2)考慮されるべき点

2.今後の具体的対応策

(1)移住者に対する支援措置

(イ)高齢移住者福祉
(ロ)必要な支援策の継続
(ハ)海外移住・日系人社会に関する国民への啓発・広報、学術的研究への協力

(2)我が国と海外日系人社会との関係維持・促進のための支援   

(イ)日本語教育
(ロ)広報・文化
(ハ)日系人社会との幅広い人的交流の促進

(3)開発・経済・技術分野での協力

(イ)人材育成
(ロ)経済・技術協力
(ハ)日系人社会にも裨益する国レベル若しくは国際的なプロジェクトへの協力
(ニ)事業・ビジネス面での協力

(4)日系人の本邦就労

(イ)就労の受入れ、情報の事前提供
(ロ)本邦滞在中の支援
(ハ)居住国帰国後の支援

(5)日系人社会、内外関係方面との連携・協力の強化


はじめに

 我が国の海外移住は、明治元年のハワイ移住により始まり、130年を超える歴史を刻んで来た。移住者総数は、戦前は約78万人、戦後は約26万人、総計約104万人に及ぶ。平成5年の当審議会意見書でも述たとおり、移住者及びその子孫である日系人は、ブラジルの約130万人及び米国の約100万人を筆頭として米州大陸を中心に推定約250万人に達し、それぞれの居住国において(イ)政治、経済、行政、学術、文化等の広範な分野で活躍し、(ロ)各国の経済及び社会の発展に積極的な貢献を行い、高い評価を得ると共に、(ハ)居住国と我が国との相互理解の増進、友好関係の進展に重要な役割を果たしている。

 海外の日系人社会は、時の経過と共に、世代交代により日系2世から4世が中核となり現地社会への同化が一段と進行している。日本国籍を有さない、日本語を解さない日系人が増大する一方、米国等主として先進国では各種の分野で技術・技能を有して移り住む所謂「新1世」や、学界などで活躍する才能豊かな新しい移住者も増えている。また、日系人相互の情報交換の必要性を求める声も高まっている。更に当審議会の平成5年の意見書では、本邦就労日系人の数が推定15万人以上に上るとして、彼等の直面する問題への対策の必要性を指摘したが、その後も日系人による就労活動は続いており、その対策の必要性は益々高まっている。

 当審議会は、昭和30年に設置されて以来、昭和35年の総理大臣への答申において海外移住の理念として初めて国際協力を登場させた。昭和37年の答申では、移住についての従来の考え方を発展させ、「移住は単なる労働力の移動と見られるべきではなくして、開発能力の現地移動と見られるべきである」、「相手国の開発能力と世界の福祉に対する貢献となって、日本及び日本人の国際的声価を高めることにならなければならない。」として新たな移住理念を打ち出した。昭和60年の答申では、「国は、従来日系人に対し、主に戦後の中南米移住者の子弟を対象に、移住事業の延長として施策を講じてきた。戦前の移住者及びその子弟を含む日系人が居住国において地域社会の発展に貢献するとともに日本文化の紹介や対日理解の媒体となり、二国間の相互理解の強化、緊密な友好関係の維持・醸成に寄与していることに鑑みれば、これら日系人の活動を側面的に支援していくことは重要な課題である。」として、当審議会において初めて日系人との協力について提起した。
 平成5年の意見書では、政府支援による移住者送出関連業務の段階的整理が望ましいとするに至った。同時に同意見書は、移住者及び日系人社会の抱える諸問題を指摘し、今後の施策の方向として、(イ)これまで移住事業は基本的に移住者を対象としてきたが、移住者支援の観点からは少なくとも概ね日系3世までをその対象とすることが必要且つ適切であると共に、更に(ロ)日系人を支援し、居住国における我が国の理解者として育成していくことが我が国と当該国との良好な二国間関係の促進に資すること、(ハ)日系人の地位や能力の向上を図ることは居住国の発展にもつながること、(ニ)総じて日系人の存在は我が国と居住国との外交基盤の強化拡充に貢献すること、等の考えを示した。

 当審議会は、21世紀を迎えるに当たり、かっての移住者支援を中心とする観点から脱却し、世界の日系人社会と我が国との関係、協力のあり方について、我が国の対外政策上積極的な位置付けをし、基本的な理念を確立すべきではないかと考える。そして、このような問題意識から、昨年来、海外日系人大会に出席した各地の日系人代表の方々をはじめ、各方面の関係者からの意見をも聴取しつつ、議論と検討を行った。

 今次意見書「海外日系人社会との協力に関する今後の政策」は、平成5年の意見書に基づきながら、更にその理念、具体策を発展させ、我が国としての今後の政策の方向付けを行うことを目的とするものである。

 当審議会は明年1月より実施される中央省庁等改革に伴い、今日的意義に即して海外交流審議会に改組される予定であり、ここに海外移住審議会として最後の意見書を取り纏めることとした。政府におかれては、今後の国際交流の推進に当たり本意見書を十分尊重されるよう要望する。

1.海外日系人社会との今後の協力に関する基本的な考え方

(1)基本理念

 我が国の基本外交政策に関し、明年1月に施行される外務省の新たな設置法は、「平和で安全な国際社会の維持に寄与すると共に主体的且つ積極的な取組を通じて良好な国際環境を図ること並びに調和ある対外関係を維持し発展させつつ、国際社会における日本国及び日本国民の利益の増進を図ること」を同省の任務として規定している。そして我が国は、経済・技術協力、人的交流、人材育成、広報・文化活動等により諸外国との相互理解、友好親善関係を増進し、国際社会の平和と安全、並びに我が国及び国民の利益の増進を確保することに努めている。
 海外日系人は、その日本語能力、日本国籍の有無に拘わらず、居住国及び我が国の双方をよく理解しうる立場にあり、我が国と居住国との「懸け橋」となりうべき存在である。そして、各地の日系人社会の間を結ぶネットワークの構築も議論されるに至っている。こうした人々の居住国における活躍は、我が国にとって有形無形の財産となるものである。また、日系人社会にとり居住国社会への同化と貢献は基本である。しかしながら、今や日系人社会の現地への同化及び居住国への貢献が達成されつつある中、日系人の間では、日本とのつながりは自らが努力しないと消えてしまうのではないかとの思いも生じて来ている。更に、日本語や日本文化を学びたい、日本におけるルーツを確認したい、日本との関わりを積極的に求めたいといった要望も生まれてきている。このような要望に応えることは、日系人社会の居住国への一層の貢献に役立つものであり、我が国の側からも積極的に協力を進めていくべきであろう。また、先に述べた新1世と称される人々をはじめ、海外の各方面で技能、才能を発揮して活躍する日本人の存在も、新たな形の「懸け橋」である。海外在住経験を踏まえたこれらの人々の我が国に対する助言、期待の声は有益なものであり、傾聴すべきである。
 従って、我が国が日系人の要望や期待をくみ取ることが重要であり、海外日系人の必要に応じた協力、支援を行うことは、日系人社会の地位向上に役立ち、ひいては居住国国民の対日理解・我が国のイメージの向上にもつながるものとなるであろう。
 このような考え方に立ち、日系人並びに日系人社会との協力は我が国の外交政策上においても積極的かつ明示的に意義付けられることが望ましく、そのために必要な各方面における施策を推進していくべきである。

(2)考慮されるべき点

 我が国が海外日系人社会との更なる協力を推進していくためには、それぞれの地における日系人社会形成の経緯や特色等の相異を考慮したきめ細かい対応が肝要であり、地域、世代によって日系人の意識が大きく異なっていることをも十分考慮すべきである。我が国と海外日系人社会の関係は先方の必要に応える互恵的な協力関係であるべきであり、「支援」から「協力」へとする意識が重要である。また、日系人と我が国との紐帯として重要な役割をもつ日本語教育等、文化交流面においては、日系人の民族的な「アイデンティティー」への希求を充たすという配慮も必要となろう。
 平成2年の出入国管理及び難民認定法(入管法)の改正から10年を経て、日系人の本邦就労者及びその家族を巡る問題も多様化してきている。経済・社会のグローバル化が進展する中で、日本の社会全体が、外国人とも分け隔てなく共生できる社会となっていかなければならないが、とりわけ我が国が少子高齢化による人口減少時代に向かいつつある時、本邦在住の日系人の存在は、日本社会のグローバル化の先駆的ケースとも見做し得るものである。
 将来の日系人社会との協力を論ずるに際し、20世紀の海外移住事業で残されている課題の解決への努力をなおざりにしてはならない。戦後の荒廃期に海外日系人社会から受けたララ物資による我が国に対する支援や、阪神・淡路大震災の際、我が国が海外の日系人社会から受けた心のこもった支援を忘れるべきではない。政府支援により多数の移住者を送り出した国として、日系人社会の求めるところの変化に合わせて引き続き支援を実施していくべきことは当然である。移住者の高齢化に伴う福祉問題や、自助努力が及ばない人々への支援には一層の力を傾注する必要がある。また、海外移住の歴史、日系人社会の現状について日本国民の正しい理解の促進が図られるよう、積極的な広報・啓発努力を払うことも、政府に求められる役割の一つとなっている。

2.今後の具体的対応策

(1)移住者に対する支援措置

(イ)高齢移住者福祉

 北米や南米の日系人社会は、被爆者援護法、老齢福祉年金等、海外永住者に対する我が国社会保障制度の適用を求めている。被爆者の問題は、我が国のみが経験した固有の歴史的体験に基づくものである以上、海外に居住する日系人についても居住国の救済に委ねることのできないものである。海外日系人大会における移住者からの繰り返しの要望、被爆者の高齢化の進行等にも鑑み、海外に居住する日系人被爆者に対する援護施策について早急に検討がなされるべきである。
 老齢福祉年金については法律上、海外居住者は受給資格を有しないが、現行の国民年金制度では、任意加入し一定の保険料を納付すれば日本国籍を有する海外居住者も老齢基礎年金の支給を受けることができることとなっている。この点については引き続き海外日系人社会への周知徹底を図っていく必要がある。
 高齢者福祉は基本的に居住国が行うことが世界的な趨勢である。しかしながら、生活・医療上の扶助を必要とする移住者、とりわけ高齢移住者については、居住国の社会保障制度の内容が必ずしも日本の水準に達していないこと、しかるに、我が国の社会保障制度の適用はほとんど得られないという状況を考慮すべきである。したがって、社会保障制度の限界を補う観点から、日系人団体等居住国の支援団体に対し謝金を支給する保護謝金制度の更なる拡充も必要である。また、介護に係る問題を含む社会福祉分野での人材育成を支援することも必要である。

(ロ)必要な支援策の継続

 移住者・日系人社会は、時間の経過と共に大きく発展し、概ね定着・安定の段階に達して来ているものの、依然として自助努力では解決できない営農問題や自然災害等の問題に直面している地域が存在する。こうした移住地への支援等については、政府は引き続き必要な措置を講じていく必要がある。
 国際協力事業団(JICA)の実施する移住地施設等整備の他、日系人農業者への支援として、我が国の農業協同組合との連携による新技術の開発、営農指導等を実施し、日系人農業社会の更なる発展を図っていく必要がある。
 また、居住国言語の理解に不自由を覚える人々等に対しては、日々の生活において直面する様々な問題についての助けとなる諸情報を提供することも必要である。

(ハ)海外移住・日系人社会に関する国民への啓発・広報、学術的研究への協力

 我々は、風土、文化の異なる未知の社会に移住して新しい生活を築くために移住者の払った犠牲と努力が、今日の海外日系人社会の発展の礎となっていることを忘れるべきではない。我が国からの移住者の勤勉さと様々な貢献が居住国での信頼と尊敬を集め、また、移住者が常に子孫の教育に情熱を傾けてきた結果、今日、日系の人々が社会の様々な方面で活躍し、その国の発展に貢献している。このことは、我々日本人の誇りとするところである。しかし、このような海外移住の歴史や日系人社会の現実については、残念ながら国民の正しい理解が十分に得られていると言い難い状況にある。
 祖国を訪れる移住者・日系人の心を癒し、改めてその先駆者としての誇りを確認し得る移住資料館のような場所を設けることができれば、日系人と我が国との心の結びつきを強めることに役立つであろう。また、海外移住事業の歴史と海外の日系人社会の現状についての正しい知識を日本国民に広めることは、移住者の払った犠牲と努力に対する敬意の念を国民が有することにもつながる。これらの役割もまた移住者を政府支援により送り出した国の義務であるといえよう。
 これまでの移民・移住の歴史を正確に評価し、貴重な資料を記録・保存していくこと、更には、それらの情報を世界中の日系人、移民研究者等が活用できるような移住資料室を整備し、内外に正しい海外移住の理解を広めるべく発信していくことが不可欠である。
 こうした努力が、我が国の良き理解者としての日系人を励まし、日系人社会と我が国、並びに日系人社会相互の交流の活性化、情報交換を可能とするネットワークの構築にも貢献するものと期待される。

(2)我が国と海外日系人社会との関係維持・促進のための支援

 日系人社会に対する日本語教育、文化交流、情報提供、人的交流等様々な方面で、各種スキームを活用しつつ、日系人との協力を一層促進することが重要である。
 協力実施にあたっては、平成7年2月の閣議決定「特殊法人の整理合理化について」に述べられている民間団体の積極的活用を図りつつ、事業の実施に努めるべきである。

(イ)日本語教育

 海外における日本語教育、日本語の普及については、関係機関が連携し、総合的な政策を策定していくことが不可欠である。従来移住者支援の一環として実施してきた国際協力事業団の日本語教育支援事業については、外国語としての日本語教育という観点から次第に国際交流基金の事業に代替移行することを検討するべきである。その場合には、国際交流基金に対し然るべき予算並びに人的措置を行い、本事業実施のための体制を整える必要がある。
 現地の必要を踏まえた、教材及び教育方法の開発、バイリンガル国際校支援、現地日本語マス・メディアへの協力等に加え、効果的な日本語教授法に基づいた現地国国民の日本語教員育成を引き続き行っていくことも必要である。
 また、日本語学習メリットを高めるという観点から、日本語能力のある日系人の本邦、居住国双方における雇用促進を図るべきであるが、それには経済界の理解と協力を得るために政府が努力していくことが必要である。
 なお、日系人の中には、我が国国籍保有者も存在するが、こうした日系人、特に青少年については単純に我が国国籍の有無のみに捉われず、その生活環境等にも配慮すべきである。我が国への留学等で日本国籍を有しない日系人より不利にならないような配慮が必要である。

(ロ)広報・文化

 我が国と居住国との「懸け橋」としての日系人の役割が十分に実現されるためには、これらの人々に対して我が国に関する最新の情報を提供し続けていくことが必要である。それにより、日系の人々、とりわけ我が国に強い関心を寄せる人々の秀れた発信能力が活かされることとなるであろう。
 在外公館広報文化センター、国際交流基金事務所及び海外日系人社会の間のネットワーク作りもまた重要であり、この方面でインターネットの活用の余地は大きい。広報・文化交流の対象については、伝統芸能、茶道、華道、俳句等の伝統文化に加え、現代日本に関する情報、若者文化、サブ・カルチャーをも紹介して欲しいとの要望が日系人社会より寄せられている。こうした要望に対しても十分応えていく必要がある。

(ハ)日系人社会との幅広い人的交流の促進

 官、民、自治体の連携を深め、招聘事業の一層の拡大・拡充等に努めるべきである。語学指導等を行う外国青年を招致するJETプログラム(Japan Exchange and Teaching Program)が諸外国との交流に果たしている多大な意義に鑑み、同事業への日系青年の参加の促進、もしくは、同事業を参考として日系青年の語学力を活用する新たなプログラムを創設することは検討に値する。また、日系人社会を含む中南米の地域発展を目的として国際協力事業団が実施している本邦からのボランティア派遣事業、すなわち日系社会青年ボランティア、及び日系社会シニア・ボランティアについても拡充に努めるべきである。

(3)開発・経済・技術分野での協力

 以下のような協力を進めるべきであり、特に中南米等政府開発援助(ODA)対象地域についてはODAを十分活用していくべきである。同時に、ODAの効果を高めるために日系人の能力を活用することも、常に念頭に置くべきであろう。

(イ)人材育成

 日系人の地位や能力の向上を図ることは、居住国への貢献に資するのみならず、ひいては、我が国の国際社会における地位向上や外交基盤の強化にも役立つものである。このため、引き続き、日系人の人材の育成を支援する必要がある。国際協力事業団が実施している人材育成事業、すなわち、地域発展に必要な技術及び知識を修得させるための日系研修員受入れ事業、並びに、我が国大学院への留学生を対象とする日系留学生奨学金助成事業について、その拡充に努めることが重要である。また、民間スポンサーを活用して人材育成のための基金を創設すること等も検討に値しよう。このように、官、民、自治体が協力、連携して海外日系人の人材育成に協力する体制を整備、強化することが望まれる。

(ロ)経済・技術協力

 我が国の経済・技術協力は、質量共に大きく変化、拡充しており、単なる技術移転から知的支援、政策形成支援といった領域にまで広がりを見せている。我が国が、高度な技術力を有する日系人の人材を活用し、国際協力の担い手として重用していくことは、経済・技術協力の幅を更に広げ、機動力を増大することとなる。例えば、日系人の人材を我が国の専門家として他の途上国へ派遣することは、我が国の技術協力の効率性を一層高めうるであろう。また、既に国際協力事業団が実施した日系社会人材活用可能性調査の結果等をも十分活用し、本邦派遣専門家・調査団を日系人がサポートするような協力・連携体制も整備すべきである。
 更に、医療、福祉、厚生分野における協力、特に日本語の話せる日系人医師、弁護士等の育成や、それらの人々についての情報の提供は、日々拡大する在外の邦人社会にも大きく裨益することとなる。こうした人材育成、並びに情報提供を組織化することができれば、企業関係者等の長期邦人滞在者と日系人社会との互恵的な協力をより強めることになるであろう。

(ハ)日系人社会にも裨益する国レベル若しくは国際的なプロジェクトへの協力

 日系人社会の向上発展のためには、受入れ国が全体として発展し繁栄することが必要である。また、経済・社会のグローバル化が進展する中、日系人社会の発展も、その趨勢の中で考える必要が出て来ており、我が国としても移住者・日系人支援を従来のように移住地単位に止めておくべきではない。南米では国際道路網整備や両大洋間輸出回廊計画等の検討が進められているが、こうした国単位・大陸単位の規模のプロジェクト、南米とアジアの関係強化を図る様々なプロジェクトについても、日系人社会への裨益という視点も念頭に置き、適切なスキームを選択しつつ協力の可能性を検討していくべきである。

(ニ)事業・ビジネス面での協力

 北米等ODA非対象地域に在住する日系人をも視野に、有効なビジネス情報の提供等を可能とする魅力ある日系人グローバル・ネットワークの構築が求められている。この面では、海外日系人協会の更なる体制強化や我が国経済界の協力が不可欠である。また、インターネットは求人求職情報等の面で既に効力を発揮しつつあり、その一層の活用が促進されるべきである。
 途上国においては、ビジネス・コンサルタント等を国際協力事業団の専門家として本邦より、或いは第三国より派遣すること等により各種経営ノウハウを提供していくことも必要であろう。

(4)日系人の本邦就労

(イ)日系人の受入れ、情報の事前提供

 平成2年の入管法改正から今日に至るまで日系人が多数来日している。今後、我が国の少子化傾向や人口構成・労働力需給の見通しの如何によっては、就労受け入れ政策について議論が深められることも予想される。その場合には、日系人の有する能力、我が国とのつながりについて考慮した議論がなされるべきである。
 また、訪日に先立ち、本邦での生活、就労に関する正確な情報の提供に努力し、彼等が十分な準備の下に訪日できるように支援することが望ましい。

(ロ)本邦滞在中の支援

 官、民、自治体がそれぞれ日系人就労者及びその家族に対する理解と協力の促進に取り組んでいるが、更にきめ細かい体制の整備に努力していくことが不可欠である。
 特に、日系人就労者の滞在期間が長期化する傾向にあり、ブローカーの介在の問題、労働条件を巡る諸問題に加えて、日系人の本邦社会への不適合の問題、日系人子弟の教育上の問題も発生している。これらの問題については、関係方面が多岐に亘るため、解決に向けては関係諸方面の協力と連携の一層の推進が不可欠である。各種情報提供、相談体制の充実、教育・医療はじめ生活面での支援、専門技術・資格の付与、日本語教育支援等に引き続き努力していくことが望ましい。
 なお、地方公共団体による取組みの好例として、ブラジル政府公認のピタゴラス校の創設に協力した静岡県浜松市、サンバ・カーニバルの開催等を通じ、地元住民との融和や相互理解を図っている群馬県太田市及び大泉町の例等は、参考となろう。

(ハ)居住国帰国後の支援

 居住国に帰国した日系人就労者の雇用や起業を支援することも重要である。日本貿易振興会(JETRO)が、我が国の中小企業の海外進出を支援するものとして関係者に検討を勧めているテクノセンター構想は、日系人就労者が居住国帰国後に起業する際にも有効と考えられ、我が国政府支援により南米等で推進することも検討されるべきである。
 また、内外の金融機関、並びに各種国際基金を活用し、主として中小規模の日系人の事業の設立、発展を資金面で支援することについても、政府としてはより多くの方途を拓き、実現していく努力を進めるべきである。

(5)日系人社会、内外関係方面との連携・協力の強化

 日系人社会と内外関係方面が連携することは、単に精神的な連帯ということのみならず、例えばビジネス面で日系人同士成功例を紹介し合い、また、有益な情報を共有する機会を提供する等、種々の実利をもたらすものである。こうした観点からも各地の日系団体の組織化、並びにグローバル・ネットワーク構築に対する支援は重要であり、同様に、パン・アメリカン日系人大会等への支援についても拡充する必要がある。更に、青少年のレベルでも日系人社会の間の交流を促進することは有意義であり、東南アジア青年の船に類した事業を日系人社会を対象に企画することも検討に値しよう。
 海外日系人協会の主催により毎年開催されている海外日系人大会は、海外日系人社会の要望を取り纏めることのできる貴重な機会であり、引き続き同大会を支援していくべきである。また、同大会の開催以外にも多彩な支援事業を実施している海外日系人協会の基盤強化も強く望まれる。



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