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WTO新ラウンド交渉における基本的戦略

平成14年10月4日


要約

本文の目次

1.新ラウンドとは何か
2.なぜ新ラウンドが立ち上がったのか
3.今次ラウンドで何を目指すべきか
(1) 経済のグローバライゼーションへの対応
2) 世界経済のブロック化の防止
(3) 包括的ラウンドを目指す
(4) 途上国を積極的に取り込む
4.具体的な戦略内容
(1) 第5回閣僚会議(MC5)において包括的ラウンドとするための交渉の基盤などをどのようにして形成していくか
(2) 途上国対策
(3) 農業
(4) サービス
(5) WTOと自由貿易協定(FTA)の両方により、日本の利益の増進を図る
5.今後の主要日程
6.個別の論点・概観
(1) 途上国問題
(イ) 市場アクセス改善
(ロ) キャパシティ・ビルディング強化
(ハ) 12月末までに検討期限の来る問題
「実施」問題S&D問題
TRIPSと医薬品アクセス(生産能力のない国への対応)
(2) 交渉に合意している項目
(イ) 農業
(ロ) サービス
(ハ) 非農産品市場アクセス
(ニ) ルール
 アンチ・ダンピング(AD)、補助金、地域貿易協定に関する規律
(ホ) 貿易と環境
(ヘ) 紛争処理了解の見直し
(3) MC5で交渉を立ち上げることを目指す項目
投資、競争、貿易円滑化、政府調達透明性


WTO新ラウンド交渉における基本的戦略
(要約)

2002年10月4日



 本ペーパーは、WTO新ラウンド交渉における日本の基本的戦略と、そのための交渉の進め方についての問題意識を明らかにしたもの。

1.新ラウンドとは何か

 世界貿易の伸びが世界経済拡大の牽引力。ラウンド(様々な交渉項目間の取引を可能とする集中交渉)形式により、世界貿易の拡大を目指す。

2.なぜ新ラウンドが立ち上がったのか

 同時多発テロの発生に象徴されるグローバル化の負の側面(先進国と途上国の格差拡大等)に対処し、世界経済の安定的発展のためのWTO制度の強化と、途上国を世界貿易体制に取り込んでいくことの緊急性が認識。

 ⇒「ドーハ開発課題」と名付けられた。

3.今次ラウンドで何を目指すべきか

(1) 経済のグローバライゼーションへの対応⇒アンチ・ダンピング、貿易と環境、投資他でのルール策定や強化を重視
(2) WTOの強化を通じた世界経済のブロック化の防止
(3) 各国が利益を見出しうる包括的ラウンドを目指す
(4) 途上国を積極的に取り込む農業をはじめ途上国の要求に適切に対処しないと、ラウンド交渉は失速する惧れが高い。


4.具体的な戦略内容

   
(1) 第5回閣僚会議(MC5)では、包括的ラウンドとするための基盤形成を行う。
(2) 今次ラウンド最大の焦点の一つは農業
 多くの国が農業の一般的貿易ルールへの統合を主張し、また、多くの途上国が、先進国の農産物市場の拡大と補助金撤廃を要求する中で、中長期的観点よりの農業改革を継続しつつ「非貿易的関心事項」を如何に交渉原則(モダリティー>)に反映させていくか。
(3) 途上国対策
 途上国が貿易、投資のメリットを十二分に享受できるように、技術支援/キャパシティ・ビルディングの供与と市場アクセス改善を図ることが不可欠。
(4) 日本のGDPの6割以上を占めるサービス分野において、貿易自由化を推進し、経済の一層の活性化を図る。
(5) WTOとFTAの両方を追求し、日本の総合的利益の増進を図る。


5.今後の主要日程

 10月のロス・カボスAPEC閣僚会合。11月14-15日のシドニーWTOミニ閣僚会合。その後もミニ閣僚会合を数回開催。2003年9月10-14日のカンクンWTO第5回閣僚会議(MC5)での中間レビューはラウンド交渉の成否を左右。

6.個別の論点・概観



(以下本文)

 このペーパーは、2002年はじめから開始されたWTO新ラウンド交渉(2005年1月1日までに終了予定)における、日本の基本的戦略と、そのための交渉の進め方についての問題意識を明らかにしたものである。

1.新ラウンドとは何か

 過去50年あまり、世界貿易は、世界全体のGDPの合計を上回る速度で拡大することで(WTOの統計によると、世界貿易の額は1948年の3040億ドルから2000年の6兆6270億ドルへ年平均6.1%の伸びがあったのに対し、世界全体のGDPは1948年の3兆9350億ドルから2000年の28兆1150億ドルへ年平均3.9%の伸び)、世界経済の拡大の牽引力となってきた。WTOの前身で1947年に発足したガットは、世界貿易の自由化とルールを策定することにより、その拡大に貢献してきた。そのガットにおいて、貿易の拡大を目指した累次交渉は、「ラウンド」と呼ばれる集中的な交渉形式で行われてきた。その主な理由は、様々な交渉項目の間の取引を可能にする「ラウンド」形式によってはじめて、利害の異なる国々の立場の調整が可能となるからである。WTOとなった現在においても、この基本的状況は変わっていない。

2.なぜ新ラウンドが立ち上がったのか

 グローバル化が急速に進む今日の世界経済においては、1994年に妥結した前回のウルグァイ・ラウンドの結果を反映して成立した現在のWTO体制を、今日的状況に適応させ、変革していくことが不可欠である。このように、多角的貿易体制の機能を維持、強化していくことは、これまでガット・WTO体制の下で自由貿易による恩恵を享受し経済発展を遂げてきた日本にとり、重要な外交課題である。
 2001年11月、ドーハで各国が立場の違いを越えて、新ラウンドの立ち上げに合意した背景には、同年9月の同時テロ発生がある。同時テロに象徴されたグローバル化の負の側面が世界経済の安定的発展を阻害しかねない、という危機感を各国閣僚が共有した。そして、新たなラウンドを立ち上げ、世界貿易の安定した且つ秩序ある発展のためにWTOの強化を目指す必要性が強く認識された。この負の側面は、途上国が世界貿易においてその比重を増しながらも(WTOの統計によると、世界貿易の中で途上国貿易が占める割合は、輸出で1991年の25.68%から2001年の32.3%へ、輸入で1991年の24.5%から2001年の28.73%へ)、貿易を含めた世界経済の制度の中で不利に扱われて、その繁栄の外に置かれてきたとの不満を感じているという問題でもある。各国閣僚は、そのような多くの途上国を多角的貿易体制の中に取り込み、持続的発展を図っていくことが、長期的には同時テロのような行動の芽を摘むことに貢献すると考えた。このような経緯から、今回の新ラウンドは「ドーハ開発課題(Doha Development Agenda)」と名付けられた。

3.今次ラウンドで何を目指すべきか

 日本は貿易、投資にその経済の多くを依存する国であり、マルチの体制強化は死活的に重要であり、ラウンドの成功は切実な問題である。

(1) 経済のグローバル化への対応

 人や企業が国境を越えて活動し、国民経済の大きな部分がかってないほど国境を越えた経済活動に影響されるようになった今日の状況に適合し、秩序だった経済活動のルールを作ることは、WTOにとり重要な課題であり、日本の利益である。具体的には、企業の活動を容易にし、安定的かつ効率的なものにする投資に関するルール作り、貿易救済措置に関するルールの改善及び策定、自由化至上主義ではなく環境や消費者の安全の保護を可能にする貿易ルール作りがある。

(2) 世界経済のブロック化の防止

 WTOによるグローバルな貿易自由化と世界規模で共通のルール作りが進まない中FTA網のみが拡大することは、特定の国の間でのみ貿易自由化が進むFTAにより結果的にブロック経済化の流れを助長することを意味しており、世界経済全体の均衡ある発展にとり、マイナスである。1930年代の過ちを繰り返してはならない。最恵国待遇原則を掲げる健全で強力なWTOがあってはじめて、FTAによる貿易歪曲効果という負の側面を押さえることができ、FTAが貿易創造効果という利益(正の側面)をもたらすことができる。たとえ日本が今後積極的にFTAを結ぶ政策を展開するとしても、世界中全ての国々とFTAを結ぶことは不可能であり、日本が参加していない地域貿易協定により受けるマイナスの貿易歪曲効果をおさえるためには、今日の状況に適合し、円滑に機能するWTOを維持することが利益となる。そのためには、ラウンド交渉の成功が不可欠。ラウンド交渉を進めることにより、FTAのみが進めばWTO体制そのものが背負うこととなる構造的なリスク(最恵国待遇原則の形骸化等)を軽減していくことが急務。

(3) 包括的ラウンドを目指すべし。

 日本を含め多くの国が受け入れる利益を見いだせるバランスのとれた成果を挙げるためには、過去のウルグァイ・ラウンドで開始が合意されていた農業交渉やサービス交渉を行うのみならず、非農産品の市場アクセスの改善(日本が比較優位を有する分野が多い)、アンチ・ダンピングを始めとする貿易救済措置のルールの改善、投資や競争に関するマルチのルールや、環境保護と貿易自由化の関係に関するルールの策定なども目指す必要がある。大きなパッケージでのシングル・アンダーテイキング(一括受諾)により全体のバランスを図ることができる。

(4) 途上国を積極的に取り込むべし。

 メキシコ、中国、ASEAN、南米等をより自由かつ透明な多角的な貿易投資体制に取り込み、日本企業の活動の円滑化を図ることが必要。途上国の市場拡大は、日本の輸出・投資機会を増加させる。特に、新規加盟の中国が、市場アクセス、知的所有権、流通サービスなどで約束を履行していくことが重要である。
 また、途上国は、ウルグァイ・ラウンド合意の実施段階に入って様々な困難(特に、知的所有権、関税評価ローカル・コンテント規制の撤廃、原産地規則)に直面していることからこれら合意の改正(リバランシング)を主張しており(これを「実施」問題という)、この問題に適切に対処しないと、ラウンド交渉は失速する惧れが高い。
 なお、途上国といっても、人口、経済規模、輸入国・輸出国等、多様であり、実は一括りに出来ないところが、問題を更に難しくしている。


4.具体的な戦略内容

 具体的戦略を考えるに当たり、まず以下の二点を基礎とする必要がある。
もっぱら鉱工業品の関税引き下げを対象としたケネディ・ラウンドを別として、交渉が多様な分野に亘りはじめ複雑化した東京ラウンド、ウルグァイ・ラウンドはそれぞれ妥結まで6年、8年かかっている。今回のドーハでの合意では交渉期間は2005年1月1日までと、わずか3年である。3年で交渉をまとめることは容易な作業ではないが、世界経済の変化の速度が増した今日、過去のラウンドのように長期間を交渉に費やすことはできない。交渉を予定通り妥結させるためには、交渉期限のほぼ一年前の2003年9月に開催される次回WTO閣僚会議(第五回。メキシコ、カンクン)の結果は重要な意味を持つ。当面の課題は、上記3.の日本の目指すところを達成するため、この第五回閣僚会議に向けて、どのように交渉を進めるかである。

 もう一つの重要な要素は、今次ラウンドの最大の焦点の一つが農業にあるということである。その理由は、農業がこれまでその特殊性故に他の産業分野とは違う貿易ルールの下に置かれてきたことを見直すべきであると主張する国が多数あることであり、また、農産物の輸出拡大を自国の経済発展の重要な手段と位置付け、そのための先進国の市場拡大と補助金撤廃を要求する数多くの途上国が存在することである。これらの国々は、農業交渉の成否がラウンド全体の成否を左右すると主張している。さらに、農業交渉の趨勢は自由化であり、ジュネーブでその流れに反するような提案をすることには非常に抵抗が強いことにも留意する必要がある。日本にとっては、ラウンドの成功に向けて努力すると同時に、世界最大の食料純輸入国として、最低限の食料自給率を維持し、また農業そのものの存続を確保していく必要のある大きな課題である。

 
(1) 第五回閣僚会議(MC5)において包括的ラウンドとするための交渉の基盤をどのようにして形成していくか

 当面の課題は、MC5では、交渉が先行している農業、サービスに加えて、非農産品市場アクセス交渉を含む幅広い市場アクセス交渉を進めていくこと、それに加えて、投資、競争といった「新しい分野」についての交渉が立ち上がるようにすること、アンチ・ダンピング(AD)について妥当な交渉範囲が出来ること、貿易と環境についてのルールの交渉が進捗することなどである。このようにして包括的交渉に向けての基礎が固められることが重要。

(2) 途上国対策

 WTOにおける途上国、特にASEAN、アフリカが、貿易を通じて自立的な発展、開発を促進していくためには、WTOルールを自ら遵守しその利益を享受できるような能力をつけることが必要である。途上国がルールを遵守できない状況を放置しておくことは、WTOの秩序を維持する上でも問題となりかねない。したがって、途上国には能力の限界があるという事実も踏まえつつ、これら途上国のルール遵守の能力を高め、更に、それらの国の交渉への積極的参加を促すための支援が必要である。そのような観点から、日本を含む先進国側より、十分な技術支援/キャパシティ・ビルディングの供与と市場アクセス改善を図ることが不可欠である。そのため、国際機関を通じた支援だけではなく、二国間援助の活用が重要となる。このような支援を通じ、途上国から、安価というだけではなく日本の安全基準を満たせる安全かつ質の良いモノやサービスの輸入が可能となるならば、日本の消費者の利益ともなり得る。
 また、MC5で投資、競争、貿易円滑化、政府調達透明性などのシンガポール・アジェンダに関する交渉に移行するためには、この分野での途上国支援を効果的に行う必要がある。
 同時に、途上国に対しては、貿易・投資を通じた発展の経験も踏まえ、自由貿易のメリットを目に見える形で個別に示し、十分な理解を得るようにすることで、途上国のWTOルールへの遵守、交渉への積極的参加を促し、WTOの下での多角的自由貿易体制の更なる維持・強化を通じて、日本の財、サービスに対する市場拡大及び投資の拡大を図る。

(3) 農業

 農業交渉は輸出競争市場アクセス国内助成の3分野での交渉となっており、そのバランス確保が重要である。その中で、日本にとり特に重要なのは市場アクセスと国内助成についてであるが、ウルグァイ・ラウンドの時に日本を含めて合意した農業協定に規定された改革過程を継続し、自由化を進め、それにより、国全体の経済厚生を高める中で、必要最低限の食料自給を維持し、日本の農業の存続を図りつつ、市場経済に立脚したより効率的な農業を実現するため、日本の進める農業改革を可能にし、「多様な農業の共存」が図られるような柔軟性のある規律の策定を目指すことが肝要。日本の従来からの主張である「非貿易的関心事項(NTC)」を交渉原則(モダリティー)に反映させていくことが課題である。

(4) サービス

 サービス分野は日本のGDPの6割以上を占める等、先進国をはじめ多くの国で経済の6、7割を占めている。サービス交渉では、各国のサービス市場の開放やサービス貿易に関する多角的ルールの一層の整備により、日本事業者の輸出・投資機会の拡大を図ることが主たる目的となる。同時に日本国内においても、競争導入によるサービス産業の効率・競争力向上を通じ、経済活性化や消費者の福利向上につながる成果を得ることが期待される。交渉の成功のためには、先進国や主要途上国の自由化レベルの引き上げとともに、より多くの途上国の交渉への積極的参画を確保することが不可欠である。

(5) WTOとFTAの両方により、日本の利益の増進を図る。

 WTOを補完・強化するものとしてFTAも積極的に推進していくことで効果的に日本の政策目的を達成する。具体的には、例えば農業補助金に関する規制のように、世界全体でルールを作らなければ実効性のあがらない問題、地域貿易協定の貿易歪曲効果を最小限にするための世界貿易全体の自由化の底上げ等、世界全体で達成すべきことをWTOの交渉で目指すと同時に、地域の経済関係の特性に着目したより高度の自由化や制度の調和をWTOプラスと言う形でFTAの交渉で目指し、FTAがWTO体制を先取りしていくような状態が望ましい。FTAとWTOは二者択一ではなく、時間的に並行して総合的に交渉していくとの考えである。


5.今後の主要日程

(1) 10月23-24日 ロス・カボス・APEC閣僚会合

 APECとしてWTOプロセスの前進に向け如何なる貢献が出来るかとの観点から議論が行われる予定。

(2) 11月14-15日 シドニー・WTOミニ閣僚会合

 12月末の検討期限に向けて途上国関連問題(「実施」問題、TRIPSと医薬品アクセス特別かつ異なる待遇(S&D)、キャパシティ・ビルディングなど)の対処方法等について議論を深める。

(3) 2003年はじめ 第2回WTOミニ閣僚会合(想定)

 3月末に節目を迎える農業、サービス、非農産品市場アクセスについて、政治レベルでの対応が必要。

(4) 2003年4月~7月 WTOミニ閣僚会合を必要に応じ1~2回開催

(5) 2003年9月10-14日 カンクン・WTO第5回閣僚会議

 日本は、農業交渉のオファー(関税やルールに関する約束提案)、非農産品の関税交渉のオファー、AD協定の改正に向けた作業促進の確認、投資交渉等の立ち上げ等を目指す。


6.個別の論点・概観

(1) 途上国問題

(イ) 市場アクセス改善

 途上国にとっては、繊維、農業を中心に先進国の市場アクセス改善が最大の関心事の一つであり、避けては通れない。
 後発開発途上国(LDC)との関係では、日本は全てのLDC産品に対する無税・無枠の市場アクセスの供与という目標に向け努力する所存であり、2003年度の関税改正に向けて無税品目の追加について具体的な措置内容を早急に検討していく。

(ロ) キャパシティ・ビルディング強化

 「貿易関連キャパシティ・ビルディング」をバイ及びマルチ援助の文脈でメインストリーム化しようという議論が主流。日本も貿易を開発政策の主要な柱の一つに位置付け、1)WTOを中心とした国際ルールの遵守能力と交渉参加能力を高めるためのものと、2)長期的な輸出能力を高めるためのもの、の双方の面で強化を図っていかなければならない。

(ハ) 12月末までに検討期限の来る問題

(「実施」問題)
 現行WTO協定の規律の一部緩和を求める途上国に対し、現行の規律をどこまで維持しつつ途上国の要望に応えることができるか、議論していく必要がある。

(S&D問題)
 途上国に対する特別のかつ異なる待遇(S&D)条項(途上国配慮条項)を改正して義務化すべしとの途上国の主張(例えば、途上国に対しダンピング防止措置をとる際には途上国の特別事情を考慮する、紛争処理協議を行う場合には途上国の事情に特別の注意を払う、LDCに対し農産品関税削減を免除する等の85項目以上の主張)については、途上国の発展段階や能力、個別の必要性などに応じて暫定的な義務の免除・軽減や経過期間の延長をどこまで認めるか、議論していく必要がある。

(TRIPSと医薬品アクセス(生産能力のない国への対応))
 感染症対策の一環として、例えばエイズ治療薬の生産能力のないLDCを中心とする途上国(主としてアフリカ諸国)に、安価なエイズ治療薬を如何に供給するかという問題。生産能力のある国は、強制実施権を発動して先進国製のエイズ治療薬をコピー生産できるが、TRIPS協定31条(f)(特許権者の許諾を得ていない他の使用は、主として国内市場への供給のために許諾される)が、そのようなコピー薬の第三国への輸出を原則禁止している。この問題について、検討期限である12月末までに何らかの解決策を見出すことが求められている。


(2) 交渉に合意している項目

(イ) 農業

 最も重要な期限は2003年3月31日までに行われるモダリティー確立であるが、当面は、2002年12月18日にモダリティーのベースとなる議長作成概観ペーパーに日本の主張を的確かつ有効な形で盛り込んでいくことが重要。

(ロ) サービス

 各国サービス市場の開放交渉では、2003年3月末に加盟各国がそれぞれ初期オファーを提出し、それを踏まえて本格的な交渉が行われる。日本の主な関心分野である、コンピュータ-関連、電気通信、建設、流通、金融、運送の各分野に加え、人の移動制限緩和(弁護士、建築士、エンジニア、医師、看護婦、IT技術者等の専門家)、自由職業やその他の実務サービス、新分野であるエネルギー等の交渉が注目される。

(ハ) 非農産品市場アクセス

 交渉モダリティーについては、種々の提案が出てくることが予想されるが、如何なる手段で関税の引き下げ又は撤廃を実現していくのか。途上国からの要望であるタリフピーク、タリフエスカレーションの撤廃並びに先進国からの要望である高関税の是正を如何に実現するか。途上国に対するS&Dを如何に実現するか。

(ニ) ルール

(アンチ・ダンピング(AD))
 ADについては、日本を含む規律強化を目指す国・地域(ADフレンズ)が共同で、AD協定の規律の明確化及び改善すべき事項を示唆するペーパーを提出したところであるが、AD協定の改正に消極的な米国との議論を如何に有利に進めるかが課題。
 MC5前にAD協定の改正に向けた作業に移行し、MC5では、同作業促進の確認を行うことを目指す。

(補助金)
 これまで、「実施」問題の一環として、補助金協定の規律を途上国に対し一定限度緩やかに適用するとの提案、及び1999年末で失効しているグリーン補助金を復活させる提案などが提出されている。また、ドーハ宣言に明記されている漁業補助金については、NZ、豪州などの国は、貿易、環境、開発に悪影響を与えているため撤廃・削減すべき旨主張。これに対し、日本は、漁業補助金だけ特別扱いする理由がない旨反論。

(地域貿易協定に関する規律)
 GATT24条8の「実質上のすべての貿易」、GATT24条5の「その他の通商規則」、GATS5条1の「相当な範囲の分野」などについての明確化を行う。「実質上のすべての貿易」については、品目数をベースとするか、貿易量をベースとするか意見の相違がある。北米自由貿易協定(NAFTA)が片道貿易額で平均99%以上、EU・メキシコFTAが平均97%を自由化するなど、世界の主要なFTAがレベルの高い自由化を実現し、貿易歪曲効果を最小限に抑えている事実を踏まえ、日本としてどの程度レベルの高い基準作りを目指すか今後議論が必要である。

(ホ) 知的所有権協定(TRIPS)

 TRIPS協定23条は、ワインとスピリッツに関して地理的表示の追加的保護(例えば、山梨産のワインに「ボルドーワイン」、「ボルドー風ワイン(山梨産)」と表示することを禁止する)を行うことを規定している。この表示について、多国間の通報・登録制度を設立するための交渉を行うが、拘束力のある強い制度を求めるEU等の旧大陸諸国と、拘束力のない制度を求める米国、豪州等の新大陸諸国(日本も含む)との間で意見が対立している。 
 地理的表示の追加的保護としてワイン、スピリッツ以外の産品(例えば、ハム、チーズ、コメ、紅茶)への拡大については、EU等の旧大陸諸国がこれを強く求めており、米国や豪州等の新大陸諸国は強く反対している。日本もメリットとデメリットの双方をよく議論して早く立場を固める必要がある。

(ヘ) 貿易と環境

 既存のWTOルールと多国間環境協定(MEAs)上の貿易義務との関係等についての交渉。70年代よりMEAsが締結されるようになり、絶滅の危機に瀕する動植物の輸出入規制や生物多様性の保全、有害化学物質の輸出入規制など、環境措置と貿易措置の係わりが増大してきていることが背景にある。貿易ルールと環境ルールの整合性を図ることが目的であるが、今次ラウンドで初めて交渉項目として取り上げられた。環境に重きを置いたルール作りを主張するEU、スイスと法的安定性及び予見可能性を高めるため両法体系の明確化を支持する日本、環境を重視するあまりそれが貿易を歪めることを懸念する途上国などとの間で意見が異なっている。

(ト) 紛争解決了解の見直し

 紛争解決了解の見直しに関する交渉は、2003年5月までに終了することとなっており、今次ラウンド全体の交渉パッケージの外に位置付けられている。日本は、パネルの勧告が未実施であると別のパネルで判断された後に限り対抗措置の発動を可とする修正を行うとの提案を出しており、その実現を目指す。この他に、パネルの常設化、透明性、迅速性の確保などの提案がある。


(3) MC5で交渉を立ち上げることを目指す項目

投資

 多角的投資ルールに関する立場が大きく異なる米国と反対派途上国がいる中で、如何にしてMC5で交渉モダリティーについて明示的なコンセンサスを得て交渉に移行するか。主要論点としては、1)投資協定の対象を直接投資に限定するかどうか、2)「無差別性(内国民待遇と最恵国待遇)」を拠点の設立前段階についても規定するか、3)投資受入国の開発に配慮する条項として如何なる事項を規定するか。

競争

 多角的競争ルールの構築を目指す立場(日本、EU、加など)と、多角的ルールは必要ないとする立場(印を始めとする途上国)が対立する中で、如何にしてMC5で交渉モダリティーについて明示的なコンセンサスを得て交渉に移行するか。主要論点としては、1)競争ルールを拘束力のあるものとするか非拘束的とするか、2)マルチのルールとするか複数国のみのルールとするか、3)紛争解決制度を活用するかピア・レビュー方式とするか。

貿易円滑化

 税関手続きなどの輸出入に関連する手続きが貿易を阻害する要因とならないよう、将来のルール作りも視野に入れて議論する。GATT第5条(通過の自由)、第8条(輸入及び輸出に関する手数料及び手続)、及び第10条(貿易規則の公表及び施行)の明確化を行うとともに、途上国の貿易円滑化に対するニーズの特定、及び技術支援・キャパシティビルディングの実施についても議論する。

政府調達透明性

 調達に関する法令や手続、調達の機会や結果等の公表等を通じて、WTO加盟国間の政府調達の透明性を確保するマルチの協定策定のための交渉を立ち上げることが目標。主要論点は、1)協定の対象となる調達の範囲(地方政府等の調達やサービスの調達を含めるか)、2)紛争解決手続を活用するか、各国内に苦情申立制度を設けるか等である。


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