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WTO第三回ルール交渉会合に向けたアンチダンピング
(AD)フレンズ共同ペーパー

平成14年7月3日

 アンチダンピング(AD)フレンズは、近年AD措置の濫用を懸念しWTO・AD協定の規律強化を目指す関係国の集まりであるが、5月のTNC第二回ルール交渉会合に12項目の問題提起したことに続いて、7月8日~10日の第3回会合に向けて11項目の問題提起をWTO事務局に提出した。その目的・背景を項目毎にとりまとめると以下のとおり。(日本の他、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、香港、イスラエル、韓国、ノルウェー、台湾、シンガポール、スイス、タイの13加盟国・地域による共同提案)

0. 本ペーパーの位置づけ

 冒頭に本ペーパーの位置づけを明確にするため次を記している。

本ペーパーは、第1弾ペーパー(TN/RL/W/6)に続く、ルール交渉会合のADの議論に貢献するための第2弾ペーパーであること。
今後の交渉会合に更なるペーパーを提出すること。個々の国の全ての考えを表明したものではないこと。
本ペーパーは明確化、改善を求めていく条項を記しているが、優先度をつけたものではないこと。また例示は理解を促進するために付記しているものであって限定的であること。


1.調査の産品/同種の産品の定義(AD協定2.6条他)

 AD協定では、調査対象の産品の範囲について定義しておらず、調査当局が恣意的に範囲を定められることを問題と認識し、合理的で規律の取れた産品の範囲の決定方法が必要であることを主張。すなわち、現行ルールにおいて明確な規定が無いため、製品によって対象となる市場が違うにもかかわらず、同一の対象品目として調査を受け、課税対象となっているという問題が生じている。また、いわゆる後発産品に対してまで課税対象が安易に拡大されるという問題もある。

(具体的な問題例)

 バスとトラクターのタイヤを輸入する企業Aに対して、AD調査が開始された。トラクター・タイヤはバス・タイヤと全く別の市場であるにもかかわらず、調査当局はこれらを一つの「検討の対象となる産品」として扱った。トラクター・タイヤのダンピング・マージンは10%でバス・タイヤのマージンはデミニマス(僅少)であったが、「検討の対象となる産品」として平均をとるとマージンはポジティブであった。その結果、損害が存在していることも考慮して、トラクター・タイヤ及びバス・タイヤの両方にAD税が賦課された。

2.国内産業の定義(AD協定4.1条)

 AD協定4.1において、国内産業とは「同種の産品の国内生産者の全体」又は「国内総生産高の相当な部分を占めている(major proportion)生産者」と規定している。「major proportion」の定義が不明であるため明確化すべきではないか。また「国内生産者の全体」が例外的に利用できない時の基準を設けるべきではないかと問題を提起。本アイテムは、3.(提訴適格)の問題に関係している(3.参照)。

3.提訴適格(AD協定5.4条)

 AD協定5.4において、AD調査の提訴には国内の生産者の十分な支持が必要とされていることが規定されている。しかし実際には必要とされている支持度合いの下限が必ずしも十分高いとは言えず、現行規定は、minorityの支持、即ち、国内生産者全体の4分の1の支持によって調査開始を可能ならしめている。またAD協定には「国内産業の定義」が規定されているが、2.(国内産業の定義)で提起したとおり、「国内産業」は必ずしも全ての国内生産者の総体を取らなくても良いことになっている。このような場合、一部の国内生産者の集合をもって「国内産業」を定義すれば、多数とは考えられない支持度合いによって提訴を行うことが可能ならしめていることを問題として提起。

(具体的な問題例)

 AD調査の申請が国内総生産の25%を構成する供給者によって提出された。国内総生産の20%の供給者が反対を表明し、55%の供給者が立場を表明しなかったが、調査当局は提訴要件を満たしていると判断した。当局は、少数派の供給者からのデータによって損害を決定することができるのだろうか。そもそも25%の基準は国内生産を代表していると言えるのか。

4.調査開始要件(AD協定5.3条)

 AD協定5.3条には提訴の内容のadequacyやaccuracyをexamineすることが定められているが、これらの用語の意味の捉え方は各調査当局の解釈によるところが大きく、証拠の十分な吟味がなされないまま調査が開始されることが散見される。加えて、AD調査は被提訴者に多大な負担をかけることから、調査の開始の検討をより意味あるものにすべく改善及び明確化すべきと主張。

(具体的な問題例)

 AD調査の申請が提出されたが、申請書に記載されているダンピング及び損害のデータは提訴者が特定の調査資料から入手した非公式なデータであり、被提訴者が保有しているものと異なっていた。このケースの場合、調査当局は公的記録及び政府内の記録からデータを入手して、実際にデータの正確さを検討すべきではないだろうか。

5.正常価額の決定-関連者及びその取引(AD協定4条)

 AD協定の基本的な考え方は、ダンピングの決定は、「輸出国内での正常価額」と「輸出価格」との比較によって決定されるものである。これに照らせば、正常価額を不当に算定することは恣意的なダンピング認定に直結する。本例示においては、輸出者が原材料供給者の株の一部を所有していることをもってして関連者と認定し、正常価額が不当に釣り上げられることが起こりうることを問題として提起。

(具体的な問題例)

 化学製品、ポリビニル・アルコールの企業AがAD提訴された。企業Aは企業Bにポリビニル・アルコールの主要な原材料であるビニール酢酸塩(VAM)の供給契約を取り交わしていた。VAMの取引価格は市場価格より約10%廉価であったが、会社Bは利益を得ていた。AD調査において、当局は企業Aが会社Bの株6%を所有していることから、企業Aと企業Bは「関連者」であると判断した。当局は、企業Aと企業Bの取引価格に関し、通常の商取引における非関連者間の取引と整合させるべく、10%の価格調整を行った。その結果として、企業Aは、実際は行っていないにも係わらず、ダンピング販売していると認定された。株を少数保有していることをもって関連者と判断してよいと言えるか否か問題提起。

6.損害認定(AD協定3.4条)

損害認定は、ダンピング認定、因果関係と並んで、AD制度の最も本質的要素の一つ。AD協定3.4条では損害を決定する際に考慮すべき要因を規定しているが、その評価方法についてガイダンスがなく、恣意的な決定の余地が残されていることを問題として提起。

7.価格約束(AD協定8条)

 ダンピング認定された場合であっても、必ずしもダンピング税を課すことが唯一の救済方法ではなく、価格約束の締結は一つのオプションとして認められた制度である。しかし、実際にはどのような場合に適用されるのか等基準がはっきりしておらず、あまり利用されていないのが実態。本アイテムはそのような問題意識を提示したもの。AD協定8.1において、価格約束の条件について規定しているが“満足すべき自発的な約束”とは何か、を言及しておらず、また8.3では一般的な政策的な理由をもって価格約束を認めない事ができてしまうことを問題として提起。

(具体的な問題例)

 企業Aのコンピュータ・ディスプレイの輸出に対して暫定的に25%のダンピング・マージンが決定されたが、輸入国内企業の製品との価格差は10%であった。企業AはX国の総輸出の40%を占めている。企業Aは損害を除去するために、輸出価格を15%引き上げることを提案したが、調査当局は、総輸出の過半を占めない1社とは価格約束を認めないとの一般的な政策的な理由をもって提案を拒否した。

8.レビュー(AD協定9.3条,9.5条,11.2条及び11.3条)

 AD協定に規定される各種「レビュー」に関する根本的な問題点は、レビュー手続きが初回調査と同じ手続きを採用するべきであることを協定上明示されていないことにある。レビュー手続きが初回調査と異なる方式であると、被提訴者にとっては膨大な手間がかかることとなり不合理である。また、レビューの際の期間についても被提訴者への無用な負担を回避する観点からは、当然ながら速やか(初回調査と同様に12カ月)になされるべきと主張。

(具体的な問題例)

 企業Aのバラの花にAD税が賦課された。企業Aは初回調査で利用されたダンピング・マージンの計算方法に基づいて、以降ダンピングしないよう輸出価格を調整し、AD税の見直しを要求した。しかしながら、見直しに当たっては初回調査で利用された輸出価格と国内販売価格の年次平均価格の比較ではなく、月ごとの平均価格を比較値として採用されたため、ダンピング・マージンが依然認定された。

9.構成輸出価格(AD協定2.3条、2.4条)

 AD協定の基本的な考え方は、ダンピングの決定は、「輸出国内での正常価額」と「輸出価格」との比較によって決定されるものである。第1弾ペーパーでは「構成価額」の項目において、恣意的な「正常価額」の算定という問題点を指摘したところであるが、本アイテムでは、もう一方の側の「輸出価格」についても同様の問題が生じることを示したもの。  輸出価格に関しては、AD協定2.3条では輸出者と輸入者が関連者等の場合には、輸入者から非関連の販売者に対する輸出価格を当局が合理的な基礎に基づいて決定することを認めている。これらを構成輸出価格(CEP)という。AD協定2.4条において構成輸出価格を公平な価格比較に適用することを規定しているが十分に明確ではないため、加盟国によって非対称な比較を行うことがあることを問題として提起。

(具体的な問題例)

 企業XはDVDプレーヤーを国内では小売店に、輸出先には関連輸入業者を経由して非関連の卸売業者におろしている。このため、当局はダンピング・マージン計算のために構成輸出価格(CEP)を用いた。調査当局は、正常価額の計算に当たっては、国内販売の個別の販売利益を控除しない一方で、構成輸出価格の計算からは全ての利益を控除した。この非対称な価格比較によりダンピング・マージンが創出された。

10.調査されなかった被提訴者のダンピング・マージン(AD協定9.4条)

 AD協定9.4において被提訴者が多数存在する場合、調査当局はその中から統計的に適切な者をサンプリングしてダンピング・マージンを計算することが認められているが、その場合、サンプリングされなかった被提訴者のダンピング税率は、調査された企業の税率の加重平均(オール・アザーズ・レート)とすることとされている。しかし、第9.4条において、当該加重平均の計算からゼロもしくはデミニマス・マージン(僅少なダンピング・マージン)を除くこととしている。しかし、当該ゼロ・デミニマス・マージンもサンプリングされた被提訴者の実際の輸出行為の実態を反映したものに変わりなく、これを平均値計算から排除する合理的理由は見当たらないことを問題として提起。

(具体的な問題例)

 製品Xの20の輸出業者/供給者がAD調査の対象となっている。調査当局は、調査対象の 輸出業者/供給者が多いため、20社のうち輸出国の60%をシェアしているトップ3の供給者だけを調査することとした(3社の輸出量はほぼ同じ)。調査当局はダンピング・マージンを以下のとおり決定した。

  • 企業A:3%
  • 企業B:1%
  • 企業C:0%
  • その他の企業:3%

 調査当局は、企業B及びCはゼロ又はデミニマス・マージンであったため無視し、企業Aのダンピング・マージン(3%)をその他の企業に適用することとした。しかし、ダンピング・マージンを3社の平均値をした場合においてはその他の17企業にはデミニマス・マージン(1.3%=(3+1+0)/3)となる。

11.コストデータの扱い(AD協定2.2.1.1条)

 AD協定上、国内販売価格が生産コスト割れしておらず正常価額として使用できることを判断するため、製造コストを提出することが要求される。通常、企業は自国内の会計基準に則りデータを保有していることから、調査当局側の求める会計方式と一致していない場合が存在する。このようなケースにおいて、調査当局の要求にしたがってデータを加工し直したりすることは被提訴者に対して膨大な負担となること、また会計方式の違いを理由にデータの不備を指摘されることを問題として提起。

(具体的な問題例)

 紡績企業Xは、L、M及びNの3種類の紡糸を生産するためにA、B及びCの生産ラインを保有している。ラインはいずれも、3種類を生産できる。企業Xは自国内の会計基準に則りつつ、通常の商取引における各紡糸の製造コストの計算に関しては生産ライン全体で1本化して行っている。しかしながら、当局は紡糸LがラインAで生産されているとの理由から、ラインAのみの製造コストの提出を要求した。企業Xはその要求に応じるため膨大な資料から紡糸Lのコストについて再計算を行ったが、再計算したコストは企業Xにあるコストデータより高くなった。企業Xは紡糸Lの値段を自社の会計基準に基づいて設定しているため、紡糸Lの国内販売は再計算コストよりも低いと考慮され、その結果予期しないダンピング・マージンが発生した。


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