(4) |
身体の自由等自由権関係の規定(第10条~12条、12条bis)
(イ) |
(精神)障害者の強制治療・強制入院の扱いにつき議論が分かれた。本条約においてこれら問題を然るべく取り上げて規定すべきことについては合意があるが、具体的な条文(場所)や規定振りについては意見が収斂していない。WG案では第11条(拷問等)、第12条(暴力等)及び第21条(健康の権利)それぞれに重複した規定を置いているが、EUは強制治療は暴力等、強制入院は身体の自由(第10条)の問題として整理することを主張したのに対し、NZ及び加等は本件は重要な問題であり、また各条文それぞれに横断的に係わりがあることから独立の条文(第12条bis)とすることを主張した。国際人権法上、拷問には公務員の関与等一定の定義があることから、少なくとも第11条以外で規定することについてはほぼ意見の一致があるが、タイ及びNGOはこれらは障害者に対する拷問に他ならないとして第11条でも扱うことを強く選好している。今後の議論は便宜上独立条文(第12条bis)として行われることとなった。
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(ロ) |
同意に基づかない強制治療、強制入院がごく例外的な場合であって、また障害の存在そのものを理由とするのではなく、(例えば麻薬中毒者など他者と同じく)自傷他害のおそれがある場合には、適法に行い得ることについては概ね意見の収斂が見られた。但し、具体的な規定については、インフォームド・コンセントの問題と並び、今後第12条bisにおいて更に検討していく必要がある。
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(ハ) |
第10条(身体の自由)、第11条(拷問等)については、上記の点を除き、WG案に近い形でほぼ合意が形成された。第12条(暴力等)に関してはWG案には他の条文との重複等があったことから個別条文調整国(facilitator)がWG案を整理して議論が行われた。やはり上記の点を除いては相当議論が収斂してきているが、家族や介助者の扱い等を巡りやや意見に開きのある部分もある。。
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(5) |
表現及び意見を持つ自由、情報へのアクセス(第13条)
(イ) |
第13条(表現の自由等)については、個別条文調整国がWG案に基づいて整理した案文につき検討を進め、相当の収斂を見た。但し、本条が表現等の自由という自由権の根幹を構成するものであると同時に、特に情報へのアクセスの文脈においては、手話・点字の使用の円滑化といった伝統的な意味における自由権(国家権力からの個人の自由)と社会権(国の政策や措置により個人に実現される権利)が交錯する内容となっていることに留意を要する。 |
(ロ) |
手話、点字等の言及にあたり、正確な用語法を巡って議論となったが(コミュニケーションの手段なのか態様なのか等々)現時点での取りあえずの合意が形成されている。なお、手話の言語性について否定する意見は無かったが、具体的規定振りや、「国民手話」の扱い等については、今後の議論に委ねられている。
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(6) |
プライバシー/家庭・家族の尊重(第14条、第14条bis)
(イ) |
第14条の内容を、プライバシーの尊重に特化させ、家庭及び家族の尊重については独立の条文(第14条bis)で規定することにつき概ね合意があった(EUが立場を一応留保)。
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(ロ) |
プライバシーに係わる部分については、WG案は他条文との重複や既存人権条約の文言との乖離があるため、国際人権規約及び児童の権利条約の関連条文に基づきつつ、特に施設内居住者を念頭に「居住地及び生活形態の如何を問わず」といった障害者権利条約固有の言及を簡潔に付加することにつきほぼ合意があった。
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(ハ) |
家族・家庭の尊重に係わる部分(第14条bis)については、本条約における規定が如何なるものとなろうと、締約国の人口政策、結婚や性を巡る法制度や慣習、家族計画や中絶の認否等を変更しようとするものではなく、新たな権利を創設するものではない、あくまで障害を理由として他者と差別的取扱をしてはならないとの内容であることにつき繰り返し強調され、その点には共通認識があるものの、文化的宗教的背景も相俟って具体的な意見の乖離は未だ大きい。
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(ニ) |
特に「性の尊重」につき踏み込んだ規定(例えば「性関係や親たることを経験することを否定されない」といった記述)を置くことを指向する欧米諸国と、国際人権規約にある婚姻に関する規定以上のものとすべきではないとするイスラム諸国及びヴァチカンとの間で意見が大きく対立している。前回会合で我が国が提案した、性の尊重に関する一般的な文言を支持する声も少なからずあり、非公式協議議長報告書にも言及されているが、折衷案として全体の支持を得るには至っていない。また、「養子」への言及に関しても、既に国際人権諸条約に先例があるにもかかわらず、アラブ諸国より繰り返し懸念が表明され、今後の調整に委ねられた。
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(7) |
自立生活及び地域への包含(第15条)
本条に関する議論は時間切れとなったため、次回会合で再度取り上げられることとなった。WG案を基礎とすることに多くの支持があったが、即時実施義務と漸進達成義務を別立てのパラグラフにして書き分けるべきこと等につき指摘があった他、「full inclusion」と「full participation」等幾つかの表現の選好につき意見が表明された。
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