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障害者権利条約に関する第5回国連総会アドホック委員会(概要)


平成17年2月5日

 1月24日より2月4日にかけて、NY国連本部において開催された障害者権利条約アドホック委員会第5回会合の概要は以下のとおり。我が国よりは当省、内閣府、法務省、文部科学省、厚生労働省から出席した他、障害をもつ当事者として専門的知見を有する東俊裕弁護士に引き続き政府代表団顧問を委嘱した。また、延べ9名の我が国障害者NGO関係者が傍聴した。

1.全般

(1) 昨年1月に条約草案作業部会が作成した草案(以下WG案)に基づき、昨年の第3回・第4回会合に続いて具体的な条約案文の交渉が行われた。今次会合では、主として生命の権利や身体・表現の自由など、いわゆる自由権に係わる第7条5から第15条について議論された。我が国代表団も全ての条文につき発言・提案を行いつつ積極的に議論に貢献した。

(2) 当初の仮議事日程では、第1週に上記条文を中心に非公式協議(前回迄に第二読を終えた部分について更に集中的な交渉を行う)を実施し、第2週に教育や雇用等いわゆる社会権に係わる第16条から第25条にかけて公式会合にて第二読を行う予定であったが、結果的には前者のみでほぼ全日程を費やすこととなった。これは、今回扱った条文には、各国の法制度の根幹に係わる内容が多かったため、十分な時間をかけて議論し共通認識を深める必要があったためである。他方で、今回取り上げた部分については、従来より非公式協議の議長(Coordinator)を務めているドン・マッケイ・ニュージーランド常駐代表大使の卓越した手腕もあり、大きな進展が見られた。(最終日のNGOステートメントにおいても、当初の予定より議事が遅れたことへの批判等は無く、むしろ次回も今回のように焦点を絞った形で議論することにより条約制定に向けた作業を加速させることへの期待が表明された。)

(3) 次回の第6回会合は本年8月1日から12日にかけて開催され、今回積み残した第15条、15条bis、24条bisの非公式協議、更に第16条以降の第二読が行われる予定。なお、2002年6月以降本アドホック委員会議長(公式会合)を務めてきたルイス・ガレゴス・チリボガ・エクアドル常駐代表が今月駐豪大使に転出するため、新議長を含むビューローの体制につき会期間に調整する必要がある。

2.各論

(1) 平等・非差別と特別措置の関係(第7条5)

(イ) 各種のアファーマティブ・アクションや雇用割当制度等の、実質的平等を促進するための「特別措置」あるいは「積極的措置」は、たとえ形式的な取扱いに差異を設けていても差別とは見なさないことについては完全に合意があった。

(ロ) 他方で、これらの措置を実質的平等が達成される迄の間の時限的なものと捉えるか否かを巡り議論となった。我が国からは、女子差別撤廃条約において母性の保護を目的とした特別措置に時限が付されていないように、障害者施策においては必ずしも全ての特別措置が暫定的な措置とは限らない(例えば合理的配慮をもっても自由競争では労働市場に参入しにくい重度障害者等を念頭に置いた雇用割当制度等)と主張し、ほぼ全体の理解が得られた

(ハ) 但し、特別措置等の制度が「異なった基準(standard)」を結果として存置してはならないと規定するか否かを巡り完全な合意には達していない。(注:ここで言う「standard」は、例えば電話交換手の雇用割当といった分野別の基準を指し、分野横断的な一般的なクォータ制度は対象とならないとの説明がなされている。EUが強く主張しているが、内容が不明解等として反対している国が多い。)

(ニ) なお、既存の人権条約(女子差別撤廃条約、人種差別撤廃条約)では「特別措置」との用語が用いられているものの、語の与える印象として、「積極的措置」乃至単に「措置」とした方が良いとの意見が多数を占めた。

(2) 生命の権利/緊急時の保護(第8条、第8条bis)

(イ) 生命の権利については、国際人権規約(自由権規約第6条)で既に全ての人につき宣明されているが、障害者権利条約においても独立の条文で「再確認」することに意義があるとして、自由権規約に即した以下の簡潔な条文案で合意が見られた。(現時点では、全体につきクリーン・テキストとなった初めての条文となった。)

⇒「締約国は、すべての人間が生命に対する固有の権利を有することを再確認し、他者と同等に、障害者によるその実効的な享受を確保するためすべての必要な措置を取る。」

(ロ) 武力紛争や災害等の緊急時の障害者の保護については、国際人権条約としての本条約の性質に鑑みれば、過度に強調することには疑問もあるが、アラブ諸国、開発途上国を中心にその必要性につき強い主張があり、第8条bisとして別途規定することにつき概ね合意があった。現時点では簡潔なコーディネーター案が提示されているが、武力紛争、外国の占領、難民、自然災害(津波にも多数が言及)といった具体的状況を列挙することにつき引き続き強い拘りを示している国が多い。

(3) 法の下の平等/司法へのアクセス(第9条、第9条bis)

(イ) 「法的能力(legal capacity)」の概念整理を中心に、今次会合で最も長時間の時間を費やして議論された論点となった。基本的に各国とも、障害者を含む全ての人が他者と全く同等の「権利能力」を有するが、場合により後見開始の審判等適切な国内法手続により法的な「行為能力」に一定の制限を課されることがあるとの内容自体については、実質的な意見の相違は見られなかった。他方で、我が国を始め大陸法系の国(中、韓、露、アラブ諸国、多くのEU諸国)では、「法的能力」を「権利能力」と「行為能力」とに概念上区別して捉えているのに対し、英米法系の国では「legal capacity」は大陸法系で言う権利能力のみを意味し、行為能力は「legal capacity」の行使(exercise)の問題と捉えていることから、訳語の問題も相俟って議論がかなり錯綜した。今後、各国法体系上無用の混乱を生じない適切な表現につき更に検討していく必要がある。

(ロ) なお、我が国には同等の制度は無いが、一部の国で採用されている人格代理人(personal representative)制度(注:通常は遺言執行人や遺産管理者であるが、障害者に関しても全く意思能力を欠く場合に本人に代位して法律行為を行う者として指名され得る)につきNGOから厳しい批判がされており、その扱いを巡り今後議論になると思われる。

(ハ) 司法へのアクセスに係わる部分は、法的能力の問題とはかなり次元が異なることから、独立の条文(第9条bis)とすることにつき概ね合意があった。今回は案文につき関心国より非公式な提案があったに留まり、内容の議論は先送りされた。我が国が第3回会合で提示した「締約国は、国際人権B規約第14条に定めのある(公正な裁判を受ける)権利を障害者が実効的に享受することが出来るようにするため、物理的乃至コミュニケーション上の障害を除去し、障害者の理解の困難を低減させるべく、適当かつ実効的な措置をとる」との提案も、第9条bisの中で調整することとなる。


(4) 身体の自由等自由権関係の規定(第10条~12条、12条bis)

(イ) (精神)障害者の強制治療・強制入院の扱いにつき議論が分かれた。本条約においてこれら問題を然るべく取り上げて規定すべきことについては合意があるが、具体的な条文(場所)や規定振りについては意見が収斂していない。WG案では第11条(拷問等)、第12条(暴力等)及び第21条(健康の権利)それぞれに重複した規定を置いているが、EUは強制治療は暴力等、強制入院は身体の自由(第10条)の問題として整理することを主張したのに対し、NZ及び加等は本件は重要な問題であり、また各条文それぞれに横断的に係わりがあることから独立の条文(第12条bis)とすることを主張した。国際人権法上、拷問には公務員の関与等一定の定義があることから、少なくとも第11条以外で規定することについてはほぼ意見の一致があるが、タイ及びNGOはこれらは障害者に対する拷問に他ならないとして第11条でも扱うことを強く選好している。今後の議論は便宜上独立条文(第12条bis)として行われることとなった。

(ロ) 同意に基づかない強制治療、強制入院がごく例外的な場合であって、また障害の存在そのものを理由とするのではなく、(例えば麻薬中毒者など他者と同じく)自傷他害のおそれがある場合には、適法に行い得ることについては概ね意見の収斂が見られた。但し、具体的な規定については、インフォームド・コンセントの問題と並び、今後第12条bisにおいて更に検討していく必要がある。

(ハ) 第10条(身体の自由)、第11条(拷問等)については、上記の点を除き、WG案に近い形でほぼ合意が形成された。第12条(暴力等)に関してはWG案には他の条文との重複等があったことから個別条文調整国(facilitator)がWG案を整理して議論が行われた。やはり上記の点を除いては相当議論が収斂してきているが、家族や介助者の扱い等を巡りやや意見に開きのある部分もある。。

(5) 表現及び意見を持つ自由、情報へのアクセス(第13条)

(イ) 第13条(表現の自由等)については、個別条文調整国がWG案に基づいて整理した案文につき検討を進め、相当の収斂を見た。但し、本条が表現等の自由という自由権の根幹を構成するものであると同時に、特に情報へのアクセスの文脈においては、手話・点字の使用の円滑化といった伝統的な意味における自由権(国家権力からの個人の自由)と社会権(国の政策や措置により個人に実現される権利)が交錯する内容となっていることに留意を要する。
(ロ) 手話、点字等の言及にあたり、正確な用語法を巡って議論となったが(コミュニケーションの手段なのか態様なのか等々)現時点での取りあえずの合意が形成されている。なお、手話の言語性について否定する意見は無かったが、具体的規定振りや、「国民手話」の扱い等については、今後の議論に委ねられている

(6) プライバシー/家庭・家族の尊重(第14条、第14条bis)

(イ) 第14条の内容を、プライバシーの尊重に特化させ、家庭及び家族の尊重については独立の条文(第14条bis)で規定することにつき概ね合意があった(EUが立場を一応留保)。

(ロ) プライバシーに係わる部分については、WG案は他条文との重複や既存人権条約の文言との乖離があるため、国際人権規約及び児童の権利条約の関連条文に基づきつつ、特に施設内居住者を念頭に「居住地及び生活形態の如何を問わず」といった障害者権利条約固有の言及を簡潔に付加することにつきほぼ合意があった。

(ハ) 家族・家庭の尊重に係わる部分(第14条bis)については、本条約における規定が如何なるものとなろうと、締約国の人口政策、結婚や性を巡る法制度や慣習、家族計画や中絶の認否等を変更しようとするものではなく、新たな権利を創設するものではない、あくまで障害を理由として他者と差別的取扱をしてはならないとの内容であることにつき繰り返し強調され、その点には共通認識があるものの、文化的宗教的背景も相俟って具体的な意見の乖離は未だ大きい

(ニ) 特に「性の尊重」につき踏み込んだ規定(例えば「性関係や親たることを経験することを否定されない」といった記述)を置くことを指向する欧米諸国と、国際人権規約にある婚姻に関する規定以上のものとすべきではないとするイスラム諸国及びヴァチカンとの間で意見が大きく対立している。前回会合で我が国が提案した、性の尊重に関する一般的な文言を支持する声も少なからずあり、非公式協議議長報告書にも言及されているが、折衷案として全体の支持を得るには至っていない。また、「養子」への言及に関しても、既に国際人権諸条約に先例があるにもかかわらず、アラブ諸国より繰り返し懸念が表明され、今後の調整に委ねられた。

(7) 自立生活及び地域への包含(第15条)

 本条に関する議論は時間切れとなったため、次回会合で再度取り上げられることとなった。WG案を基礎とすることに多くの支持があったが、即時実施義務と漸進達成義務を別立てのパラグラフにして書き分けるべきこと等につき指摘があった他、「full inclusion」と「full participation」等幾つかの表現の選好につき意見が表明された。  


(参考)障害者権利条約交渉に関する諸文書は以下の国連ホームページに掲載されている。

http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/adhoccom.htm





(別添)


障害者権利条約の条文構成(案)


:2004年1月に条約草案作業部会が作成。現時点ではこの構成に基づき議論を進め、内容が固まってきた段階で必要に応じ整理・統合していくことが合意されている。なお、「bis」の各条文は、これまでの議論の過程で別途独立の条文を設けることにつき合意乃至提案があったもの。)

前文
第1条:目的
第2条:一般的原則
第3条:定義
第4条:一般的義務
第5条:障害者に対する積極的態度の促進
第6条:統計とデータ収集
第7条:平等及び非差別
第8条:生命の権利
第8条bis:緊急時の保護
第9条:法の下の平等
第9条bis:司法へのアクセス
第10条:身体の自由及び安全
第11条:拷問並びに残虐な、非人間的な又は品位を傷つける取り扱い又は罰
第12条:暴力及び虐待からの自由
(第12条bis:医療行為(入院)とインフォームド・コンセント)
第13条:表現及び意見表明の自由並びに情報へのアクセス
第14条:私生活、家庭及び家族の尊重/(プライバシーの尊重)
(第14条bis:家庭及び家族の尊重)
第15条:自立生活及び地域への包含
(第15条bis:障害を持った女性)
第16条:障害を持った子供
第17条:教育
第18条:政治生活及び公的生活への参加
第19条:アクセシビリティー
第20条:個人のモビリティー
第21条:健康及びリハビリテーションの権利
第22条:労働の権利
第23条:社会保障及び相当な生活水準
第24条:文化的生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加
第24条bis:国際協力
第25条:モニタリング

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