返還自体と直接関係のない不動産等のコスト高や製造業からサービス業への経済構造の転換にどう対処するかといった問題も重要な問題ですが、返還自体と密接な関係のある政治制度の面では、今後以下の3点が特に注目されます。
1 第1期立法会選挙
第1期立法会(定員60名)の選挙は98年6月30日までに実施される必要がありますが(臨時立法会の任期は最長で同日までとなっています)、97年5月、準備委員会は第1期立法会の選出方法の大枠を決定、返還後の7月にはSAR政府がこれに基づく具体的選出方法のガイドラインを発表し、9月には選出方法等を規定した「立法会条例」が臨時立法会で可決されました。その概要は次のとおりです。
(1)直接選挙(20議席)
従来の小選挙区制に代えて比例代表制(5選挙区、各区定員3~5)を採用。
(2)職能団体別選挙(30議席)
91年選挙から採用されていた職能団体別選挙区21はそのまま維持する一方、パッテン総督の選挙改革に基づき95年選挙で新設された9選挙区は構成を一新するとともに、原則として各団体の会員たる企業が1票を有することとなった(95年選挙では従業員にも選挙権を付与)。これにより職能団体別選挙の有権者数は、95年選挙の約270万人から約20万人に減少(なお、91年選挙では約11万人)。
(3)選挙委員会による選挙(10議席)
選挙委員会は(a)商工・金融、(b)専門職、(c)労働・社会サービス・宗教、(d)臨時立法会議員・区域組織代表・全人代代表・政協代表の4分野各200名計800名の香港永住民で構成され、前3分野については主に職能団体別選挙の職能団体別選挙区から選出。
選挙は98年5月末に実施される予定ですが、各政党の選挙に向けた動向、選挙結果等に注目が集まっています。
2 人権法関連法令の改廃問題
人権法は天安門事件後の香港市民の不安を背景に人権保障をより手厚くするたるため制定されたものです。しかし、中国側は制定前から人権法に違反する法令を無効とする部分は基本法の最高法規制に反する等批判していました。
97年2月、全人代常務委は、準備委員会の提案に基づき、基本法160条(香港の現行法令は全人代常務委が基本法に反すると宣言したものを除きSARの法令として採用)を根拠に、人権法のうち同法が他の法律に優先する旨定めている規定、人権法に基づき改正された法令のうち、社団条例、公安条例の改正された規定(社団設立を登録制から届出制に変更、デモの許可制を届出制に変更等)は基本法に違反するため返還後は不採用とする旨決定しました。
これを受けたSAR行政長官事務所は、97年4月、不採用により生じる法的空白を埋めるための社団条例及び公安条例改正に関する諮問文書を発表し香港各界の意見を聴取、その結果を踏まえ、当初案より規制を相当程度緩和した改正案を臨時立法会に提出し可決されました(主な改正点は、(イ)社団設立の登録制を復活、(ロ)政治組織の外国政治組織との連係を禁止(ハ)社団設立及びデモの禁止理由に「国家の安全」(中華人民共和国の領土保全及び独立自主)を追加、(ニ)デモを実質的な許可制に近い届出制に変更等)。
この改正については英国・政庁、民主派は現行法改正の必要はなく人権保障の後退であると批判し、米国も懸念を表明していたことからも今後の具体的運用等が注目されます。
3 基本法第23条関連立法問題
基本法23条は、反逆、国家分裂、反乱煽動、中央人民政府転覆、国家機密窃取等の行為を禁止する法律の制定をSAR政府に求めています。董建華行政長官は、この件については新選挙制度により選出される第1期立法会で決定したいとの考えを示していますが、言論の自由、報道の自由との関連で、今後行われる立法の内容が注目されます。